VSミスターシービー&愉快なウマ娘たち 作:花壇の土
ミスターシービーとシュガーライツによる、ささやかなお茶会が開催される運びとなった。
持ち寄るお茶請けはもちろん、共通の話題である華織との思い出だ。
ティーカップにたっぷりと紅茶が注がれたのを合図にして、示し合わせることなく先手となったライツが、穏やかな声音で語り始めた。
トレセン学園を辞して一般の高校に転入した当時、私はケガの後遺症で、車椅子での生活を余儀なくされていた。
今でこそ少しばかり走れるまで回復したものの、あの頃はリハビリもできていなくて、立ち上がるのすら一苦労だった。
すっかり様変わりした環境に馴染めずにいた、ある日のことだ。
ちょっとした不注意で、車椅子から落ちてしまったことがあった。
その時に助けてくれたのが、華織だ。
曰く、たまたま通りかかって、他に誰もいなかったから手を貸してやろうと思った、とかなんとか。
クラスメイトではあったが、言葉を交わしたのはそれが初めてだった。
あの瞬間に起きた奇跡を、私は決して忘れない。
華織に手を取られた私は、導かれるまま――“歩いた”。
何が起きたのか、わからなかった。
その機能は、私から失われていたハズだ。
なのに、踏みしめた大地の感触が足から伝わってきた。
ケガをする前まで時が遡ったかのような、不思議な心地だった。
今なら走り出せると、ウマ娘としての本能が叫んでいた。
察していると思うが、もちろん奇跡なんかじゃない。華織の“イカサマ”だ。
ぐちゃぐちゃになっていた私の身体のバランスを、外から支えていたんだ。
今ほど卓越したものではなかったが、類まれなる才能の片鱗だった。
あれよこれよと言う間に車椅子に座らされて、華織が手を離した途端、私の脚は再び機能を失った。
頭が真っ白になって、“ありがとう”の一言すら出てこなくて、気怠そうに去っていく華織の背中を見送ることしかできなかった。
心の大事なところへ焼きつけられたように、私は麗しき魔女に魅了された。
また魔法をかけてくれるんじゃないか、と期待してしまったんだ。
もう一度、この脚で走る夢を見るようになった。
すぐにでも話しかけようとしたのだが……先ほどのやり取りでわかる通り、私はあまり社交的な性格ではなくてな。
キッカケを掴めないまま、華織を遠くから見つめる毎日が始まった。
華織からすれば、さぞ居心地が悪かっただろう。私が視線で追いかけるたび、もの言いたげな顔をしていた。
ただ、だからといって、私を追い払おうとはしなかったし、どこかへ行こうともしなかった。
近すぎず、遠すぎず。私たちはそんな距離を保ち続けた。
半月くらいそれが続くと、華織が根負けして、時たま構ってくれるようになった。
そこからは早かったよ。いつの間にか昼食を共にする仲になっていた。
一緒に過ごすようになってから、たくさんの経験をした。
くだらないお喋りに興じたり、放課後ふたりで勉強会を開いたり。
あまり褒められたことではないが、彼女に手を引いてもらって、学校を抜け出してあちこち遊び回っていたこともある。
未成年が立ち入ってはよろしくないお店に連れていかれたのは――まぁ、いい思い出ということにしておこう。
最初は打算で近づいたが、気付けば忘れていた。青春の日々が、あまりにも輝いていたからだ。
走りへの未練は決して消えなかったが、華織との瞬間のほうが大切になっていた。
そんな日常に小さな亀裂が入ったのは……だいたい、卒業後の進路を決めなければならない時期に入ったころだ。
時折、華織の表情が曇るようになった。
あれは、怒りと、焦燥と、少しばかりの後ろめたさだったのではないかと思う。
理由は……君も知っているようだな。そうだ、例の“運命”とやらだよ。
自分がこの世界の――“ウマ娘”の
私と共に過ごすうちに、心の片隅にあった感情が抑えきれなくなったらしい。
さもありなん、と言ったところか。華織の視点からすれば、私は運命に呑まれたウマ娘そのものだ。意識せずにはいられなかっただろう。
自分の“跡”を世界へと刻んで、運命を変える。
華織はその方法ばかりを模索するようになった。
手札があったのがよくなかった。
人は逆転の切り札を握ったとき、それで役を作らずにはいられない。
あの時の華織は、
特別な力があるのだから、特別になれる。いや、ならなければならない。
既知の未来への収束から抜け出せなければ、自分がこの世界に存在する意味を証明できない。
きっと、そう考えたのだろう。
傍から見れば、バカみたいな話だろう?
