朝日の光がデッキに広がっていた。柔らかなオレンジ色が水面に反射し、青く澄んだプールは一層きらめきを増している。
パラソルの下に並んだデッキチェア。そのひとつに私は腰を下ろし、足元に小さなビーチボールを転がした。
フロントで借りてきたそれは、どこにでもあるような安っぽい模様のボールだったけれど、そんなことはどうでもいい。
「......暑い」
独り言が漏れる。頬にまとわりつく湿気と熱気が、じっとりと肌を包み込んでいた。自分でも少し汗をかいていることがわかる。
私は今、豪華客船のプールに来ている。あまり好きではないプールに。
プールが嫌いなわけじゃない。ただ、水着姿にあまりなりたくないだけだ。水着姿になること自体は、私たちくらいの女子なら珍しいことでもない。
でも──私は昔から、こういう場所が心底苦手だった。
理由は単純。無遠慮な視線。
素肌の露出が多く、胸が目立つ分、興味もない人たちの下卑た目が容赦なく突き刺さる。
興味のない異性からの視線を浴びるのは、背筋がゾワゾワとするくらい気持ち悪い。
でも、今日は違う。むしろ、見られたいとさえ思っていた。いや、正確には『彼にだけ』見てもらいたいのだ。
彼が私を見てくれるのなら、それがどんな感情であれ構わない。それがあるいは男としての下心だとしても。彼からの嫌悪でさえなければ、私はなんだって受け入れられる。
胸の奥でそんな重たい思いを繰り返し、時折ビーチボールをつま先で揺らして時間を潰していた時だった。
「なあ、長谷部。どうせ一人なんだろ?寂しいだろうから、俺が一緒にいてやるよ」
聞きたくもない声が背後から降ってきた。振り向かなくてもわかる。うちのクラスの山内だ。
肩にタオルをかけ、何故か自信満々な顔をしている。少し離れた後ろには、池と須藤の姿も見える。ニヤついた顔でこっちを見ているのが、視界の端に映った。
──くだらない。
「まあ、あっちに池と須藤もいるけどさ。二人きりがいいなら、それでもいいぜ?」
鬱陶しい。パレオの結び目をいじりながら、顔を上げずに冷たく言葉を返す。
「約束があるから」
「誰と?友達?だったら俺でもいいだろ。どうせ暇してんだし」
「いいわけないから、どっか行って」
わかってる。こういう男はしつこい。都合よく解釈して食い下がってくるに決まっている。本当にウザイ。
私が待っている相手は、あんたなんかと比べ物にならない。背中にまとわりつく嫌悪感に耐えながら、相手にするのをやめた。
「なあ、どこで遊ぶんだ?俺のほうが面白いことできるって。絶対、俺と遊んだ方が楽しいって」
無視。相手をすればするだけ疲れる。答えないのが一番だ。
けれど山内は、私の沈黙を肯定と勘違いしたのか、キモい口角を吊り上げて一歩近づいてくる。プ
ールの水滴の匂いと、汗の匂いが混じって嫌悪感が限界まで増した。
「約束ってのは嘘だろ?本当は寂しいんだろ。大丈夫、俺が付き合ってやるからさ」
息づかいが近い。肩先が触れそうになる。
いい加減にして。もう声を荒げて追い払うしかない──そう思い、息を吸い込んだその時だった。
「諦めなよ。彼女は、君には勿体ない」
少し低めの落ち着いた声が、不快な空気を綺麗に切り裂いた。
すっと影が差し込み、山内と私の間に割って入るように現れたのは──
「待たせたかな?一応、約束の時間よりも前に来たんだけど」
琥珀。白銀琥珀が、当然のように私へ視線を向けて優しく微笑んでくれた。
「は?別に俺は──」
「邪魔」
そのたった一言。絶対零度の冷たい声色。
琥珀は視線さえ向けていないのに、圧倒的な圧が空気を完全に支配する。山内の顔が引きつるのが、視界の端でもはっきりとわかるほどだった。
