最強騎士の優雅なる学園生活   作:ピグリツィア

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少女よ、最強であれ

 嫌々ながらもベッドから出た私は、イザベルとの会談の場を設けるべく使用人に命じてお茶会の場を整えさせる。

 そうして席についた私たちの前に出されたのは普通の紅茶だったが、それを見たイザベルは目を丸くする。

 

「あら?香りからチョコレートが出るものかと思っていたのですが…」

 

 イザベルの言う通り、室内はチョコレートの甘ったるい香りに満ちている。この香りを嗅げばチョコレートが出ると考えるのも無理はないだろう。

 

「そちらは菓子ですね。菓子にチョコレートを使うのに、飲み物までチョコレートだと少ししつこいので」

 

「なるほど…チョコレートを使ったお菓子については聞いた事がありますが、食べるのは初めてです!」

 

 リディル王国でチョコレートが流行り始めたのは最近だ。現在は各所でチョコレートの使い道を模索している段階なので、チョコレート自体の値段も相まってチョコレート菓子を食べる機会は滅多に無い。

 

「クッキーにケーキ…どれもチョコレートが使われているのが分かりますね」

 

「シェフが好奇心の赴くままに作っているそうで。ここ最近はずっとチョコレートです」

 

 私が最近の流行りに乗るべく、多めに仕入れたチョコレートだが…非常に不本意なことに、最近は同級生との交流も少なかった影響で死蔵されていた。それに目を付けたのが我が家の専属料理人だ。

 最近はケーキやクッキーの生地に練り込むのを皮切りに、あの手この手でチョコレートを活かしたお菓子を作っている。失敗作も多々出ているらしいが、最近はコツを掴んだのか食後に新作のチョコレート菓子を出してくる事も多い。

 

「これは…見た事がありませんね?チョコレートを使用したお菓子なのは分かりますが…」

 

「試作品の携帯食です。前線兵士の嗜好品として開発しているのですが、やはり保存性が課題ですね」

 

 その中でも一段と『我が家らしい』お菓子が、この飾り気の欠片も無い、黒茶色でブロック状のケーキだ。

 長方形の塊から切り出されたこれは、本来クッキーのような硬い菓子だったのだが…今回は貴族向けの茶菓子用に、普段よりも柔らかくしっとりと仕上げられている。チョコレートの含有率も高く、まさに食べるチョコレートとも呼べる味わいだ。

 

「これ、とっても美味しいですね!」

 

「ええ。ですが元が携帯食という事もあって、貴族用のお菓子として出すには少し彩りが足りないんですよね。味もチョコレートが強くて飽きも来やすいですし」

 

 この菓子は保存性と携行性を重視しているので生地に混ぜ物はしていない。ナッツ類であれば保存性に大きな影響はないだろうが、果物類を混ぜ込むのはこうしたお茶会の場面に限られるだろう。

 この菓子の見た目は非常にシンプルだ。シンプル過ぎて貴族のお茶会に出すには少しだけ憚られる。味に関しては申し分無いので、貴族としての観点からイザベルに助言を求めたい。

 

「ふむ、適当にクリームや果物を添えれば良いのでは?」

 

「そんなもんですかね」

 

「ええ、案外その程度でも満足してくれますよ。これは目新しいお菓子ですからね」

 

 貴族というのは私が想像していたよりも単純らしい。もしも次にこの菓子を出す機会があればイザベルの勧める装飾を付けてみよう。

 

 

 そうして暫く、紅茶と菓子を楽しみながら雑談に興じる。最近の学園内の状況や、学祭に向けた作業の進捗…そして、先日の不審者騒動についての話へと移っていく。

 

「そうですか、お姉様が不審者に…」

 

「はい。ですが難無く拘束から抜け出して反撃に転じていたようです」

 

「おお…さすがにお姉様は格が違いますね」

 

 不審者と遭遇した時のモニカの行動を伝えれば、イザベルは夢見る乙女のように目を輝かせる。知ってはいたが、イザベルも相当な沈黙の魔女ファンらしい。

 

「それで、そこに駆けつけたレノ様が不審者の拘束を?」

 

「はい。徹底的に叩きのめしました」

 

「…その不審者は、亡くなってはいないんですよね?」

 