そんなことで、美繰華織という人間が損なわれるハズがない。
だが、本人はそう思えなかったらしい。
まるで飛び方を忘れた鳥のようだった。
前へ進めなくなった華織は、少しずつ弱っていった。
停滞した時間が続いて……やがて私のほうが我慢の限界を迎えた。
華織があんなつまらない顔をしているのが、どうにも気に入らなかったんだ。
再び羽ばたかせる方法がなにか無いか、私なりに知恵を絞った。
そして、トレーナーにしてしまえばいい、という結論に至った。
この世界の中心にあるのがウマ娘なのだとしたら、手を伸ばすべきはそこだ。
傍観者ではなく、当事者になる。その体験が必要に違いない。
数日かけてトレーナーになるために必要な資料をかき集めて、叩きつけた。
そして、言ってやった。
――トレーナーになれ、自分の手でウマ娘を育ててみたほうがいい。たくさんの夢に触れて、君だけの運命を証明してこい。
ただのデータではない、命あるウマ娘と共に駆ける。
きっと、その先に華織の求めているモノがあると私は思ったんだ。
――君は特別だが特別になる必要はない。
やってもいいし、やらなくてもいい。手にしたカードを無理に使う必要はない。
特別であること、特別になること、そんなつまらないことに、縛られないでいてほしい。
ただ思うが儘に在れば、それこそが美繰華織なのだ、と。
あとは知っての通りだ。
なにかが琴線に触れたのか、華織はトレーナーを志した。
そして今、この場所にいる。
そう締めくくり、ライツは昔語りを終えた。
美繰華織という女を紐解く前日譚。
麗しき魔女と1人のウマ娘の出会い。
輝かしき青春の日々。
苦悩、葛藤、そして挑戦。
全てが現在へと繋がっていく。
すっきりとした甘さと、わずかな酸味。青い果実の爽やかさが
素晴らしいものを堪能させて頂いた。こちらからも相応のお返しをせねばなるまい。
幸いなことに、
さて、なにからお出しすべきか。
絶対に外せないのは、大切な言葉のことだ。
――特別が特別になる必要はない。
華織へ贈られたその言葉は、巡り巡ってシービーの心に色をつけた。
協力してくれるに違いない。
マルゼンを情熱的に口説いたこと、ライスを妹のように可愛がっていること。
2人と比べて、シービーの扱いが心なしか雑なこと。
あれもこれもと、欲張りに皿へ並べてしまいそうになるが――ここはライツに倣って、あらすじで順を追っていくほうがいいだろう。
選りすぐりの品を手に、シービーはおもてなしを開始した。
「ここからちょっと歩いたとこに、最高のお昼寝スポットがあってさ」
語り手を何度も入れ替えて、尽きない話題に花を咲かせた。
その途中、シービーは前々から気になっていたことを尋ねた。
「どうしてキャンディを作ろうと思ったの?」
メカウマ娘には、素人目にもわかるくらい、高度なテクノロジーが使われている。
理由もなく作れるものではない。なにかしらの情熱があったハズだ。
ライツは少し考える素振りを見せてから、シービーに一つ問いかけた。
「君は走るのが好きか?」
「好きだよ」
シービーが迷うことなく答えると、ライツは表情を柔らかくした。
「私も好きだ。大地を蹴って前へ進むと、心地よい風が当たって、芝の匂いがして、鮮やかな光が流れていく」
ライツは横たわるキャンディの白い頬を、愛おしそうに撫でた。
「一緒に感じて欲しかったんだ。私が見た、いい景色を」
その願いの言葉が、シービーの心にすとんと落ちた。
「華織がキャンディをオモチャ扱いしてる理由、わかった気がする。わくわくして、夢中になるんだ」
キャンディには、
大切な想いと一緒に駆けているのだから、最高の気分だろう。
「オモチャ、か。悪くない褒め言葉だな、とても華織らしい」
ふふっ、とライツがイタズラっぽく笑った。