遠巻きに見ていた池と須藤も、気まずそうにスッと視線を逸らした。
「──行こうか、波瑠加。ビーチボールを持ってるってことは、それで遊ぶってことでいいのかな?」
「え、うん。琥珀となら、それだけでも楽しい......と思ったから」
山内に向けた声とは全く違う、私にだけ向けられた柔らかい声。山内なんて、最初からこの世界に存在していなかったかのようだ。
「水着も似合っているよ。昔から、青系が好きだよね」
褒められた。それに──ちゃんと覚えてくれている。私が青色が好きだってことを。
胸の奥に温かいものが広がり、自然と顔が綻んでしまった。昨日、何時間も悩んで選んだターコイズブルーのビキニと半透明のパレオ。
それを彼が見てくれている。褒めてくれた。それだけで充分だ。
「──っ」
胸がいっぱいで、気の利いた言葉にならなかった。私はただ琥珀の広い背中を追いかけ、プールへと歩みを進める。
「え、なあ、おい、俺は......」
山内の間抜けな声が背後から届いたが、もうどうでもよかった。琥珀がすぐ近くにいる。山内なんかの存在に構っている暇はない。
水に入った瞬間、全身を包む冷たさに息が弾む。太陽に焼かれた火照った肌を、一気に冷却してくれるような心地よさ。
水面で反射する光が、宝石のように輝いている。プールサイドから聞こえてくる笑い声、調子に乗ってる男子が飛び込む音、パシャッと弾ける水しぶき。
そのざわめきの中に、私と琥珀だけの世界も確かに存在している。
「ほら、行ったよ」
琥珀が軽く手のひらでビーチボールを弾く。
「うん!」
ぽーん、と水しぶきとともに宙へ浮かぶボール。空気を含んだそれは水面でゆらゆら揺れて、思いのほか返すのが難しい。
「あ、ごめん、変な方向にいった!」
「別にいいよ」
琥珀が素早く泳いで追いかける。しなやかな動きで片手ですくい上げる姿は、一切の無駄がなくて格好良かった。
気づけば見とれてしまう。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
飛んできたボールを慌てて受け止め、再び返す。ただそれだけなのに、心が跳ねる。
笑い合い、ぶつかりそうになりながらボールを追いかける。
正直、この上なく楽しい。やることではなく、誰とやるかが大事だってことがよくわかる。
「琥珀とこんなふうに遊ぶの、久しぶりかも」
プールの中央付近。少しだけ距離を取り、ボールを水面に浮かせる。視線が自然に合い、私は思わず口にしていた。
「そうかもね」
「中学の時さ、琥珀が海でナンパされてた私を助けてくれたの、覚えてる?」
「......ああ、あったね。懐かしいかも」
その記憶が鮮明によみがえる。
あの時、年上の大学生風の男に腕を無理やり掴まれ、怖くて不安で仕方がなかった私を、琥珀が迷いなく引きはがしてくれた。
あの瞬間、彼の背中がどれほど頼もしく見えたか。
「他にも、私が会いたいって言ったらどんな時でも来てくれた」
「恋人からのお願いなら、可能な限り聞いてあげるよ。それが無理難題じゃなければね」
「不安な時は、夜中の電話もずっと付き合ってくれたし」
言葉にすると、胸がきゅっと締めつけられる。
あの頃の私は子どもで、寂しがり屋で──でも、琥珀はいつもそばにいてくれた。呆れることなく、優しく寄り添ってくれた。
「そういえば──涙声で深夜の公園に呼び出されたこともあったね。あの時はさすがに少し焦ったよ」
「覚えててくれたんだね」
「忘れる方が難しいよ」
胸の奥がじんわり熱を帯びる。忘れられてない、それだけで救われる。忘れられるのが1番嫌だ。
