使うモノ語り   作:イヤマナ ロク

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第14話 混じり合うモノ達

バカ医者とチェンジャーは被服店の試着室にいた。

「どぉーだ!いい感じだろ!」

「………」

「これだけ洗うのに一ヶ月掛かっちまった。次は傷を治すために診療所行くぞ。」

チェンジャーは驚きのあまり言葉が出なかった。

姿見に写っている男が自分だと認識できなかったからだ。

「コレが………ボクー?」

一分程経ってからようやく口が開いたと同時に姿見の男も同じ言葉を発する。

黒地でも分かる血潮が完全に取れた上着とインナー。

砂埃、返り血、皮脂等々様々が汚れから解放された意外にも白い肌。

手入れとは程遠かった背中まで届く藤色の紙。

何もかもが変わったのだとこれでもかと実感させられた。

 

バカ医者は鏡を覗き込みチェンジャーの耳元で話しかける

「そりゃそーだ。ここに写ってるのはお前とチェンジャーとワタシなのだから。」

 

「知らない3人目がいるよー。」

さりげなくツッコんで上げた。

 

「え?え?え?ホントどぅあ!2人しか写ってないのに3人目が何で出てきたー!?チェンジャーって誰!誰なのぉー!教えて貴方!えっ貴方?わっ4人目が出てきた。ヒャェエエエ!」

バカ医者は泡を吹いて倒れた。

 

チェンジャーは倒れた彼を無表情で見下ろし

「こんなのが気にいるユーザってホント誰なんだろう……益々会いたくなったよー。」

少し目を細めながら呟く。

 

「あそこにいましたわ!」

何処からか女性の声がした。

チェンジャーは周囲を見渡すが誰もいない。代わりに、

 

「枕カバー売り場はここじゃないよねー?」

 

服に紛れて空間に紛れようとしている。

枕カバーを発見した。

チェンジャーはつまみ上げて話しかける。

「もしかしてー……付喪神?」

 

観念したのか、枕カバーのツミは長い息を吐いて緊張をほぐす。

そしてやや不可解そうにチェンジャーを見るなり

「貴方……なんで知ってますの?まっまさか彼に……」

 

「ボクも一緒にいるんだー。付喪神と。」

バックパックからナギとクランボを取り出す。

クランボはツミをじっと見つめて先に口を開いた。

「お初にお目にかかります。棍棒の付喪神クランボと申します。」

「オイラはナギ。いやコイツは硬い喋りだけどタメでOKだから。」

「………はぁ……はい。初めまして。ツミと申しますわ。」

 

「ふぅむ……」

クランボはツミをじっと見つめて口を開いた。

「キョクアでは見なかった顔ですね。この方、ウォータスのご出身で?」

クランボの質問にツミはバカ医者の間抜けな顔を横目に答える。

「えぇ、そうですわね。私はウォータスの診療所で覚醒しましたわ」

「オイラ達以外の付喪神か。ウォータスって付喪神って付喪神出やすいのか?」

 

「出やすいかどうか分かりませんが………あの枕カバーの御方、どうやらキョクアを知っているご様子で………一旦場所を変えましょう。」

クランボは何故か会話を続けるように促す。

 

「まぁいいや。話してみてもいいんじゃなーい?ツミさん…だっけ?コイツを見つけに来たんでしょー。診療所で話せばいーじゃん。」

チェンジャーは下を指さす。

床には泡を吹いて倒れたバカ医者がいた。

 

「わっ!何この人!オイラ今気づいたよ。」

ナギが驚くのに対しクランボの反応はとても薄かった。

「とっくに気づいていましたよ。何ともアホそうな顔していらっしゃると思いました。それだけです。」

バカ医者の指が一瞬ピクリと動いたがそれは流石に気づかなかった。

「彼は普通の人間とは思えない言動や行動をとるのです。きっとまたバカなことをしでしたのでしょう。…どうやって運びましょう?」

 

