無口に愛を紡ぐ教室へようこそ   作:Mr.♟️

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23話〜イエスノーゲーム〜

 

(帆波からメッセージだ。なんだろう。櫛田をBクラスに引き抜いたことへの恨み言かな)

 

白銀は部屋から出たあともついてくる櫛田から、端末へと視線を落とした。それを見て櫛田は不満そうな表情を浮かべる。

 

『戸塚君に落とされた琥珀君の双眼鏡って幾らだったの?』

 

『2つ合わせて80万pptだったよ』

 

『ありがとうっ!』

 

『?』

 

端末から視線を外し、不満気にしている櫛田へと視線を向けると、櫛田は笑顔を浮かべ白銀の進行方向を塞いだ。

 

「ご褒美、くれるよね?」

 

「いいよ」

 

櫛田はパチパチと2回ほど瞬きをし、驚いたような表情を浮かべる。白銀は道を塞ぐ櫛田を軽く避けてそのまま歩き続ける。櫛田も慌ててその後ろを追いかけた。

 

「くれるの?何もしてないのに?」

 

ご褒美をよこせと言いつつも、それは軽い冗談のような軽口だ。櫛田は今回のことで本当に何かを受け取るつもりはなかった。

 

「うん」

 

「それって、私が喜ぶもの?本当に?ご褒美に仕事を任せてあげようとか言ったら怒るけど」

 

それでも、もらえるものはもらっておこうと櫛田は切り替えた。一応面倒事はよこすなと暗に釘を刺しながら。

 

「喜びはしないんじゃないかな。君が残りの船旅中に過ごす部屋をBクラスの女子と同じ部屋にするだけだから。あれだけ啖呵を切ったんだ。君が良くても、同部屋の女子が可哀想だからね」

 

『ちょうど1人で部屋を使っているBクラスの子がいるから』と、白銀は淡々と付け加えた。

 

それを聞いて櫛田も納得した様子を見せる。配慮としてはありがたいが、ご褒美と言われると少し肩透かしだ。

 

「それって、私じゃなくて私と同じ部屋を使ってる子へのご褒美じゃん。なーんだ、期待して損した」

 

「そんなに仕事が欲しかったの?」

 

「うんうん。わかって言ってるよね?」

 

「さあ、なんのことだろうか」

 

「まあでも、君のお陰で下らない話し合いから解放されたし、ちょっとしたお願いなら聞いてあげようか?」

 

「じゃあ、今後のためにその権利をとっておくね。スタンプカードみたいに3回くらい貯めたら、もっと大きいお願いごとを聞いてくれるんだよね?」

 

「そんなわけ──あ、ちょっと」

 

小悪魔のような笑みを浮かべながら、言質をとったと言わんばかりの態度を見せたあと、白銀が拒否する前に櫛田はササーっとそそくさとその場から逃げた。

 

「言い逃げはずるいんじゃないかな」

 

「ふーん。櫛田と仲良さそうじゃない」

 

後ろから声をかけられ、白銀は振り向く。そこにいたのは誰がどう見ても不機嫌そうな表情を浮かべている神室真澄だった。

 

「随分と機嫌が悪そうだけ」

「話がある。ついてきて」

 

有無を言わせない雰囲気の神室を見て、白銀は特に拒否することなく後ろをついていく。

 


 

ありえない。嘘だと思った。

 

わざわざDクラスの生徒をBクラスに引き抜くメリットなんてない。それも、櫛田桔梗なんてコミュ力くらいしか取り柄のない女を。

 

「出会い頭に女子の部屋まで連れ込まれるなんて、冤罪が怖くて震えが止まらないよ」

 

「そういうのいいから」

 

白銀は意外と軽口や冗談を好む。冷徹な見た目とのギャップがあって、そこがいい。それに、白銀がこういう態度をとるのは『関わる価値がある相手』だけだと知っているから、気分は悪くない。

 

櫛田の一件さえなければ、ほんの少し幸せな気持ちに浸れていたかもしれないのに。

 

「せっかちだね。今日はやることもないし、少しくらい雑談をしてもよかったんだけど──なら、本題に入ろうか。僕になんの用かな?」

 

なんの用か。そんなの決まっている。なぜAクラスに来なかったのか。どうして、櫛田桔梗をBクラスに移動させたのか。櫛田みたいな頭の軽そうなビッチが好みなのか。それとも、腹黒い性格の女子を好む悪趣味でもあるのか。

 

 

 

 

 

なぜ──数多くある選択肢の中から櫛田を選んだのか。

 

「理解できないんだけど。どうして櫛田をBクラスに移動させたの。あんたにとっても、2000万pptなんて軽い買い物じゃないはずでしょ」

 

「別クラスの君にそれを教えてあげる義理はないけど.....ちょっとしたゲームをしようか。イエス・ノーゲームって知ってるかな?」

 

少しだけ悩む素振りを見せて、白銀は提案してきた。知っている。イエスかノーで答えられる質問をして、答えを導き出す水平思考クイズの類だ。

 

「質問回数は10回。嘘はつかないと、どこかにいる神に誓うよ」

 

白銀はほんの気まぐれで提案しているんだと思う。私が当てることなど出来ないだろうという余裕が透けて見える。隠そうともしていないから。それに、白銀と2人で遊べるのは嬉しい──じゃない。

 

今は『なぜ櫛田をBクラスに入れたか』を知る方が先だ。白銀が軽い気持ちだろうと、こっちは真剣にやる必要がある。万が一にでも、櫛田を好きなんて言われたら──私は櫛田を.....