「当たり前じゃないですか。モニカが側にいる以上、仕留めなければどうにもならない状況なんて滅多にありませんよ」

 

 どうにもこの国の貴族は、私が人に手を出したと知ると相手の生命を危惧する傾向がある。普通に失礼だ。

 そもそも必要でない限り殺しはしないし、間違って殺すなんてのは以ての外。私の手にかかれば生捕りも余裕だ。

 

「今回の相手は確かに少し異質でしたが、それでも苦戦せずに倒せる程度の相手でした」

 

「レノ様やお姉様が苦戦するような相手ともなると、国家存亡の危機ですね」

 

 イザベルの評価の通り、万が一にでも私とモニカが揃って対処できないような相手が現れたら、殿下の命令を無視してでも七賢人の派遣を要請するだろう。それくらい私は最強だし、モニカは天才なのだから。

 

「今回の不審者はやけにきな臭い相手でしたが…まあ、そこら辺を調べるのは『専門家』に任せますよ。今の私では何もできませんしね」

 

 例の変質した肉体を見れば、少なくとも表の人間でない事くらいは容易に想像がつく。必要であれば、ルイスが『精神関与魔術(穏便な手段)』で情報を抜き取ってくれるだろう。

 

 ともあれ、比較的穏便な形で収まったチェス大会の話題を切り上げ、最終的に私の身に起きたこと…学祭の強行と、私が殿下の護衛を解任された話に行き着く。

 

「……私だって、別に殿下の護衛をやりたい訳じゃないんです。業務上仕方なく、という面もありますが…一番の理由は、近くで人死が出て欲しくないだけなんです」

 

「ええ、そうでしょう。誰だって目の前で人が危機に瀕しているのをただ見過ごす事は出来ないでしょう。それが人を守る騎士ともなれば尚更ですよね」

 

 私の内心を愚痴の様に零すと、イザベルはそれに同調する様に頷いてくれる。イザベルにもイザベルなりの苦労があるのだろう。

 

「それなのに、いつもいつも貴族どもは私を縛り付けて…人命よりも利権や見栄を大事にするんです」

 

「ええ…分かりますよ。東部の貴族も、利権に縛られる身ですしね」

 

 東部の貴族たちは常日頃から竜と戦い、他国からの侵略に備える必要がある。それなのに中央の貴族たちは東部の貴族たちに軍縮を要請しているのだ。

 理由は幾つかあるが、大きな要因の一つに『軍隊は何かと金を食う』という理由がある。

 人材育成の為の訓練設備に兵器の生産や開発、兵士に対する給金などなど…無為に資金を貪っている訳ではないが、それでも少なくない公費が投じられているのは事実だ。

 

 ケルベック伯爵家はそんな東部の貴族たちを代表し、中央からの資金供給を縮小させない為に行動している。イザベルもその仕事を知っているからこそ、私の愚痴にも真摯に頷いてくれるのだろう。

 

「だから私は、そんな物に縛られない為にこの地位を手に入れたのに…今回はこのザマです」

 

「そんなに自分を卑下しないでください。レノさんは十分頑張っていますよ」

 

「駄目なんです…私はもっと頑張らないと。私が守らないと……」

 

 こうして自らの力が至らないと感じた時、いつも()()()()を思い出す。それと同時に、言い様も無い恐怖心が込み上げてくるが…それを噛み殺し、表に出さない様にする。

 

 私は最強でなくてはならない。一度そうなった以上、甘えや怠慢でその座を降りる事は許されない。今だってそうだろう。貴族に少し抑圧された程度で諦める訳にはいかない。

 

「……レノさん?」

 

「だって私は、最強なんですから」

 

 いつも通り、自分に言い聞かせる。誰もが疑うことのない事実…私が最強であるという事。そして、それに伴う義務を果たせと。

 

 私の手は小さく、届く範囲はとても狭い。それでも強力なのだから、手の届く範囲の人は救わなければならない。

 今もこんな所で無為に時間を浪費する暇があるのなら、竜を狩りに行くべきだ。しかし、ここで私のやるべき事を放棄する訳にもいかない。だから、耐えなければいけない。

 

