窓口のバ美肉おじさんは配達者!?   作:塚山 泰乃(旧名:なまけもの)

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第6話 バ美肉おじさんと仮初の家族

 翌日、更紗が外出したのを確認してから弓として顧客に料理を届けながら新規開拓に精を出す。

 

「か、可愛い」

「マジだ……」

「あの、こんな仕事辞めてアイドルになってみませんか?」

 

 何か新規開拓してる最中、弓を見て驚くというか、向こうから声をかけてくる割合が若干増えたような気がする。

 

 というか、アイドルとしてスカウトされかけたの人生初なんだが。

 

 え、何、もしかして弓の顔立ちって顔面偏差値高かったりするのか?

 

 もしそうなら新規開拓がより捗(はかど)るぞ。

 

 もちろんスカウトは適当な理由をつけて断った。

 

 サッシの外へ出られない以上、活躍の場は限られるうえ、本体が中年太りしたおじさんじゃ阿鼻叫喚の地獄絵図になる事間違いなし。

 

 などと、おかしなイベントを消化しつつ依頼を片付けて行く。

 

 途中やはり放置子姉妹からの注文も入ったが、相変わらず10円という低単価だが他の配達員は当然受けない。

 

 俺としては安否確認のため会いに行く理由もあるからその分ありがたい。

 

 1日分の菓子パンと水入りペットボトルをスーパーで買い付けると姉妹が住むアパートの室内に空間を繋げる。

 

「こんにちは、バクバク・イーツです」

「え、え!?」

「わー」

 

 何の前触れもないまま出現した俺に驚き戸惑う姉妹。

 

 まあ、普通こうなるよな。

 

 外部から訪れる人間は玄関前に立つのが当たり前なんだから、室内に直で来られたら脳がバグるわ。

 

 俺もされる側になったらそうなるだろう。

 

「あ、お姉ちゃんだ」

「だぁ」

「驚かせてごめんね。ちょっとお外は怖い人がいるからこうやって来ちゃった」

「怖い人?」

 

 今のところは嘘だ。けど、いつそれが本当になるのかという恐れがある。

 

 相手は時間が経てば放置子が死ぬと理解してやっていると何となく理解できる。

 

「うん、お化けみたいな怖い人。君たちもお外に出ちゃ駄目だよ」

「……うん」

「分かった!」

 

 2人共、外に出て遊びたい年頃だろうに。

 

 だが、偉い人やその関係者がいつ危害を加えようとするのか分からないため、外出はなるべくしてもらいたくないのが本音だ。

 

「それよりも、はいパンと水」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん、お金」

「…………はい、お釣り」

 

 食料を渡され喜ぶ妹と代金を渡してくる姉に俺は暗算してお釣りを返した。

 

 窓をゆっくりと横に1回転させて室内の様子を見ると、室内はゴミが足の踏み場もないほど散乱していた。

 

 室内に入ってみて分かったが、異臭がする。

 

 この姉妹、髪はボサボサだし身体を洗っていないな?

 

 ……そういえば水道を停められたって姉が言ってたな。

 

 警察や児童相談所は何をしていた?

 

 洗って汚れを落としてやる配慮くらいしなかったのか。

 

 気を取り直して食事の問題だが、さすがに菓子パンと水だけでは栄養が偏りすぎている。

 

 今度、放置子の姉妹に何か差し入れしてあげよう。

 

 俺は気になった事を姉妹に訊いてみた。

 

「ねえ、夜寝る時はどんなお布団で寝ているの?」

「これだよ」

「これー」

 

 薄い煎餅のような小さい敷布団に掛布団1枚という寂しい組み合わせ。しかも異臭がするおまけ付き。

 

「今、冬だよ? 寒くない?」

「寒いけど、妹と一緒なら暖《あった》かい」

 

 これは、窓から子供用の布団を早急に運び込んだ方が良いな。

 

 今は雪が降ってないが春を迎える前に凍死する恐れもある。

 

 お金は当然俺の財布からだ。

 

 彼女達が着てる服にも目をやると、どちらも胸元が特に汚れていて食事の際に度々汚していると分かるものだ。

 

「君たちが着てる服、ちゃんと洗ってる?」

「……洗ってない」

「洗濯機は?」

「動かなくなっちゃった」

 

 料金が支払えないから電気を停められたか。

 

 待て、そうすると洗剤も使えないが洗剤はとっくの昔に使い果たしたんじゃないか?

 

「洗濯機が動いてた時は洗剤は使ってた?」

「……無くなった」

「じゃあ動かなくなった後、どうやって洗ってたの?」

 

 考えられるのは水洗いだが、こんな真冬に?

 

「お風呂で石鹸で。けど、石鹸、どんどん小さくなって消えちゃった」

「え、じゃあ水が止まるまでは手だけで?」

「うん」

 

 石鹸と洗剤も追加。……というか、電気料金支払わないと洗濯機動かないから洗剤はいらないか?

