窓口のバ美肉おじさんは配達者!?   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第13話 バ美肉おじさん、誤解をばら撒かれる

 アジテレビにインタビューされた日の翌朝、妻の更紗と朝食をとりながらTVニュースを見ようと電源を入れたらいきなり画面にでかでかと「現代の闇!? バクバク・イーツの杜撰《ずさん》な運営!」と表示された。

 

「お」

「え」

 

 俺と更紗の戸惑いをよそにスタジオから内容が解説され始める。

 

 チャンネルを確認するとアジテレビだ。

 

 そういえばインタビューしてきたのはこの放送局だったな。

 

 結局、あいつらはどんな風に放送するのかと興味がわいた。

 

 仕事もあるし、いつものように食事しながら視聴する。

 

『……このようにNPO団体からの救済で入った新人たちが実態を見て告発したのです』

『それに対しての従業員の反応はどうでしたか?』

『こちらがインタビュー映像です』

 

 次に映ったのは俺が行く事務所の前でそこに登場したのは。

 

「弓ちゃん……規君?」

「俺だな」

 

 顔にモザイクがかかっておらず、もろに露出している。

 

 画面下にはテロップで『バクバク・イーツ所属のK・Y配達員』と表示されている。

 

 というか、名前。

 

 こんな短期間に誰から……ああ、新人たちに会社の仕事内容を教えた時に訊かれた事あったがその時のか。

 

 まいったな、顔出しされた以上はこっそりと配達ができなくなったぞ。

 

 迂闊にインタビュー受けるべきでは無かったな。

 

 はて、あの時の発言を放送するのだろうか、当たり障りのない事しか言ってないはずだが。

 

『バクバク・イーツの経営状態をどう思っていますか?』

『もう最悪』

 

 思考が一瞬停止する。

 

「あれ?」

「どうかした?」

「こんな質問されてないし、答えてない」

「え?」

 

 俺達の混乱をよそにインタビューが続く。

 

『最悪とは?』

『注文された仕事を投げ出すし、勝手に料理を食べちゃう。本当に同じ人間なの?』

 

「うーん?」

 

 ニュースを見ていた更紗が首をひねる。何かおかしな所でもあったのだろうか?

 

「どうした?」

「声が規君……弓ちゃんだけど何か違う」

「ん?」

 

 どういう意味だ?

 

『感想を』

『同じ空気を吸う市民として恥ずかしいです』

『ありがとうございます』

 

「何だこれ。一字一句合ってないぞ」

「市民? 国民じゃなくて?」

 

 更紗の突っ込みにピンときた。

 

「あー、わざとか? わざとやったな?」

「わざと?」

「俺を反社会的勢力として、配達員仲間や世間に認識させようって腹積もりなんだろうよ」

 

 ニュースの最中にテーブルの上に置いていたスマホからぴろんと着信が入る。

 

 画面にはLONE・乃東と表示されていた。

 

◆     ◆     ◆

 

[TVのニュース見たか?]

 

                     [見た]

 

[あれ、本当に弓ちゃんか?]

 

               [どういう意味だ?]

 

[姿形声は彼女だ]

[だが発音がおかしい]

 

                    [発音?]

 

[彼女特有の訛りが無い]

[つか、滅茶苦茶だ]

 

                 [分かるのか?]

 

[彼女とは良

く話すからな]

[だが付き合いの無い

奴は信じるだろうな]

 

                  [そうかもな]

 

[もしかしてお前]

[本当のインタビュー

内容知ってるのか?]

 

                  [その通りだ]

                 [あんな事一言

                  も言ってない]

 

[やっぱりか]

 

              [どうしてそう思う?]

 

[文字として書き

起こして一字一句

発音を当てはめた]

 

                 [そうしたら?]

 

[発音の上下動が激しすぎる]

[恐らくだが]

[インタビューでの

お前の言葉を並び替

えた可能性が高い]

[他はAIで音声を偽造

した可能性もあるな]

 

                 [へえ、そこまで

                  分かるのか?]

 

[これでも大学

通ってるんだぜ]

[舐めんなよ]

 

               [お見逸れしました]

 

[で、どうする?]

 

              [とりあえず他の配達

               員たちにはあんな発

               言はしてないと伝え

              ておいてくれないか?]

 

[分かってる]

[余計な混乱はごめんだ]

 

                  [ありがとう]

 

[それよりも]

[今回の件]

[あいつらの仕業か?]

 

                    [さあな]

              [俺はあいつらじゃな

              いから何を考えて行動

              してるのか分からん]

                     [ただ]

 

[ただ?]

