まさかこんなに沢山の人に気に入って頂けるとはたまげたなぁ……
これからもよろしくナリ~!!!!
モルガンがトリステイン魔法学院に召喚されてからというもの数日が経過した。使い魔としての環境にも慣れてきたおかげか、家事やルイズの着替えの用意など周到にこなしている。尤も、着替えさせはしないが。
着替えを手伝わせようにもモルガンから使い魔は下僕ではないし、貴族なればそのくらいのこと己でやるべきだという反論を受け、イライラしながら自分で着替えてるのが現状だ。しかも家事雑事をくまなくやっているので非の打ち所がなくルイズは尚更悔しがる。
しかしモルガンとて家事をする事自体あまり好きではない。というより、一点のみが苦手である。それは洗濯。自分よりも若く幼い少女の下着を洗うなど気が引けるしこんな所ラニに見られればなんと言われるか分かったものではない。念の為毎夜小さいラニに話しかけてはいるが反応がない分まだ救いがある。
洗濯が終われば午前中にやることはもうないので時間に間に合うように散策しながらルイズを迎える。なにか言いたげな顔だがまぁ敢えて言わないでおこうか。授業が始まればモルガンはやる事はないがこの世界の魔法に好奇心がある故教師の話を真剣に聞く。ルイズも魔法はからっきしであるが座学においてはトップの成績であり、真剣に授業の内容をノートに写している。たるんだ生徒も多い中、ルイズとモルガンの2人だけは真剣に授業を受けており異彩を放っている。モルガンが小声でルイズに話しかける。
「さっき教師はドットとか言っていたがあれはなんの意味だ?」
「授業中よ……それは扱うことができる魔法系統が1つのことよ。2つでライン、3つでトライアングル、4つでスクウェアよ」
「なるほどな……図形に喩えているのは面白いがそれは生まれながらに決まるのか?」
「それは……最初のうちはドットだけど同系統含む他系統の魔法を学んでいく内にラインやトライアングルになれるけど大抵はラインが多いわ。トライアングルはともかくスクウェアは努力だけじゃとてもなれないわ」
「ある程度の才も必要か。……けれど才なんていうのは努力で埋め合わせできよう。時間はかかるがな……………ところでお前はドットメイジなのか?」
「え、えっ?……私は…」
「?」
いきなりルイズが黙りこくってしまう。教師がメイジの話をするなか褐色の赤髪の女子が口を挟む。確か名はキュルケと言ったか。
「お言葉ですがまだ一系統も使えない魔法最高率0の生徒もおりますので……」
そう言った瞬間、周りの生徒の目がルイズに集まる。なるほどそういうことか。授業が終わり自室へ戻る道中、ルイズがこちらをなにか言いたげな表情で見つめている。
「あなた……なにも思わないの?」
「なにを思うと?」
「皆私をバカにしてるのがなぜなのか、分かったでしょ。なんであなたはなにも言わないの」
「わからんな」
その返答を聞いたルイズが隠していた感情を発露させる。
「さっきの授業で分かったでしょ!!成功した魔法はゼロ、使える系統もゼロ、全てがゼロ、それが私!!ゼロのルイズよ!!あんただってこんなのが主人で嫌なんでしょ!」
それは今までの蔑まれ、嘲笑われてきたことへの悔しさと悲しさ。己の惨めさに悩み耐え抜き、けれど溢れてしまった心の声。堪えきれず涙が出る。それを聞きモルガンは優しく、しかし励ますように話す。
「数え切れぬ魔法が存在するこの世界で、たかだか数十程度の魔法しか試していないのだろう?」
「で、でも……色々試してダメなんだからもう…」
「諦めが早すぎるな。お前には時間は山ほどあるだろう。それを使いきってからその言葉を言うべきなんじゃないのか?それに、魔法は成功しているじゃないか」
「えっ?」
「俺を召喚した魔法の事だ」
「あっ……」
ルイズは思い出す。あの日、あの時、あの場所で。この男を召喚したことを。
「成功した魔法がある以上、お前はゼロではない。その事を誇れ。お前は今まで努力してきたのだろう?ならば自分を信じろ。例え今までの魔法が成功できなくともこれから知る魔法はできるかもしれん。できなくとも、俺を召喚したという事実は変わらない。自身を信じなくなってしまったらそれこそ今までの努力が水の泡だ」
モルガンの言葉はルイズの心に響く。この男は、本気で私を信じているんだと。それが堪らなく嬉しかった。誰も信じず嘲笑うこの学院で唯一、信じてくれる者を呼び寄せれたことに。
「……あなたは信じてくれるの?」
「信じるさ。お前の使い魔だからな」
「…………りがと」
「………聞こえんなぁ?」
「う、うっさい!」
悲しみの涙は、慈しみの涙に変わっていた。