 

 たとえ、料金を俺が立て替えても今度はそれを知った偉い人が何かしらの妨害をしてきたりするかもしれない。

 

 でも、このままだと姉妹が病気にかかる可能性が高まり、医者にかかるお金が必要に……。

 

 そこまで考えて気づく。

 

 司法にまで手を回して圧力をかけるくらいの権力持ちなんだ、医療機関にも同様のことして患者を診ない、薬を処方しないなんて事もありうる。

 

 結局、電気、水道、ガス料金を立て替える羽目になりそうだ。

 

「そういえば、君たち年いくつ?」

「タンザナイト、5才」

「モルガナイト、2つぅ」

 

 …………大人気漫画の影響か何かか。最近の若者はよう……。

 

「分かった、タンザちゃんとモルガちゃんだね? ありがとう。じゃあ、また明日ね」

「うん、ばいばい」

「ばいばい」

 

 宝石姉妹に見送られて窓を閉めた。

 

 さて、これから忙しくなるぞ。

 

◆     ◆     ◆

 

 放置子、いや、宝石姉妹の惨状を知った後、新規開拓を一時停止して顧客だけの注文を済ませると、仕事を切り上げた。

 

 事務所を出た後、窓を閉じて席を立ち洗面所で化粧を落とす。

 

 今から外出してホームセンターなどに行って姉妹に必要な物の買い付けだ。

 

 布団一式もそうだし、汚れた服や下着の交換、石鹸と洗剤もいる。

 

 布団と石鹸洗剤は無事買えた。後は服と下着だが南松屋という赤ん坊&幼児服専門店に入る。

 

 こういう場所は母親が来る所ではないだろうか。いい年したおじさんが1人で入るような場所ではない。

 

「いらっしゃいませ、何か御用でしょうか?」

 

 カウンターにいたおばちゃん達の片方が笑顔でこちらに近寄って来た。

 

「すみません、初めて来るんですけど、姪に頼まれまして」

「はい」

「女の子向けの2才と5才の下着と幼児服を何着か買いに来たんですが」

「ありますけど、何故そんないっぺんに?」

 

 正直に話すとこの人達まで巻き込みかねないから、ある程度嘘を混じえて話そう。

 

「姪の知り合いが子供たちを置いていなくなったんです。帰って来るまで一時的に面倒を見る事にしたんだそうですけど、部屋の中がゴミだらけだそうで、掃除するついでに交換するとか。だから手伝えって」

「まあ大変。警察や児童相談所には?」

「いなくなったばかりで、戻って来るかもしれないから様子を見なさいと言われたそうでして」

 

 店員さんはまあと声を上げると自身の胸をどんと叩く。

 

「分かったわ。おばちゃんも手伝ってあげる。下着や幼児服ね?」

「お手数おかけします」

「良いの良いの」

 

 幼児服と下着の購入に二の足を踏んでいたが、おばちゃんの好意により何事も無く買うことができ「何かあったら近所の人にも助けを求めなさい」と去り際に言われたけど、迷惑がられないかな。

 

 品物をスクーターのカートに積んで自宅のアパートまで帰る道すがら、ケーキ屋に立ち寄って人数分買い帰宅し荷物を自室に運び込んだ。

 

 まずはケーキを冷蔵庫に入れ、サッシの開口部に通るよう小分けしたり、服や布団は丸めて…良し、何とか全部通り抜けそうだ。

 

 でも、その前にやる事がある。

 

 化粧をしてから用意しておいた袋を持つと、宝石姉妹のいるアパートの室内に空間を繋げる。

 

「こんにちは」

「あ、お姉ちゃんだ」

「ちゃんだ」

「これからお部屋のお掃除をするからタンザちゃんとモルガちゃんも手伝ってくれないかな?」

 

 無表情のタンザちゃんと目線の高さを合わせてお願いする

 

「きれいにするの?」

 

 これ見よがしにケーキが入った箱を見せる。

 

「うん。きれいになったらケーキを食べようか」

「ケーキ!? やる!」

「やるぅ」

 

 恐らく、甘い物をあまり口にしてこない

 

「ありがとう。はい、ゴミ袋。ゴミを集めてこの中に入れてね」

「分かった!」

「かった」

 

 ゴミ袋とは言っても役所指定のではなく、たくさんの白いビニールの買い物袋だ。

 

 窓の大きさからこの程度でないとゴミを俺の部屋に移せないので、後で細かく仕分けする必要がある。手間がかかるが外部に少しでも知られたくない。

 

 俺たちは手分けしてゴミを回収し始めた。

 

 一応、何らかの病原菌を防ぐためマスクとビニル手袋をして、床上付近まで窓の開口部を近づけてゴミを拾い集める。

 

 まあ、よくぞここまで溜めたものだ。

 

