僕がポケモンより強くなれば全部解決なんじゃないかい!?   作:波間こうど

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「僕ってば実は結構頭脳派なんだよね」「タジャ?(その脳筋理論で?)」上

 

どこともいえないとある地方。その始まりの道路にて、一人のトレーナーと、一匹のポケモンが修行に励んでいた。朝露が草を濡らし、ポッポも鳴かないような朝早くの出来事である。

 

「ツタージャ! “つるのムチ”!」

「タジャ」

「…………ツタージャ、“つるのムチ”」

「タジャ」

 

ポケモントレーナーの朝は早い。ポケモンを育てるために昼夜を捧げ、過酷な訓練に励み、日夜、己とポケモンを鍛える。それが彼らの冒険の日々だ。

 

「ツタージャ! つるのムチって言ってるだろ!」

「タジャ!」

「やだじゃない! ツタージャ! 僕に(・・)“つるのムチ”!」

 

……この場合、多くはポケモンの身体を鍛え、トレーナーは技術を鍛えることになるのだが、このトレーナーとポケモンはそういう鍛え方は知らないらしい。悲しいことに、ポケモンをいじめる悪いトレーナーがいる、という話こそよく出回っているものだが逆はあまり見ない話だ。いじめて貰おうとしている、という話だが。

 

「ツタージャ……なんで言うこと聞いてくれないんだい?」

「……」

 

ムッス〜っとした顔で自身のトレーナーを見つめるのはツタージャ。主人の破天荒に振り回される苦労人(ポケモン)である。

 

「も〜……これじゃあ僕がポケモンよりも強くなるのはまだまだ先の話になっちゃうじゃないか」

 

将来的には“はかいこうせん”を弾き飛ばす屈強な男になることが目標の少年はブラック。今現在、手持ちのポケモンは一匹、ツタージャのみであり、そのツタージャと一緒に町を出たばかりだ。

 

少子化の波を受けた村で育った彼に幼馴染なんてものは存在しておらず、一人で母親にだけ見送られながら村を飛び出した少年は、この地方のジムに挑戦するでも、モンスターボールを補充するでも、他のトレーナーと腕を競うでもなく、ただひたすらに自らの研鑽を続けていた。

 

手持ちのツタージャではなく、自らの研鑽である。マイブームは自重トレーニングという始末だった。

 

「なにも僕のことを殺せって言ってるわけじゃないのになんでそこまで渋るんだい?」

 

ブラックがそう尋ねるも、ツタージャはプイッと顔を背けるだけだ。……愛しのトレーナーに攻撃を当てることが嫌なことくらい、普通に考えればわかりそうなものだが、生憎、ブラックは自己肯定感というものが低かった。ツタージャのことを信頼してはいるものの、ツタージャがそこまで懐いてくれているとは思っていなかったのである。極度の鈍感である、という風にいうこともできた。

 

「ん〜……このままだとツタージャのことも鍛えてあげられないし……どうしよう……」

 

なにも、少年はただ自分が強くなり、ポケモンバトルやトーナメントに【手持ちのポケモン:ブラック】なんて状態で出場しようなんて考えてはいない。

 

ただ、自分が強くなることで、他のトレーナーに怪我をさせられることなく、野生のポケモンに気絶させられることなく、ツタージャを育てることができるのではないか、と考えていただけなのだ。

 

自分が強くなることで、ツタージャを、愛しの相棒を守ることができるのではないか……その考えが、彼のトンチキな肉体改造へと導いているのだった。

 

「こうやってくると筋トレくらいしかやることないんだよね」

 

簡単な腕立て伏せを負荷をかけながら着実にこなす。ポケモンマスターではなくてからておうを目指しているのでは? とツタージャが冷めた目線をブラックに向けていた。さながら“こごえるしせん”である。くさタイプなのにこおりタイプのわざを覚えるとは、これ如何に。

 

「……ツタージャもするかい?」

 

またもフイっと顔を逸らしたツタージャはブラックの鞄の中からタブレットを取り出してタップするとバトルの動画を視聴し始めた。完全に我関せずの姿勢である。こうなってしまうと、しばらくの間拗ねたままであるということはブラックもわかりきっていた。

 

ので、無理矢理絡むこともやめてブラックは己の研鑽に励むことにする。

 

ちなみにツタージャがタブレットでバトルの動画を視聴しているのは、他のトレーナーのポケモンとバトルしようにも、目と目が合ってバトルに発展するのはトレーナー同士だけで、ツタージャが見つめても「うちに来る?」としか言われないからだ、ちなみに行かない。

 

かと言って、野生のポケモンとバトルしようとするとブラックが心配のあまりなにも手につかなくなる。おろおろするし、終わった後めちゃくちゃ怒られる。それが自分の言うことを聞かないから怒る、ならツタージャも無視するのだが、本気で心配した上で涙目で怒られるので心苦しいのだ。