なかったことにされていなかった事に対する安堵が、私の心を落ち着かせてくれた。
そして、勇気を与えてくれる。
積極的にならないと。琥珀の周りには、私より可愛い子がたくさん集まる。何もしないままじゃ、絶対に盗られる。
「──私ね、あの頃すごく幸せだったんだ。琥珀がそばにいてくれるだけで、何も怖くなかった」
言いながら、心臓が激しく暴れる。顔をまともに見られない。
「だから今、こうしてまた二人で遊べてるのが嘘みたい。昔に戻れたらいいのにって、ずっと思ってた」
そっと水中で距離を詰める。互いの呼吸が聞こえそうなくらい近くに。
「ねえ、琥珀」
「......どうしたのかな」
「──あの頃の私たちに、もう一度なれると思う?」
震える声で真っ直ぐに問いかける。死ぬほど怖い。けど、現状維持で停滞することの方が怖い。
何もせずに、琥珀が誰かと付き合うのを見るのだけは──絶対に嫌だ。
「──どうだろうね。僕はその答えを持ち合わせていない......少なくとも今は、僕と君は『良い友人』だと思っているよ」
胸の奥が、スッと冷える。
断られた──いや、違う。
琥珀が本気で拒絶する時は、もっとはっきり言う。
相手に無駄な希望があると勘違いさせないように、残酷なまでにキッパリと断るはずだ。
なら、これは。
「今日はこのくらいで解散にしようか。僕も予定があるし、波瑠加も考え事があるみたいだしね」
──希望がある。
そうだよね、琥珀。そう都合よく捉えていいんだよね?
ダメって言われても、ハッキリと断ってくれないと私は諦められないから。
今は友人でいいよ。でも、すぐに変えてみせる。近い未来、必ず。
私はそっと胸に手をあて、逸る鼓動を確かめた。
プールを上がる時、少し冷えた風が火照った頬を撫でた。
濡れた髪が肩に張りつく感触がやけに鮮明で、歩きながら胸の奥にこみ上げてくるのは、安堵と切なさ、そして──強い希望が入り混じった複雑な感情だった。
「──まだ、終わりじゃない」
小さく呟きながら、どこかへ行く琥珀の背中をしっかりと目に焼き付ける。
怖い。恐ろしい。胸の奥が凍りつく。何をされる?どんな目にあわされる?
訴訟、警察、刑務所──人生が終わるかもしれない。なぜ呼び出されたのか、まったく見当もつかない。報復なのか。それとも別の目的か。
白銀が何を考えているのか、私には一片も読めない。
「──ああ、やっぱり時間前に来るよね。まあ、居場所もないだろうし当然かな」
淡々とした声。普段と変わらない調子だからこそ、余計に不気味だ。震える身体を抑えられない。これから私に何が待っているのか。
「端末を出して。君を信頼する理由なんて1つもないからね。身体検査もする──ああ、手袋をつけるから痴漢冤罪は諦めなよ」
端末?あ、録音と録画。そんなことも思いつかなかった。頭が回っていない。恐怖で思考が空っぽになる。
胸を圧迫するのは白銀への畏怖だけ。呼吸が浅く乱れる。
「録音はしてないね。で、どう?クラスでの居心地は」
「っ!そんなの......わかりきってるでしょ!」
無人島試験の冤罪事件で、私は帆波ちゃんに完全に嫌われた。クラスでも浮いている。
味方なんていない。誰一人、私に声をかけようともしない。
──孤独。今まで知らなかった疎外感。これが毎日続くのかと思うと、考えるだけで息が詰まる。
「怖いなあ。ただ質問しただけなのに。そもそも、その怒りを僕に向けるのは筋違いだって理解してる?」
わかってる。そんなの、わかってる。でも、じゃあ誰にぶつければいいの!?私が悪い!
冤罪なんて仕掛けた私が悪いって、嫌というほど理解してる。
でも、わかってても!どうしようもない!
