使うモノ語り   作:イヤマナ ロク

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第69話 家いえいえ、怖いのはムリ……ならば招待を明かせぇ!

「おっ、帰れた!」

テイの指示に従った結果、ユーザ達は無事にライドエンプに戻る事が出来た。

先程までの風がなく、代わりに日光が彼らを出迎える。

そして、ユーザの持っていた手紙が手を離れ浮き始めた。

 

「え?何…… !変わった?」

ユーザが慌てているとそれは長方形の塊になってユーザの元に落ちてきた。

「はっ?お金だ…………にーしーろー………10枚だ。」

それは1万カレン紙幣の束だった。

ユーザはめくって数えると丁度10枚だった。

「依頼料のつもりかな?」

「やっぱ魔法って凄ぇな……」

 

「ただいま〜ってん?何だあの人だかり?」

事務所に戻るとそこには炎天下の中入り口の前に行列が出来ており特に女性客が多い。

そして中からも何人か出てくるが、客は皆笑顔だった。

「キンセツの美容院上手く言ってんだ。」

「なおタキガワの負担は考慮しない。と言ったところか。」

「あの、もしかして、貴方ってここの従業員さんですか?」

 

先程、出てきた客の1人が声を掛けられる。

「はい。そうですが何か?」

「ここのカット凄い良かったです!ありがとうございます!絶対また行きます!」

「でも、何でオレに?あの切ってた人には言えばいいのに。」

 

タキガワの事を示すと客は

「あの人タキガワって言うんですか?何かこれは私ではなくキンセツの手柄なので礼はいりませんって真剣に言ってました。」

「へぇ〜確かにそう言うかも。」

「でも、タキガワさんも何か落ち着いた感じが良かったです〜。あと、頭洗いとマッサージもやってくれる方もいたんですけどそれがすごい気持ちよくて。」

うっとりした表情で彼女は当時の様子を語る。

「普段はタキガワさんに強く当たってるんですが、客相手だと、すごく優しい声で話してくれて手の動きも相まってすごい癒されたんですよ。」

 

「タキガワに強く?キンノミヤか?」

(確かに、初めて会った時は気持ち悪いくらい優しい声だった気がするな。今は見る陰もねぇけど。)

「ありがとうございました!」

そんな事を考える内に客は朗らかな足取りで去っていった。

 

そして中に入ろうとすると

『従業員出入り口はあちら。』

という看板が新たに付けられていた。

「ん?あっち行けってコト?」

ユーザは普段使わなかった後ろの扉から中に入った。

「ユーザ!ただいま!」

「おかえりだろ。戻ってたのか?」

 

中にはシャーバランとバカ医者がいた。

「ユーザさん達、無事でしたか?」

「何とかこの通り。魔法使いが依頼相手で凄い物見せて貰ったよ。」

ユーザが魔法の事を色々話しているとキンノミヤがドタドタ走りながらやって来た。

 

「ユーザ!戻ったのか。大丈夫だったか?」

「あぁ。むしろ過去の情報も聞けた。ほらよ、」

ユーザは不意に札束を投げる。

「なっ!?金を粗末に扱うな全く、」

キンノミヤは金を投げる事に怒っていたが視線はユーザをずっと見据え腕だけでキャッチしていた。

 

「あぁ、あの領収書。払ってもいいがその代わり、給料は引くぞ。この事務所の金の管理はオレがやってるからな。」

「別にいいよ。嫌がらせのつもりだし。」

「なっ……!じゃあこっちも嫌がらせだ!」

キンノミヤは懐から依頼の手紙を投げてきた。

 

「最近廃屋からうめき声や泣き声や笑い声が止みません。これっていまうわさの付喪神ってやつですか?調べてみて下さい。ですって。」

同行したシャーバランが文を読み上げた。

「廃屋なら長い年月が経ってるから付喪神がいてもおかしくないよね。」

ハーズがつぶやくと同じく同行している雅之が尋ねる。

 

「そもそも、付喪神ってどうやっ生まれるんです?」

「キミ、付喪神なのに知らないの?不思議だなぁ。」

(まぁオレ転生者だし。なんか半分付喪神みたいなも

んだけどさ)

「いやまぁ………はい。」

「付喪神が生まれるのは長い年月が経つ、これでもかと大切に扱ってもらえる、感情よ激しい起伏や大きな衝撃によって魂が宿るんだ。ボクは……記憶喪失で分かんないんだけどさ。」

「なるほど……」

(そっか、ユーザさん意外にも記憶喪失いたのか。でもハーズさん意外とボロいし年月が経ったから?いや意外大切に扱われてたかも?激しい起伏って……アバウト過ぎる!うーーん分からん!)

