VSミスターシービー&愉快なウマ娘たち   作:花壇の土

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VS 超光速粒子 2

 トレーニングコースを周回し終え、芝の上に座り込んだミスターシービーは、そっと聞き耳を立てた。

 その先には、アッハッハと高らかに笑い声を上げるアグネスタキオンと、仏頂面の華織が居る。

 

「いやぁ! 実に興味深い! 映像越しに見るのと実際に見るのとでは、情報の鮮度も量も違う!」

 

 走るライスシャワーへ視線をやったタキオンが、華織へ質問を飛ばした。

 

「ライス君のテーピングには、どういった意図があるんだい?」

「主にストレッチだな。アイツは体の柔軟性に難があるから、硬くなってる部分を伸ばさなきゃ走れないようにしてる」

「それだと、無理な姿勢で運動をすることになるだろう? ケガの危険性はないのかな?」

「ある。だから、こまめにテーピングし直して、負荷のかかる場所をローテーションしてケアしてるんだ」

「なるほど、今は……腰かな?」

「いや、尻」

「うーむ、ジャージの上からでは観察しづらいな……脱がせちゃダメかい?」

「ダメに決まってるだろ。ライスに手を出したら投げ飛ばすから覚えとけ」

 

 打てば響くような早口でやり取りをする2人を見ていたマルゼンスキーが、ぽつりと言った。

 

「おったまげ。意外といい感じじゃない、あの2人」

 

 シービーたちには持ちえない武器が、タキオンにはあった。

 それは、華織と近い視点でトレーニングを見ることができる、ということだ。

 

「テーピングにウェイトを仕込んでいたが、筋力トレーニングのためのモノかな? それにしては重量が軽いように見受けられるが」

 

 タキオンが疑問を投げかけると、華織が間髪入れずに答える。

 

「あれは、走ってるときのバランスを補正するためのもんだ。配置する場所によっては筋トレ効果がないワケじゃないけどね」

「コーナーで若干、右に振られているようだが……膝への負担は?」

「多少はあるよ。だから、テーピングでガッチガチに固めて帳尻合わせしてある。どちらかというと、心配なのは背中だな」

「なにか問題でも?」

「上半身だけでバランスを取ろうとしてるから、変な力が入ってる。あれじゃどっか痛めるかもしれないから……そうだな、一旦止めるか。おい! ライス! あと1周したら帰ってこい!」

 

 指示を出す華織の声に、いつもよりキレがあるような気がする。

 普段は頭の中で完結させている直感を言葉にすることによって、思考がまとまっている――のではないかと思う。

 これは中々に良い影響を受けているのではないだろうか。

 

「いいね、面白い関係だ」

 

 ぺろり、とシービーは唇を舐めた。

 仲睦まじい王道も良いが、叩きあうような変わり種もアリだろう。

 

 マルゼンが「うーん」と頬に手を当てる。

 

「でもあの子、上手にキャッチしておかないと飛んでっちゃいそうね」

 

 その見解はシービーも同じとするところだった。おそらくだが、タキオンは目的のためなら旅を厭わないタイプだ。ここに留まらず、他所へ行ってしまう可能性は大いにある。

 しかし、そこまで心配する必要はないとシービーは考えていた。

 

「大丈夫だよ」

「その心は?」

 

 マルゼンの問いに、シービーはイタズラっぽく笑ってみせた。

 

「華織の(イカサマ)は盗めない。あんなに付き合いの長いライツ博士でも、全部はわからなかったんだから」

 

 マルゼンが納得した様子で手を打った。

 

「そっか……いくらタキオンちゃんの頭がよくても、そう簡単にはいかないわよね」

 

 先日、シュガーライツから聞いたところによると、華織の“イカサマ”はメカウマ娘に搭載されているセンサーを以てしても解析不能な代物であるとかなんとか。

 そんな代物を一朝一夕でどうこうするのは、いくらなんでも無理だろう。

 焦らず、どんと構えていればいい――なんて話をしていると、噂のタキオンがこちらへとやって来た。

 

「歓談中のところ申し訳ないが、お邪魔させてもらっても構わないかな? ライス君に集中したいからと追い払われてしまってね」

 

 シービーはにこやかに歓迎した。

 

「うん、いいよ。アタシもキミに聞きたいコトがあったし」

 

 意外にも、タキオンは素直に頷いた。

 

「私でよければなんなりと答えよう。なにせ、これから居候させて貰う身だ」

 

 なるほど、殊勝な心掛けだ。

 お言葉に甘えて、シービーは質問することにした。

 

「どうしてタキオンは華織の走り方を学びたいと思ったの?」

「……それについて説明するには、まずは私の目的を君たちに教える必要があるね」

 

 タキオンは静かに語り始めた。

 

「私はウマ娘という生物の限界を研究している」

「というと?」

 

 もうちょっと噛み砕いてくれ、とシービーが催促すると、タキオンは逡巡する素振りを見せた。

 