「これからの学校生活に、君は耐えられるかな?」
「あんた、には......関係ない!」
3年間、冷たい視線に晒され続けるのは無理。でも、保健室登校なら──耐えられるかもしれない。
クラスへの迷惑なんて、今の私には考える余裕もない。
唯一の苦痛は、帆波ちゃんに会えないこと。でも......反省を続ければ、もしかしたら許してくれるかもしれない。
いつか、また帆波ちゃんの部屋に遊びに行けるようになるかも。
「関係あるよ。僕は学校中に言いふらすからね。君の行いは、全校生徒が知ることになる」
「え......?なんで、そこまで......」
全校生徒。そんなの無理。耐えられるわけがない。
「僕が被害者で、君が加害者だから。もしこの学校に通い続けようなんて考えてるなら諦めた方がいい。君に──そんな未来はない」
怒鳴られたわけじゃない。殴られたわけでもない。それなのに、全身から汗が噴き出す。身体の水分がすべて流れ出してしまうかのように。
「ゆ、許してください......」
喉からやっと絞り出した言葉は、かすれていた。口の中は干からび、足は勝手に崩れ落ち、床に座り込んでいた。
「ん?」
「ごめんなさい、ごめんなさい!もう二度と邪魔しません。迷惑もかけません。だから......訴訟も、言いふらすのも......どうか、勘弁してください!」
少しの沈黙の後、白銀は静かに口を開いた。
「交換条件を出そうか。これは、君があまりに哀れだからの提案だ。選択を間違えれば──君は最悪の運命を辿る」
選択?何を?頭が真っ白で考えられない。見上げる目の前にいる白銀が、とてつもなく大きい存在に見える。
「僕は訴訟をしない。言いふらしたりもしない」
「ほ、本当に!?」
私の願い、全部叶ってる......!断る理由なんてない──そう思った瞬間、微かな希望は完全に打ち砕かれる。
「代わりに、この学園を去ってもらう」
「......え?」
「クラスに嫌われ、好きな人からも見放された学校に未練があるのかな?ここで地獄を生きる意味なんてないと思うけど」
「で、でも、辞めたら親に迷惑が......帆波ちゃんだって、いつか許してくれるかもしれない!」
「帆波は君を許さないよ。考えてみな。一度嫌いになった相手の行動は、どれだけ善行でも鼻につく。近くにいるだけで自分への評価も下がるからね」
「そ、んな......」
「でも、君がクラスに貢献してから学校を去った場合は?その美しい状態で数年後に再会したとすれば?それならまた、帆波とやり直せるかもしれないよ」
「それに加えて、学校が君を退学ではなく別の学校への転入をサポートするとしたらどうかな?それなら、親にも迷惑がかからないよね。ここでは微妙な君の学力でも、他の学校なら上位だと思うよ、多分」
「君が僕の前からいなくなるなら、訴訟なんてこともしない。神に誓ってね」
「全てのシナリオは僕が整える。君は従うだけでいい」
「さあ、選びなよ。ここに残って生き地獄を味わうか。それとも、新しい学校でやり直すか」
「......私は、白銀くんの提案を──受け入れる、よ」
それしか選択肢はなかった。実質、選択肢はひとつしかなかった。
救いようがない程に愚かだ。訴訟?もう既に証拠が手元にないのに、どうやって行えばいいのか。
学校中に言いふらす?僕自身のネガキャンにもなり得る下世話な情報を、君を追い詰める為だけに言いふらすのはデメリットの方が大きい。
精神的に追い詰められ、視野が極限まで狭まった人間は操りやすいことこの上ない。
まあでも、白波にとってもよかったんじゃないかな。自身の行動には責任が伴うってことがわかって。
「簡単な話だよ。僕にしたことをすればいい。この船には、監視カメラがついてない場所が幾つかあるからね」
白波は全く理解できていない。怯えた目でこちらを見返すだけ。ああ、いいよ。
しっかり全部説明するから。説明を省いて下手なことをされることの方がよっぽど怖い。
「要するに冤罪さ。レイプ未遂の冤罪」