「いいよボクがやる。ついでにツミさんも運ぶよー。」

そう言いながらチェンジャーは、バカ医者を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこの体制で運び出す。

そしてバカ医者の体の上にツミを被せる。

 

「あっ…」

「どうしたのー?」

ツミの位置からは長い紙に隠れているチェンジャーの顔が見えた。その顔は黒ずくめの服装に不釣り合いな童顔でツミは少し驚いた。

 

「……あぁ、いえ何も。」

「じゃ行こうかー!」

 

鍛治工房──

「はぁ〜キンノミヤ様大丈夫なのだろうか。バブルでの爆発事故から一ヶ月半。事務所が急にもぬけの殻になって連絡が取れなくなったのも一ヶ月半前………やっぱり、やはり事故に!いやいやそんな事は」

キンノミヤの家の元従者であるタキガワの頭には不安ばかりがよぎっていた。

 

「もう依頼はこなせたのに。」

タキガワの手元には元キンセツの刃の金属を元に新しく作られた新生キンセツの理美容バサミが静かに置いてあった。

キンセツは未だ目を覚まさない。

 

「なんで動かないかもユーザさんに聞いて見たいのに……」

タキガワはユーザを付喪神の専門家だと勘違いしていた。

「もう一度……行ってみるか……」

タキガワは一度事務所に行ってみることにした。

 

診療所──

ラブクープはツミに医者探しを任して自分は一旦診療所に戻っていた。

診療所は他の医者が穴を埋めていててんてこ舞いの状態だった。

 

「ツミはちゃんと見つけてくれるかしらねぇ…」

「デットさんは診察はもちろんの事何よりあの調合技術はマネ出来ませんからね。なんだかんだ必要不可欠だったんで今の状況はかな〜りキツイです。」

診療所の医者の1人は苦笑いで本音を吐き出していた。

 

「”馬鹿と天才は紙一重”という事でしょうか…」

「チャーブル!緊急の患者さんだから早く来て!」

奥の方から怒鳴りながら呼ぶ声が聞こえてくる。

「あっ分かりました!今行きます!」

チャーブルと呼ばれた女医は早足で階段を降りる。

 

一気に場が慌ただしくなる現場を見てラブクープは苛立ちを隠せない。

「全く、こちらの気も知らないであのバカーー!」

 

医師達の目に飛び込んできたのは跡だった。

患者の服にはとても濃い車輪の跡が付いていた。

だが彼らにはその車輪の正体が掴めない。

それは馬車しか知らないウォータスの住人にとって未知の存在。

 

クロスバイクの車輪だったからだ。

 

だか1人それを瞬時に認識できるものがいた。

「これは馬車ではありません…クロスバイクの車輪ですわ。」 キョクアにいたラブクープだ。

ラブクープは記憶から最も身近なクロスバイクの存在を思い出す。

 

(まさかリン?でもリンはユーザさんの所に行ったはず……)

彼女が訳が分からずどういう事なのか思考を張り巡らせた瞬間、

 

「うっるさ……!」

「ハァ……?何今の…」

その思考を吹き飛ばす発狂が発生し、その場にいた全員が呆気に取られる。

それは目の前のベッドから突如発せられた。

「かっ…紙はぁ……どぉこダァ…もっと最っともーっと紙をーーー!」

鼻息を荒くして男はそう言いながら、ベッドから飛び起き進行方向を妨げる医者達を突き飛ばすと嵐の如く走り去ってしまった。

 

一枚の紙片を落として。

医者の1人がそれを拾い上げる。

「…………紙?」

 

その頃タキガワは未だ目を覚さない新生キンセツを持ってキンノミヤがいるはずの事務所に向かっていた。

「多分戻ってないだろうけど……でもじっとしてられないし……」

タキガワは内に広がる胸騒ぎから気を紛らわそうと前を見上げる。

すると目の前にお姫様抱っこで男を持ち上げながらで物に話しかけている男がやって来ていた。

 

タキガワは目を凝らし明らかに人ではなく物と話している光景を確認すると頭の中で考える。

(あの人……物に話しかけている?という事はもしかして話し相手は付喪神?)

