使うモノ語り   作:イヤマナ ロク

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第37話 2人もいらない二つもいらない

「えぇ〜!出発まで後一週間もないのにまだ依頼受け付けんのか?!」

「当たり前だ。」

キンノミヤは机に座りながらキッパリとユーザに言い張る。

 

「ストリーム水族館と超常大陸の件が落ち着き、診療所でもしっかり休めたんだ。」

お茶を飲みながら当然のように答える。

「実際に出発準備のその他諸々考えても、ここにいるのは見積もって3、4日ぐらいだぞ!そもそも依頼も来てるのか?一ヶ月以上もまともに営業してないのに……」

「ごちゃごちゃうるさーい!」

キンノミヤが机を叩いて怒鳴る。

 

「オレは事務所の所長だぞ!オレがやるって言ったらやるんだ。もう看板だって変えてある。」

「えっマジで!」

ユーザは事務所の外に出て屋根の看板を見やる。そこには大きい文字で『ハッピー・マテリアライズ』と書かれていた。そして横にもう一つ同じぐらい大きな文字で『閉店セール!今なら依頼料半額!!友達紹介でさらに半額!!』という看板も新しく書かれていた。

「いつ仕込んだんだよ……」

「どうだ?お陰で依頼もメチャクチャ来てるぞ!朝からてんてこ舞いでうれしい悲鳴が止まない〜〜!!」

キンノミヤがその後嬉しさのあまり奇声をあげる。

 

「で、この15枚の手紙全部依頼なのか……」

「ユーザの分はな。」

「ユーザの分って……えっまさか朝からタキガワがいないのって……」

ユーザは冷や汗を出す。キンノミヤはとびきりのニンマリ顔でユーザの顔を見て肩に置く。」

 

「いいよいいよ!その調子で頑張ってぇ〜。」

「あっはい!」

(意外とキツイなコレ……)

「あっキツいって思ってるっスよね……同感です。」

ユーザはウォータスの大衆浴場で風呂掃除をしていた。モップのモルプの依頼だ。

「風呂掃除でモップなんて珍しいよな」

「ブラシじゃ出来ない鏡掃除や窓掃除も出来てある程度人間無しでも動けるので意外と気に入ってもらってるッス。でも、色んな所の掃除に駆り出されるので結構キツいっすね。」

モルプはため息混じりに言う。

「そうなのか。てかコレ……お前をかこつけてただ人手が欲しかっただけ説無いか?」

「多分そうっすね……」

「でも依頼が立て込んでてな。早いとこ片をつけなきゃなん無いんだー!」

「いやぁなんか大変っスね……」

 

「いやぁーこんな短時間でここまでやってくれて助かるよ。普段から手が回らない所までやってもらって済まないね。」

「いっいえ。別にこれくらい。」

「ハイコレサービス。ありがとね。」

ユーザは依頼料とは別に1万カレンもらった。

「さぁ〜次々!」

ユーザは早速次の依頼場所へひたすらペダルを漕ぐ。

 

ユーザが次に来たのは大豪邸だ。

「なんでお前が先生に気に入られてんだよ!ふざけんじゃねーよ!」

「お前がブスだから悪いんだろが!」

「ブスじゃねーよ!キズモノ女が!それが無かったら見向きもされない癖に粋がってんじゃねーよ!」

言い争っているのは双方とも花瓶の付喪神だ。

「キズモノ?金継ぎだよ!!コレをキズモだなんてまぁ〜教養のない事。」

「まあまあ落ち着いて?ここは一旦先生本人に話を聞こう。」

ユーザは2人の花瓶を掴んで一触即発を防いでいた。

 

それを横目で見ていたのはザッドと花瓶のビンスケだ。

「これは……どういう状況なのだ?」

「いやぁ見ての通り花瓶の姐さんたち何やけどな、持ち主の先生言われとるカガイっていうやけどな、」

「カガイ?何処かで聞いたことがあるな。」

「世界的な画家や。それで、その先生気に入られたくて熱くなっとんねん」

 

「つまり確かに世界に名の知られた男のお気に入りアイテムになりたくてシノギを削っていると。女の敵が女なのは付喪神でも変わらぬのだな。それにしても其方覇気が無くなったな。」

ザッドはビンスケの掠れた声を聞いて中古屋にいた時の陽気な感じが無くなっていることに気づく。

「昼も夜もあの調子やからロクに眠れんねん。で何とかしてほしいから先生に隠れてコッソリ依頼したんや。これ以上は頭おかしなるでホンマ。」

 

「貴方がカガイ先生。ですよね。」

「なっ何だねキミは?突然。……どうして私の花瓶を両手に持っている。」

カガイは自身のアトリエで絵の作成真っ最中だった。突然のユーザ訪問にとても驚いている。

「単刀直入に聞きます。先生はどちらの花瓶がお好きですか。」

ユーザは2つの花瓶をアトリエの机に置く。一つは素朴な出立ちでありながら金継ぎが目を引く一品。もう一つは職人のこだわりが光る。細かい造形が施された物。

 

「2人とも先生の事を本気で思っているんです。この際ハッキリさせましょう!」

「そんな突然言われても……」

「「どっちが好きなの!!」」

カガイは顎に手を当てて目を瞑る。その後熟考時間実に30分。

「う〜〜〜ん………………。」

ユーザと花瓶達はもう呆れていた。

「そろそろ良いですか。」

その瞬間目を見開き椅子から立ち上がったカガイはついに口を開く。

「決められない。」

「は?」

「ボクにとって芸術作品は優劣をつけるモノではない。一人一人が見て聞いて触って感じた思考に至る前の感覚。それが評価なんだ。そしてここにある2つの花瓶。どちらもボクは一目惚れして買った。その一目惚れがボクの評価だ。好きだな嫌いだの言うのは愚問だ。」

それを聞いて花瓶とユーザはワナワナ震えていた。

「どうした?」

「…30分待たせてそれかーー!」

ユーザはカガイを殴る。

「ぐはっ!」

「どっちが好きか嫌いか。イエスかノーか。で答えろつったよな?決められないって何だよその上で一目惚れ?ふざけんな!」

ユーザはカガイの胸ぐらを掴んでさらに続ける。

「最初本気で思ってるって言ったよな?その気持ちを鑑みて答えたのか!どうせ他の物にも一目惚れだの優劣は無いだの言ってんだろ!イケメンだからって何でも許されると思うなよ!」

その瞬間、カガイ邸に飾られている骨董品がアトリエにやってきた。彼女達はカガイに誑かされた被害者らしい。

「やっちまえー!」

ユーザの掛け声とともに付喪神達はカガイに突進していく。

「お前一目惚れって言葉他の女にも使ってたのかよ!ふざけんな!」

「乙女心弄びやがって!」

「この指輪輝いてる物は無いって嘘だったのかよ!!」

「まっ待て!ちょっと、うわああああ。」

騒ぎを聞いてビンスケ達もやってきた

「なんやコレ……」

「解決でいいか?」

ユーザは笑顔でビンスケに尋ねる。

「まぁ……ええか。」

「良いのか!?」

 

その後依頼先に来てユーザは顔を白目を剥いた。

「どうしようユーザ!」

「どっちが本物か分かんなくなっちゃった!」

「「助けて〜!」」

2人のバカ医者に出迎えられたからだ。

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