無口に愛を紡ぐ教室へようこそ   作:Mr.♟️

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9話〜寄生虫〜

 

(──私は寄生虫だった。白銀くんに出会うまでは)

 

実のところ、白銀くんのことは入学式の日から知っていた。その容姿と独特の雰囲気から、入学式に参加しているだけで嫌でも目立っていたからだ。

 

でも、関わろうとは思わなかった。私はそんな異質さを求めていなかった。私に必要だったのは、平田くんのような優等生の善人。私の過去に同情して、無条件で守ってくれる人。

 

(寄生虫でいい。寄生虫で構わない、そう思ってた)

 

国が運営する倍率の高い学校に運良く入学できて、イメチェンも成功して、クラスの中心人物である平田くんに過去のことを話して、同情で付き合ってもらえた。

 

あとは、卒業までその彼女という安全な状況を保てばいいだけだった。

 

(それが、Sシステムの理不尽な仕組みで全て壊された)

 

誰にも舐められないように、言動に必死に気をつけた。

 

美容や服にもポイントを使って、その結果5月を迎えた時に残っていたポイントはたったの5,000ppt。更に突きつけられた、自分たちが底辺のDクラスであるという残酷な事実。

 

(まさか、この時にポイントを借りまくったことが、後々白銀くんに繋がるなんて予想できないよ......)

 

第一関門は中間テストだった。赤点をとったら即退学という、厳しいペナルティ付きの。正直、私の成績はよくない。

 

それでも、退学がかかっているとなれば話は別だ。女子だけで勉強会を開いたり、徹夜で勉強したり必死に頑張った。

 

(櫛田さんが過去問を持ってきてくれて本当に助かった)

 

人生初の全教科90点以上。インチキしたとはいえ、素直に嬉しかった。須藤が赤点で退学だって言われた時は驚いたし少しだけ可哀想だとも思ったけど、なにより『自分じゃなくてよかった』と心底思った。

 

須藤に関しては自業自得な面もあるから、正直あんまり同情できなかったのもあるかもしれない。

 

(教室前の廊下にBクラスの生徒が押し寄せてきた時は、意味がわからなかったし怖かった......白銀くんの声を聞いたのは、このときが初めてだった。興味がない相手に向けられる、感情の読めない底冷えした声)

 

『自習をしてる。自分たちが退学にならないために』

 

発した言葉はこの一言だけなのに、一瞬で教室の空気は白銀くんに支配されていた。平田くんでさえ口を挟むことができなかったのに、その支配された空気を壊したのは、馬鹿な須藤だった。

 

(あの時は暴れた須藤が怖かったけど、思い返して考えると、殴られても表情一つ変えなかった白銀くんの方が圧倒的に怖い)

 

胸ぐらを掴まれていたのに顔色一つ変わってなかったし、殴られた後も本人よりも周りの人間の方が必死に慌ててた。

 

堀北さんの活躍で須藤は退学を逃れたけど、正直あれだけ荒れてる須藤が同じクラスにいるのは怖いと思った。

 

(Bクラスがいなくなった後の教室で、長谷部さんと須藤の睨み合いすごかったなぁ。長谷部さん、あの時はまだ美学研究会に入ってなかったはずなのに、どうして白銀くんが殴られたことにあんなにマジギレしてたんだろう?親しくない人のために怒るタイプじゃなさそうなのに)

 

7月に入ってから、私の運命は大きく変わった。

 

(須藤の暴力事件。私が白銀くんに目をつけられたキッカケ)

 

やりたくもない須藤の弁護を、女子の中心人物がほぼ参加するから私まで立候補することになった。

 

白銀くんはこの時から私を狙ってたって言ってたから、多分そうなることを完全に計算してたんだと思う。何もできずに終わった須藤の弁護から3日後、私は松下さん経由で白銀くんから呼び出された。

 

(あの時の白銀くん、本当に怖かった)

 

