無口に愛を紡ぐ教室へようこそ   作:Mr.♟️

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1話〜初めてのポイント支給〜

 

入学式終了後の学園食堂。

 

ランチタイムの喧騒のなか、白銀琥珀は券売機の横にある食堂のメニュー表をじっと見つめていた。

 

スペシャル定食 【1,500ppt】

 

ジューシーなハンバーグにコク深いデミグラスソースをたっぷりとかけ、サクサクのアジフライ、濃厚なチーズを包み込んだミルフィーユカツ、そしてプリプリのエビフライ。

 

彩り豊かなサラダに、ごはん・香の物・具だくさんの味噌汁、さらには日替わりのプチスイーツまで付いた、まさに特別な一皿。

 

「今日はちょっといいことがあった」──そんな日は、この定食で決まり!

 

スペシャル刺身定食【1,500ppt】

 

本マグロ、ウニ、タイ、アワビ、クエ、イカ。選び抜かれた高級食材を惜しみなく盛りつけた、食堂最上級の海鮮プレート。素材の旨みをそのまま味わえる贅沢なひと時。

 

肉より魚派?なら君は、もう大人の入口に立っている。

 

ミックスカツ定食【1,000ppt】

 

コロッケ、ヒレカツ、アジフライ。三種の揚げ物が一皿に並ぶ、ボリューム満点のガッツリメニュー!サクサク食感とジューシーな旨みが口いっぱいに広がる!さっぱり味噌汁と一緒に召し上がれ。

 

揚げ物は若さの特権だ。今こそ食べる時!

 

焼き魚定食【1,000ppt】

 

旬の魚を丁寧に塩焼きに仕上げ、素材の旨みを最大限に引き出した一品。香ばしい皮とふっくらした身、そして絶妙な塩加減が和食の真髄を感じさせる。

 

魚に合うのは塩だけだ。醤油?それは邪道ってやつさ。

 

煮魚定食【1,000ppt】

 

季節の魚を甘辛く煮付け、身はホロホロ、味はしっかり。懐かしさを感じる優しい味わいは、まるで田舎の食卓。心も身体も温まる、そんな一皿。

 

煮魚なんて邪道だ?いやいや、煮魚こそが真の故郷の味。

 

 

 

 

どれもこれも魅力的な料理が並ぶなか、ひときわ異彩を放つ一品があった。

 

山菜定食【0ppt】

 

白米と味噌汁、塩を入れず茹でただけの山菜。一欠片の優しさに梅干しor明太子or納豆。オマケの味付き海苔。節約好きのあなたへ届け。

 

(色々な定食があって、それぞれおすすめポイントが書かれているのに、山菜定食だけあからさまに貶められてる。塩茹でしない山菜って、えぐみが残ってる不味いだけの草だ。人気ないだろうな、この定食)

 

「山菜定食で、ごはんと味噌汁大盛り、納豆。あと──山菜抜きでお願いします」

 

白銀の注文に、受付の職員は目をパチパチと瞬かせた。聞き間違いを疑い、白銀に問いかける。

 

「山菜定食の......山菜抜きですか?」

 

「はい」

 

食堂の受付は戸惑いながらも注文を通した。厨房の奥から『山菜抜きって何だ......』という困惑の声が白銀の耳にも届いたが、聞こえないふりをした。

 

数分後、無事に山菜定食(山菜抜き)を受け取った白銀は、お盆を持ったまま周りをキョロキョロと見渡した。

 

(席が空いてない)

 

白銀は食堂内を彷徨いながら、慎重に相席をお願いする相手を探していた。

 

(相席を頼む相手を間違えたら最悪だ。話しかけてこないか、適度に相槌を打つ程度の相手ならいいけど、マシンガントークしてくる相手に当たったらゆっくりご飯を食べることが出来ない)

 

