無口に愛を紡ぐ教室へようこそ   作:Mr.♟️

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10話〜豪華客船〜

 

朝5時にバスで移動し、船に乗ってから3時間。

 

現在の時刻は午前8時。部屋割りは好きに決めることができたため、白銀と神崎は同室である。

 

「琥珀、本当にルームサービスでいいのか?姫野と網倉もレストランで食べるって言ってるぞ」

 

「隆二。どうして食事にマナーがあるか知ってる?」

 

「周りを不快にさせないための配慮だろ」

 

「その通り。だから僕はいかない」

 

神崎は白銀の言葉に怪訝そうに眉をひそめた。神崎は知っている。白銀のテーブルマナーに何も問題がないことを。

 

「何言ってるんだ。前に行ったイタリアンで完璧なテーブルマナーだっただろ。謙遜も過ぎれば嫌味だぞ」

 

「勘違いしないでほしいんだけど、『僕が』不快にならない自信がないからいかないんだ。マナーなんてのは、極論間違えてもいいんだよ。周囲に配慮してる姿勢が伝わればね。でも、全部無料だとそういった気遣いのできない人間も平気でお店に入ってくる。食事は静かに、気分良く食べたいんだ」

 

「相変わらずというかなんというか......その発想はなかった。なにかあったら連絡する」

 

白銀の理屈に、いかにも彼らしいと神崎は納得した。そして、姫野と網倉との約束の場所へと向かっていった。

 

神崎が部屋からいなくなり、10分程度が経過した頃。部屋の扉が3度ノックされた。

 

『ご注文いただいたルームサービスのお食事をお持ちいたしました』

 

部屋の外から若いスタッフの声が聞こえ、白銀は扉を開けた。廊下にいたのは食事を運んできたスタッフ──と、その後ろにぴったりとついているDクラス所属の女子生徒、櫛田桔梗。

 

にこやかな笑顔を浮かべて手を振っている櫛田を一瞥してから、白銀は何事もなかったかのようにスタッフへと視線を向けた。

 

「お部屋にお持ちしてよろしいですか?」

 

「お願いします」

 

白銀が運んできたスタッフに受け答えしている最中に、櫛田はするりと部屋の中に侵入した。その後ろからスタッフがサービスワゴンを部屋の中に進めるため、白銀がそれ以上の侵入を防ごうと動く前に、櫛田は我が物顔でソファに座る。サービスワゴンはソファの前に運ばれた。

 

◇ Tartine Prosciutto et Figue - Silence Matinal

〜生ハムといちじくのタルティーヌ〜

 

◇ Mini Blini Saumon et Caviar - Réveil de Luxe

〜ピニャコラーダ モクテル〜

 

◇ Piña Colada Breeze - Parfum d'Océan

サーモンとサワークリームのミニブリニ〜キャビアを添えて〜

 

「以上がご注文いただいたメニューになります。お食事が終わりましたら回収に参りますので、フロントまでご連絡をお願いいたします」

 

スタッフは深くお辞儀をして退室した。白銀は静かに扉を閉めてから、ソファに座っている櫛田に冷ややかな視線を向ける。

 

「えへへ、遊びに来ちゃった」

 

きゃるんと効果音が聞こえそうなくらい、あざとい笑顔を作る櫛田。白銀は無言で扉を指差した。

 

「白銀くん、困ってる私を追い出すの?」

 

女優並みの切り替えの速さで、『表』から『裏』の顔へと変わる櫛田。白銀は深くため息を吐いた。

 

「困ってる感情がまったく伝わらないから今すぐ追い出したいところだけど──まあでも、なにか面白い話を聞かせてくれるなら、少しの間この部屋に滞在してもいいよ」

 

白銀は料理を食べるため、櫛田の隣に腰を下ろした。

 

「え、いいの?」

 

「追い出されたいなら、そうしてあげてもいいけど」

 

意外そうな反応を見せる櫛田。

 

今回白銀が無理に追い出さなかったのは、櫛田が進んで嬉しそうな表情で部屋に入ったのを、ホテルスタッフがはっきりと見ていたからだ。

 

また、表向きはバカンスとされている楽しい旅行の空気を台無しにする行動は、櫛田にマイナス感情を抱く人間が少なからず出てくるリスクがある。

 