 

「やるの、やらないの?」

 

「やる」

 

1つ目の質問である程度、理由を絞りたい。

 

能力を見込んでか。弱味を握られたからか。自分の意思か。個人的な感情か───いや、違う。私は理由を当てたいわけじゃない。恋愛的に櫛田のことが好きで移動させたわけじゃないと確認できれば、それでいい。

 

なら、最初の質問で迷う必要はない。

 

「あんたは、櫛田の事が好きでクラスを移動させた?」

 

「ノーだね」

 

よしっ!それならいい。とりあえずいい。よかった。白銀があんな頭が軽そうな尻軽ビッチを好きで移動させたわけじゃなくて、本当によかった。ここからのゲームは純粋に、白銀と2人で遊ぶ時間を楽しめる。

 

「クラスを移動させる人は迷った?」

 

「イエス」

 

複数人候補がいたんだ。なら、櫛田は偶然、本当に運良く選ばれただけなのね。はぁ、なによ。無駄にムカムカして損した。

 

「櫛田を移動させた理由は、能力に期待して?」

 

「イエス」

 

なによ、もう。個人的な感情で選んだわけじゃないんだ。能力を見て櫛田を──って、それおかしくない?総合的には悪くないかもしれないけど、せいぜい中の下くらいよね?そんな相手の能力に期待した?

 

「......櫛田を移動させたことには、個人的な感情も混ざっている?」

 

「イエス」

 

「は?」

 

「どちらともいえない」

 

「え、ちょっと待って。今の『は?』は質問じゃないから」

 

「どちらともいえない」

 

なに涼しい表情浮かべてんの。ムカつくんだけど。質問じゃないって分かってるくせに、勝手に回数を消費させないでよ。

 

いや、待って。それどころじゃない。個人的な感情が混ざっているとはいっても、それが好意と決まったわけじゃない。

 

「その感情は好意?」

 

「イエス」

 

──櫛田の部屋ってどこだっけ。あとで先生に確認しておかないと。

 

は?好意?ありえないんだけど。あんなのが好きなの?いや、違う違う。好意=恋愛感情じゃない。慌てすぎてる。いつもの私じゃない。冷静に。冷静に。

 

「それは────恋愛感情?」

 

「ノー」

 

.....っはぁ。よかった。本当に。

 

あと何を聞こう。櫛田への感情が恋愛じゃないことはわかったから、もう十分だ。

 

──あれ、これって今回の内容と関係なくてもイエスかノーで答えるのよね?なら、『私に好意をもっているか』聞いてみるのはどうだろう。ノーと答えられたら私は櫛田以下。イエスと答えられたら、嬉しい。仮に櫛田と同程度の感情をもたれていると証明できる。そうだ、それがいい。

 

 

 

 

 

 

 

いや、そんな自己満足にこの機会を使うのはもったいない。

 

白銀に少しでも、私のことを考えさせたい。私の事で頭を埋め尽くしてやりたい。

 

 

 

 

 

 

「私と初めて出会ったのは──高校に入ってから?」

 

「イエス」

 

「ノー、だから。覚えてないんだ。あんたって、案外バカなんだね」

 

「............ん?」

 

言われた言葉が理解できないのか、脳が情報の処理を拒んでいるのか、数秒、白銀はフリーズした。

 

白銀は予想できない不意打ちに弱い。今まで観察してきてそれがわかった。ちなみに、これは坂柳にも教えていない。

 

白銀は理解できないことがあると、一度立ち止まって咀嚼して考える。どうでもいいことは流すけれど、少しでも気になったらその傾向が強い。

 

まあ、それでもすぐにいつも通りに戻るんだけど。でも、今立ち止まって考えていた間は、私のことだけで頭が埋まっていたはず。今後もきっと、白銀はふとした時に『いつ会ったか』を考える......と思う。

 

「ちなみにそれは──」

「最後の私の返しも質問に含まれるんでしょ?これでゲーム終了ね」

 

私がそう遮ると、白銀の口角は少しだけ上がった。私には、それがひどく楽しそうな表情に見えた。

 

本当はここで、いつ出会ったのかを言いたい。でも、そうしたら白銀の脳内からまた私がいなくなる。

 

思い出すまでの間、しばらくは白銀の頭の片隅に私がいる。今この場で思いのまま全部伝えて思い出してもらうより、長い時間考えてもらえた方が私は嬉しい。

 

「いつまで女子の部屋にいるの。冤罪、怖いんでしょ」

 

「──ハハッ。意外だ。今日の誘いは坂柳さんは関係なさそうだけど、楽しめたよ。ありがとう、神室」

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。1つだけ訂正しておくよ」

 

部屋のドアが閉まる寸前、白銀は口を開いた。締まりかけている扉を私は支える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──2000万pptなんて、僕にとっては大した買い物じゃないよ」

 

私の反応を確認することなく、白銀は歩みを進めていく。スケールが違いすぎるでしょ。いや、わかる。1モデルの私でさえかなり稼げてるからわかるけど──だとしても、スケールが違いすぎでしょ。

 


 

「波瑠加。こんな夜遅くに呼び出して、なんの用かな。出来れば夜は寝たいんだけど」

 

「ごめん。でも、どうしても今日直接聞いておきたくて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「琥珀──櫛田さんと付き合ったり.......してない、よね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー、一之瀬さんと同じ部屋なんて嬉しいよ。琥珀くんのお願いだから断れなかったのかな?」

 

「にゃはは、まさか。琥珀くんのお願いじゃなくても聞いたよー。それに、琥珀くんは頼み事を断ったくらいで私の事『は』嫌いになったりしないから」

 

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