VSミスターシービー&愉快なウマ娘たち   作:花壇の土

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実況:どうでしょう、この展開?
解説:ちょっと掛かり気味かもしれないです。息を入れるタイミングがあればいいですが。


運命しか見えない女 VS ミスターシービー 3

 ミスターシービーは用務室へ辿り着くなり、開口一番に言い放った。

 

「ターフの演出家ってアタシのことなんだね」

 

 突然の襲撃者に対して、華織は意外なものを見るように目を丸くした。

 

「こんなに早く気がつくとは思わなかった。誰かに手伝ってもらったか?」

 

 お前の頭じゃわからなかっただろう、と言外に告げられて、シービーは心穏やかにはいられなかったが、今はまだ感情を爆発させる時ではない。

 謎の三冠ウマ娘の正体には辿り着いたが、これはまだ序の口だからだ。

 次はシービーが3人目の三冠ウマ娘になると華織が確信している理由を解明しなくてはならない。

 

 華織には日頃からシービーのことを過大評価する傾向がある。

 ミスターシービーには三冠ウマ娘になれるくらい特別な力がある、と語ったのは記憶に新しい。

 

 そこに問題はない。ポテンシャルを見込んで、将来は三冠ウマ娘になるだろう、と予想しているだけと言える。

 しかし華織は先日、シービーが3人目になると順番まで断言した。これは他に達成者が居ないと知っていなければできないことだ。

 

 以上を踏まえ、シービーは仮説を立てた。

 

「キミは未来を知ってるんだね」

「そこまで大層なモンじゃないけど、概ね正解だよ」

 

 立ち眩みがした。華織の態度があまりにも普段通りで、言葉にウソがないと直感したせいだ。

 未来なんて代物は知ってはいけない禁忌に違いないが、シービーは二の足を踏む気はなかった。

 

「アタシ、逆スカウトを断られたうえに宣戦布告されてたってこと?」

「そういうことになるな」

「もしかしてアタシが怒りとは無縁なウマ娘だと思ってる???」

 

 華織が言ったことを本人の性格を加味して訳すと「標的はお前なんだから、担当なんてするワケないだろ。少しは察する努力しろよ、バカじゃないのか。そんなんだから頭がシービーなんだ」という意味になる。

 半分くらい誇張した気もするが概ね合っているハズだ。

 

 まさか自分のことを慕うウマ娘に、そんなことを言える人が居るなんて思わなかった。

 シービーは怒っているとアピールするために刺々しく尋ねた。

 

「なんで教えたの? キミならアタシを丸め込むことなんて簡単でしょ」

「簡単じゃないから優しく本当のコトを教えてやったんだよ。適当な理由つけても絶対に納得しないだろ」

「この話を聞いたアタシがレースを走らなくなるとは思わなかった?」

「全く思わない。お前は走る」

 

 ぐうの音も出ない。流石は華織だ、シービーのことをよくわかっている。

 こんな時だけ百点満点の解答をしなくてもいいのに、と文句を言いたくなったが、形勢があまりにも不利なのでグッと堪えた。

 

「ターフの演出家を倒してキミはどうしたいの?」

「私の手でも運命(レース)を変えられると証明したい」

「倒せば証明できるの?」

「できるかもしれないし、できないかもしれない。わからないから試すんだよ」

 

 言い回しは曖昧だったが、その目的の輪郭だけは薄っすらと見えたような気がした。

 三冠ウマ娘というレース界の象徴を打ち倒せば、運命を変えた証になるかもしれない、と華織は考えているらしい。

 

 しかし、シービーはそれに違和感を覚えた。未来がわかるなら“3人目の三冠ウマ娘(ミスターシービー)”を倒すことに拘る必要なんて無い。

 いつか現れる4人目、5人目の三冠ウマ娘だけではなく、それすら超える前人未踏の記録を樹立するウマ娘の情報だって持っているハズだからだ。

 戦う相手はカタログから選び放題なのに、どうしてシービーを選んだのだろう。

 

「他にいくらでも候補がいるのに、アタシを選んだ理由は?」

「……手近だったから――って冗談だよ、にじり寄ってくるな」

 

 華織はシービーから視線を逸らした。

 

「お前の走りに夢があるからだよ」

 

 思い入れがあるのだと察して、シービーの語気は強くなった。

 

「だったらキミが走らせてよ」

「……倒すほうがいい。そっちのほうが実感できる」

 

 その葛藤するような表情を見てピンときてしまった。

 この女、まさかとは思うが――

 

「アタシが“夢だから”負かそうとしてる……?」

 

 ミスターシービーが勝利する喜びと、ミスターシービーが敗北する悲しみ。

 華織はそのうちの後者に劇的な演出をして、運命を変えたという強烈な実感を得ようとしている。

 自分の夢を自分の手で壊すなんて普通なら考えられないが、華織がそういうことをする女だと知っているシービーは、驚くよりも先に納得していた。

 

「ひねくれ過ぎだよ」

「なんとでも言え」

 

 シービーは表面上では苦笑して呆れてみせたが――本当は熱くなった胸の高鳴りを悟られないよう、平静を取り繕うのに必死だった。

 華織にとってシービーの存在が、レースの勝敗で運命を実感するほどに大きいと知ってしまったせいだ。

 

