僕がポケモンより強くなれば全部解決なんじゃないかい!?   作:波間こうど

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ポケモンって可愛いよね。誰が好きとか、誰を出して欲しいとかあったらTwitterなりで教えていただけると嬉しいです。活動報告欄とか作った方がいいのだろうか。

ポケモンも小説もまだまだな人間なので皆さんの反応楽しみにします!

それでは、お楽しみください。


「君、どう思う?」「タジャ(頭おかしいと思う)」

 

ここは、世間には名前の知られていない、まだ見ぬ大陸。知る人ぞ知るとある地方。

 

その端の町で、一人の少年と、一匹のポケモンがテレビに齧り付いていた。テレビの先ではポケモンとトレーナーが白熱のバトルを繰り広げている。

 

『リザードン! かえんほうしゃ!』

『グルゥアッ!!』

 

焔が、空気を焼くのが目に映った。

 

弾ける炎、舞い散る火の粉、その全てがきっと、時が経っても忘れない、そんな輝き。

 

燦々と眩しく輝く、憧れの火。

 

その場にいなくてもわかる、場の高まり、空気の騒めき、熱気、その全てが薄いテレビ画面から伝わって、画面の前の僕にまで届く。あぐらをかいて、足の上に乗っかっていたツタージャも、さっきまでは不服そうだったけど、今となっては一緒になって画面に向き合っていた。

 

「かっっこいい〜!! ね! ツタージャ!」

「タジャ!」

「ブラックもツタージャもテレビから離れて見なさいよ〜」

 

キッチンからお母さんの声が聞こえてくる。たまにはこのくらい見逃して欲しいところだけど、少しだけ後退りしてテレビから離れた。怒ると怖いからね、仕方ないね。

 

『ガブリアス、戦闘不能! 勝者、リザードン!』

 

歓声が沸いて、拍手が響いて、たくさんの感情が入り混じる、四年に一度の祭典、ポケモンリーグ。各地の代表トレーナーたちが集まって、世界一を決める、その祭典。カッコいい彼らと、彼らのポケモンを見続けた僕は、一つの夢を自覚していた。

 

ポケモンマスター。

 

ポケモントレーナーの頂点、未来永劫、その名を歴史に刻み、その世代で一番強く、ポケモンのことを理解したトレーナーであるという証。最強にして、叡智の称号。

 

それが、ポケモンマスターだ。

 

「ポケモンマスター……」

 

僕の言葉に足の上のツタージャがピクリと体を跳ねさせたのがわかった。どうやら僕の言葉に反応する辺り、その夢にこの子も興味があるのだろう。

 

ならば、とツタージャを抱き上げて顔を合わせる。今からお誘いが来るのだということがわかっているのか、ツタージャの顔は凛々しいものだ。なんか「自分、いつでもいけますよ」みたいな面してる。

 

君、そんな凛々しい顔しても昨日近所のゴースに脅かされて泣き顔晒してたのまだ忘れてあげないからね?

 

「ねぇ、ツタージャ」

「タジャ」

「今思いついたことがあるんだけど言ってもいいかい?」

「ジャッ」

 

覚悟はできてる、と言わんばかりに言葉を短く切る。君、そんな顔しても可愛いだけだぞ? わかってるのか〜?

 

「僕も旅に出たいんだ」

 

旅に出る。齢十と少しの幼い子どもが、外界に飛び出して、己が身一つで外を歩き、出会ったポケモンたちと信頼関係を築き、アレよアレよという間にポケモントレーナーとして成長していく。

 

それは、この世界において当たり前のことだけど、それでいて、当たり前のことではない。

 

子どもが旅に出ることの危険性については僕としてもわかっているつもりだし? なんならそれなりに知識もつけてるつもりだけどさ。というか一応旅に出ることができる年齢が成人認定になるんだけど、それでもまだ大人たちが僕たちのことを“子ども”として見る、ということは変わらない。

 

「たくさんのポケモンを見つけて、出会って、多くの人と知り合って……成長してさ。いつの日か、ポケモンマスターになりたいの!」

 

僕の言葉を、ツタージャは真剣に聞いてくれる。このまま、僕の意見を通す。

 

「でも、一つダメなところがあってさ……ポケモンを傷つけたくないんだよね」

 

そう、ポケモンを傷つけるなんて言語道断だ。ツタージャが怪我をするところなんてとてもじゃないけど見てられない。そんなことになったら僕は気が狂ってしまうに違いない。

 

「だから思ったんだ」

 

そう、だからこそ、僕は思ったのである。

 

「僕がポケモンより強くなればいいって!」

「……? ……タジャ!?」

「僕がポケモンより強くなれば僕の手持ちの子たちは怪我をしないし、完璧だと思わないかい!?」

 