故に、この状況で彼女が冤罪トラップを仕掛けてくる可能性は極めて低いと、白銀は瞬時に計算していた。

 

「白銀くんが面白いと思うほど陰湿な話はないから無理。でも、最近あった『気持ち悪い話』ならあるよ!もうっ、本当に気持ち悪い。気持ち悪すぎて鳥肌たちそうだった」

 

「君の中の僕のイメージについては後でじっくり話すとして、別に気持ち悪い話は求めてな──」

 

「1週間前の放課後の教室であったんだけどね!」

 

白銀の抗議を完全に無視して、櫛田は話しだした。これはもう止まらないと諦め、白銀は注文した料理をつまみながら、彼女の愚痴の聞き役に徹することにした。

 

「うちのクラスの三馬鹿が教室の後ろで馬鹿みたいに大きい声で話しててさ、もう教室中に丸聞こえなの!ほんっと気持ち悪い。理性のない猿すぎて生理的に無理。他の女子に相手にされないからって、私にばっか話しかけてきて!きっっっっっっっっっっもい!!!!ザケンな!堀北にいけっ!」

 

「あ、タイムタイム。バタバタしないで。君が動く度にソファが揺れるし、腕が当たって痛い。あと、耳も痛い。何もしてない僕が物理的な被害を受けてるのは全く納得がいかないんだけど」

 

部屋の防音性の高さを事前に調べているであろう櫛田は、周囲の目を気にすることなく遠慮なく大声でぶちまけた。

 

現在の被害者は白銀だけである。腕が痛い、耳が痛い。何もしれないのに。

 

「教室の後ろで誰がオカズにできるとか、『櫛田ちゃんが下着の撮影してくれたら毎晩使うのに!』とか、ほんっとに生理的に受け付けない!」

 

「ご愁傷さま」

 

「それだけじゃないから!話すときも胸元ばっかり見て、あげくに私に『櫛田ちゃん、下着の撮影とかやらないの?絶対に似合うから!やろう!やろうぜ!!』なんて直接言ってきたんだよ!これって、絶対白銀くんのせいだよね!」

 

「撮影の画像を掲載してる以上、責任が全くないと言い切るのは微妙だけど......絶妙にめんどくさいこと言ってくるね。なんで僕が八つ当たりされてるんだろうか。とりあえず落ち着いて、僕が頼んだ料理でも食べる?」

 

思ったよりも日々のストレスが溜まっている櫛田に内心驚きつつも、白銀はとにかく彼女に落ち着いてほしかった。

 

隣で暴れられるのも、大声で騒がれるのも御免だったのだ。

 

戸惑いながらも差し出された色鮮やかな料理を、櫛田は1つ手にとって口に運んだ。美味しい料理に少し気が紛れたのか、白銀の思惑通り櫛田は少し大人しくなった。

 

皿の上の料理がまるっとなくなり、櫛田が落ち着きを完全に取り戻したのを見て、白銀は静かに口を開いた。

 

「君と2人で個室にいるのは怖いから嫌だけど、電話でよかったら話くらいは聞いてあげるよ。だから、あんまりストレス溜め過ぎないでね」

 

多少の同情心から、白銀はそんなことを言っていた。

 

三馬鹿については、話す場所をしっかり考えろとしか言えない。だが、櫛田は思ってもいなかった白銀からの発言に、ポカンと口を開けて固まっている。

 

「白銀くんって、」

 

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

「やっぱり、ね。僕は島を見に行くけど、君はどうする?どのみち部屋からは出てもらうけど」

 

白銀は手早く荷物から2つの双眼鏡を取り出し、櫛田はそれを不思議そうに眺める。もう1つは、本来は神崎用にと気を遣ってもってきたものである。

 

「え、うん。私もついていこうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『姫野と網倉とデッキに向かう。合流したほうがいいか?』

 

『各自でいいよ。でも、しっかりと観察してね』

 


 

朝の5時からバスで船まで移動。

 

バカンスのためとはいえ、身支度の多い私達女子がこの出発時間に間に合うように準備しないといけないのは結構辛い。

 

(白銀くんと毎日5時からランニングしてるお陰で、全然身支度が辛くない)

 

目覚ましがなる前に目が覚めた。まさか、白銀くんとやっているランニングがこんなところで役立つなんて思わなかった。

 

5時になってからバスに向かった。クラス毎に移動するらしく、案の定女子も男子も大部分が眠たそうな表情を浮かべている。

 

