「ここがウォータス1の大浴場ユラメキ湯だ!」
「へぇー…」
バカ医者はチェンジャーに元気いっぱいに呼びかける。
チェンジャーは興味なさげだ。
「やっぱいいよ。人が多い場所は好きじゃないんだー。」
チェンジャーが帰ろうとすると
「ほらほらそんな言わずに、1時間歩いた甲斐はあるから。」
バカ医者は脱衣所に無理矢理連れて行く。
チェンジャーの悪臭に他の客が怪訝な表情を浮かべるがバカなので気づかない。
無理矢理チェンジャーの服を脱がして驚愕する。
「なっなんだこの傷は!よくこんな傷で生きてこれたな。今すぐ治療したいが…まあいいや。まずは体を清潔にしよう。」
「ユーザ!今日の依頼はビッグだぞ!バブルの市長からだ!」
その頃事務所にはビッグニュースが飛び込んでいた。
「ホントか!バブルの市長って確か…」
「うむ。海の男として将来有望な逸材だった。まぁ我がなってしまったのだがな。ハーッハッハッハッ!」
その後オーディションの事語り出すをザッドを無視し、キンノミヤは話を進める。
「どうやらさ、そのザッドの力でどうしてもやらなくちゃいけないことがあるんだってさ。」
「やらなくちゃいけない事?」
「詳しくは市役所で話すって、まぁ行ってこい。公的機関にも認められればウチの評判も鰻登りだ。絶対成功させろよ!」
キンノミヤの目は燃えていた。
「あぁ。オレもキョクアへの資金集めのため頑張るよ。リン、ザッド、行くぞ!」
ユーザ達は事務所の戸を、開けて快調に出かけようとした矢先、目の前には何人もの男女と何台もの馬車がいた。
彼らは全員同じ制服を着ている。
「えっと…どちら様?」
「ユーザさんですね。こちらにどうぞ。」
エスコートされてユーザ達は都市職員3人と馬車に乗り込む。
リンは置いてかれた。
「四輪如きが調子乗るなぁー!」
ユーザ達は突然の事に脳が追いついてなかった。
「何かすごいVIP待遇だな…」
「これ依頼失敗したらボク達どうなっちゃうんだろうね……」
「怖いこと言うなよ!」
ハーズにそう言うユーザの鼓動は高まっていた。
馬車の中でユーザとハーズはオドオドしていたがザッドだけは妙に落ち着いていた。
「やっと海の男としての力を見せる時が来たようだな。それにしても海底都市でお披露目とは。中々ツウな計らいをしてくれるじゃあないか。」
「何様の誰目線だよ………」
ユーザがザッドの様子に呆れていると
「ってあれ?なんかスピード速くなってないか?」
ユーザの指摘通り、馬車のスピードは速くなっていた。
それに対し同乗していた都市の職員の1人が答える。
「よくお気づきになりましたね、これはバブルに行くために必要なのですよ。これからどうなるかぜひご覧ください。」
含みを持たせた言い方にユーザ達は首を傾げる。
そうこうしている内に馬はスピードを1段また1段と上げていく。
「こんなスピードを上げてどうするんですか?」
「外をご覧ください。」
馬車の窓から外を見ると、向こう側には海岸線が見える。
だが馬のスピードは速くなるばかりだ。
(大丈夫かコレ?)