借りた覚えのないポイントを返すように言われ動揺した。そしたら、債権だとか債務者だとか怖いことを言い出して、本当に逃げ出したかった。

 

だから、『まさか、僕は鬼じゃないんだ。そんな酷いことはしないよ』って言ってくれた時は安心した。

 

次の瞬間に、すぐに地獄に叩き落されたけど。

 

(ランジェリーモデルになれなんて、そんなこと言われると思ってなかった)

 

私が言い訳を話そうとする度に強い口調で遮って、隠したかったトラウマも抉って、自分の口で過去のいじめのことを喋らされて。

 

あの時は白銀くんが私の過去を全部知ってると思ってたけど、実際はそうじゃなかったらしい。あの『何でも知ってます』って雰囲気に完全に騙されたのだ。

 

(......でも、あの時の白銀くんの反応可愛かったな。普段はかっこよくて冷たいのに、あんなに取り乱すなんて反則だよ)

 

あの時の私は、その、ランジェリーモデルになれっていうのは遠回しに脅してるだけで、『ヤラせろ』って意味だと思ったから自暴自棄になって制服を脱いで下着になった。

 

そしたら、それまで表情一つ変えなかった白銀くんが真っ赤になって取り乱して。今思い返せば可愛い。その後に耳元で囁かれて、クラっときたのは今でも明確に覚えている。

 

(白銀くんのお陰で、私の人生は完全に変わった)

 

『安心して。僕が価値に変える。過去も、痛みも、君自身も──全部、ね』。この言葉に嘘はなかった。

 

私の過去は、ただの寄生虫だった私が──シンデレラストーリーの主役に生まれ変わるための強力な武器になった。

 

(私は寄生虫だった。でも、今は違う)

 

「私は、本物のシンデレラになりたい」

 

私の過去は、トラウマは乗り越えることができた。本来なら、それだけで充分だったのに。白銀くんが私に夢を魅せてくれた。

 

私を奇跡の主役にしてくれた。そんなことをされたら──もっと欲しくなる。でも、今度は与えられるんじゃない。私が自分の手で彼を手に入れる。

 

「──私にとっての、夢の国の王子様を」

 


 

期末テストから3日後、白銀と軽井沢は部室で撮影をしていた。今回の撮影は、夏休みに予定しているファッションショーの物販として売り出す、部員の個別写真集作りである。下着の撮影はないが、水着撮影はあった。

 

「テストが終わった気晴らしに付き合ってほしい?」

 

撮影終わり、軽井沢は着替えながら白銀を遊びに誘った。

 

個別撮影のため他の部員はおらず、邪魔が入る心配はない。なにより『テスト終わり後の気晴らし』という大義名分。万が一断られた時のダメージを最小限に抑えたい軽井沢の、精一杯の保険である。

 

「うん。ほら、あんたが『僕の部活の部員であるなら、恥ずかしい点数はとらないでね』って言ったから頑張ったわけだし。このくらい、付き合ってくれてもいいでしょ」

 

「全教科70点以上で頑張った?.....頑張った?......まあ、そうだね。別にいいよ、今日の撮影は君だけだし。他に予定もないから」

 

「え、いいの!?夏休みのファッションショーの準備で忙しいんじゃないの?」

 

「残りの仕事はほとんど会社の方に丸投げしたから、あと僕がやるのは君たちの写真集をプロデュースすることだけ......もしかして、断られる前提で誘ってた?なら、別に断ってもいいけど」

 

「ああ、いや違う!そうじゃなくて、普段から忙しそうにしてるから。前に誘った時は秒で断られたし......」

 

本当に即答だった。普段は誘いを断る時でも少し考える素振りを見せる白銀に、秒で断られたことを軽井沢は根に持っている。

 

「その時が一番忙しかったからね。生徒会に部活動の一環としてファッションショーを行っても問題ないかを事前に相談して、会社の方とも作業の分担をして、ファッションショーの会場を押さえて。引っ越し先を選んで──って感じでね」

 