夕飯時になり、生徒達は食堂へ向かう中モルガンは厨房の扉を開ける。本来褪せ人のモルガンは食事など不要だがかと言ってなにも食べない訳ではなかった。茹でエビに茹でカニ、干し肉など美食目的では無いがれっきとした食べ物を食べていた。ルイズの希望にて食堂で食べれるのは良いがまさかの床でありパン一個なのでモルガンからしたらご遠慮願いたい所なのである。
ギーシュの決闘以降シエスタと仲良くなったのもあってか厨房の賄い飯を食べれることにモルガンはシエスタとコック達に感謝の極みを捧げていた。厨房に入った途端、皆がモルガンを見る。平民にとって貴族とは魔法を扱う偉ぶった人間であり、その貴族を打ち負かした平民(と思われる)のモルガンは皆にとって一矢報いてくれたスーパースターなのである。
「『我らの牙』が来たぞ!」
そう叫んでモルガンを歓迎したのは、コック長のマルトー親父である。もちろん貴族ではなく平民であるのだが、魔法学校のコック長ともなれば、収入は身分の低い貴族なんかは及びもつかなく、羽振りもいい。
「その『我らの牙』というの、やめないか」
「何を言うか! 俺たちだって貴族どもには腹がたっても黙ってるしか無かったんだ、それをあんたは奴らの鼻面に噛み付いて、打ち倒してしまったんだ! まさに我らにとっての『牙』そのものさ!」
「……小っ恥ずかしいな」
自分の席に座るとシエスタがこちらをニコニコしながらシチューとパンを運んでくれた。具だくさんで香りがいい。貴族に出してあるものと同じものだろう。モルガンはすぐにシチューを口に運び笑みがこぼれる。
「やはり美味だな、料理長」
「おぉ、おぉ、『我らの牙』よ! お前はいい奴だ!」
マルトーは、モルガンの首に腕を回した。
「なぁ、『我らの牙』! 俺はお前の額に接吻するぞ! こら! いいな!」
「ファッ!?やめてくれ!頼むから!」
モルガンは迫り来るマルトーの顔を手で押し退ける。
「どうしてだ?」
「発狂と腐敗が蓄積しかねん」
「お前はメイジのゴーレムを切り裂いたんだぞ! わかってるのか!」
「あぁ」
「なぁ、お前はただの平民なんかじゃあないんだろ? 騎士だと言ってたじゃないか! どうやったらあんな風に戦えるのか、俺に教えてくれよ!」
「どうも何も普段通りの戦いだ」
狭間の地で生き残っている者であればあの程度の相手に遅れをとる事はない。だがマルトーは、嬉しそうに目を見開く。
「お前たち! 聞いたか!」
マルトーは、厨房に響くよう怒鳴った。若いコックや見習いたちが、返事を寄越す。
「聞いてますよ! 親方!」
「本当の達人というのは、こういうものだ! 決して己の腕前を誇ったりしないものだ! 見習えよ! 達人は誇らない!」
コックたちは嬉しげに唱和する。
「達人は誇らない!」
するとマルトーはくるりと振り向き、モルガンを見つめる。
「やい、『我らの牙』。俺はそんなお前がますます好きになったぞ。どうしてくれる」
「どうしてそうなった…」
飯を食べ生徒達が自室に戻り寝ようとしてる中、モルガンもルイズの部屋で寝るために主人の部屋に向かう。が、向かいの部屋の扉が開いている。しかもキュルケの使い魔のサラマンダーが扉が出てきてこちらを見てきているではないか。きゅるきゅる、と鳴くサラマンダーは人懐こく、害意は感じられない。どうやらキュルケの部屋に案内したいらしい。
案内通りに部屋に入ると真っ暗だった。ランタンをつけようとするも奥に人影が見え手を止める。
「扉を閉めて?」
モルガンは言われた通りにする。そしてコツコツと奥へ歩いて行くと、それについてくるように周りのロウソクに火が灯り、その灯にキュルケの姿が見える。完全に誘惑をするための下着だ。一人の男としてはキュルケ確かに魅力的に映るだろう。キュルケほどの美貌とその魅惑的な肉体が狭間の地にいれば間違いなくあらゆる男を手玉にできるだろ。しかしながらモルガンはラニと結婚した身。他の女性、ましてやルイズの同級生に鼻の下を伸ばす真似などしないしできない。フィアのような事をしてくれるのなら話は別かもしれないし別じゃないかもしれないが。
「恋してるのよ。あたし。あなたに。恋はまったく、突然ね。あなたが、ギーシュを倒したときの姿……かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ! あたしね、それを見て……」
「そうか、失礼した。では」
モルガンは振り返り、扉を抜けて帰ろうとした。すかさずキュルケが杖を振るい、扉に『ロック』の呪文をかける。逃げられぬことを悟りここは一先ず相手の要求を叶えるしかないとモルガンは考えた。それも束の間、キュルケが後ろから抱きつき豊満な胸をモルガンに押し当てた。男ならイチコロのキュルケ独自の魔法である。