タキガワは思考の結果、それが付喪神と即座に認識できた。

(もしや、ユーザさんやキンノミヤ様の知り合いかもしれない。あわよくば何か2人の身に起きた事も!)

タキガワはその男に話を聞くために元に駆け寄り始める。

 

チェンジャー達も向こうから人が駆け寄って来た事に気づき足を止めた。

(なっ何?この人は……?ハサミ?)

チェンジャーは相手がハサミを片手に持っている事に気づくとすかさずクランボに尋ねる。

「ねぇクランボ。ハサミってさあ、武器に入るよ……」

「いえ。」

チェンジャーが言い切る前にクランボは言葉を遮る。

「ハサミは武器には入りません。」

それを聞いてチェンジャーはしばらく考え

「そっかー。じゃ襲っちゃダメだねー?」

とクランボに確認すると

「いけません。絶対ですよ。」

念を押すようにクランボが返す。

 

 その会話内容を聞いたツミはチェンジャーに不信感を抱き初め思わず尋ねた。

「えぇぇと?チェンジャーさんは普段、何をされていらっしゃておいでで?」

「それはねぇ…」

 チェンジャーが答える前にクランボが一言。

「まぁ、世には知らなくてもいい事もあるのですよ。」

爽やかながら凄みのある声でツミに言っておく。

「………分かりましたわ。」

ツミも何かを読み取ったのかそれ以上何も答えないようにした。

 

そうこうしている内にタキガワはチェンジャーの元に

辿り着く。

息も絶え絶えの中、一つ質問をしてみる。

「ハアハア、あの……すいません…ゆっユーザさんとキンノミヤ様というお二方の名前を知ってますか?」

「えっその名前は……」

「今ユーザって……」

彼の言葉から予想外の答えが出て、チェンジャー達は少し目を瞬く。

タキガワはやはりと言わんばかりにまた尋ねる。

「あと……その、あなたが今話してたのって……付喪神ですよね?私も知ってますよ付喪神。」

 

「付喪神の事も知ってるらっしゃる……」

「これは興味深い……」

ツミやクランボも大きく反応を示す。

「キミと話がしたいなー。だから診療所に着いてきてー。」

タキガワは何故診療所なのか訳が分からず

「診療所?いやここからなら私が職場の事務所の方が近いですよ。私が案内するので話ならそこで」

と事務所の方角へ指を指す。

 

という訳で一向は予定を変更し、チェンジャー達はタキガワの案内の元、キンノミヤの事務所に行くことになった。

そしてしばらく歩く内に

「あ、皆さんここです。」

タキガワが指差す方向にはウォータスの建築物とは明らかに様式の違う建物が建っていた。

 

「ここは?」

「ここはなんでも本舗という店の事務所です。主には付喪神関連の事件を取り扱うまぁ、一種の何でも屋みたいな所ですね。」

タキガワの説明を聞いたチェンジャー達は

 

()()()だから()()()()本舗?……そのまま過ぎてダサくない?」

「ダサいですわ。」

「ダサいですね。」

「オイラもダサいと思う。」

一同は一様にダサいと看板を見て呟く。

「ちょ、皆さん全員ダサいって言わなくても……」」

 タキガワは外装の看板にある『なんでも本舗』の字面を改めて見て

「……確かに否定は出来ませんね…」

認識を改める。

場が一気に白けた。

 

「まっまぁ、とりあえずキミのユーザに関する情報について聞いて見ようかー?」

「そっそうですわね!」

チェンジャーとツミが話題を切り替える事で空気をいい意味で破壊してくれた。

 

タキガワも皆の雰囲気を変えようと何気なく

「それにしてもチェンジャーさんでしたっけ?髪長いですね。」

と、チェンジャーの長いさらりとした髪の毛を見て言ってみた瞬、

 

「髪?」

どこからともなく、そんな一言が聞こえたと思いきやタキガワの手からキンセツが消えていた。

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