前例のないことを行う時に必要なのは、徹底した根回しだ。間違っても強行開催なんてしてはいけない。2回目以降の開催が難しくなるからだ。軽井沢が食いついたのは、最後の言葉だった。

 

「......引っ越し先?」

 

知らなくて当たり前だ。白銀も星之宮から話を聞いて初めて知った制度なのだから。

 

「ポイントを払えば、寮からシェアハウスに引っ越せるんだよ。もちろん、相応のポイントは必要だけどね。流石に3年分の前払いは高かったなぁ」

 

逆にいえば、ポイントを払えない場合は容赦なく追い出される。白銀は万が一の場合を懸念し、3年分の賃料を既に一括で支払っている。仮にポイントが素寒貧になっても安心である。

 

「......行ってみたい、かも」

 

軽井沢が白銀の家に行きたい理由は言わずもがなである。白銀は少しだけ考えてから口を動かした。

 

「僕の家に。別にいいけど、気晴らしになるようなものは何もないよ。どこか適当なカフェとかカラオケの方がいいと思うけど」

 

事実、白銀の部屋にある娯楽は小説とテレビ。あとは、レコードプレーヤーくらいである。テレビゲームやボードゲームなどは1つもない、若者らしからぬつまらない部屋だ。

 

「大丈夫っ!ジェンガとかトランプとか、私が色々買っていけばいいだけだから!」

 

「勢いがすごいね。まあ、君がいいならいいけど。分かった、なら買いに行こうか」

 

白銀宅を訪れるのは、一之瀬、松下、長谷部に続いて4人目である。

 

「僕が支払うよ」

 

「私が払うから大丈夫!」

 


 

「粗茶ですがどうぞ」

 

「あ、ありがとう。なんか、白銀くんになにかしてもらうって違和感があるかも」

 

「君たちのためにテスト対策の一問一答を作ったり、部活でもかなりサポートしてあげてるんだけど?」

 

「それはそうだけど。こういうお茶出しとか、白銀くんがやるまでもない雑務っていうのかな」

 

「こういうのは家主がやることだからね。それで、何をやる?遊び道具はほとんど、というか全部君が選んでたと思うけど」

 

掘りごたつに向かい合って座る白銀と軽井沢。白銀が問いかけると、軽井沢は袋からジェンガを取り出して、自信満々にデデンと前に突き出した。

 

「ジェンガか。ブロックを抜いて最上段に重ねる遊びだよね。やったことはないけど、面白そうだ」

 

「これなら私にも勝ち目があるでしょ」

 

笑いながらそう言う軽井沢。

 

「まあ、なにはともあれやってみようか」

 

軽井沢と白銀、どちらも初めてのジェンガである。

 

そしてこれは、ただのジェンガではない。軽井沢が選んだのは『ラブジェンガ』である。白銀はそのことを知らない。

 

軽井沢がジェンガを積み上げている最中、白銀はジェンガが崩れた時にお茶が零れないように、湯呑みの位置を移動させる。

 

「できたっ!どっちからやる?」

 

軽井沢は積み上げる際に、ブロックに書いてある内容を一生懸命暗記していた。自爆する内容が書いてあるブロックは抜かないようにしようと考えているのだ。

 

(これで、白銀くんの恋愛情報を少しでも聞き出してやる)

 

「君からどうぞ。1発目でアウトなんて面白いんじゃないかな」

 

遊びとはいえ、さりげなくプレッシャーをかける白銀。大人気ない。軽井沢が比較的上の方にある真ん中のブロックを、ちょんちょんと少しずつずらして引き抜いた。

 

「まあ、流石に余裕か。で、次は僕の──」

 

「待って。このジェンガ、ブロック毎に指示があるからそれが終わってからね」

 

「指示?へぇ、ジェンガにそんな仕組みがあるのは知らなかった」

 

軽井沢は、抜いたブロックに書いてある文字を白銀に見せた。

 