ウロウロキョロキョロ。ハズレの席に座らないよう、白銀はさらに1分間ほど食堂をうろついた。そんな不審極まりない白銀の様子を見かねて、一人の女生徒が声をかけてきた。

 

「新入生ですか?よければ、私の席へどうぞ」

 

(見覚えがある。橘茜、生徒会書記だったか)

 

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

着席前に軽く一礼をしてから、白銀は自己紹介をした。

 

「白銀琥珀です。1年Bクラス。橘先輩ですよね?」

 

「え、私のこと知ってるんですか?」

 

「入学式で、生徒会席に座っていたので。記憶力には自信があるんです」

 

驚いている橘を気にせず、白銀は席に座った。橘のトレイには、既に食べ終えたスペシャル定食の器があった。対して、白銀のトレイに並んでいるのは白米・味噌汁・納豆の三種の貧食である。

 

「それ、なんの定食ですか?」

 

橘が見覚えのない質素なメニューを不思議に思い、白銀に問いかける。迷うことなく、白銀は即答した。

 

「山菜定食、山菜抜きです」

 

「無料メニューですよね?それにしても、新入生は全員10万ppt支給されてるはず。白銀くんは倹約家なんですね」

 

「明日は刺身定食を食べるつもりです」

 

「......なるほど?」

 

まったく文脈の繋がらない返答が来たことで、橘は混乱した。よく考えれば、山菜抜きという注文自体も理解できていない。

 

「ポイントを上手く使えば美味しい料理を食べることができ、浪費すれば今日みたいな質素な食事になる。それを今のうちに、自分の身体に覚えさせるためです」

 

橘は少し驚いたような顔をしたあと、ふっと微笑んだ。

 

「面白い考え方ですね」

 

数分の沈黙の間に質素な食事を終わらせ、事前に自販機で購入していた無料の水をコクコクと飲む。橘はその堂々とした姿を、興味深く観察していた。

 

「白銀くん。よければ連絡先を交換しませんか?」

 

「断る理由がありませんね」

 

その日、白銀の端末に神崎に続く二人目の連絡先が追加された。

橘は白銀が去った後、彼が消えた扉の方を見つめながらポツリと呟いた。

 

「無料の定食に無料の水。白銀琥珀くん......Sシステムの仕組みに気づいてる?それとも、ただの変人?......あるいは倹約家?」

 


 

昼休みの学食は、まるで昼の文化祭のような熱気に包まれていた。トレイを手に並ぶ生徒たちの視線は、メニューの掲示板や友人の表情、そして空席の行方へと忙しなく動き回る。

 

(やっぱり、初日だから食堂にくる新入生が多いのかな?)

 

私は1年Bクラスの数人と共に、食堂へ足を運んでいた。

 

お互いのことをよく知るために、お昼ご飯を一緒に食べに来ている。こういう小さな関わりを作っていくことで、今後クラスの中でもっと自然に会話を交わせる関係を築けるようになるから。

 

「一之瀬さんは何にする?やっぱりスペシャル定食?」

 

「うーん、気になるけど。ちょっとカロリーが怖いなぁ。焼き魚定食にしておこうかな」

 

(カロリーよりも、本当は琥珀くんが言っていたポイントの変動の可能性が怖い。でも、そんなこと言ってみんなを不安にさせたくないからね)

 

笑いながらそう答えると、周囲の子たちも『あ、健康志向〜』なんて軽口を叩き、和やかな空気が広がった。

 

(うん、やっぱり言わなくて正解だ)

 

注文した定食が来るのを待っている間に、みんなで座れそうな席を探す──そんな私の視界に、見たくない光景が映りこんだ。

 

窓際の二人席。そこに座っていたのは、琥珀くんと、生徒会書記の橘茜先輩だった。

 

(──どうして?一人で食べたいからって、クラスのみんなで食べるのを断ったのに)

 

思わず駆け寄りたくなる気持ちを、ぐっと堪えた。隣にいた子が不思議そうに首をかしげる。

 

「ううん、なんでもないよ。あっちの席、空いてるみたい」

 

笑顔を崩さずに言いながら、私の内心では落ち着かない感情が渦巻いていた。琥珀くんと話している橘先輩の頬は緩んでいる。そもそも、どうして橘先輩と琥珀くんが一緒に昼食を?