 実に掃除のしがいがあるし、部屋が片付いて綺麗になっていく過程は楽しい。

 

 幼児が2人とは言え、3人がかりだと見る見るうちに床面が広がっていった。

 

「袋にゴミ、もう入んない」

「ないー」

「タンザちゃん、モルガちゃん、私に頂戴」

 

 俺に袋を渡した後、タンザが訊いてきた。

 

「どうするの?」

「後で私が片付けておくから。……はい、新しい袋」

「はーい」

「ケーキ、ケーキ」

 

 宝石姉妹がトテトテとゴミの絨毯に挑むのを見届け、俺も加わる事にした。

 

 ゴミ拾いから1時間後、6畳間2つの部屋の床に落ちてたゴミは全て回収し終えた。

 

「キレイになった」

「なった」

『ケーキ』

 

 床のゴミは片付いたけど、姉妹から放たれる臭いはどうしたものか。

 

 水が出ないから浴槽を満たせないしガスも停められているから沸かす事すら不可能だ。

 

 まずは水のペットボトルで姉妹の手と顔を石鹸で洗わせてからケーキだ。

 

「うんうん。でもその前に手と顔を石鹸で洗おうね」

「水、出ないよ?」

「ペットボトルの水を使います」

「おー」

 

 水はこちらのアパートに無尽蔵と言っても良い。

 

「ほら、洗面所に行った行った」

『はーい』

 

 3人で洗面所に移動し確認のため、水道の蛇口を捻ってみたけど水は一滴も出なかった。

 

 洗面器の穴を栓で塞いでペットボトルの水を注ぎ込む。

 

 500ml1本だけじゃ足りないな。もう2本追加して、と。

 

 水は張れたけど、姉妹の低い背丈では洗面器に届かない。

 

 窓の開口部先の位置を低めに変えると、踏み台が隅に置いてあった。台を洗面器の側に置き直す。

 

「まずはタンザお姉ちゃんから洗おうね」

「はーい」

 

 姉が踏み台に乗ってから話しかける。

 

「手のひら出して」

「こう?」

「はい、石鹸」

 

 片手に持てる大きさの液体石鹸をタンザの手のひらに垂らす。

 

「ほれ、手を擦って」

 

 姉が両手でごしごしと擦ると白い石鹸は徐々に黒く変色していく。

 

「わ、真っ黒」

「手を洗って。次は顔を擦ろうか」

「はーい」

 

 タンザが洗面器に張った水に両手を入れて洗い出すと透明だった水が真っ黒になる。

 

「はい、手のひらを出して」

 

 もう一度液体石鹸。今度は姉の顔全体が擦られる。こちらも黒くなった。

 

「顔、洗って」

「うん」

 

 洗面器内の黒っぽい水がさらに黒くなる。

 

「終わった」

「はい、水。これでうがいして」

「うん。……がぼぼぼぼ……ぺっ」

「はい、タオル。拭いて」

「はーい」

 

 うーん、綺麗には程遠いけどケーキを食べるくらいなら平気か?

 

「どう?」

「今はこれで良いかな。……次、モルガちゃんの番だよ」

「あーい」

 

 妹が自力で踏み台に上るのは危ない気がしたので両脇に手を回して持ち上げ踏み台に乗せる。

 

 とりあえずは汚水を捨て、洗面器に水を張り直して姉と同様の手順を踏ませて綺麗にさせた。

 

「あはは、水、真っ黒ー」

「黒いねえ。水、捨てるよ」

「ばいばーい」

 

 洗面器の汚水が底の穴に吸い込まれていくのに合わせてモルガちゃんが手を振りながら挨拶した。

 

 3人で居間のテーブルまで移動すると、姉妹にケーキを持って来るから待っててと伝え、俺の冷蔵庫からケーキを取り出す。

 

 スプーンと皿を用意し、窓の開口部を通してテーブルに載せる。

 

「はい、いちごのショート」

『わあ』

 

 ケーキがテーブルの上に置かれた途端、2人はケーキに飛びつこうとしたので慌てて止める。

 

「こらこら、まだ食べちゃ駄目。まずは両手を合わせて?」

「何それ?」

「何?」

「え?」

 

 この姉妹、『いただきます』を教えられてないのか?

 

「これは食べる前に『いただきます』と言う形で決まりなの」

「何で?」

「ケーキを作るために牛から取った牛乳や小麦粉はタンザちゃんやモルガちゃんのために作ってくれた人達がいるの。その人達に『ありがとう』という意味があるんだよ」

『へぇー』

 

 良かった、理解してくれたみたいだ。

 

「2人共、分かったら両手を合わせて?」

『はーい』

「私の後に続いて、……いただきます」

『いただきます』

「はい、では食べましょう」

「やったー!」

 

 誰かと一緒にケーキを食べたのはいつ以来だろうか。

 

 3人で食べたいちごのショートケーキは特別な味がした。

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