「『好きな食べ物』......簡単な内容だね。単純だからこそ面白いのか。なるほど、今の時代でもある程度人気があるのも頷ける」

 

「私はアイスとかパフェとか、甘いものが好き。はい、これで白銀くんの番だよ」

 

「パフェね。それだったらいいお店があるから今度教えてあげるよ」

 

珍しく軽井沢が策士である。自身は簡単な内容のブロックを引いて、白銀を油断させたのだ。

 

白銀は少し攻めて、下の方のブロックを抜いた。

 

「ん?『右隣の人の持ち物を褒める』か。隣って、誰もいないけど......2人だからこの手のお題はお互いの事として進めようか」

 

「うん!」

 

白銀からのまさかの提案である。

 

軽井沢は知っている。このジェンガの中に『左隣の人の手を両手で包み込む(5秒間)』であったり『右隣の人と恋人だったらやりたいことを言う』という過激な内容があることを。

 

「持ち物を褒めろって言われても、制服にスクールバッグだしなぁ。そのスクールバッグ、丈夫でいいよね」

 

「......褒めてる?」

 

「機能性をね。さ、君の番だよ」

 

これ以上つついても特に意味はないため、軽井沢は抜きやすい上の方にある真ん中のブロックを慎重に抜いた。

 

「『最近楽しかったことを話す』......今が楽しいよ」

 

「なんというか、ずるくない?」

 

「ズルくない。本当に楽しいもん」

 

真っ直ぐに言い切られてしまえばそれもそうかと認めざるをえず、少しもやっとしながら白銀は下の方にあるブロックを抜いた。

 

「『左隣の人の好きなところを3つ』顔、スタイル、髪質」

 

「たうわっ!?」

 

悩む素振りなく、即答で3つ白銀は言った。

 

むしろ、褒められた軽井沢の方が奇声を発している。飛び跳ねる勢いで掘りごたつの中の足をテーブルにぶつけ、ジェンガが大きく揺れた。

 

「個性的な断末魔だね。今ので崩れたら僕の反則勝ちだったのに、惜しい」

 

好きなところに髪質を含めた変態が何か言っているが、軽井沢は両手を顔の前でパタパタと振る謎行動を見せ、それが治まると何も言わずに真ん中くらいの高さのブロックを引き抜いた。

 

「ひやっ......『正面の人と額をくっつける(5秒間)』」

 

「すごいのを引いたね。ギブアップ?それとも、やる?」

 

テーブルの上に身を乗り出す白銀。物の見事に自爆した軽井沢。彼女は今、究極の二択を迫られている。

 

褒められるだけでドキドキバクバクと心臓がうるさくなるのに、それを遥かに越えた過激な内容。嬉しさと羞恥心が激しくせめぎ合っている。

 

「軽井沢?」

 

(ここは、ギブアップ──いやでも、これはすごいチャンスだし逃したくない。でもでも、恥ずかしい!!)

 

「聞こえてる?」

 

かれこれ5分ほど、軽井沢は目を瞑って今までにないくらい集中して悩みこんだ。つまり、白銀は5分間完全に無視されていることになる。

 

コツン、と熟考している軽井沢の額に何かがぶつかった。それと同時に、間近で聞こえてくる声。軽井沢がハッとして目を開けると、ゼロ距離に白銀の顔があった。

 

「い〜ち、に〜い、さ〜ん」

 

鼻先に吐息が当たるくらい近く、視界いっぱいに広がる白銀の顔。宝石のように美しい瞳に、潤いのある白い肌、美しさを損ねるどころか妖しく引き立てる火傷の痕。

 

「よ〜ん、ご〜お。これでクリアだね」

 

なんともないように言う白銀。軽井沢の頭は完全に真っ白である。そこから先、軽井沢に明確な記憶はない。唯一覚えているのは、帰る前に──

 

「今日買ったゲーム、全部置いていくから──また来てもいいよね?」

 

に対して肯定で返されたことだけだ。かくして、軽井沢恵の初めての白銀シェアハウス訪問は幕を閉じた。

 