「……どこまで走れるのか見たい、と言い換えよう」

 

 そして、気を取り直したように続けた。

 

「ウマ娘の限界を観測するためには、そこへ到達するための“手段”が必要になる。それに一番近いのが、君たちのフォームなのさ」

 

 マルゼンが「あら?」と頬へ手を当てた。

 

「あたしたちのフォーム、楽に走れるだけで飛び抜けて速いワケじゃないわよ?」

 

 限界を探るなら、もっといい相手がいるのではないか。

 しかし、タキオンはそれを「いや」と否定した。

 

「重要なのはその“楽”という部分なんだよ。他じゃダメなんだ」

 

 それから、さらりとした口調で言った。

 

「私には才能がある」

「わ、いきなり自画自賛してきたね」

 

 シービーはツッコミを入れた。

 しかし、タキオンは顔色一つ変えなかった。

 

「客観的な事実について謙遜しても、意味はないからね」

 

 しかし、とタキオンは肩をすくめた。

 

「その才能に対して脚の強度が足りていない。高性能なエンジンを積んでいるのに、機体のほうが追いついていないんだ。おそらく、限界地点に到達する前に空中分解するだろう」

 

 パチン、とシービーは指を鳴らした。

 

「だから、身体への負荷が少ない華織の走りに目をつけたんだ。脚へのダメージを減らせるから」

「間違ってはいないが、それでは50点だねぇ」

 

 タキオンの採点は辛口だった。

 うーん、とシービーは頭を捻る。

 

「他になにか理由が?」

 

 尋ねると、タキオンは意味深な笑みを浮かべた。

 

「極端に負荷が少ない、というコトはだね、さらに負荷をかけられる、というコトだ」

「……どういうこと?」

 

 頭上にはてなを浮かべたシービーに、タキオンは補足説明をした。

 

「べつに難しい話じゃあない。楽にスピードが出せる、楽に遠くまで行ける、つまり――」

「――負荷をかければ、もっとスピードが出て、もっと遠くまで行ける?」

 

 引き継ぐようにしてシービーが述べると、タキオンはパチパチと拍手をした。

 

「今度こそ100点だ」

 

 マルゼンが小さく挙手をした。

 

「あたしたち、セーブして走ってるつもりはないわよ?」

「それだけ巧妙に(コントロール)されている、というコトさ。おそらく、ジュニア級のうちから出力を最大にするのは、リスクが高いと判断したのではないかな」

 

 感心した様子で、タキオンは「ふぅン」と声を漏らした。

 

「本人に自覚すらさせないとは、やはり素晴らしい。ウマ娘の身体の仕組みについて、よほど造詣が深くなければ出来ない芸当だ」

 

 タキオンは唇の端を上げた。

 

「だからこそ、私は彼女に可能性を見た」

 

 そして、瞳に狂気的な光を宿した。

 

「私は自らの脚でウマ娘の限界に到達することを半ば諦めていた。いくら計算してもその前に壊れてしまうからね」

 

 だが、と声を昂らせる。

 

「あの走りがあれば話は別だ! 研究し、取り入れることができれば限界を――いや、その先にだって届くかもしれない!」

「限界の先になにがあるの?」

 

 シービーが問いかけると、タキオンは当然とばかりに言った。

 

「わからないから探求するのさ」

 

 不覚にも、面白そうだと感じてしまった。

 ターフを駆けた先に、シービーは自由を見出した。だからレースを走っている。

 もし、そのさらに向こう側があるのだとしたら――それを求めずにはいられないだろう。

 そんなシービーの内心を察したように、タキオンが「クックック」と笑った。

 

「興味があるのなら声をかけてくれたまえ。歓迎するよ」

 

 満面の笑みでタキオンは両手を広げた。

 しかし、そこに待ったの声がかかった。

 

「絶対に誘いに乗るなよ。コイツのは“モルモットとして歓迎する”って意味だ」

 

 華織だった。

 

「コイツらは“私の”ウマ娘だ、余計な真似するな」

「おっと、すまないねぇ」

 

 悪びれもしないタキオンに、華織がため息をつく。

 

「ライスのテーピングをし直すから、見ないかって誘いにきたんだけど……」

「本当に申し訳なかった。この通り誠心誠意謝罪するから、是非とも拝見させていただけないだろうか」

 

 タキオンはころっと態度を変えた。現金というかなんというか、図太いウマ娘だ。

 まぁ、ウチのチーム(ラサラス)でやっていくなら、これくらいアクが強いほうが良いのかもしれない。

 

 中途半端な味では、華織の舌を満足させられない。劇的であればあるほどいい。

 だから、劇的すぎて劇薬になりかねない、という部分については――この際だから目を瞑ろう。

 

 おいしい化学変化が起きてくれますように。

 そんなことを願いながら、シービーはライスに迫る華織とタキオンを見送った。

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