 どれだけアタシのこと好きなんだろう、この人。

 自然な表情を保つことすら難しい。胸から頬へと熱が伝搬していき、堪えきれずに頬が上がりそうになる。

 

 悪ぶってるくせに懐に入れた相手には優しくて、軽口ばかりなのに大事な言葉を贈ってくれる、器用だけど不器用な人。

 他の人には伝わらないかもしれないが、そんな素直になれない華織にシービーは心を奪われてしまった。

 今までどこか漠然としていた気持ちが形を成したような気がする。やはりこの人しかいない。

 

「華織さん」

「なんだよ」

 

 心の中のマルゼンスキーが、“最終手段”と書かれた旗を風に流しながらアクセル全開でかっ飛ばし始めた。

 華織が無意識に行った“告白”のせいで昂っていたシービーは、そのまま華織へ手を――

 

「ごめん、ちょっとタイム」

 

 ――伸ばしそうになって、寸での所で我に返った。ゆっくりと呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。

 目的はあくまで契約だ。説得手段すら用意せずに実力行使しても仕方がない。

 一拍置くことで理性を取り戻したシービーは、確かな勝利を掴むために情報を整理することにした。

 

 あの歪んだ結論に至った経緯はわからないが、華織は運命を変えようとしていて、それを劇的に演出するために自分の夢(ミスターシービー)を倒そうとしている。

 つまり逆を言えば、他に演出を用意できればシービーが標的である必要はなくなるということ。

 

 もちろんだが生半可な方法では華織は納得しないだろう。やるなら大風呂敷を広げなければならない。ミスターシービーを超えるような、もっと大きな“夢”を用意する必要がある。

 

 でもそれって……すごく簡単なことじゃない?

 今まで気づかなかっただけで、シービーは最初から全てを覆す逆転の一手を持っていた。

 これならシービーの目的も、華織の目的も同時に果たすことができる。

 

 これで準備が整った。あとは華織に首を縦に振らせるだけでいい。最も効果的な方法はよく知っている。

 散らばっていたパズルのピースをかき集めて形にしたシービーは、今度こそ華織に戦いを挑んだ。

 さぁ、レース開始だ。

 

 

 

 そして物語の冒頭へと戻る。

 シービーは華織の胸倉を掴んで、その華奢な体を力の限り押し倒す。

 

「だったらアタシを使ってよ」

 

 華織は瞳を鋭くしたが、強く抵抗しようとはしなかった。シービーならば滅多なことはしないという信頼があるのだろう。

 そのことに背徳感と征服感が合わさった仄暗い喜びを感じながら、華織へとウマ乗りになってその顔の真横に手をついた。

 

「ミスターシービーの通算成績は? 勝ちレースはどれ?」

「……通算成績までは覚えてない。でもクラシック三冠と秋の天皇賞は勝ってた」

 

 最低でもG1が4つ。なるほど、三冠ウマ娘なだけあって凄まじい成績だ。

 流石に華織が拘るだけはある。倒せば運命を変えたと言えるだろう。

 

 しかしシービーは“そんなもの”よりずっといい、心が傷つかないプランを提示できた。

 

「アタシがクラシック三冠を獲った後、春シニアと秋シニアを制覇すれば、ミスターシービーを倒したことになるよね」

「は?」

 

 ミスターシービーが夢であるなら、それを超えるもっと大きな(シービー)で塗り潰してしまえばいい。

 虚を突かれたような華織の表情を見て、我ながら完璧なロジックだとシービーは自画自賛した。

 

 自分(シービー)未来の三冠ウマ娘(ミスターシービー)を同一視してはいけない。後者はあくまで、まだ達成されていない不確かな“記録”に過ぎない。

 そして相手が厳密には自分自身でないならば、レースを同時に走ることは不可能でも数字で競うことはできる。

 

「キミの夢はアタシ? それともミスターシービー?」

「……今はお前だよ」

「ウソつき」

 

 せめて目を合わせて言ってほしかった。その言い方では面影を重ねていると察してしまう。

 前を走っているのは間違いなくシービーだが、後ろを振り切れてはいないらしい。

 

「これからはアタシしか目に入らないようにしてあげる」

 

 自分こそが唯一無二(シービー)だと華織の心に刻み付けてやる。

 この人と一緒に駆けるのはアタシだ。ミスターシービーなんかに負けない。

 

「だからアタシと一緒にミスターシービーを倒そう」

 

 自らの手でミスターシービーを超えるシービーを育成する。これはきっと劇的な演出であるはずだ。

 シービーが言い切ると華織は目を閉じて、何秒かした後に望んでいた答えを――

 

「やるワケないだろバカじゃないのか」

 

 ――くれなかった。

 予想外の返答にわずかに力が抜けた瞬間、シービーの体は宙を舞った。

 全く衝撃は感じず、背中から床に着地した後になって投げ飛ばされたと気がついた。

 

「なにが“使って”だよ、ふざけやがって」

 

 スーツの襟を正しながら放たれた華織の険しい声を聞いて、自分がどの選択を間違えたかすぐに察した。

 