 やはりどんな手を使ってでも殿下の護衛に戻るべきだろうか?いや、殿下の目に映らない様に、密かに護衛体制を整えるべきだろうか。

 とりあえず、今からでも動くべきだろう。学祭までの時間は短いし、殿下があの様な手段に出た以上、私にも監視が付いているだろうからモニカは頼れない。私一人でどうにかしなければならない。

 

「やっぱり、仕事はしなければいけませんよね…ごめんなさい、イザベルさん。落ち着きましたから、もう大丈夫です」

 

「これ、は…」

 

「どうしましたか?イザベルさん」

 

 ようやく冷静になり、私に課せられた『役割』を思い出して、モニカの任務にも協力しようと思い直したと言うのに…私に向けられるイザベルの視線は、驚愕と困惑の色で染まっていた。

 

 


 

 

「だって私は、最強なんですから」

 

 その言葉を発したレノ様の顔を見て、(イザベル)は心臓が縮み込む様な錯覚を覚えた。

 

 正直に言うと、私は今回の件についてあまり重く捉えていなかった。

 「お嬢様がぞんざいな扱いを受けて拗ねているので、友人として励ましてあげてもらえませんか」とレノ様の所の使用人が訪ねてきた時は驚いたが、それでもレノ様ならばすぐに持ち直すであろうという確信は持っていたから。

 そしてその予想は、確かに大きく外れている物では無かった。予想から外れていたのは、レノ様の行動原理に対する私の理解だ。

 今のレノ様の瞳は、使命感に燃え決意を固めた騎士の物では無く…義務感と焦燥感に駆られたか弱い少女の物だった。

 

「やっぱり、仕事はしなければいけませんよね…ごめんなさい、イザベルさん。落ち着きましたから、もう大丈夫です」

 

「これ、は…」

 

「どうしましたか?イザベルさん」

 

 ケルベック伯爵家の人間として多少は前線に赴く騎士の機微を学んだ私から見て、これは明らかに放置しては駄目な状態だと察する。

 兵士が『壊れる』要因は、何も肉体的な損傷だけでは無い。常日頃から命のやり取りをする者は、肉体に傷を負わずとも心を擦り減らし続ける。それは痛い程に理解していた。していた()()()だった。

 私の…()()()誤算は、戦い(それ)が一方的な蹂躙だからと言っても、精神を削る要素が無い訳では無いという事だったのだろう。

 

 大前提として、竜と人の戦いは常に人側が不利だ。数の利や地の利を得ようとも、竜の攻撃を一撃でも受けた時点で、人間はあっけなく命を落とす。

 そうならない為に装備や技術が発展してきたが、人間という種そのものが肉体的に進化をしない限りこの不利はそう簡単に覆せないだろう。

 

 しかし『魔剣姫』は違う。赤竜を中心とした竜の群れを一人で討伐できる力を持つ騎士を、他の騎士と同列に並べる事はどうしても出来ない。現代に生まれた『理外の英雄』…それが『魔剣姫』。

 だから私も、目の前の英雄が自身と歳の変わらない少女だという事を考えられなかったのだろう。つい最近似た様な人(沈黙の魔女)を見たというのに。

 

「いえ、そんな…でも……」

 

「い、イザベル…?」

 

 思わず零れた私の戸惑いの言葉に、レノ様は心配そうな眼差しを向けてくる。しかし今の私には、それに反応出来る程の余裕が無かった。

 

 とにかく、今は目の前の問題に対処しなくてはいけない。私の予想では、このままだとレノ様は間違いなく潰れてしまう。もしかしたら杞憂かもしれないけれど、そう思える程に悲痛な表情を浮かべていたように思えた。

 

 問題は…何が原因でレノ様がそんな表情を浮かべる程に追い詰められているかだ。まずはそれを知らなければ手の付けようが無いだろう。

 

「レノ様…貴女は、何故騎士になったのですか?」

 

「何故って…きっかけは家柄で、私がたまたま最強だったからですね」

 

 私の唐突な質問にも、レノ様は戸惑いながら答えてくれる。私の思惑にはまだ気づいていない様子だ。

 

 たまたま最強であった…本人の認識だと、努力によって得た地位では無いらしい。側から見ても努力でどうにかできる域では無いので納得ではある。

 