「適当な理由をつけて押し付けたのは、正解だった」
おっと、それは聞き逃がせない。
シービーはすかさず待ったをかけた。
「その適当な理由って、データ収集がなんとかって話でしょ。あれ、ウソだったんだね」
おかしいと思った。
キャンディが作られた目的からすると、データ収集という役割はノイズでしかない。
その指摘に、ライツは臆面もなく「仕方がなかったのだ」と弁明した。
「建前だけでもそう言っておかなければ、受け取ってはくれなかった。君ならわかるだろう?」
裏まで読み切っているというか、なんというか。
華織とライツの関係は、華織が一方的に主導権を握っているものだと勝手に思い込んでいたが、ここまでの話を鑑みるに、一概にそうとも言えないようだ。
転がしたり、転がされたり、丁度いい塩梅で成り立っているらしい。
「とはいえ、全くのウソというワケではない。意図した形ではないが、そういう機能も搭載されている」
そう前置いたライツは、シービーに宇宙の言語を浴びせた。
「私たちが見ている世界を人間である華織に体験してもらうためにウマ娘の感覚を限りなくリアルにエミュレートできるよう精度を極限まで高めたセンサーを搭載したのだがその関係で情報の処理をする領域に非常に大きな負荷がかかるようになってな。それを補うために演算能力を伸ばす方向へ改良を進めたところ図らずもデータの収集に特化してしまったのだ。だがキャンディの本来の役目は走ることだ。リソースの大半を演算に取られて走れないのでは本末転倒でしかない。とはいえセンサーの精度を落としてしまうと折角拘ったフィーリングが台無しになる。そこで私は研究を重ねメカウマ娘に最適化したセンサーを開発し並行して基礎スペックの向上を――」
あーね、なるほどね、そういうことね。
シービーの灰色の頭脳は、あっという間に仕事を投げ出した。
情報の濁流に飲み込まれていると、途中でそれに気がついたらしいライツが「あっ……」と申し訳なさそうに言葉を詰まらせた。
そして、会話の対象年齢をがくっと下げた。
「えーっと……つまり……むずかしい機械がいっぱいついていたせいで、キャンディはこれまでうまく走れていなかった。でも、お勉強とトレーニングをたくさんがんばったから、これからはもっと速く走れるようになる……ということだ。これでわかったかな?」
お子ちゃま扱いしないでもらいたい。こっちは立派なレディだ――なんて文句が出そうになったが、寸での所で止めた。
これよりも説明の難易度が上がると、専門用語が飛び交い始めて、途端に宇宙の言語に戻ってしまいそうだからだ。
あくまでも、配慮の結果だ。他意はないだろう。
むしろ、レベルを合わせてくれたことに感謝しなければならない。
そう結論付けたシービーは、頭を空っぽにして元気よく返事をした。
「わかった!」
すると、ライツは満足そうに頷いた。
「アップグレードされたキャンディは、今までとは一味違う。楽しみにしていてくれ」
ライツの自信に期待して、キャンディの出来上がりを楽しみにしつつ、さらに話題を振ったり振られたりを繰り返して、しばらくが経ったころ。
用務室の扉がガラリと音を立てて開かれた。
「進捗どうだ?」
用事を終えた華織が帰ってきた。
作業をしていたライツが、手を止めずに報告した。
「フレームまでバラし終わったところだ」
「そっか」
聞いた割に興味のなさそうな相槌を打った華織は、手にしていた紙袋をそっと机の端に置いた。
「これ、昼メシ。お前らの分」
食欲のそそる匂いを嗅ぎ取ったシービーは、すかさず紙袋の中を覗いた。
「わ、美味しそうなサンドウィッチ」
たまごに、カツ。こっちはエビとアボカドだろうか。
「どこで買ってきたの? 購買のじゃないよね」
シービーがブツの出所を探ると、華織は他の荷物を冷蔵庫に収めながら答えた。