白波の顔が激しく歪む。今更何を。1度僕に痴漢冤罪を吹っかけてきているんだから、戸惑う必要が無い。
「そ、そんなことしても、また白銀くんにした時みたいにバレるんじゃ......」
「そうならない相手を選んでる。猿でも騙せると思っていればいい。いや、どちらかと言えばゴリラかな」
表面上は許したことになってるから、僕が再度直接手を下すのが微妙だった。だからこいつをどう処分するか迷っていたんだよね。
「だ、誰?」
「Dクラスの須藤。1発くらい殴られるかもしれないけど、怖がる必要はない。君にとってはむしろ都合が良くなる」
その名を口にした瞬間、白波の顔が青ざめた。暴力的で、短絡的で、女子にさえ平然と暴行を加える最低の男だからね。
え?僕と伊吹のは違うよ。あれは組手だし、両者同意の上だ。話が逸れたね。
須藤は怒りに任せて堀北さんの胸ぐらを掴み、本気で殴りかけたことがあるんだって。
──うん、救いようのない人間。だからこそ、今回の標的に最適なんだけどね。
「やることは簡単さ。君が僕の弱みを握った──そう言えば簡単に釣れる。呼び出して、適当に僕の悪口を並べれば、須藤は君を信用するだろうね。底抜けの馬鹿だから」
「で、でも、殴られるなんて、」
「1発くらい怖がることはない。むしろその方が好都合だ。暴力事件を表沙汰にしない。その代わり、学校は君の転入を全面的にサポートする交渉ができるからね。君は被害者として学校を去ることが出来、学校側もイメージを守れる美しい取引だね。君は適当に、『こんな恐ろしいことがあった学校を信用出来ないから転入したい』とでも言えばいい」
「っ、いや......いやだ......!」
涙声。白波は首を激しく横に振っている。まあ、気持ちはわかるよ。女子からしたら恐ろしいだろうね。
「君の未来を考えるなら、むしろ率先して殴られるべきなんだ。ほんの一瞬の痛みと、これから3年間続く地獄。どっちを選ぶかなんて、答えは明白でしょ?」
「で、でも......」
「もしかしたら殴られるかも程度の話だから、過剰に心配しなくていい。それに、殴られなくても問題はないといえばない──握手の瞬間に、須藤に君の下着を強く握らせればね」
白波が完全に凍りついた。唇が震え、言葉にならない音を繰り返す。
「握らせた時点で冤罪は完成する。殴られれば信憑性がさらに増すし、殴られなくても下着に須藤の指紋が残る──それで充分」
「っ、そ、そんな......」
「大事なのは君の下着に指紋が残る結果だけ。ああ、別の下着を着用なんてしないでよ。2つもパンツがあると、流石に身体検査で疑われるから。須藤を騙してるあいだ、君はノーパンね」
白波は膝を抱きしめるように小さく震えている。抵抗の言葉はなく、ただ呼吸の乱れとすすり泣きが聞こえる。
嫌だな、僕がまるで強制してるみたいじゃないか。君の羞恥心なんて心底どうでもいい。
「今回の話の流れを簡単に確認するよ。僕の弱味を握ったと伝え、須藤を呼び出す。適当な悪口で共感させ信用を得てから握手──その際に君の履いていた下着を握らせる。須藤は混乱するだろうけど、その後は気にせず煽ればいい。僕と比較した煽りならよく効くだろうね。そこで殴られたら信憑性アップ、殴られなくても大声で悲鳴をあげて助けを呼べばいい」
「煽り文句が思いつかないなら、いくつか教えてあげてもいい。僕の悪口の方は、君ならすぐに思いつくよね?」
──これでいい。須藤はいなくなり、白波も消える。万が一失敗しても、僕には関係ない。
白波が勝手にやった事だと切り捨てることも出来る。失敗させるつもりなんてないけど。
「嫌なら断ってもいいよ?僕は君のために、君を哀れんで選択肢を与えたんだ──地獄の3年間の方が良かったかな?」
白波は力無く頷き、小さな声で『やります』と呟いた。
いいじゃないか、今回だけ我慢すれば──君は外の世界で、そこそこ幸せな生活を送れるんだから。
これから君に陥れられる須藤と比べたら、よっぽどマシな方だと思うよ。割と本気でね。