この画期的なアイデアに驚いたのかツタージャが「何言ってんの?」というように声を上げる。しかし、僕の意見は変わらない。

 

「僕は! ポケモンよりも強い! 世界一のポケモントレーナーになる!!」

 

僕、ポケモン(を物理で抑え込める)トレーナーになります。

 

ツタージャが何やら騒いでいたが、立ち上がった僕には夜空に輝き、煌めく星しか見えていなかった。

 

 

  × × ×

 

 

ツタージャは正直、自分の主にあたる少年、ブラックについて「変な子だな」と思っていた。それは、出会ってから、今の今まで変わったことのない評価だ。

 

初めて出会ったのは今から三年ほど前、群れから逸れたツタージャと、森の中を彷徨っていた(迷子になっていた)ブラックはまるで示し合わせたかのように出会った。森の裂け目、日の差す場所にて邂逅を果たす。

 

「わぁ! ポケモンだぁ!」

「……ッ!」

 

まず、ツタージャの心に去来したのは恐怖だった。人間に出会ったことなど生まれてこの方一度もなかった。だから、この目の前の少年が敵意を抱く相手なのかどうかの判別もつかない。恐怖で凝り固まった身体が逃走も、闘争も、拒否したまま、目の前の相手を見つめる。

 

どうする? にげる? たたかう? ツタージャの中にある選択肢が幾つか煌めいては消えた。身体は動かない。

 

だから、咄嗟に身体が動いたのはツタージャが悪い、なんてとてもじゃないがいえなかった。

 

「ねぇねぇねぇ! 君!」

「!」

 

少年がズズイっと近づいてくる。それに反応するように、身体は動いていた。身体に馴染んだわざを選択する。

 

──つるのムチ!

 

「へぶッ!」

 

少年の小さな身体が宙を舞う。そのまま木に叩きつけられた少年はズルズルと木の幹を伝って地面に落ちていった。数秒、時が止まる。

 

……やってしまった。ツタージャは自分の手を見つめながらそう実感した。目の前の少年を殺してしまったのだ。

 

人間を、殺してしまった。

 

ツタージャはまだ生物を殺したことがなかった。虫すら殺せない……というか、むしタイプは弱点なので倒せないのだが、ポケモンすらも倒したことのない自分が、餌はもっぱら木の実の自分が、人間を殺してしまったのだというどうしようもない事実に身体が震える。さっきとは違う寒気のようなものが体を満たしていた。

 

ピクリと、少年が動く。ゆっくりとあげられた顔には満面の笑みが映っていた。あばらを抑えながら立ち上がった彼がにこやかな笑顔で歩を進めてくる。

 

「でぇ、えへ、えへへ、ポケモン……! ごめんね、急に怖かったよね……この距離で止まるからさ! ねぇ、君、名前はなんて言うんだい? さっきのはつるのムチだよね? くさタイプのポケモンなのかな? ここいらで見ない気がするけど……親と逸れたのかい?」

 

……後から考えれば随分と変態チックな出会いだった。ツタージャがつるのムチより強力なわざを覚えてたら死んでた、事実、つるのムチで怪我をしている少年は怯えるツタージャと適切な距離をとりながら質問をたくさん投げかけてきた。どれもこれも、理解できない言葉、それでも……不思議と、敵意がないことだけはわかった。

 

本当に不思議なことなのだが(今考えてみると、当人たるツタージャとしても理解のできないことではあるが)少年に敵意はなかった。むしろ、初対面なのにも関わらずどこか親しみや、愛情のような、信頼のような、そんな感情をぶつけてきていた。

 

「ねぇ君、また来るからさ。そのときはまた遊んでくれるかい?」

 

また遊ぶも何も遊んでなんかないだろ、なんてツタージャの思いが届いたのか届いていないのか、少年は木の枝をかき分けてどこかへ消えてしまった。そんな、唐突で、一瞬の出会い。

 

それが、初めての出会いだった。

 

それから彼は何度もこの森の奥にまで足を運んだ。何度も、というか毎日なのだけど。

 

「君、ツタージャって言うんだってねぇ! 図書館の本しらみつぶしして君のこと見つけるのに苦労したんだよ?」

 

毎日、雨の日も。

 

「ツタージャ、これポフィンなんだけど、食べる?」

 

毎日、風の日も。

 

「ねぇ、にらみつけるしてよ、にらみつける。……可愛い〜!」

 

毎日、毎日、毎日。

 

少年は嫌がられようとこの森にまで足を運んだ。段々と、少年とツタージャが座る場所が近くなって、その距離が一メートルから三十センチに、そこから拳一つ分になるまで、約半年の月日が経った。

 

その日は風の冷たい日だった。

 

「やぁツタージャ。元気?」

「タジャ!?」

 