「わからない。知り合いから分けてもらっただけだから」
トレセン学園内で、華織の知り合いと言えば――
「妃紀さんだっけ?」
シービーは思いついた名前を挙げてみた。
妃紀早貴。リギルのサブトレーナーで、華織の同期だ。
しかし、華織は「違う」と否定した。
「アイツじゃないよ。まぁ、同じグループではあるけど」
知らない誰か。そのうえ
それを聞いたライツが、安堵したように頬を緩めた。
「こっちでちゃんと友だちができているようで、安心したよ」
「……友だち? あのイロモノ軍団が? いや、傍から見たら私も同類……?」
深刻そうな顔をした華織が、頭痛をこらえるように額に手をやった。
いつものように、どうでもいいことで悩んでいるに違いない。
シービーとライツは顔を見合わせ、やれやれと肩をすくめた。
談笑したり、昼食を食べたり、華織とライツに構ってもらったり、オヤツを食べたり。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、放課後。
ライツが人見知りを再び発揮して、ぐいぐい来るマルゼンに及び腰になったり、逆に退いてしまったライスと遠慮し合って話が進まなかったり――なんて一幕があったが、それは置いておいて。
「まぁ、キャンディちゃん、ちょっと見ない間にスマートになったわね」
マルゼンの言う通り、アップグレードされたキャンディのボディは以前よりも洗練され、より女性らしいシルエットになっていた。
なんとなくの印象だが、華織のスタイルに寄せてあるような気がする。
しげしげとキャンディを眺めていた華織が、疑わしそうに問いかけた。
「ずいぶんと貧弱そうだけど、本当に速くなったのか?」
ライツが自信満々に自分の胸を叩いた。
「私の持てる技術の全てを注ぎ込んである。仮にレースに出られるのなら、クラシック三冠も夢ではない」
「ふーん、これでねぇ……」
気のない返事をする華織を、ライツが煽った。
「疑うのなら試してみるといい。スペックが大幅に向上した今、君に御しきれるかは疑問だが」
「楽勝に決まってんだろ」
挑発に乗った華織が、デスクの上にあった
ダイブインにより華織の意思を宿したキャンディは、一歩前に踏み出し――
「は?」
――間の抜けた華織の声と共に、見事に脚を滑らせた。
がしゃん、と派手な音を立てて、キャンディが膝をつく。
悪の科学者のように、ライツが高笑いした。
「言い忘れていたが、今までのように“裏技”で2つの体を
ライツが喋り終えるよりも先に、キャンディがスッと立ち上がった。
本体である華織も、その場で大きく伸びをする。
「いける。慣れた」
「……いけてしまったのか」
ありえない、とライツが頬を引きつらせた。
「頭がおかしいんじゃないか?」
「口をきけないようにしてやろうか」
声を低くした華織へ、ライツが慌てた様子で手のひらを向けた。
「すまない。正直な感想がつい……」
壊滅的なワードチョイスだ。
無自覚かつ悪意がなさそうな所を見るに、間違いなく“誰かさん”からの影響を受けている。
おそらく、手遅れの段階だ。もう助からない。
憐れなる先達に向けて、シービーは心の中で手を合わせた。
自分は決してこうはなるまい。
「シービーといいライツといい……これは私が悪いのか? マルゼンもたまに怪しいし、もしかしてライスも……」
なにやら呟いた華織は、深刻そうな顔で額に手をやった。
それから深呼吸をして「まぁ、いい」と話を戻した。
「……慣れりゃなんとかなる。何年やってきたと思ってるんだ。処理する情報が多少増えたとこで、どーってことない」
右手を開いては閉じる動作を、華織は数度繰り替えした。
すると、キャンディが合わせて同じ動作を行った。
「感覚は悪くないな。反応が前よりもダイレクトになった」