「キュルケ! そいつは誰なんだ!」
窓からこっそり覗き込んでいたキュルケのボーイフレンドが抗議の声を上げるも、キュルケの火の魔法に当てられ落下する。続く第二第三のボーイフレンドたちが出てくるもたちまち落下する。愛多き乙女らしい。
「男漁りか。その年でそんなことができるとは己の魅力のなんたるかを心得ているな」
「あらホント!?ってそうじゃなくて!今とにかくあなたを愛してる!」
キュルケがモルガンを押し倒しキスを迫るもモルガンがキュルケの体を優しく崩して座った状態からすぐに立ち上がりキュルケをお姫様抱っこする。急な体勢変更に理解が追いついていないキュルケだったがお姫様抱っこされてる事実だけをすぐに受け入れ少し照れる。
「あら、あなたって器用なのね」
「俺が独り身ならこの誘い、受けたかもしれんが生憎もう相手がいる身でな。悪いがその気持ちに応えてやれそうもない」
「ても私のこの情熱はもう止まらないの!ねぇダーリン、私にキスして!」
「ねぇ、あんたたちなにやってんの?」
聞きなれた声の方向に見やると扉を開けたルイズがいた。
「げ、ルイズ!」
「げとはなによ!誰の使い魔に手を出してんのよ」
「仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
そう言ってキュルケはここぞとばかりに抱っこしているモルガンに抱きつき肌を擦り寄せる。
「こ~んな乱暴でガサツなご主人様より、あたしの方がよっぽど彼を幸せに出来るわ。ねえ、騎士様?」
「·····················」
「ッ!!」
「ねえルイズ、恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。貴方が一番ご存知でしょう?」
もうリアクションするのすら疲れてきた。
ルイズはルイズでそんなモルガンを睨んでいるが、こっちだって困っていたのだ。そんな理不尽な目で見てこられても望んだ展開というわけではないし、むしろモルガンは被害者である。主人に誤解を解くために説明したいが、あれでは聞く耳を持ってくれないだろう。
キュルケの言葉に反論できないのか、ルイズは一瞬にして鼻の真ん中から耳の端まで全て真っ赤になる。しかし、気高く美しい貴族の本質を見失ってはいけないと思ったのか、キュルケの煽りに似た言葉に惑わされずにゆっくりと、陽炎のように音もなくモルガンに近づいていく。
「·············モルガン」
「·············うん?」
「来なさい」
「····························うむ」
どうでもいいのか、それとも何もかも諦めたのか、とにかくモルガンは黙ってルイズの後をついていく。キュルケは名残惜しそうにモルガンを見つめた。別れを惜しむように目尻に涙を溜めてひらひらと手を振って見送った。
「ふふっ·········うふふふふ··········ルイズ、彼はあなたの手に余るわよ」
だがしかし、彼女はまだ諦める気はないらしい。必ずや彼を堕としてみせる。そう心に誓ったキュルケであった。
部屋に戻り、モルガンはルイズに詰められる。
「さぁ~て、それじゃ早速説明してもらおうじゃないかしら」
手にムチを持ち、眉をピクピクと釣り上げている所から相当お怒りのご様子なのはわかったが、何故そんなものを手にしているのかの説明をしてもらいたい。明らかに人に聞く態度ではないと思われる。
「サラマンダーに案内されたら部屋から出られなくなりキュルケが誘惑してきた」
「……まぁ、あの女の誘惑に引っかかんなかった事だけはいいわ。でもね、他に理由があったとしても、あの女だけはだめ。ツェルプストーの家と、ヴァリエール家には、深い深い因縁があるんだから!」
そこから、ルイズによる数世代に渡る両家の下らない争いについての演説がつらつらと並べられる。曰く、祖先の恋敵。曰く、戦争の仇敵。豆知識程度に聞いていたモルガンだったが、ルイズは続ける。
「それにね、あんたも見たでしょう。あいつの男の数。あんた、顔が割れてるんだからね。もしツェルプストーに、ただの平民の使い魔が手を出したなんて知れたら、あんた4、5人に背中を狙われるわよ」
「何も問題ない話だな」
「私には問題よ!」
確かに、子供とは言えど貴族である以上なにもかもが大事になる。そう言った危険事を避けるのは生命の闘争や社会の生活においても重要だ。
ルイズの話を聞くうち疲れていくモルガン。
「さ、寝るぞ」
「いやまだ!!」
「もう遅い、寝るぞ」
「にゃー!離してー!」
無理に寝かしつける。この日々は長くなりそうだ。
頑張ったけど疲れた……