「では…何故今も、騎士であり続けるのですか?」

 

「それは…私が最強だから、ですかね」

 

「最強だから騎士を続けているのですか?他の理由は?」

 

「どうしたんですか、イザベルさん。急にぐいぐい来ますね…」

 

 困惑するレノ様に言われて、ようやく自分が冷静さを失っていた事を自覚する。しかしここで引き下がる気はない。

 

「私は色んな戦士を見てきました。お金の為に兵となった者、大切なものを奪われた憎しみから竜を滅ぼさんとする者、国やケルベック伯爵家(我が家)に忠を尽くさんとする者…レノ様には、そういった強い動機は無いのですか?」

 

「強い動機、ですか…」

 

 レノ様が私の質問を反芻するように呟いた瞬間、先程までの困惑は形を潜め、冷たい視線が私を射抜く。ここに来てレノ様も私の意図を察したのだろう。

 

 重苦しい空気が部屋に満ちる。殺意こそ無いものの、強い圧に晒されて緊張で喉が渇く。微かに震える手でティーカップを持ち上げ、温くなった紅茶で喉を潤す。

 

 そうしてどれくらい経っただろうか。レノ様は徐に手を挙げ、使用人達に部屋の外へと出るように指示を出し、使用人たちはそれに従い部屋を出る。

 今この部屋には私とレノ様だけ。レノ様に害意が無いのは分かるけれど…それでも、胸中の不安感は拭えない。

 

「イザベルさん。私は最強の騎士『魔剣姫』なんです。私は、最強でなければならないんです」

 

「そんな訳…」

 

 無い、と言おうとして、最後まで言葉が出ずに口を噤む。既に相応の戦果を出している以上、自らその座を降りる事は許されないと言わんとしているのを理解してしまったから。

 今となってはもう、引き返すという選択肢は無いのだろう。そうするにはもう強さを見せ過ぎたし、相応の立場になってしまっている。

 

「だから言えません。私の友人で、ここに踏み込んできたイザベルさんだからこそ、ここまで譲歩しますが…これ以上は言うつもりはありません」

 

「……レノ様は、その動機が『弱み』だと…そう考えているのですか?」

 

 レノ様は私の質問に答える事無く席を立つ。既に問答を重ねる気が無いのは態度で分かる。

 おそらくその『弱み』こそが、レノ様が最強であろうとする理由なのだろう。しかし、これ以上は踏み込めない。踏み込んだ所で適当にあしらわれるのは目に見えている。

 

「ごめんなさい、イザベルさん。今日はもうお引き取り願えますか。私は明日までに学園の警備員に業務の引き継ぎをしなければならないので」

 

「レノ様……」

 

 騎士としての業務を盾にされたら、私に拒否権はない。強引に留まろうとするのも悪手だろうから、ここは断腸の思いで退くしかないだろう。

 

「レノ様。困った事がありましたら、いつでもお声掛けください。沈黙の魔女様に比べれば、無力も良い所でしょうが…それでも、友人を見捨てる気はありませんから」

 

「…分かっています。必要であれば、その時は必ず頼りにさせてもらいます」

 

 その時が来ればレノ様が私を頼りにしてくれるだろうというのは私も理解している。レノ様も一人前のフェアニッヒの人間、自身の力が及ばないとなればすぐに周囲の人間も利用するだろう。それでも、私を頼って欲しいと言葉に出さずにはいられなかった。

 

 私はケルベック伯爵家の長子だが、まだ子供だ。ケルベックの兵力や権力を言葉一つで動かせる力は無い。そんな私でも、英雄の助けになれるのならば本望だし…なによりも、困っている友人の為に力を貸したいと考えるのはおかしい事では無いだろう。

 

 そうして後ろ髪を引かれる思いを振り切って、レノ様と別れる。今回は私も急ぎ過ぎたせいでレノ様に警戒心を抱かせてしまったし、今回の問題は長い目で見て解決を図るべきだろう。

 

 


 

 

 自宅に用意された執務室で、ルイス・ミラーは溜め息を吐く。ここ最近、溜め息の頻度が多くなっている事に辟易しつつも、手元の報告書に目を通していく。

 