 

(中学時代の知り合いとか?もしかして、橘先輩が琥珀くんの元カノとか?──違う。絶対に違う)

 

たまたま、かもしれない。でも、二人の距離感は明らかに偶然という言葉だけでは説明できない何かを含んでいる。

 

目を合わせて話している姿に、無意識に視線が奪われる。琥珀くんが軽く何かを言い、橘先輩が楽しそうに頷く。

 

──それだけのやりとりに、胸の奥がチクリと痛んだ。

 

(なんで、あんなに楽しそうに)

 

「でね、入学式で立ってるのにウトウトしてる生徒がいてさ〜」

 

クラスメイトが楽しそうに話している声に我を取り戻し、適当に相槌を打つ。琥珀くんの方を見ていたのはバレていないみたいだ。

 

私は姿勢を変え、琥珀くんたちの席が見えないよう背を向けた。これ以上見ていたら、きっと嫉妬が表情に出てしまう。

 

(今すぐ話しかけて、二人が何を話していたのか知りたい。二人の関係性も知りたい)

 

見えないようにしても、結局頭では彼らのことを考えてしまう。これでは、なんの意味もない。

 

「一之瀬さん、お味噌汁、こぼれそうだよ〜」

 

「えっ、あ、ごめん!」

 

隣の子の言葉で我に返り、しっかりとお椀を持ち直す。

 

クラスメイトたちは楽しそうに話している。私はその輪の中にいる。でも、さっき見てしまった琥珀くんと橘先輩の姿が、頭の片隅から離れない。

 

もし、私が一人でここに来ていたら。あの席に割って入り『こっちに来なよ』って言えたのに。

 

でも、今は何も出来ない。自分からクラスメイトを誘っておいて放置なんて、論外にも程がある。

 

「一之瀬さんってさ、一緒にいるとすごく安心するよね。なんか、みんなをちゃんと見てる感じがするっていうか!」

 

「えっ......そうかな?でも、そう言ってくれて嬉しいな」

 

(本当は、見てたのは別の人だったんだけどね)

 

心の中で呟いて、私は反省とともに笑顔を深くした。

 


 

春の陽光が差し込む朝の校舎に、廊下を静かに歩く足音が響く。まだ人の気配が薄い早い時間帯。

 

白銀琥珀はBクラスの教室の扉を開け、そのまま無言で自分の席に腰を下ろした。教室にいるのは白銀一人だけだ。

 

(誰もいない教室。静かで好きだ)

 

一人の世界に浸っていた白銀だが、再びドアが開く音と共に、その平穏な時間は終わりを迎えた。

 

「......おはようございます」

 

か細い声。教室に入ってきたのは白波千尋だった。白銀は彼女のことを好ましく思っていない。彼に対してあからさまな敵意を向けてくる、クラスでも数少ない存在だからだ。

 

白銀は軽く頷いただけで返事はしない。

 

白波もそれ以上は何も言わず、足早に自分の席に着こうとした──が、その足は白銀の席のそばで止まった。白波の視線は白銀の頬、その痛々しい火傷の痕へと向けられている。

 

「......やっぱり、変わらないですね」

 

その呟きは、小さくも確実に白銀の耳に届いた。白銀は眉ひとつ動かさず、視線を窓の外へ向けたまま返す。

 

「何が?」

 

「その顔、です。見慣れません。見たくないんです、正直。気持ち悪いし醜い」

 

白波の声は小刻みに震えていた。

 

だが、それは怒りからくるものではない。恐怖だ。元来気の弱い白波が、他人を傷つける言葉を自らの明確な意思で用いている。目の前の白銀という存在に対する本能的な恐怖と嫌悪感。