席はくじ引きで、私の隣は山内だった。それだけでも最悪なのに、寝たふりをして私の肩によりかかろうとしてきたのが本当に心の底から気持ち悪かった。今すぐ消えて欲しい。

 

匂いを吸い込もうと鼻息を荒くしてるのも尚更気持ち悪い。やることなすこと気持ち悪い。たまに私が怒ってないか確認するために薄めを開けて見てくるのも気持ち悪い。

 

とにかく気持ち悪い。そんな気持ち悪さとは別に、心のどこかに違和感を感じる。その違和感がなんなのかはわからない。もしかすると、山内が気持ち悪いから気分が悪くなったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そんな罰ゲームのような移動時間を終え、船に到着してからは船内の説明と注意事項を先生から伝えられ各自の部屋へ。

 

私はみーちゃんと同じ部屋にした。というよりも、しつこすぎて同じ部屋にせざるをえなかった。正直、堀北以外だったら誰でもいい。

 

そこからは、Dクラスの女子で無料レンタルの水着を見に行って、みーちゃんがスリングショットを勧めて来た時は頭が沸いてるんじゃないかと思った。

 

そのままデッキのプールに遊びに行ったらDクラスの男子、三馬鹿と綾小路くんがいた。

 

綾小路くんはともかく、三馬鹿は女子からの評価が最悪なので避けたかったけど避けれず、やむをえず一緒に遊ぶことになってしまった。最悪。

 

許容できる視線とできない視線がある。

 

例えば綾小路くん。彼も胸に視線がいくこともあるけど仕方ないかな?と思える程度のものだ。正常な男子の反応とでも言えばいいかな。山内は完全アウト、池はアウト、須藤はわからない。

 

山内の場合は胸と話してるのかと思うくらい視線が合わない。あと、会話中に入る嘘の自分語りが痛すぎるし本当に時間を無駄にさせられてる。ダントツで気色悪い。

 

池は普段の三馬鹿での会話内容が酷すぎてアウト。視線もちょくちょくアウト寄りになるけど、まだ許容できる範囲だ。普段の会話が酷すぎる。

 

須藤は関わりたくない。喧嘩っ早過ぎて無理。あいさつ運動とかボランティアでも喧嘩しそうになるから、平田くんが付き添ってる状態だし。

 

でも、女性には興味があるみたい。だって、三馬鹿でアレだけ気持ち悪い話をしているんだから。

 

一緒にいたら面倒事に巻き込まれるかもしれないから、うまく誘導して一緒にいた女の子たちと離脱。

 

ずっとついてきそうな三馬鹿から逃れるのは疲れた。なにはともあれ、デッキにあるプールから廊下まで逃げることができた。

 

「ねぇねぇ、そろそろいい時間だし朝ご飯食べに行かない?折角だから普段いけないたっかいところ!」

 

一緒にいたクラスメイトの一人がそういい出した。

 

端末で時間を確認すると、時刻は8時前。レストランは8時から開店のため今から移動すればちょうどいい頃だ。他の子達もいいね!と乗り気だ。

 

かくいう私もプールで遊んでお腹が空いた。私も賛成の声を上げようとしたところに、Bクラスの女子2人が曲がり角から出てきた。

 

片方、姫野さんは嫌な顔を浮かべ、網倉さんは苦笑いを浮かべていた。声をかわすことなく、止まって話している私達の横を2人は通り過ぎた。

 

DクラスとBクラスの仲はよろしくない。言わずもがな、須藤の暴力事件のせいだ。一之瀬さんですら話しかけると微妙な表情をする。

 

私が作った人脈を無駄にされた。部室で2人と会わないのは意図的にそうされてるんだと思う。

 

「神崎くんから返信きた。『同室のバカは王様気分のため来ない。ルームサービスを利用するらしい』だってさ」

 

「アイツが王様気分じゃないときなんてある?」

 

「ないんじゃないかな。むしろ、神様気分までいってるかも」

 

そんなことを話しているのが後ろから聞こえてきた。アイツ、それは多分白銀くんのことだ。神崎くんと同室なのは彼だけだから間違いない。

 

(白銀くんがなんの意味もなく一人でルームサービスを食べるかな?)