「はぁ…クロックフォード公爵がセレンディアに向かったと聞いた時点で予想はしていましたが、まさかそこまで癇癪を起こすとは。魔剣姫もまだまだ子供、と言いたい所ですが…」

 

 粗方内容を確認した紙の束を放って再び溜め息を吐く。それは今回の事件の顛末から、今後の警備計画についてが纏められた書類だ。

 

「この仕事量ともなれば、多少なりとも荒れるのは必然ですかね。他の騎士団の制度を流用した結果起きた業務の一極化…その上クロックフォード公爵に良い様に弄ばれたら、こうもなりますか」

 

 今回の件でルイスの受けた報告は、魔剣姫が護衛から外された事と学祭の決行だ。どちらもルイスにとっては想定内ではある。問題はレノの反応だ。

 

 ルイスの予想では、レノは多少不機嫌になれど、そこまで癇癪を起こすとは考えていなかった。それがこの結果だ。

 

(このままでは同期殿の任務遂行にも支障が出かねないが…私からどうにか出来る状況でもありませんからね)

 

 ルイス自身、色々と仕事を受け持つ多忙の身だ。こうなったら自分達に出来るのは、レノが勝手に持ち直してくれる事を祈るだけだろうと考え、紅茶に口を付ける。

 

「クロックフォード公爵が動いた時点で色々と予想はしていましたが…やはり面倒ですね」

 

「ルイス殿、一つ質問があるのですが」

 

「なんですか?」

 

 声を掛けられたルイスは、少しだけ不機嫌そうにしながらもリンの呼びかけに応える。

 

「【北部スラング】とは、なんでしょうか」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ルイスは全力で自身の契約精霊の頭を殴って胸倉に掴み掛かった。

 

「この馬鹿メイド、どこでそんな言葉を覚えて来たんだ……レオノーラの前では絶対にそんな言葉を使わないでくださいね。使ったら十年は封印してやります」

 

「魔剣姫殿が叫んでおりました。【とても汚い北部スラング】、【人前で言うべきではない北部スラング】とも」

 

「……本当に、魔剣姫殿は心底苛ついているようで。同情しますね」

 

 ルイスはリンを解放しつつ、今日一番大きな溜め息を吐きながら、今も周囲に当たり散らかしているであろう少女の顔を思い浮かべて、セレンディアの校舎に大穴が開いていないことを祈る。

 

「とにかく…その言葉は人前で使わないでください。品性どころか正気を疑われかねませんから」

 

「ふむ、相当強い罵倒の言葉なのですね」

 

「下品に下品を重ねた、最低最悪の罵倒です。人に向けて使った日にはその場で殴り合いが発生するでしょうね」

 

 北部の治安が悪いのは今に始まった事ではないが、それにしたって名家のお嬢様でもあるレノがそんな言葉を使うのはルイスにも想像できなかった。少しだけレノに親近感を覚えつつも、レノに対する警戒度を一段引き上げる。

 

「まったく、フェリクス殿下もよく魔剣姫殿を好き勝手振り回せますね…下手をすれば火傷じゃ済まないだろうに」

 

 そう呟いて、時計を確認したルイスは席を立つ。そろそろ『予定の時刻』だ。

 

「そろそろ時間ですね…同期殿を呼んできてください。星詠みの魔女殿の館に向かいますよ」

 

「畏まりました」

 

 今日はモニカが星詠みの魔女に呼び出されている。星詠みの魔女が何のために沈黙の魔女を呼び出したのかは分からないが、現在の任務の事も考えるとその場に同席しておきたい。

 ふと、机の上の報告書の一枚に視線を落とす。そこに書かれているのはレノが挙げてきた不審者の特徴についてだ。

 

「…魔剣姫殿が一撃で折り損ねた不審者の腕…流石に、警戒すべきでしょうね」

 

 今回の侵入者の特徴を考えれば、何処の手先かはある程度想像がつく。しかしそれを公表すれば収拾がつかなくなるだろう。

 

「全く、面倒な事になりましたね…」

 

 ルイスは今後増えるであろう仕事の量を想像して、今日何度目になるかも分からない溜め息を吐いた。




風邪をひいたので次の更新は遅れるかもしれませんし、遅れないかもしれません。
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