使うモノ語り   作:イヤマナ ロク

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第16話 進化の途中か?

バブルでの爆発事故から一ヶ月半──

生き残った市長とその他の職員によって急ピッチで復興が勧められる激動のバブルでキンノミヤ、ザッド、リン、そしてハーズ。

事務所の面々は次々と次々と目を覚ましていた。

 

ユーザ、ただ1人を除いて。

「ユーザ、そんなに打ちどころが悪かったのか?アイツはウチの稼ぎ頭としてもっと働いて欲しいんだが…こんな所で死ぬな!オレが稼げないだろうが!」

 

「キンノミヤ……最低だよ。…」

ハーズがボソッと呟く。

 

「オレっちがもっと、ちゃんと安全運転してれば、そもそもペキオラちゃんを諦めて早く運んでやれば…ううっ…」

リンはユーザを載せていた自分に責任を感じ何かにつけていつも泣いていた。

そこに今までのひょうきんな姿は無い。

 

「泣くなリン……そもそも我が悪いのだ。我が調子に乗っていたばかりに…そもそも怪しい依頼を疑いもしないで受けてしまったが為にこんな事件が起きてしまったのだ。絶対許されない。事件を起こしてしまった。」

ザッドは海の男になって傲慢になって自分を反省していた。

毎日自問自答を繰り返してはため息ばかりを吐く毎日を送るばかりになっていた。

 

「ボクは、一番近くにいたのに…一番一緒にいたのに…何にも守れなかった。ユーザの事、何一つ…!」

ハーズは大粒の涙を垂れ流し言葉を絞り出す。

各々が今回の件で負目を感じ、病床は険悪な雰囲気で覆い尽くされていた。

 

当のユーザはどうかと言うと

「だーかーらー!違うって言ってんでしょ!進化も退化も無いのオレは人間なの!!」

「でも……進化の途中か?」

「お前さっきからそれしか言ってねぇよなオッチャンよ!」

ユーザは夢の中でもツッコんでいた。

 

ユーザは夢を見ていた。

不審者に絡まれる夢を。

ユーザは何もない白い空間で初老の男と2人ぼっちだった。

彼の容姿は小太りでベージュのパンツに深緑のトレーナーの上下を着ていた。

そんな服装に似合わないかしこまって黒いハットを被っている。

顔と表情は掴みどころがなく何を考えているかもよく分からない、街中で見ても5分後には忘れているような顔だった。

そんな彼の放つ言葉は決まって

 

「進化の途中か?」

だったのだ。

 

「?」

ユーザは訳がわからなかった。

どれだけ会話を試みても

「進化の途中か?」

それ以上の言葉を引き出そうとしても

「進化の途中か?」

 

ただでさえ平衡感覚の狂いそうな白い空間にいるのに同じ事しか言わない不審者に絡まれると本格的におかしくなりそうだった。

ユーザは次第に男とこの状況に畏怖を抱き始める。

(関わっちゃいけないタイプの不審者だ。逃げよう!ココドコか分からないけど、逃げよう!)

 

ユーザは間髪入れずそのまま逃げ始めた。

どこまでも続く空間に酔いそうになる感覚に耐え抜きながら彼は懸命に走った。

不思議な事に体が軽く体力が切れない。

永久に走れそうだった。

 

「ハァ………ハァ………だいぶ走ったな。」

体の不思議な感覚に終わりが見え始め、汗が少しずつ出始める。

筋肉が乳酸を溜め始め、心肺と鼓動がピッチを上昇させる。

「ダメだぁ!もう無理、絶対ムリ!」

やがてユーザは脚を止めてしまった。

体感的にはありえない距離を走った。

その事に驚きつつ顔の汗を拭いながら、ふと考える。

 

「ちょ待てよ………バブルはどうなったんだ?ハーズやキンノミヤは?市長も?生きてるのか?そもそもココドコだ!あのおじさんも……オレ、どうなってんだ?……」

ユーザは身の回りを見渡しハーズを左腕に付けてないことに気づき始める。

 

「うんうん。だからこそ……進化の途中か?」

「いやー流石にここで進化は違うでしょ……ってウワァ!!」

立っていたのだ。『進化の途中か?おじさん』が背後に。

 

ユーザは本気で恐怖する。身の毛がよだつのをこれでもかと感じた。

(この人何なんだ……?)