 

白銀くんは意外と相手を優先するタイプの人間だ。

 

誰かに誘われれば予定がなければその誘いを受け、断る理由は先約があるか相手に興味がないか嫌いのどれか。

 

あの3人はよく一緒にいるから後者ではない。そうすると、白銀くんはなにか予定があって断ったことになる。

 

白銀くんは部屋で誰かと会う約束をしている。もしくは、一人で何かを企てている可能性がある。

 

「ごめん、みんな。白銀くんから夏休みのファッションショーについて話があるって言われてたんの忘れてた。だから、レストランはみんなで行ってもらえるかな?」

 

もう、櫛田ちゃんのうっかり屋さんとか言われたけど否定的な言葉はなかった。私のグループだから当たり前なのが1点。Dクラスにおける白銀くんの評判が高いのが2点。

 

もしこれが『ごめん、山内くんと約束してるから行くね』だったら止められてたと思う。と、こんな事考えてる前にいかないと。

 

白銀くんが何を企んでるのか気になるし。もし誰かと会ってるなら、それを邪魔して白銀くんの予定を狂わせよう。密談だとしたら私がいることで話せないこともあるだろうしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

素直に部屋に入れてもらえるとは限らないから、ルームサービスを持ってくるスタッフを待つ。それに乗じて入れば白銀くんも止めることができないはず。

 

(きた、多分あれが白銀くんの注文した料理を運んでるスタッフ)

 

「あの、それってこの部屋に運ぶ料理ですか?」

 

人当たりのいい笑顔でスタッフさんに声をかける。スタッフさんも同じく笑顔を返してくれた。

 

「おっしゃるとおりです。こちらの部屋のお客様からご注文いただいた料理になります」

 

「でも、彼寝てるみたいで、ノックしても反応がないんですよね.....」

 

スタッフさんは少しだけ困った表情を見せたけど、すぐに取り繕った表情に変わった。

 

白銀くんは私を警戒してるから、入れてもらえないかもしれない。だからスタッフを利用する。ここで大事なのは私がこの後部屋に入ってもスタッフさんに怪しまれないこと。

 

「教えていただきありがとうございます。お客様とお話している間にお目覚めになった可能性もございますので」

 

 

スタッフさんは3回ノックしてから扉越しに声をかける。

 

『ご注文いただいたルームサービスのお食事をお持ちいたしました』

 

白銀くんは私の前にいるスタッフよりも先に私に視線を向けてきた。とりあえず、笑顔で手を振ってみる。なんの反応も返ってこなかった。

 

「お部屋にお持ちしてよろしいですか?」

 

「お願いします」

 

スタッフさんと白銀くんがやり取りをしているうちに部屋の中に入り、ソファに座る。部屋に人がいる様子はないかな。ってことは、やっぱり企みごと?

 

そんなことを考えている私の前にサービスワゴンは置かれた。多分、さっきのやり取りで約束しているって誤認させたからだ。

 

◇ Tartine Prosciutto et Figue - Silence Matinal

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◇ Mini Blini Saumon et Caviar - Réveil de Luxe

〜ピニャコラーダ モクテル〜

 

◇ Piña Colada Breeze - Parfum d'Océan

サーモンとサワークリームのミニブリニ〜キャビアを添えて〜

 

 

「以上がご注文いただいたメニューになります。お食事が終わりましたら回収に参りますので、フロントまでご連絡をお願いいたします」

 

 

 

スタッフは軽くお辞儀をしていなくなる。白銀くんは扉を閉めてから私に視線を向けた。

 

「えへへ、遊びに来ちゃった」

 

できるだけ可愛らしく言ってみたけど、白銀くんは扉を指差し帰れと訴えかけてきた。ムカつく。

 

「白銀くん、困ってる私を追い出すの?」

 

「困ってる感情がまったく伝わらないから追い出したいところだけど──まあでも、なにか面白い話を聞かせてくれるなら少しの間この部屋に滞在してもいいよ」

 

可愛い子ぶるのをやめて話してみると滞在を許可された。

 

「え、いいの?」

 

思わず心の声がそのままでた

 

「追い出されたいならそうしてあげてもいいけど」

 

前々から思っていたけど、白銀くんは割と優しい。私だったら冤罪をかけて脅してきた相手と仲良くなんて絶対にしない。

 

流れるように白銀くんが私の隣りに座った。移動の時のバスと違って不快感はない。

 