そんな気持ちが大きくなっていく。
馬車はついに砂浜を踏み始める。
スピードは最高頂に達する。
そして、
「今からバブルへ向かうため窓を閉めます。」
窓がしまった途端、馬と馬車が急に切り離される。
「えっ」
馬失った馬車は海へ突っ込んでいった。
「ちょっとどうするんですか!」
「今がダイバーが来るのでお待ちください。」
「ダイバー?」
間も無くして、向こうから影が迫ってくる。
影の正体は
「あの背鰭……まさか!」
「イルカか……我を歓迎しに来たか。」
紐を括り付けられたイルカだった。
イルカと馬車の暇は急にくっつき出し、イルカは馬車を引っ張り潜っていく。
「これは…」
余りの出来事にユーザ達は息を飲むしかなかった。
潜水してから10分ほどで建物が見えてくる。
「ようこそ。こちらがウォータスが世界に誇る海底実験都市バブルです。」
「すげえ……」
ユーザは息を呑む。
「まるで魚になったみたい!」
ハーズの声が弾む。
バブルの市内はまるで別世界だった。
都市全体が透明な幕で覆われているが中の住民や建物は、地上とほぼ変わりない。
ウォータス特有の賑やかさがそこにはあった。
だが、空の青が海の青に変わっただけで、見える印象は大きく変わったのだ。
「これから市役所に案内いたします。」
市役所の応接室に入ると、早速市長が出迎えていた。入ってくるなり市長は深々と礼をする。
「このたびはご依頼を受けていただき誠にありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ。ウチのような小さな会社に依頼をしてるなんて…」
ユーザも緊張しながらも礼で返す。
「では、早速本題へ。今回依頼したのは、海の力を得たザッドさんに釣ってもらいたいものがあるのです。」
「ほう。我の力を借りるとはそれ相応の相手なんだろうな。」
(何なんだよこのテンション………)
ザッドはふんぞり返った様子で聞く。
「ええ。単刀直入に言えば…怪獣を釣って欲しいのです。」
「かっ怪獣!?なんで!」
ユーザが飛び上がる。
市長は重々しい表情で話し始める。
「端的に言いますがウォータスは現在、新しい産業を求めているのです。丁度そこで希望の光が見つかりました。奥深くの深海にエネルギー変換効率の良い新資源が見たかったのです。この資源を産業に運用するためこの都市は生まれました。」
(あれ?話のスケールがだいぶでかいぞ?)
「だかしかし、その新資源の発掘予定地は水棲怪獣の巣窟だったのです。当然諦めるべきなのですが、それではこの都市を作った意味がないと国は1年以内になんとかしろと無理難題を申し付けてきた。ですが、打つ手なしのままタイムリミットは残り1ヵ月となってしまい…ですからザッドさん!海の男の称号を得た貴方に頼るしかないのです!お願いします。」
市長と職員はまた深々と頭を下げる。
「フン。やってやらない事もないな。怪獣か。骨ある奴ならいいのだが。」
「バカ野郎!こんな依頼絶対に受けないぞ。いくらでも重荷が過ぎるし、こんな突破な展開で読者がついていけない。キンノミヤにもさっさと報告しようぜ。」
ユーザの主張はあまりにも正論であった。
だがザッドは聞く耳を持たない。
「さて、どいつを釣り上げればいいんだぁ?」
その一言を聞いた瞬間ユーザは崩れ落ち、しばらく立ち上がれなかった。
「おい、起きろ。今回釣るのはこの3体だ。」
ザッドに頬を叩かれ、ユーザは目を覚ます。
「え?……あぁ…はぁ、ああああああああああ!」
ザッドの一言でユーザは現実に帰ってきた。
目の前にはバブルの職員もいる。
職員達は心なしか不機嫌そうだったが現在のユーザにそれを判断する余裕は残されていなかった。
間髪入れずザッドを握り締め、顔を近づけ笑いながら説得する。
「なぁ、ザッドく〜ん?今からでもこの依頼、辞めにしないかい?」