「──みんなして、僕のことを鈍感クソ男とでも思ってるのかな。隠すなら、もう少しうまく隠してほしいなぁ」

 


 

期末テストから4日後、白銀宅の庭には神崎、網倉、姫野、白銀の4人の姿があった。

 

庭には肉や野菜、魚介類を初めとした豪華なBBQセットが用意されている。これから行われるのは、期末テストが終わった小規模な打ち上げである。

 

「BBQセットはレンタルだから壊さないでね。肉はラムとかあとは赤身がメインだけど、魚介類はしっかりと用意したよ」

 

「ハマグリにサザエ、伊勢海老!?し、白銀くん、このBBQに幾らポイント使ったの?やっぱり、私も少しだすよ」

 

クーラーボックスを覗き込む網倉。目に入る高級食材の数々に驚きを隠せない。他にも野菜用と肉用の大型クーラーボックスが控えてある。

 

「伊勢海老は時期じゃないから冷凍物だけどね。ポイントは気にしなくていいよ」

 

「そうだぞ、網倉。お前らのうちの誰かがモデル撮影する度に仲介手数料が入り、アパレル展開も部長としてブランドに提案して採用されたという体にしてるから、こいつはバカみたいな額をもらってるはずだ。遠慮して大して食べずに残すほうがこいつは困る。......いや、困らせたいならその方がいいのか」

 

「仲介手数料じゃなくて、結果に対するブランドからの奨励金とか寄付ね。アパレル展開は今の短期間で数十億の利益が出てるし、あと2、3ヶ月で最低でも50億は超える計算。まあ、だから気にしなくていいよ。ポイントを払って欲しい時は先に伝えるから。今日は君たちの頑張りに対する労いの場でもあるんだ。気にせずに楽しんで欲しい......うん、隆二には100,000ppt払ってもらおうかな」

 

「どうせ野菜から食うんだろ。焼いてやる」

 

「ありがとう。それで、姫野はなんでむくれてるのかな。どうせなら楽しんでもらえると嬉しいんだけど」

 

「別に」

 

白銀の問いかけに姫野はそっけない。白銀は玉ねぎを焼いている神崎に視線を向ける。

 

神崎は知らないと首を軽く横に振った。白銀は続いて網倉に視線を移した。

 

「あ、えっとね、ここに来る前に学校で姫野ちゃんが白波さんと言い合いになって」

 

「また揉めたんだ。うちの狂犬は血気盛んだね」

 

「それで負けちゃって......」

 

「はいはい、いつもの......言い争いで負けたの?え、本当に?」

 

見かけによらず血気盛んな姫野が白波と言い争いになることは珍しくない。姫野が容赦なく言い負かして、白波が涙目で逃げるところまでが普段のセットだ。

 

「うっさい、負けてない」

 

ムスッとしている姫野をスルーして、白銀は網倉に視線を向ける。

 

「実際は?」

 

「う、うーん、私が見た時は多勢に無勢って感じで何人かに囲まれてたから、あれは仕方ないと思うよ」

 

「どっかの誰かが放置しろって言った結果がこれだ。警告も何もしないから、白波みたいに気が弱いやつでも派閥を作って増長する」

 

白銀のもっている紙皿に、神崎は玉ねぎとピーマンを乗せながらジトッと白銀に目を向ける。

 

「勝てない時は戦ったらダメって言ったのに。BBQが終わってから話そうと思ってたんだけど、姫野の機嫌が戻らなそうだから先に話そうかな」

 

「──僕は夏休みのバカンスに、通常とは異なる特別試験があると思ってる。島なのか船なのかはわからないけど、そこで白波とBクラスを徹底的に叩く」

 

「クラスを叩く?どういうこと。そもそも、バカンスは私達へのご褒美のはずでしょ?」

 

真っ先に姫野が反応した。網倉も同様の反応を見せ、神崎だけが顎に手をあてて真意を考えている。

 