 

「──へぇ」

 

白銀はゆっくりと首を巡らせ、彼女に視線を向ける。

 

その瞳に感情の色は一切浮かんでいなかった。怒りも哀しみもない、無関心とすら言えるほどの静けさ。深海のような不気味な静けさだ。

 

「わざわざ言うほどのことか、それ」

 

「あなたが、一之瀬さんに近づくから──」

 

白波の声に、悲痛な揺れが増した。

 

「彼女は優しくて明るくて、誰にでも分け隔てなく接してくれる。だから、そんな人に......あなたみたいな、何を考えてるのかわからない醜い人が近づくのが、嫌なんです!一之瀬さんに近寄らないで。あなたみたいなモンスターは、彼女にふさわしくない」

 

教室内には二人きり。震えながらも、白波はキッパリと断言した。

 

実は、今日のようなことは初めてではない。

 

白銀と白波が二人きりになるタイミングがあれば、決まって繰り返されてきた日常的な冷戦の延長だった。

 

白銀はゆっくりと席から立ち上がった。

 

その動作には威圧するような意図はない。ただ、立ち上がって視線の高さを合わせるためだけの自然な動き。だが、白波はそれだけでも恐ろしさに息を呑んだ。

 

「今まで、僕が甘すぎた。今までは君の無礼な態度を見逃してあげていた。面倒事が嫌だったからね」

 

白波は、白銀から滲み出る静かな迫力に耐えきれず、後ずさりした。ガタガタと身体が小刻みに震えている。

 

「僕の火傷痕が気持ち悪いのも、君が僕を嫌うのも、別にどうでもいい。だが──」

 

白銀の声が、そこで一段低くなる。

 

「僕に直接そう言ってきたからには、相応の覚悟は出来ているんだろうな。君から僕に仕掛けてきたんだ」

 

白銀の無表情が、白波の目にはうっすらと嗤っているように見えた。それが、彼女の恐怖を底なしに倍増させる。

 

──教室の扉のすぐ向こう。網倉麻子と姫野ユキは、息を殺して立ちすくんでいた。

 

登校して何気なく教室に入ろうとしただけだったのに、中から漏れ聞こえるあまりに重い雰囲気に、図らずも盗み聞きするような形になってしまった。

 

ドアを開けることすら躊躇われるほどの、異様な空気が漂っていたのだ。

 

「今の、白波だよね。白銀のことが嫌いなのはなんとなくわかってたけど......あれはライン超えてる」

 

「白波さんって、普段から男子に当たりキツイけど、白銀くんと二人だとあんなこと言うんだ。......最低だよ」

 

二人は顔を見合わせ、小さくため息をついた。この5分後、彼女たちは何事もなかったかのように教室へと入ることになる。

 

 

 

 

火種は、確かにここで生まれてしまった。

 

 


 

5月1日。ポイント支給日。白銀琥珀は起床と同時に自身の端末を確認した。

 

【138,000ppt】

 

端末に表示されている数字は、昨日から確かに増えていた。ポイントの振り込み自体は間違いなく行われている。

 

(10万ppt振り込まれていない。やっぱり、能力査定はあったんだ。その結果として35,000pptのマイナス。納得できないな。そもそも星之宮先生はどうしてこの事実を隠していたのか。今の僕のように、支給日になれば誰でもわかることだったのに)

 

新たに付与されたのは65,000ppt。事前説明の10万pptから35,000pptも不足している。今ここで考えても仕方ないと、白銀は身支度を済ませて登校した。

 

教室に向かえば、案の定、生徒たちは騒然としていた。登校の道中では「残高ゼロで自販機のジュースすら買えない」と騒いでいる他クラスの生徒まで見かけたほどだ。

 

「65,000ppt、お前も同じだろ?」

 

「僕が隆二と同じ評価。この学校の教師は目が腐ってるとしか思えないね」

 