 

「ここだ。」

手紙の地図を見てユーザ達は廃屋に辿り着いた。

「いやぁ待ってました。シムシムです。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

依頼人は10代後半くらいの男で横に友人一緒にいた。

「ここの廃屋ってボク達子供の頃からあったんです。」

 

「たまに探検とかして遊んでたんですが……」

3日前、偶然シムシムが廃屋の前を通ると

「最初に聞こえたのは泣き声なんです。んで、こっちのゾマーも」

「オレもうめき声を聴いたんですよ。空耳とは思えないくらい大きな声で。んでシムと一緒に確かめにいったら」

2人が廃屋に足を踏み入れた途端歓迎するかのように大音量の笑い声がやって来て2人とも逃げ出してしまったのだという。

「で、依頼したと。早速入ってみるか。」

「ボクらはもう怖いんで、お願いします!」

 

ユーザとシャーバランは2人の相手をリンとザッドに任せて廃屋に足を踏み入れた。

中は薄暗く、カーテンはボロボロになり、蜘蛛の巣が至る所に張っている。

そして

 

「なんかあの棚動いた?」

「そうなのか?」

ハーズがある棚を指差した途端

「ひぇぇぇぇええええ!!!」

突然叫び声が鳴り響く。

「ああっ!ダメだ!オレもう駄目だ!戻ろうシャーバラン!」

 

雅之が懇願するが、彼女は進んで行った。

「依頼はちゃんと解決しないと。」

「でも、こんな、な、怖いってぇ……」

彼女はユーザよりも奥へ奥へ進んで行った。

すると

「キャアーーーーー!!」

「イッヒヒヒヒヒヒヒイィ!」

シャーバランの叫び声と共に誰のものでもない引き笑いが聴こえた。

「シャーバラン、マサユキィ!大丈夫か??」

ユーザは声の方に走り出す。

 

「大丈夫か!」

ユーザがシャーバランの元へ駆けつけようとすると

「おわっ!」

突然何者かに右腕の袖を引っ張られる。

視線を移すとそこにはさっきまで開いていたはずの扉が勝手に閉まっていたのだ。

「何だこれ……んぐ……取れない…」

ユーザが扉を開けようとするが中々開かない。

ハーズも手伝うがビクともしなかった。

 

「ユーザアレ見て!」

「え?何?」

ハーズが指差した方向を見やると台の上で微動だにしていなかった色褪せた壺がこちらに向かってきた。

「付喪神か?」

「いや、付喪神の魂が感じ取れない!」

向かってきたのは付喪神ではないただの壺だった。

その事実が余計不気味に思える。

「うわいきなりっ!」

さっきまで開かなかった扉がいきなり開きユーザは思わず倒れ込む。そして間髪入れず

「わっ!前が、あぁ!」

窓にかかっていた古びたカーテンがユーザを包み込む。

その上

「ぎゃああああああ!!」

雅之の叫び声も向こうから聞こえる。

「行かなきゃ……ああ取れない!」

ユーザはもがくがカーテンは解けるどころかどこまで

もユーザに絡みつき離さない。

 

そしてユーザの耳元で

「ああっあはぁはぁ………はあぁはははぁははぁ!!」

とても上擦った声の笑い声が大音量で聞こえてきた。

「うるせぇ!なんだこの声!?ハーズお前だけでも!」

ユーザは身の危険を察知し、ハーズを手から無理やり外しカーテンの中で腕を伸ばしかろうじて作った隙間にハーズを投げ込む。

「ユーザから離れろオラァ!」

ハーズはユーザを包むカーテンに向かい

「破壊!」

ハーズは拳骨をカーテンに打ち込む。

「ぎゃあ〜〜ぁああ〜ああぁあ!!」

カーテンにぽっかり穴が空きユーザはそこから脱出する。

 

そして笑い声と似た声色で絶叫が室内にこだまする。

「んなぁーーーー!!殺される殺される!呪われる呪われる!お化けに魂が掠め取られ、引きちぎられ、ほじくられてしまう!もうダメだ!お終いの先にいるんだああああ!!!」

声は饒舌早口になり、その後聞き取れないほどの声でうめき出す。

 

「多分ここの廃屋そのものが長い年月を経て魂を得た付喪神なんだ。で、何かトラウマがあってこんな風になってんだと思う。」

「なるほど……心霊屋敷の正体は付喪神だったって事か……」

ユーザは廃屋の付喪神に優しい声で呼びかける。

「呪わないし、殺さない!オレ達は話を聞きたいだけだ、落ち着いてくれ!」

「ボクらは何も危害を与えるつもりは無いよ!少しでもいいから耳を傾けてくれないかな?」

「…………………」

 

ユーザとハーズが呼びかけるが返事は全く無かった。

別室でシャーバラン達も呼びかけていた。

「あの、さっきはビビってゴメン……いや気持ちは分かるよ?突然来たらさ、そりゃ驚くよねオレも驚くからさ。ちょっとあの………一応話してみなよ?オレ何出来るかわかんないけどさ。まぁ………潮風に当たって海を見れば良いんじゃない?」

「いやいやシャーバラン、こんな暑い国の砂浜なんて暑過ぎてウォータスみたいにゃ行かないよ?」

「そっか……」

雅之が彼女をたしなめる。

 