 

               [後戻りのできない

                喧嘩を売ってきた]

               [それだけは分かる]

 

[で?]

 

              [以前話していた通り]

                 [準備してくれ]

 

[分かった]

[声をかけておく]

 

                    [頼んだ]

 

◆     ◆     ◆

 

 LONEを閉じるとTVに意識を向ける。

 

 いつの間にか内容は各政党議員からのインタビューに移っていて、画面の片隅に所属政党がテロップで表示されている。

 

『今までのJMの政治が悪いのです! 国民感情まで荒んでしまう! 国民の皆様、我々に力をお貸し下さい! 今こそ政権交代を!『RS党』』

『国民の生活が苦しい証拠です。満足な食事ができず、とうとう人様の料理に手を出すようになってしまった。こうなってしまえば人として終わりです。彼らに手を差し伸べないJMはどうかしてます『RM党』』

『こんな事態を引き起こしたのもJMの政治が悪いのが原因ですよ。次の国政選挙で痛い目にあわせてやらないといけません『NK党』』

『やはり学校教育を見直した方が良いですよ。自己の欲望に抑えがきかないのはどうかしてます『KM党』』

『従業員の苦言も理解できるが同じ仲間に言う言葉ではない。明らかに言い過ぎだ『CM党』』

『訴状の内容を知らないので分からないし見解を述べる事ができない。というかね、君ら、相手の反応を待たずに一方的に報道するのはマスコミとしてど『JM党』』

 

 みんな好き放題言ってるな。

 

 最後の議員が言い終わらないうちに画面がスタジオに転換した。

 

『この事態を受けて、野党はインタビューを受けたバクバク・イーツの従業員を証人喚問するよう求めており、与党も前向きに応じる姿勢を示しています』

『証人喚問ですか。また大きく出ましたね』

『それだけ政治でも重く見ている事なんでしょう』

 

 え、弓を、つまり俺が呼び出される事が決定してるの?

 

『この問題はバクバク・イーツだけに留まる事はないのでしょうか』

『多かれ少なかれフードデリバリーサービスはこのような問題を抱えています。今話題になっているバクバクも従業員の報酬を減らされたばかりです』

『減らされたのが影響したのかもしれませんね』

『以上、国会からお送りしました』

『ありがとうございます。……スタジオに戻ります。経済学者の……』

 

 一通り聞いていたが、ほぼ誰もちゃんと事態を把握しようとしてないので呆れた。

 

 その後は聴き流す事にして食事に集中する事にした。

 

◆     ◆     ◆

 

 食事中、俺と更紗は少しの間無言だったが、彼女から切り出した。

 

「確か証人喚問って、偉い人たちのいる国会って場所に呼び出されるんだよね?」

「ああ。で、訊かれた事を正直に話さないといけないんだ」

「うん。呼び出されるのは規君だけになるの?」

「たぶん。……まあ、所長も一緒に来るかもしれないけど」

 

 その時、TVから気になる話が耳に飛び込んできた。

 

『証人喚問、そこらの従業員が耐えられますかねぇ?』

『厳しいでしょう』

 

 そこらのって。マスゴミはどいつもこいつもこんな風なのか。

 

『私が入手した情報によるとこの人、独り身なんですが親戚が近くに住んでいて交流しているそうです。その親戚は結婚していて奥さんがいるそうなんですよ』

『はあ』

 

 何で妻の更紗を引き合いに?

 

 続くレポーターの言葉に俺は驚いた。

 

『従業員の心の支えに是非、奥さんを同席させてはいかがでしょうか?』

『基本、証人喚問は証人ただ1人だけで、弁護士すら同席は認められていません』

 

 それを聴いて俺は肩をすくめた。

 

「……だそうだ」

「大丈夫?」

「まあ、何とかなるだろ」

 

 などと会話していると、またTVから驚きの声が。

 

『野党から従業員K・Yの親戚の妻を同席させるよう意見が出ました!』

『はい?』

『従業員がきちんと答えられるよう、支えになってくれる同性がいた方が望ましい、だそうです』

『え?』

 

 レポーターの興奮した報告にコメンテーターの困惑が映る。

 

『与党側から反対する声もありましたが、JM党重鎮から『従業員1人に心労をかけさせるのは酷だろう。同席を認めても良いのではないか』との言葉が出ました!』

『異例ですよ、これは』

『そうなんですか?』

 

 司会者の問いにコメンテーターが戸惑いながらも解説する。

 

『証人に第三者を介入させると真実が歪んでしまう可能性があるのです。そのため証人1人だけが原則のはずなんです』

『そうなると、与野党は一体何を考えているのでしょうか?』

『さあ、そこまでは……』

 