「バカ言うな。十中八九、個人じゃなくてクラス毎の評価だろ」

 

「だろうね」

 

白銀が軽口を叩くと、神崎隆二は呆れたように息を吐く。こういうやり取りにもすっかり慣れたのか、特に嫌そうな反応はしなかった。

 

「ホームルームで説明されるのかな?」

 

「説明してくんないと、授業にならないでしょ。ジュースさえ買えないバカな奴もいるんだから」

 

会話に混ざってきた姫野ユキの言葉に、神崎が同意する。

 

「姫野も見たのか。1ヶ月で10万円全額って、しょうもない使い方するやつもいたもんだな」

 

「20万付与されて10万使ったなら分からなくもないんだけどね。よく手元にポイントがないことに不安を抱かないな」

 

白銀が呆れ混じりにそうこぼしていると、4人の輪に一之瀬帆波も参加してきた。

 

「みんなも65,000pptしか振り込まれてないよね?」

 

「ああ、そうだ。これ以上騒いでも仕方ないし、俺たちは星之宮先生の説明を待つことに決めた。だよな、琥珀?」

 

「うん」

 

「そうなんだ。確かに、これ以上話をして解決することじゃないもんね。星之宮先生の話を聞いてから、どうするか対策考えないと」

 

「一之瀬さん、置いていかないでよ。なんで置いていくの」

 

一之瀬の後を追うように、白波千尋が小走りでやってきた。

 

「え、うん。ごめんね、千尋ちゃんはまだ他のお友達と話してたから」

 

「帆波がいないと何も出来ない雛鳥じゃないんだから、責めるのはおかしいだろ」

 

白銀がわざと煽るように言うと、神崎の口角がピクリと動いた。

 

「一之瀬さんのこと、名前で呼ばないで」

 

白波が白銀をキツく睨みつける。

 

(白波千尋。帆波に構って欲しいのかなんなのか知らないが、鬱陶しい。君があの日僕に投げかけた言葉、ただで終わらせるつもりはない)

 

「千尋ちゃん。私は別に気にしてないし、むしろ私から名前で呼んでねってお願いしてるから。そういうのやめてって、前も言ったよね?」

 

言葉に僅かながら怒気がこもっている一之瀬。白銀は、このやり取りを見るのが何回目か数えるのもバカらしいと感じていた。

 

「ご、ごめん、一之瀬さん」

 

「覚えられないのが白波の個性なんだろ。羨ましい頭をしてるな。嫌なこととかすぐに忘れられそうで」

 

白銀の毒舌に、姫野は思わず吹き出しそうになった。普段なら『言い過ぎだよ』と注意するだろう一之瀬も、流石に何度も同じことを繰り返しているからか、今回ばかりは白波をフォローしなかった。

 

キーンコーンカーンコーンと始業のチャイムが鳴る。ほどなくして、担任の星之宮知恵が教室に現れた。

 

「これから朝のホームルームをはじめるけど、みんな聞きたいことあるでしょ?今なら答えられるから、遠慮なく聞いてね」

 

一之瀬がスッと手を挙げ、星之宮が指名した。

 

「振り込まれているポイントが10万pptじゃないみたいなので、説明をお願いします」

 

「うんうん、その質問ね。優秀なみんななら、もう気がついてるんじゃないかな?──遅刻に欠席、授業中の私語。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果、みんなは35,000pptを失ったの。クラスポイントで表すと350cpt没収だね。歴代で見たらいい方かなぁ。ちなみに、ポイントが0になった場合それ以上減ることはないよ。みんなに限ってはそんな事態にはならないと思うけど、一応伝えておくね」

 

「じゃじゃん!各クラスの成績表張りまーす!」

 

星之宮は黒板に各クラスの成績表を張った。

 

Aクラス:940

Bクラス:650

Cクラス:490

Dクラス:0

 

「流石に綺麗すぎる」

 