彼は頭から血を流してやってきた。いつもより少し遅いな、と心配した時間だった。頭から血を流しながら笑顔を貫く彼の顔はどこか歪に見えて、急いで駆け寄ってしまう。

 

「君から近づいてくれるなんて珍しいねぇ……あれ? 君かげぶんしん覚えた?」

「!?」

 

そんなわざ覚えてないと、必死になって首を振る。どうやら自分のことが二重に重なって見えているらしい少年の額にそこらで千切った葉っぱを当てがう。それを少年は嬉しそうに受け取った。

 

「君は優しいね。少しポケモンに襲われただけだから気にしなくていいのに」

 

優しくなんてない、当然のことだとツタージャは胸を張った。……初対面でつるのムチで吹き飛ばしたことは棚に上げさせてもらう。

 

「そうそう、話は変わるんだけど、ここに来る途中で暴れてるツンベアーがいてさ。君も気をつけた方がいいよ、こおりタイプ相性悪いでしょ?」

 

話変わってなくない? とツタージャが冷めた目を向けたのが伝わったのか、少年は頬をかきながら照れたように笑った。

 

「でさ、そろそろこの森に来るのやめなさいって言われてるんだよね。今までは怪我も何もなかったから許してもらえてたけど、この怪我のせいで、今後はそうも行かないかも」

 

少年がツタージャの横に座る。視線は遠くを見つめていて、どこを見ているのか、ツタージャにはわからなかった。

 

もう、彼が来なくなる。そんなことがすごく寂しくて、とても切なくて──。

 

「……ツタージャ。僕には夢があってさ」

 

こちらの感情を知ってか知らずか、遠くを見た瞳のまま、こちらに目を向けずに少年は言葉を続ける。

 

「いつか旅に出ることなんだよ」

 

そして、次の瞬間にグイッと、初めての時のように、食い入るようにこちらに近づく。顔が目と鼻の先にまで近づいた。そして、ニッと笑う。

 

「この世界には山ほどポケモンがいてさ! 山ほど出会いがあるんだよ! 優しいポケモンも、怖いポケモンもたくさんいてさ! その全員と仲良くなるの! それが僕の夢!」

 

彼が地面に倒れ込んだ。日の光が差し込んで、眩しそうに手で影を作る彼の口元は笑っている。

 

今まで見てきた優しい笑顔じゃなくて、もっと、燃えるような熱い夢、何人たりとも邪魔ができない、そんな憧れ。

 

その視線を太陽から逸らしてこちらを向いた。

 

暖かな、太陽のような瞳。

 

「いつか2人でさ、世界を見にいけたらいいねぇ」

 

貴方はこんな約束を覚えていないんだろうな。と思う。あのときから貴方は私の光なのだと、ツタージャは胸を張って言えた。彼が進む道なのであれば、例え火の中、水の中、草の中、森の中、どこへだって進むと決めた。

 

「……ねぇ、ツタージャ。僕と一緒に来ない?」

 

ツタージャの返事は、決まっていた。

 

……そう、自分にとって彼は放って置けない存在で、光のように眩しい存在で、いつまでもカッコいい自慢の主なのである。

 

…………そんな彼は今、ポケモンを物理的に抑え込む存在になると息巻いていた。

 

「僕がポケモンより強くなればいいって! そうすれば手持ちのみんなは安全だろう!? 君、どう思う?」

「タジャ」

 

どれだけアホでおバカで、ちょっと抜けているところがある男であったとしても。彼は自慢の主であり、ツタージャは彼についていくのだ。支えてあげるのだ。

 

……この変な主が進む道のどこまでも、支えてあげられるのは自分だけだと思うから。

 

それにしても、どうしてそういう結論に辿り着いたのだろうか。本当に勘弁して欲しいのだけど。少しは抗議しないと気が済まない。ツタージャはつるのムチを伸ばして少年の両頬を引っ張りながら抗議の言葉を投げかけた。

 

「タジャ! タージャ!」

「いひゃい、いひゃい! なんだよう、気に入らないことある!?」

 

気に入るわけないだろ馬鹿なのか。というツタージャの声は届かない。

 

『貴方がポケモンの傷つくところが見たくないなら、逆も然りだと何故分からないの?』

 

言葉は届かない、それでも投げかけ続けるとしよう。

 

おバカで愛しい貴方が、この気持ちに気づくまで。

 

これからの長い旅路の中で何度でも。

 





ブラック:本作主人公。ポケモンへの愛情、興味が異常値を叩き出している男の子。趣味はポケモンについての勉強、研究。
最近の悩みはツタージャがことあるごとに自分のことを止めに来ること。

ツタージャ:本作の相棒枠。自身の主に振り回されている苦労人。なんだかんだいっても主であるブラックには懐いている。
最近の悩みは自身の主がつるのムチ程度では動じなくなってきたこと。
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