「白銀くんが面白いと思うほど陰湿な話はないから無理。でも、最近あった気持ち悪い話ならあるよ!もうっ、本当に気持ち悪い。気持ち悪すぎて鳥肌たちそうだった」

 

とはいえ、白銀くんにとって面白い話なんて私が知っている生徒の秘密暴露なので話すことはできない。

 

代わりに私の愚痴を聞いてもらうことにした。愚痴を話せる相手ができるなんて、中学時代は思ってもみなかった

 

「君の中の僕のイメージについては後で話すとして、別に気持ち悪い話は求めてな」

 

「一週間前の放課後の教室であったんだけど」

 

最近で1番気持ち悪かったのは一週間前のこと。

 

「うちのクラスの三馬鹿が教室の後ろで馬鹿みたいに大きい声で話しててさ、もう教室中に丸聞こえなの!ほんっと気持ち悪い。理性のない猿すぎて生理的に無理。他の女子に相手にされないからって、私にばっか話しかけてきて!きっっっっっっっっっっもい!!!!ザケンな!堀北にいけっ!」

 

思わず感情的になってしまった。この船は各部屋の窓は開けないし防音性が高いから部屋から漏れることはない。

 

「あ、タイムタイム。バタバタしないで。君が動く度にソファが揺れるし、腕が当たって痛い。あと、耳も痛い。何もしてない僕が被害を受けてるのは全く納得がいかない」

 

隣で感情的になった私を見ても白銀くんに引いた様子はない。なんなんだろうか。

 

「教室の後ろで誰がシコれたとか、『櫛田ちゃんが下着の撮影してくれたら毎晩使うのに!』とかほんっとに生理的に受け付けない!」

 

「ご愁傷さま」

 

少し落ち着いて話したら適当な相槌が返ってくる。別にアドバイスとか求めてるわけじゃないからそれでいいや。

 

「それだけじゃないから!話すときも胸元ばっかり見て、あげくに私に『櫛田ちゃん、下着の撮影とかやらないの?絶対に似合うから!やろう!やろうぜ!!』なんて言ってきたんだよ!これって、白銀くんのせいだよね!」

 

自分でも酷いと思う八つ当たりだ。なのに白銀くんは怒らない。

 

「掲載してる以上責任がないと言い切るのは微妙だけど、絶妙にめんどくさいこと言ってくるね。なんで僕が八つ当たりされてるんだろうか。落ち着いて、僕が頼んだ料理食べる?」

 

そういえば朝食を食べずにここに来たことを忘れていた。

 

お皿の上に並んでいるのは手でも食べやすい料理、勧められるがままに口に運んだ──美味しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皿の上の料理がまるっとなくなってから、白銀くんは口を開いた。

 

「君と二人で個室は怖いから嫌だけど、電話でよかったら話くらいは聞いてあげるよ。だから、あんまりストレス溜め過ぎないでね」

 

───なんで、なんで白銀くんは私に優しくするんだろう。

 

過去のことを知られて立場的に弱いのは私の方なのに、そのことをネタに何かを強要されることはなかった。

 

強いて言えば朝のランニングくらいだ。白銀くんが私に優しくしたことで得られるものはなにもない。それに、白銀くんは私の過去を知った自分のことを私が隙あらば退学させたがっているのを知っている。

 

だから警戒されてるし、シャワーを借りる時に誓約書まで書かされた。あべこべだ。どう考えても、白銀くんが私に優しくする理由がない。

 

今だって、前みたいに冤罪をかけられるかもしれないのに私を本気で部屋から追い出そうとしない。もしかして白銀くんは、白銀琥珀は──

 

「白銀くんって、」

『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

間が悪いことに、いや間がいいことに放送が流れた。私は今、おかしなことを口走ろうとしていた。

 

「やっぱり、ね。僕は島を見に行くけど、君はどうする?どのみち部屋からは出てもらうけど」

 

白銀くんは荷物から2つ双眼鏡を取り出している。

 

今さっきまでノンビリしていたのに、今はテキパキと動いている。問いに対しては、私も島を見たかったのでついていくことにした。

 

「え、うん。私もついていこうかな」

 


 

アナウンスが流れてからの行動が早かったからか、私と白銀くんは見晴らしのいい場所で島を見ることができた。

 

あ、双眼鏡は白銀くんが貸してくれたよ。。

 

「双眼鏡までもってきて、白銀くんってもしかしてかなり楽しみにしてた?」

 

「どうだろうね」

 

白銀くんは島を見るのに集中しているようで、私の方をチラリとも見ない。まって、白銀くんがこれだけ集中して見てるってことは。

 

(もしかして、ただのバカンスじゃない?)