「Sシステムの騙し討ちを思い出してもらえれば、考えられない話じゃない。それとは別に、教師たちの不自然な反応を見て確信した。間違いなく特別試験はある」

 

「白波とクラスを叩く。なるほどな。須藤の件だと、役割を果たせなかったわけか」

 

「そうだね。どうやら自分たちとかけ離れすぎてて、対岸の火事だと思ったらしい。結局、直接痛い目に合わせるのが一番手っ取り早い」

 

「ちょっと待って。私にもわかるように説明してくれない?」

 

白銀と神崎が2人で話を進めるのを、網倉が止めた。白波を叩くというのはわかる。だが、なぜ自分のクラスまで攻撃しないといけないのかが彼女にはわからない。

 

「須藤の赤点による退学の様子を見て、危機感を一時的に持つことはできた。でもそれはすぐになくなった。『須藤と自分は違う』『退学になっても誰かが助けてくれる』『一之瀬さんがいるから、Bクラスは退学になる生徒はいない』。こんなところかな。教材が悪かったのと、結果的に助かったのが良くなかった。無意識か意識的にかは微妙だけど、Bクラスは『自分たちは大丈夫』と完全に平和ボケしてる。だから自己研鑽を怠るんだ」

 

「要するにぬるいんだ。個々が頑張ってAクラスに上がりたいという気概が見えない。赤点じゃなければいい、そんなことを言ってる奴らもいた。上を目指すなら、足を引っ張る人間や向上心のない人間は邪魔なだけだ」

 

「例えば網倉は今までの日課なだけかもしれないけど、ジムに通ってる。勉強も頑張ってるし、それがテストの結果にも表れてた。姫野も中の上程度の学力が上の下程度に上がった。帆波なんかはクラス全体を見ながらよくやってるし、一部の生徒は頑張ってると思うよ。でも、大部分はただ他人に望むばかりの無能だ。口先ではAクラスに上がりたいと言いながら努力しないクズ。何かあっても帆波に頼ればいいと思ってる。まあ、それはBクラスが今まで何も失敗してないからだろうね。だから次の特別試験では、白波を叩くついでにBクラス全体に血を流してもらう」

 

「でも、そんなことできるの?実際にはどんなことをするつもり?私に協力できることはある?」

 

「私もやる。白波には腹たってるから」

 

闘志を燃やしている姫野と、Aクラスに上がりたいと本気で思っている網倉。

 

「試験内容がなにかわからないから、具体的に何をするっていうのはまだ言えないけど......Dクラスに負けてもらおうかな。無意識に下だと思っている最底辺の人間に負けたら、みんなも嫌でも思い知るだろうし。完膚なきまでに、圧倒的にね」

 

「お前がようやくやる気になったようで俺は嬉しいよ、琥珀」

 

「あのね、僕だって不快には思うんだよ。白波にも、帆波の点数稼ぎをしたい連中からの『白波と仲良くしろよ』とか言われるのはね。だから徹底的に黙らせよう。2度とそんな戯言を吐けないようにね......まったく、どこぞの狂犬のせいで面白くない話をしたけど、今は純粋に楽しんでよ。そうじゃないと準備した僕が報われない」

 

「狂犬じゃないし。てか、伊勢海老焼けないんだけど」

 

「僕が真面目な話をしてる最中に伊勢海老を焼き出した時は見間違いを疑ったよ。頑張って根気よく焼いて。〆には焼きおにぎりも用意してるから」

 

「網が野菜と魚介類ばっかり。網にお肉が1つも乗ってないBBQ初めてかも......」

 

「ああ、そういえば言い忘れてたけど、網倉と姫野は明日水着撮影あるからね。お肉は食べちゃダメだよ」

 

2人の手がピタリと止まった。明確な殺意を感じて、スッと神崎の後ろに隠れる白銀。

 

「無理」

「絶対嫌」

 

「......明後日に変更しておくね」

 






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