 TV画面から視線を外し、俺は更紗に困り顔で振り向く。

 

「……だそうだ」

「力になるよ!」

 

 妻はにっと笑った。

 

◆     ◆     ◆

 

 今日の仕事をする役割は俺だ。

 

 本当は弓が行く予定だったんだが、妻から「矢面に立つと角が立ったり余計な諍《いさか》いが生まれると思うから規君で行った方が良いんじゃないかな」という言葉に押されたのである。

 

 事務所にたどり着くとTVカメラを持った者達とマイクを持った男女が数人いた。

 

 今は冬なので防寒用の帽子とマスクをして顔の露出は控えている。

 

 向こうから何か言ってくるか、と心構えをしていたが彼らは俺を素通しで辺りを窺《うかが》っている。

 

 たぶん、弓を探している。

 

 そう感じた俺は慌てず、いつも通りの歩調で中に入った。

 

「おはよう」

『おはよー』

 

 入口で挨拶すると、出発準備をしていた配達仲間達が返事をした。

 

 ふと、周囲を見回す。

 

 いつもなら新人たちの姿も仲間達と混じって準備に入っているが、今朝は少なく感じた。

 

 新人たちのリーダー格である貫《ぬき》を見つけ、話しかけてみる。

 

「貫さん、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「つかぬ事をお伺いしますが、新人さんたちの人数が少ないように思うのですが……」

「その事かい」

 

 貫は苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻《か》く。

 

「参った。半分以上が辞めちまった」

「え、どうして?」

「給料だよ」

 

 俺の戸惑いをよそに彼曰く、「働いてもNPOに受け取った給料の上前をはねられるのが嫌だ」ということらしい。

 

 内心では限られたパイの奪い合いが多少は減ると喜びつつも、いくらなんでも酷すぎるやり方だ。

 

「後は腰や膝の関節の痛みだ。年寄りの集まりだからな」

「労基署には?」

「やってないと思ってたのか? 握り潰されたよ」

「うわあ」

 

 何か解決策は無いのだろうか。

 

「どの段階で差っ引かれるんです?」

「銀行に給料が振り込まれた時点でだ」

「は?」

「借金に塗《まみ》れた俺たちは、NPOに保護される代わりに個人情報などの一切合切を提供するよう言われるんだ。それが決まりってな」

「そこまでするんですか?」

 

 自由など無いじゃないか。

 

「完全にコントロールしておきたいんだろうな」

「では逆に、貫さんたちが残った理由は何ですか?」

「金だよ。はねられるとは言え少しは手元に残る。それで何か買えれば、と思ってな」

「得たお金は何に?」

「この年になると食い物一択だな。というか、奴らは持ち物の管理にも厳しい。言いがかりをつけられて取り上げられるのがオチだから物は買わないよ」

 

 何だそれ。

 

 年甲斐もなく俺は憤慨する。

 

「奴隷扱いじゃないですか」

「まあ、みんな色々な事情を抱えてる状態だからな。嫌とは言えないのさ」

 

 貫は諦め気味に肩をすくめたその姿は普段と違ってひと回り小さく見えた。

 

「おーい、規君」

 

 呼ばれて振り向くと所長が手を軽く振っている。

 

「すみません、呼ばれているのでこれで」

「悪いな、年寄りの愚痴につき合わせちまって」

「いえ」

 

 所長のもとへ向かおうとして貫から声をかけられる。

 

「倉阪よう」

「はい?」

「誰からも借金するんじゃねえぞ」

「はい」

 

 所長に近づくと小声で話しかけられる。

 

「TV見た?」

「はい」

「今入ってきたニュースなんだけどね、弓ちゃんと更紗ちゃん、2日後に証人喚問される事が決まったってさ」

「やっぱりですか」

 

 アジテレビにとって美人な弓は格好の良い演出対象なんだろう。

 

「弓ちゃんはどうしてる?」

「覚悟を決めたみたいです」

「そうか……」

 

 あそこまで喧嘩を売られて黙っていられるか。

 

「あと、乃東さんに頼んで準備してもらってます」

「分かった。あとね……」

「何でしょうか」

「姉妹の面倒を見る事に集中して、仕事は休みなさい。たぶん当日まで忙しくなるだろうから」

 

 所長の気遣いにありがたく頂戴する。

 

「ありがとうございます。早速帰ります」

「弓ちゃんによろしく」

「はい」

 

 こうして俺は乃東君と証人喚問対策を練り始めた。

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