VSミスターシービー&愉快なウマ娘たち   作:花壇の土

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実況:ミスターシービー、落ち着かない様子。
解説:冷静さを取り戻せるといいのですが。


運命しか見えない女 VS ミスターシービー 2

 華織から目当てのウマ娘について聞き出してから数日後の昼休み。

 ミスターシービーは教室の椅子に座って机に頬杖を突きながら、ふと思い浮かんだ作戦を呟いた。

 

「実力行使しかないかもしれない」

 

 シービーは余裕を失っていた。華織にはスカウトしたいウマ娘が他に居る、という事実があまりにも衝撃的だったせいだ。

 あの人の良い所を知っているのは自分だけだし、紆余曲折あっても最終的には担当契約できるハズだと高を括ったのが間違いだった。知らないだけでちゃんとライバルは存在した。

 

 しかも華織が色々と意味深な言い方をするものだから、気になり過ぎて夜の散歩が楽しめないし、昼寝をしてもすぐに目が覚めてしまう。

 そのせいで生活リズムが変わって夜は熟睡できてしまった。おかげで腹立たしいことに今日は朝から調子が良い。

 

「ウマ乗りになって動けなくして、あとはじっくり……」

 

 今までは自分のペースで攻めればいいと思っていたが作戦変更だ。強引にでも華織を“説得”する必要がある。

 基本的に押しに弱い華織には、この方法が最も効果的だとシービーは知っていた。口ではなんだかんだ言うものの受け入れてくれるハズだ。

 

「ずいぶん気が立ってるけど、どうしたの?」

 

 そんな犯行計画を耳聡く拾ったのはクラスメイトのマルゼンスキーだった。

 

「そろそろ華織さんを押し倒そうかと思って」

「……とても情熱的だけど、最終手段にしたほうがいいんじゃないかしら」

 

 マルゼンはシービーをやんわりした口調で諫めると、そのまま話を繋げた。

 

「華織さんって例のカノジョのコトよね。まだ進展してないの?」

「うん」

 

 シービーが頷くと、マルゼンは腕を組んで怪訝そうにした。

 

「おかしいわ。あたしの勘だとその人、あなたにホの字なのに」

「ホの字ってなに?」

「イヤだわシービーちゃん。そんなの惚れてるってコトに決まってるじゃない」

 

 マルゼンはその言葉がシービーに通じると思っていたらしく、口元に手をやって驚いている。

 おそらくそれが死語であるという件について、友人としての情けで指摘してやるか、それとも面白いから黙っておくか。

 少し悩んだがツッコミを入れる気力がなかったため後者を選んだ。薄情なヤツだと罵ってくれて構わない。

 

「それならもうちょっとアタシに優しくしてくれてもいいんじゃない?」

 

 シービーが華織への文句を言うと、マルゼンは呆れたとばかりにため息を吐いた。

 

「だいぶ優しいし、なんなら甘やかしてると思うわよ、その人」

「……あれで甘い?」

「あなたが惚気てる通りの人なら、本当に気に入らない相手はとっくに蹴り出してるハズだもの。わざわざお菓子を用意したりしないわ」

 

 言われてみれば確かにそうかもしれない。華織の性格なら確実にそうするだろう。

 

「ならどうしてスカウトしてくれないんだろ」

「そうねぇ……」

 

 マルゼンは顎に手を当てて思案し始めた。どうやら一緒に考えてくれるらしい。

 前にアドバイスを貰った件もそうだが、その面倒見のいい性格には日頃からずいぶんと助けられている。

 

「好みのタイプは聞いたのよね?」

「一応」

「なんて言われたの?」

「3人目の三冠ウマ娘を倒せる子」

 

 シービーが投げやりに言うとマルゼンは不思議そうに首を傾げた。

 

「どういう意味かしら。3人目なんて居ないのに」

「もうすぐ誰かが達成するんだってさ。風は吹いてるらしいよ」

 

 話に興味を持ったらしいマルゼンが「へぇ」と声を漏らした。

 

「ずいぶんと大きく出たわね、未来でも見たのかしら」

「あはは、そんなまさか」

 

 流石にあり得ない話だと笑うシービーにマルゼンが尋ねた。

 

「その人の予想だと誰が三冠ウマ娘になるの?」

「名前は教えてくれなかったけど、華織さんはそのウマ娘のことをターフの演出家って呼んでた」

「演出家なら演劇の話……なワケないか」

 

 マルゼンは考え込み、しばらくしてから胸の前で手を叩いて気を取り直した。

 

「よしっ、ターフの演出家が誰なのか先に突き止めましょう。倒す相手がわからないんじゃ探しようがないわ」

「そうしたいのは山々だけど、手がかりも無しにどうやって?」

「……わからないの?」

 