「お前は勝手に走れ。私も勝手にやるから」

「――ッ!」

 

 そしてシービーの腕を掴むと、容易く行動の自由を奪って用務室の外へ追い出した。

 目の前で閉められた扉を見て、失敗した事実を突きつけられたシービーは、肩を落としながらその場を去る――

 

 

 

 ――なんてことは当然せず、次の瞬間には用務室の扉を開け放っていた。

 信じられないものを見るかのように華織が頭を抱えた。

 

「なんでだよ、あのまま出て行く流れじゃないのか」

「よく考えなくても、それじゃ解決しないし」

「私は解決する」

「アタシが解決しないからダメ」

 

 華織は力なくデスクチェアへと座り込んだ。

 

「悪いことは言わないから止めとけ。お前に私は合わないよ」

「そんなことない」

「そんなことある」

「ない!」

「ある!」

 

 唸りながら睨みあう。なんて頑固で融通が利かない人なんだろう。

 互角の勝負を続けるなか、先に折れたのは華織だった。

 

「お前のプラン自体は悪くない。夢があって私の好みだ。ミスターシービーでミスターシービーを倒すなんて考えもしなかったよ」

「なら――!」

 

 シービーは色めき立ったが、華織はそれを手で制した。

 

「でも私はレースに結果を求めてる。そんなのと組んだらお前の良さが死ぬ」

 

 適当に言いくるめて使ってしまえばいいのに、それがシービーに痛みを与えるかもしれないから躊躇っている。

 そう思ってくれる人だから共に駆けたいと言っているのに、どうやら全く伝わっていないらしい。

 

「ねぇ華織さん、キミが思うアタシの良さってなに?」

「……お前がお前のままでいることだよ」

 

 やっと華織と目が合った気がした。

 

「好きな時に好きなように好きなレースを走れ。結果なんかどうでもいい」

 

 シービーに向けられたのは穏やかな瞳と、童話を読み聞かせるような優しい声音だった。

 

「お前が求める自由の先に、いつか誰かが夢を見る」

 

 大切な言葉がまた一つ増えた。

 自由であることが、誰かになにかを与えられるなんて思いもしなかった。

 

「だからキミはアタシに夢を見たんだ」

「……かもな」

 

 やっぱり契約しなきゃダメだ。華織には最高の夢を特等席で見せなければならない。

 自分のためにしか走れないシービーでも、1人くらいなら運命から解き放てる。

 

「契約しよう、華織さん」

「まだ諦めてないのか」

 

 レースはついに最終直線へと入った。

 

「アタシはアタシのままでいる。それだけでいいんだよね?」

「私と一緒にいたら、それができなくなるんだよ」

「大丈夫」

 

 華織ならシービーをシービーのままでいさせてくれる。

 

「アタシに好きに走れって言ってくれたのはキミだよ」

「……ああ、言ったな」

「だったら責任取って走らせて」

 

 どうすれば“キミと駆けたい”と真っすぐ華織に伝えられるだろうか。

 笑ってアピールするか、怒るフリをしてみるか、泣き落としを試すか、いつものように駆け引きするか。

 

 いくつも言い回しを考えて――やっぱりやめた。

 思っていることをそのまま話せばいいだけだ。難しいことなんて考えなくていい。

 深く呼吸してから華織の両肩に手を置いて視線を合わせ、あるがままの心を声に乗せた。

 

「キミはアタシに夢を見てよ、アタシは好きに走るから」

 

 その言葉を受け止めた華織は、見たことがないほど動揺して声を震わせた。

 

「お前、それは……」

 

 伝わったと直感して、スカートのポケットから取り出したものを華織の胸に押し付けた。

 

「なんだよ、この皺くちゃの紙は」

「やだなぁ、とぼけちゃって。このタイミングで取り出すものなんて一つに決まってるのに」

 

 ニッコリと笑みを作ったシービーがデスクの上で紙の皺を丁寧に伸ばしていくと、やっとその正体が露わになった。

 

「担当契約書だよ」

「ウソだろ原形留めてないじゃん」

「仕方ないでしょ。ずっとポケットに入れて準備してたのに、キミがいつまで経っても使わせてくれないから」

 

 拗ねたシービーに苦笑した華織は、何度も手を迷わせながらペンを取った。

 

「……どうなっても知らないよ」

 

 そして流れるような筆で契約書に署名をし――次の瞬間、シービーはそれを引っ手繰っていた。

 いまさら無かったことにはさせないと、契約書が再び皺だらけになるのも構わずに胸元で握りしめる。

 マッチレースに勝利したのはシービーだった。

 

「提出してくる! もうダメだって言っても遅いから!」

「あ、おい! まだ授業中――」

 

 制止の声を振り切って一目散に理事長室へと駆け、到着するなり契約書を理事長の机に叩きつけた。

 理事長はそれを何も言わずに受理してくれたが、授業をサボって学園内を全力疾走した件については、たづなさんから笑顔で懇々と叱られることになった。




※ただし他のウマ娘を担当した場合、シービーを打ち倒した瞬間に燃え尽きてトレーナーを辞めるものとする。
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