「偶然、じゃないよね」

 

隣同士、一之瀬と白銀は小声で言葉を交わす。

 

「気づいたかな?この学校ではね、優秀な順でクラス分けされているの。A→B→C→Dってね。Dクラスは不良品、なんて呼ばれ方をすることもあるみたいだから、みんなはBクラスでよかったね」

 

(面白い。思いついても、倫理や道徳的に普通の学校じゃ実行できないであろう仕組みだ)

 

「あ、それと先日行った小テストについてなんだけど、赤点はいなかったけど危ない子はいたから気をつけてね。本番のテストだと、赤点をとった時点で退学だから」

 

星之宮はまた別の紙を黒板に張り出す。大体の人間は70〜80点台だ。

 

「た、退学?どういうことですか!?」

 

一之瀬が声を張り上げる。焦った様子の一之瀬を見ても、星之宮は一切取り乱さない。

 

(なるほど、厳しい。......まあ、少なくとも僕が赤点を取ることはないから問題ないか)

 

「説明するね。この学校は、1科目でも赤点をとったら退学になることが決まってるの。今回のテストでいえば40点未満が全員対象だね」

 

「赤点は平均点の半分で合ってますか?」

 

「そうだよ。それと、希望の就職先、進学先が叶うためにはAクラスで卒業する場合のみ適応される。この学校はクラス替えはないけど、クラスポイントの高い順に毎月クラスが変動するからね。Aクラスになりたい場合は、Aクラスのクラスポイントを越える必要がある。......個人で好きなクラスに移動する権利も売ってるけど、2000万pptってすっごく高額だから、今まで買った人はいないよ」

 

そこまで説明して、星之宮はホームルームを終えた。クラスにどんよりとした空気が漂っている。

 

「はい、注目!」

 

そんな重い空気を払拭させることが出来るのは、やはり一之瀬帆波だった。一言でクラス中の視線を集めることに成功する。

 

「私から提案なんだけど『授業を真面目に受けること』『生活態度をしっかりとすること』『テストが近づいたら、中間テストに向けて勉強会をする』のはどうかな?」

 

一之瀬の至極真っ当な意見に、異論を唱えるものはおらず、Bクラスは彼女を中心にまとまろうとしていた。

 

昼休み。白銀は神崎に呼び出され、屋上に来ていた。姫野と網倉も神崎に伴っている。

 

「いいのか、琥珀。一之瀬を中心にしたら、今後のBクラスの舵取りを任せることになるんだぞ」

 

「いいことだと思うけど。帆波はリーダーシップも行動力もあって、ピッタリじゃないか」

 

神崎はギリっと奥歯を噛み締めた。分かっているくせに分からないふりをしている白銀を軽く睨みつける。

 

「それってつまり、あんたのことを目の敵にしてる白波が、クラスのNo.2みたいなポジションに収まるってことだけど。問題ないっていうの?」

 

姫野が呆れたように指摘する。

 

「今は誰もいない時に嫌なことを言われるだけかもしれないけど、今後増長する可能性だってあるんだよ。ううん、きっとする」

 

網倉も心配そうに続けた。

 

「気弱で常に一之瀬にくっついてる白波が、お前に暴言を吐いたと言っても信じるやつはいない。俺も、お前が被害に遭ってるところを見てなかったら信じていなかったと思う。早めに動いて対処すべきだろ、琥珀」

 

白波の裏の顔を知っている三人は、白銀が不当な扱いを受けることを心配し、同時に彼の静観する態度にもどかしさを感じていた。

 

「くだらない水掛け論をするつもりはないから。好きにやらせとけばいいよ......今だけはね」

 

白銀は冷たくそれだけ言い残し、屋上から去っていった。残された三人は、彼の底知れない言葉の真意を測りかね、ただ顔を見合わせるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






白銀くん、全然無口にならない。
タイトル詐欺です、ごめんなさい
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