 シービーの質問にマルゼンは呆気に取られた様子だったが、その表情はやがてイジワルな笑みに変わった。

 

「あなた、その人のことになると途端に頭が回らなくなるのね」

「……遠まわしにバカって言ってる?」

「いいえ違うわ。あたしが言いたいのは、夢中になった今のアナタがとても素敵ってことよ」

 

 そのままマルゼンは恋バナを語るように浮かれた調子で喋り続けて――

 

「恋は盲目ってこういうことなのね。普段のあなたならこんなヒント絶対に見落とさないのに」

 

 ――その最後に聞き逃せない一言を放った。

 

「待って、ヒントなんてあった?」

「もちろんあるわ。落ち着いて一つずつ考えればわかるハズよ」

 

 マルゼンは教鞭のように人差し指を立てると授業を始めた。

 

「まず、あなたをスカウトしないってことは、ミスターシービーじゃターフの演出家を倒せない確信があるってことよね」

「そうなるね」

「でもそれっておかしくないかしら」

「……おかしいかな?」

「ええ、とっても」

 

 そしてマルゼンは、レースを走るウマ娘なら誰でも知っている常識を語った。

 

「レースに必要なのは実力だけじゃないわ。気象、バ場状態、枠順、レース展開――あらゆる条件や要素が複雑に絡み合ってる。それなのに絶対に倒せないウマ娘なんて存在するワケないの」

 

 確かにそうだ。当たり前すぎて頭から抜け落ちていた。

 本当に視野が狭くなっていたことに気づき愕然とするシービーに対し、マルゼンは優しく説いた。

 

「それでも倒せないって言うからには他に理由があるのよ。例えば……倒せないんじゃなくて、そもそもレースが出来ないとか」

「同じレースを走れないくらい世代が離れてるってこと?」

「いいえ、逆だと思うわ。ターフの演出家は“もうすぐ”三冠ウマ娘になるんでしょう? デビューの予定があるあたしたちとは世代が近いはずよ」

「……世代が近くて三冠路線で距離適性が被ってて、それでも絶対レースできないって……そんなことあり得る?」

「問題はソコなのよね」

 

 これだけ条件が近いのに、シービーとターフの演出家が交わらないハズがない。

 思考が行き詰ったシービーがこめかみを揉んでいると、マルゼンが冗談交じりに呟いた。

 

「シービーちゃんが出走登録した途端にターフの演出家が出走回避する……っていうのはどう?」

「どうって言われても……なんでそんなことするの?」

「理由があって同じレースに出たくない、とか」

「……同じレースに、出たくない?」

 

 シービーは稲妻が走ったようなショックを受けた。

 

「た、たとえ話よ? 本当にシービーちゃんとレースしたくない子がいるって話じゃないわ。むしろ大人気で後輩ちゃんたちも――」

 

 マルゼンが何か勘違いしてフォローを始めたが、まるで耳に入ってこない。

 信じられない。そんな話をシービー相手にするなんて、あの女には人の心がないのか。

 

「それだよ、マルゼン」

「……それって?」

「ターフの演出家が誰なのかわかった」

 

 シービーは辿り着いてしまった真相をマルゼンと共有することにした。

 

「ターフの演出家はアタシと同じレースに出られないんだ」

「……まさか本当に走りたくない理由が?」

「走りたくないどころか“走れない”。アタシとターフの演出家には致命的な矛盾があるから」

「ウマ娘が走れないほどの矛盾って……なんなの?」

「1人しか存在できないことだよ」

 

 華織から聞かされた話だということを前提にするなら、常識で考えてはいけなかった。

 シービーは蓋を開けて飛び出したくだらない答えを教えた。

 

「ターフの演出家の正体は――」

 

 聞いた途端にマルゼンは信じられないとばかりに目を開いた。

 

「そんなことある? だってそれは……」

「少なくとも華織さんはそう確信してる」

「うわぁ……」

 

 あまりに趣味の悪い華織の所業に、マルゼンは露骨に眉をひそめた。

 

「慕ってくれてるウマ娘にそんなこと言うなんて、デリカシーとかないの?」

「ボカしてるだけマシだと思ってるんだよ。華織さんはそういう女だから」

 

 だんだん感情が事実に追いつき始めたシービーは、身を震わせながら立ち上がった。

 

「ねぇ、マルゼン。アタシ怒っていいよね」

 

 マルゼンはニッコリと笑って窓の外を指差した。

 

「許可するわ! こうなったら最終手段よ! アクセル全開でかっ飛ばしてきなさい!」

 

 窓から飛び出したシービーは、午後からの授業を全て放り出して用務室へと駆けだした。

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