「大丈夫だったか?」

ユーザ達がシャーバラン達の元へやって来た。

「いや大丈夫です。ちょっとゴキブリの群れがやってきただけです。」

「おっ……それはおつかれ……」

ユーザは顔を引き攣らせる。

「ユーザ、もしかしてあの時のトラウマが?」

「いや大丈夫。一応、状況を整理しよう。」

 

ユーザは咳払いでゴキブリの頭の中から消す。

それからこの廃屋が付喪神の可能性が高く、依頼人の言う声もその付喪神の物だと思う事を説明した。

「どうするかな〜?完全に殻に閉じこもってるから手の施しようが無いんだよな。」

ユーザ達が廃屋内で頭を捻っていた。

 

その頃、外には廃屋内の大声を聴いた近隣住民が野次馬となり入り口の前にやって来ていた。

「何なんだ?割と離れてんのに結構うるさいな……」

キンノミヤも野次馬の中にいた。

「ん?アイツらは…」

キンノミヤは廃屋の前に見覚えのある釣竿と自転車がある事に気づく。

「そうか、ユーザは依頼でここに来てたのか。」

 

「なーんか大事になってきたって感じね〜。」

「うむ。やはり行った方が良いだろう。幾ら何でもあの絶叫はあまりにもおかしい。」

シムシムと一緒にいたザッド達が中に入ろうとした時「ザッドとリンだけで何やってんだ?ユーザはどうした?」

「その声は……キンノミヤか?」

野次馬を掻き分け、キンノミヤがやって来た。

 

「お主こそ事務所はどうした。あの客の量じゃこんな所で水を売っている暇は無いであろう。」

「いやぁアレはもう予約制にした。今日の客は一旦明日来てもらうことにした。人気なのはいいが2人で捌く量じゃ無いなアレは。」

バカ医者が働き手にカウントされていない事には誰も疑問を呈さず、話は続く。

「余りにもうるさくて事務所まで聞こえたからな。ちょっと来たんだよ。心配だし、見てもいいか?」

「あぁ我らもそうする所だった。」

 

「うーん……………」

ユーザ達は未だ考えを張り巡らせていた。

「てか、この呻き声のせいでなんか、集中でき無いんだよなぁ〜」

ユーザは目を伏せながら言う。

「分かる。慣れるどころか、むしろ嫌に入ってくるよね。」

「でも今止んだよ。」

シャーバランが不意に口にする。確かに止まっていた。

「何で?」

「海の声を聞かせたのだ。」

 

ユーザ立場が振り返るとキンノミヤがザッドを持って立っていた。

「なんでお前が?」

「あー説明がうっとうしい。かくかくしかじかだよ。」

「そういう事か。」

ザッドはパッタリ止んだ声の主に呼びかける。

「一体何があったか言ってみろ。海の声を聴き落ち着いたであろう。」

丁度いい音量で声は話し始めた。

「はい。ワタシはトレロって言います。この家その物です。そのこんな事してごめんなさい!」

「あぁいいよ別に。とにかく理由を知りたいから。」

ユーザが尋ねると思いがけない答えが返ってきた。

 

「なんかうめき声が聞こえてくるとか、扉が突然閉まるとか、そんな怖いウワサを聴いてパニクってしまってですね!その」

「ちょっと待って!そのウワサもしかしてキミ自身じゃない?ホラ、さっきオレ達やった事思い出して。」

「え?……………あっ!」

 

真相が分かったようでトレロから気の抜けた声がする。

「はぁ〜そういう〜ごぉめんなさぁい〜!」

「なるほどな、お化けの正体を自分自身で招いたタネだったと。」

「でもやっぱ不安で!なんか気持ちを入れ替えたいというか……」

「気持ちを入れ替える?家で入れ替えるなら、家具とか?」

ユーザが提案するがトレロは

「いえ、なんかもっとガラッと変えたいというか…わがままいってすいません………」

「となるとリフォームか。でも、廃屋を勝手にリフォームなんてしちゃダメだろ?」

ユーザが呟いているとその間キンノミヤは顎に手を当てていた。そして

「トレロ、アンタの内装全部見ていいか?」

「あっはい、」

そしてキンノミヤは内装をの隅から隅まで吟味する。

 

そして見終わった後キンノミヤは

「……分かった。この家、周辺の庭とかも含めて買った!」

堂々と宣言した。

「えぇ!?買うの!?」

一同が驚く。

 

ユーザが思わず尋ねた。

「何で?」

「こうでもしないと依頼解決にならないだろ?」

「金は?」

「バブルからの支援で結構たんまりもらったし、言うて安い土地だし大丈夫だろ。まぁオレはこういう時は即決だ。買うったら買う。誰がなんと言おうがな。」

「普段がめつい癖にこういう時は思い切りが良過ぎるだろ!」

「じゃなかったら今頃付喪神で商売なんてやらないぜ?」

 

そしてキンノミヤはトレロを買いリフォームする事にした。

コンセプトは『お化けのおの字も感じないとにかく明るい建物』。

この漠然としたコンセプトを聞いた建築士は頭を抱えたという。

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