華織はわずかばかり唇の端を上げて「よし」と拳を握り締めた。
「それじゃ、テストで走らせてみるか。ほら、ライツ、行くよ」
名前を呼ばれたライツが、躾られたような反応で、華織に向けて手を伸ばした。
「ん」
主人に甘える子犬の仕草だ。
「それはもう要らないだろ」
華織からツッコミが入ると、ライツは「あっ」と声を漏らして頬を赤く染めた。
「すまない、昔の癖が抜けなくて」
「……仕方ないヤツだな」
懐かしそうに目を細めた華織は、ライツが引っ込めた手を強引に取った。
「特別にエスコートしてやるよ」
そのやり取りを見たマルゼンが、声を戦慄で震わせた。
「とんでもないわね」
「うん」
全くもって同感だ、とシービーは頷いた。
自分たちは今、とんでもないモノを見せつけられている。
まるで息をするような自然さで、ライツは華織へ身を委ねている。
その何気ない所作が、長年連れ添った相手への深い信頼を示していた。
誰よりも早いスタートで前に出て、ピッタリと真横につける。
匠の技だ。戦術ではなく、芸術と呼ぶのが相応しい。
初めに契約した、だからリードを取っている――それは甘い考えだった。
これからは認識を改める必要がある。
ミスターシービー主催、美繰華織杯。
優勝トロフィーに一番近いのは、シュガーライツだ。
「華織の最初のウマ娘、か」
ふと零れ落ちたシービーの言葉を、マルゼンが耳聡く拾った。
「あら、譲っちゃうの?」
「居座れると思う?」
わかってるでしょ、とシービーが問い返すと、マルゼンはくすりと笑みを零した。
「あなたなら勝負できるんじゃない?」
「……他人事みたいに言うね。高みの見物を決め込んでる余裕はないと思うけど」
含みのある態度を取るマルゼンを、シービーは訝しんだ。
すると、マルゼンは可愛らしくウインクした。
「あたしは余裕のよっちゃんよ♪」
そして、可愛らしくないことを宣った。
「だって、華織ちゃんの
「そのカード持ち出すのはズルでしょ」
ウマ娘の風上にもおけぬ禁じ手の行使に、シービーは物言いをつけた。
同じ負け組の仲間だと思っていたのに、梯子を外された気分だ。
邪悪に堕ちたマルゼンは、自信満々に「ふふん」と胸を張った。
「ズルだなんて失礼ね。ちょっとだけ“運”はあったけど……あれはシービーちゃんが自爆しただけでしょう?」
それに、と続けた。
「レースに勝ったのは実力よ」
うーん、ごもっとも。ぐうの音も出ない正論を、どうもありがとう。
おっしゃる通り、あの一件はシービーがやすやすと先行を譲ったのが悪い。
ウサギとカメが勝負をして、よりにもよって
メイクデビューが決まったのが嬉しくて、前日にはしゃぎ過ぎたのが運の尽きだ。
困ったな。手札、なくなっちゃった。
いよいよもって、尻尾に火が付いてしまった。
焦燥が迫る中、最後のプライドでポーカーフェイスを取り繕う。
すると、全部お見通しよ、と言わんばかりに、マルゼンが慈しむような笑みを浮かべた。
「シービーちゃん、とってもキュートなお顔ね」
シンプルながら、凄まじい煽り性能だ。
逆の立場なら、こんな非道な真似はできない。
いや、わかる。“誰かさん”から良くない影響を受けてしまっただけで、マルゼンに悪意はないのだろう。
だが、それゆえに、その破壊力は凄まじい。
ノックアウトされたシービーは、ソファに倒れ伏した。
美繰華織杯、今スタートして――おっと、ミスターシービー出遅れた!
1番人気のミスターシービーは、最後方からのレースとなります!
そんな実況が、どこからか聞こえたような気がした。
これは余談かつ、あくまでもマルゼンの証言であって、シービーに全く心当たりはないのだが。
その後も圧倒的な“リード”を目の当たりにし続けた結果、シービーが壊れておかしくなる事件があったとか、なかったとか。