おじさんは少し汗をかいていた。それもほんの少し、ユーザの10分の1の量。

それが逆に怖さを引き立てる。

だが、ユーザはそれを態度には出さず何とか踏ん張って即座に臨戦体制をとる。

「ハァ……アンタ、下手な怪人や怪獣よりよっぽど怖いぜ。」

 

構えるユーザの姿を見て

「進化の途中か?」

おじさんは「あっそう」とでも言うように頷いてその言葉を呟く。

 

「あっおい今、相槌で『進化の途中か?』って言ったな?絶対やったよな?お前そりゃあいくら何でもナシだぜ?そこまでやられちゃあオレ何も言えねぇよ。」

ユーザの言葉に対し

「進化の途中か?」

おじさんは首を傾げる。

 

「あっまた言った!マジで辞めろよ。もうね100歩譲って会話の中で言うならいいよ慣れたから。でもせめて『うん』『はい』『分かった』ぐらいは使ってくれ頼むから。」

ユーザはいつのまにか構えを辞めて頭を下げて頼み込んでいた。

「進化の途中か?」

おじさんは「そんなダメ〜?」と言いたげな表情を作る。

 

「うんやっぱ相槌でそれは無いわ、マジで慣れないから。」

ユーザはバッサリ言い張った。

 

するとおじさんはパッタリ黙り始めた。

おじさんが黙りだしたのと同時にユーザの耳に別の声が入り始めた。

 

「今度は何だ?」

ユーザはおじさんを舐めつけるように見る。

おじさんは「知らない知らない!」といった様子で首を横に振る。

 

「えっじゃあ何?…」」

ユーザは目一杯耳をすます。

(何これどういう事?)

聞こえてくるのは複数の啜り泣き声のような声だった。

おじさんはユーザに左腕を自分の耳に添えるように身振り手張りで伝える。

「……左腕?」

左腕に耳を置くと、

 

「ハーズ!?でも付けてないし、えっキンノミヤ?リンに、ザッドまで!何で!?」

ユーザの視覚と聴覚に啜り泣いている彼らとベッドで罵倒だにしない自分の姿が映り出す。

この怪現象に気が動転する。

 

それを見ておじさんはニヤニヤする。

「なんか知ってんのか?」

ユーザは真相を懇願する。

するとおじさんは

 

「それは…」

「それは?」

 

「進化の途中か?」

イタズラめいた表情ではぐらかした。

「結局それかよぉー!」

ユーザは渾身の左ストレートをおじさんに放った………はずだった。

 

「え?」

いつの間にか見知らぬベッドの上に立っていた。

そして眼前にはハーズを付けた自分の左腕がキンノミヤの顔面に当たっている光景が見えた。

 

「ぎゃああ〜!!」

壁を突き破りキンノミヤは遥か彼方へ飛んでいった。

「ユーザが起きた!」

「済まなかった!」

「知らないちゃ〜〜ん!!」

三体の付喪神達が寄りかかってきてユーザはベッドに倒れ込む。

 

「えっ布団じゃなくてキンノミヤがふっとんだ?えハーズがないのにある?……てか何で泣いてんの?えっはっえぇ!何!何の何の何ぃー!」

夢から覚めたユーザは何もかもが訳がわからず叫ぶしかなかった。

 

そんなユーザの様子を診療所の外のある建物の屋上からおじさんは覗き込みながら

「色んな人やモノに愛されてるじゃあないか。」

の意を込めて微笑みながら

「進化の途中かぁ…」

と呟いたのだった。

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