「断る。海が我々を待っているからな。それにこれを機に我々の仕事が知れ渡れば事業拡大に繋がり、貴様の目的にも近づくだろう。」
ザッドにはきっぱり断られた。
「いやいやそうかも知れんが、普通こういうのってさぁ、小さな依頼からコツコツやっていて地道にかつ確実に利を得て行くんじゃないの?なんで国の1プロジェクトに参加せにゃあかんのだ!あぁーなんでこんな事にぃ〜」
頭を抱えながらユーザは感情を爆発させていた。
「嫌ならそこで勝手に喚いて嘆いていればいい。現に我の力を求めているものがいるのは事実だ。貴様らさっさと連れて行け。」
ザッドは職員に自分を持っていくよう指示を出す。
職員は指示に従いザッドを手にそのまま行ってしまった。
「はぁ……マジで何様だよアイツ……」
ユーザはその場に寝転びボヤく。
「ボクも分かるよ。同じ付喪神だけどアレには付いてけないよ。」
「だよなぁ。」
乾いた声で2人は言い合う。
「大体何でこんな事になっちまったんだろうな。超常大陸でお前と会った時はまだよかったよ。」
ユーザは立ち上がって今までのことを話し始めた。
「なのにさぁ!守銭奴の逃亡犯やら海狂いの釣竿やら変な言葉遣いの自転車やら、なんでこんな変な奴らとばっかつるんでんだよ。記憶も取り戻せそうかと思ったら全然だし……!もうやってらんねぇよ!」
ユーザは頭を掻きむしり、体を振りながら騒ぎ始める。
「ユーザ落ち着いて!めっちゃ手が揺さぶられてるから!」
ハーズが止めるが一向に止まらない。
すると、体を振った衝撃で衣服から何かが飛んでいきハーズに当たった。
「痛っ、なんか飛んできた。」
「どうしたハーズ?え?コレは……」
その頃地上では1人取り残されたリンがご立腹だった。
「あの白状物!何で最高にイケメンでゴージャスでパーフェクトでインフィニティでウルティマなオレっちを置いていくゥ!やっぱアレかタイヤの数か!4輪が良いのかチクショウ!」
「おーい。」
誰かに呼びかけられたがリンには聞こえていなかった。
「あークソ!4輪なのがいいのか!2輪はおとなしくギーコギーコやってろってかぁ?ざけんじゃねぇ!」
「おーい」
「もう誰よ!」
リンが振り向いたらそこにいたのは人ではなく馬車だった。
「ギャエエエエィ!!すみません!今のは口が勝手に言っただけで勿論本心な訳」
「そんな事はいいからさぁ。なんでも本舗ってここ?」
「ちょっとちょっと!聞き方というモノがありますでしょうが!もー!」
注意と共に中から人が出てくる
「え!アナタは……」
「え?あなたがなんでも本舗のリンさんですね。私はこういう物でして……」
男は名刺を差し出す。名刺には
バブル市長 ワーン
と書かれていた。
「え?でもさっき、職員が迎えに来たんじゃ…」
リンはここに市長がいたのが訳が分からなかった。
さっき職員が迎えに来て、市長ばバブルに、いるはずなのだから。
「え?私は今来たばかりですが…え?」
「……じゃああの四輪は?」
リンの中に不信感が一気に募った。
そんなリンの気持ちもつゆ知らず。
ザッドは怪獣フィッシングに勤しみ、完全に今の状況を楽しんでいた。
深海の奥深くにある鉱脈に糸を深く垂らす。
海底は薄暗いがそれでも蠢いている巨影があった。
「どうでしょうか!行けそうでしょうか!」ザッドを握っている職員が尋ねる。
「まあ待て。釣りとはすなわち待ち。獲物との忍耐の闘いなのだ。でも我程になれば、」
釣り糸に反応があった。
ザッドはリールを巻き取り巨影のベールを暴く。
影はその姿を現し、ドサっと床にもたれかかる。
「これは?」
「深海怪獣ジラーガです。まさか開始5分で1体目とは」
「フッ当然だ。さっさと片付けるぞ。」
ザッドは再び取り掛かる。
ザッドが釣りに夢中になっている間に職員はどこかへ消えていく。
向かったのは市庁舎の誰もいない空き部屋だ。
「っふう……ずっと正装も堅苦しくてありゃあしねえぜ。」
職員達は上着を脱いで長椅子にもたれかかる。