 

私も真面目に島を見たほうがいいのかもしれ「櫛田ちゃ〜ん!」

 

「ん?なにかな、池くん?」

 

あまり呼ばれたくない聞き覚えのある声に呼ばれたので振り返る。私を呼んだのは池、その後ろには告白を見守る女子のように山内と須藤が隠れている。

 

「あのさ、ちょっと話したいことあるんだけど今いいかな?あー、あっちの方で話したい」

 

(告白かぁ〜。なんで自分から気まずい関係になろうとするんだろう。成功するわけないじゃん)

 

さっさと振って白銀くんと島を見ないと。

 

「うん、もちろんい」

「待った」

 

私が池くんについていこうと動き出した瞬間、白銀くんに腕を掴まれた。

 

「池くん、だっけ?悪いんだけど、見ての通り取り込み中なんだ。改めてくれるかな」

 

(思ったより櫛田ストレス溜めやすいし、今までより気にかけてあげよう)

 

言葉は強くないのに、白銀くんの言葉には力がある。重みがある。いや、そんなことはどうでもいい。

 

(どうして、優しくするの)

 

さっきまでは私の言葉に適当な返事をしてたくせに、今は島を見るのをやめて池の目をまっすぐに見据えてる。

 

池くんは言葉に詰まり、何も言い返せずにお仲間2人の方へ池は戻っていった。須藤が白銀くんを睨んでるけど、白銀くんは全く気にしてない。

 

「余計なお世話だったかな?」

 

「........ううん。ありがとう」

 

白銀くんとリゾートウォッチングを再開し「どけよ、不良品ども」

 

「え?」

 

身体を横から押され、横にいる白銀くんに私の身体がぶつかり、私の手は白銀くんが使っている双眼鏡に当たった。

 

「あ」

 

白銀くんの手から離れ、海へとダイブする双眼鏡。何が起こったかわからないと私を見る白銀くん。

 

ごめん、私もなにがあったのかわからない。

 

「ご、ごめ」

「いや、いいよ。謝らなくて。わざとじゃないだろうし。立ち眩み?大丈夫?」

 

白銀くんから真っ先にでた言葉は心配の言葉だった。私に泥沼の裁判を〜とか言ってきた人と同一人物とは思えない。

 

でも、心配されて悪い気はしない。

 

「お前らもこの学校の仕組みはわかってるだろ。ここは実力主義の学校だ。Dクラスに人権なんてない。不良品は不良品らしく大人しくしておけ。こっちはAクラス様なんだよ」

 

「人権ないんだって、大変だね。もしかして、君が押したから櫛田が僕にぶつかったのかな?」

 

「そうだ。お前らみたいな不良品がいい場所を陣取るな」

 

「僕のこと知らないって、情報収集能力に難があるよ」

 

ボソッと私にだけ聞こえるよう白銀くんは呟いた。やっぱり性格が悪い。

 

「それで、君がわざと櫛田を押したせいで僕の双眼鏡が落ちたんだけど、弁償してくれるのかな?」

 

「ふん、いいだろう。幾らだ」

 

「揉めたくないから、後日でいいかな。レシートを保管してるから、学校に戻ってから請求させてもらうよ。君を信用して、特に契約書とかは作らないけど問題ないかな?」

 

「それでいい。さっさとどっか行け」

 

「行こうか、櫛田」

 

白銀くんは明らかに見下されてるのに普段と同じテンションで対応している。とりあえず、ついて行こっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったの?あんなに甘い対応で」

 

「音声はとってるからポイントさえ回収できたらいいよ。君も怪我をしてないみたいだしね」

 

その言い方だと、私が怪我をしていたら違う対応になってたみたいに聞こえるんだけど。勘違い.....かな?

 

『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください』

 

「と、流石にそろそろ神崎たちに合流しないと」

 

「うん、リゾートで遊べたら遊ぼうね!」

 

白銀くんは微妙な反応をして背中を向けて歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、朝感じてた違和感───いつの間にか、なくなってたかも。

 

 

 

 

 

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