「ユーザがアレで死なねぇのは驚いたぜ。あの時もアイツは無駄にタフなんだよなぁ」
「ホントホント。アイツが死ねば私たち大金持ちになれるのに。さっさと死なないかな〜」
職員達は次々とユーザへの愚痴を垂れる。
「首につけたあの時限爆弾がある。アレならイチコロだ。それにユーザを殺して終わりじゃない。オレ達の目的を忘れたか?」
「分かってるよ。怪獣達を暴れさしてバブルを占拠するんだろ。」
「っぶねぇ…死ぬ所だった。でも何で爆弾が?」
ユーザは奇跡的に難を逃れていた。
爆弾が爆発した所には穴が空いている。
「ねぇ、もしかしてボク達騙されてない?」
ハーズの疑問にユーザも同意する。
「やっぱそうだよな。確か市長は海の男オーディションの時、怪獣を連れてお題を出した瞬間に逃げてただろ?曲がりなりにも怪獣の危険性をわかってるはずなんだ。なのに今回は3体も怪獣を釣れなんて言ってる。いくらザッドがすごいからって、同じ人間とは思えない。それぐらい怪獣っていうのはほんとに危ないモンなんだよ。」
ハーズも頷く。
「それにユーザさっき職員に聞いてたよね。何処かでお会いしましたかって。」
「あぁ。」
「初対面って答えてたけど、さっきその職員。キミが目覚ましたときの顔すごい機嫌悪そうだったよ。絶対因縁があるんだって。」
ユーザはそれを聞いて首を傾げる。
「でもオレ、バブル来たの初めてだし因縁なんて……ん?何か声聞こえないか?」
2人は何かを感じ取った。
耳をすますと、どこからか声が聞こえてくるのだ。
その声は、爆弾によって開いた穴から聞こえていた。
「ここからだよな……おーい!誰かいますか!」
「助けてくれー!」
聞こえたのは、助けを呼ぶ声だった。2人はそれを聞いて、黙っていられるわけがなかった。
「大丈夫ですか?」
「何とか全員無事です。ただ…」
穴の下の部屋には人がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
ドアは鍵がかかっており全員手足を縄で拘束されて自由のない状態だ。
全員の縄を解いた瞬間ユーザは肩を掴まれ告げられた。
「貴方ユーザさんですね?今すぐここから離れて下さい!貴方は今命を狙われているんです!」
「どういう事ですか?」
脈略もない急展開にユーザは困惑する。
「今この部屋意外にいる職員は全員偽物でテロリストの扮装なんです!ヤツらは突然この市庁舎を占拠したのです。この他にも拘束されてる仲間がいます。全員捕まったので、対処のしようがないんです。」
「ヤツらは貴方を殺したついでに怪獣を使ってバブルを完全に占拠するつもりです。」
「え?じゃあ怪獣がいて資源発掘が出来ないって…」
「全部真っ赤なウソなんです!発掘作業は問題なく進んでいます。」
職員は捲し立てるように言葉を絞り出す。
「今ザッドがその怪獣を釣り上げようとしてんだけど、」
「絶対止めて下さい!いや逃げて下さいいや止めて下さいいや」
混乱する職員にユーザは笑顔で済ます。
「大丈夫です。全部解決して見せます。なんでも本舗にお任せあれ!行くぞハーズ!」
ユーザはハーズでドアを足蹴で無理矢理こじ開けザッドの元へ向かう。
「何が何でもザッドを止めるぞ。このままじゃテロリストに肩入れしちまうからその前に早く行かなきゃ!」ユーザが市庁舎を駆けていると、何処からか声が聞こえてくる。
「お急ぎかーいそちらのナイスガーイ!」
「金の匂いが海底にもー?!」
「この声は!」
壁を突き破りリンが馬車を引いてやってきた。馬車には市長とキンノミヤが載っていた。
「規格外の6輪でオレっち参上!ほーれ乗ってけ!」
「でも何でココが分かったの!?」
ハーズの質問を無視する。
「こまけぇこたぁいーちゅのいっちゅの!」
「ハハッ、リンらしいや。分かった。」
ユーザは苦笑いで馬車に乗り込む。
馬車とクロスバイクのキメラビークルは市庁舎の中をひた走る。
「アクセル全開〜〜!」