 

……以上の理由から身体がバトルで鍛えられないなら知能を鍛えよう、というわけなのである。

 

最も、タブレットを触るようになったツタージャについて、ブラックは「バトル動画見るの好きだよね、君」くらいにしか思っていないので、ツタージャの健気な気遣いには気づいていない。悲しいかな、鈍感な男なのである。

 

「…………!」

「タジャ?」

 

そのまま時間を過ごして数十分、木の枝にぶら下がり、できもしない懸垂をしようと腕をプルプルと震えさせていたブラックの眉がピクリと動いた。それに呼応するようにツタージャもタブレットから顔を上げる。

 

「ツタージャ、なにか聞こえたかい?」

 

こくりと頷くツタージャのジェスチャーを見るやいなやブラックは即座に広げていた荷物を畳み、リュックを背負った。タブレットをツタージャから預かるとツタージャを肩に乗せて直感のままに草を分けて走り出す。

 

「どんなポケモンかな! 僕が勝てるポケモンなら仲間にしよう! 無理なら逃げよう!」

「タジャ! タジャ!」

「えぇ、君のことを危険に晒せないんだ……わかってくれるだろう?」

「タージャ!」

 

緊張感などかけらもない、木の実を食べてる昼下がりだと言わんばかりの掛け合いをしながら彼らは物音のする方へと足を運んだ。

 

 

  × × ×

 

 

木の枝を掻き分けて歩くというのは思ったよりも重労働だ。手や腕を切ることなんてザラだし、手で押し除けた木の枝やつるなんかが自然版の“つるのムチ”をしてくることも多い。

 

しかし、僕とツタージャからすると森の中などどこも庭と同じだ。出身地となる町の近くの森と植物なんかは違うけど、それもお隣の庭を歩くようなもの。草木が牙を向かないような歩き方というものは心得ている。ツタージャと僕がどれだけの日数を森で過ごしたと思ってるんだ。結構わんぱくボーイなのだよ?

 

草木を掻き分けていくとふと、妙な感覚を身体が感じ取った。先を急ごうとするツタージャを手で制して、ツタージャの頭を撫でる。小気味良さそうにツタージャが少し鳴いた。

 

「ツタージャ。大体僕の膝くらいまでの高さでいいから“つるのムチ”で草木を払えるかい?」

「タジャ!」

 

ツタージャがいい返事を返してくれるのを聞きながらジッと周りの草木を見つめる。ツタージャが“つるのムチ”を放った一瞬。

 

そこに小さな二つの体躯を見た。

 

「!」

 

払われた草木は地面にひらりと舞い落ちて、隠れていた彼らの姿を露わにした。

 

そこにいたのは二匹のイーブイだった。

 

大きさのほどはおおよそツタージャより小さいくらいだろうか? フォーメーションを組むように前と後ろに一匹ずつ、前後に並ぶような形で伏せている。

 

前の子が僕たちのことを睨んで、唸っている辺り、どうやら歓迎はされていないらしい。

 

しかし、そんなこと関係がないと僕のテンションはまさに有頂天といえるほどぶち上がってしまっていた。

 

「イーブイだ! 見たまえよツタージャ! イーブイだよ! イーブイ!」

 

僕の興奮を隠せないといった具合の声色にツタージャが面倒くさそうにため息を漏らすのが聞こえてきた、君、今僕の肩の上に乗ってるんだから露骨な態度取られたらすぐにわかるんだからね? 少し傷つくじゃないか。

 

「ふふ、イーブイは七色に進化するポケモン、なんて呼ばれていてね? 進化先が今発見されているポケモンの中では一番多いのさ。まさかこんなところでお目にかかれるなんて……! 僕の研究したいポケモンの一種なんだよ!」

 

はいはいそうですか、というようにツタージャが再度ため息をついた。流石の僕とはいえど少しじゃなくて結構傷つくのだけど……心は薄いこおりタイプなんだよ?

 

「ヴゥゥ〜……」

「ありゃ、これはこれは。ごめんね、怪しいものじゃないんだ。できればね、ふふ、君たちと仲良くなりたいって思ってるだけなのだよ! ね、ねぇ、君たちはどこから来たのかな? そんなに警戒しない……で」

 

そこで、唸っているのは前にいるイーブイだけで、後ろのイーブイは体を地面にペタリとつけたまま身動き一つ取ることができていないことに気がついた。息も荒いし、焦点もあっていない。状態は毒……? それに随分と体力が持っていかれてしまっているようだ。このままだと危険な状態なのでは?

 

僕の目の前でポケモンが死ぬ?

 

そんなこと、あってはならない。

 

「ごめん、気が変わった。少し強引に仲良くならせてもらうね」

 

さっきまでぶち上がっていたテンションを無理矢理収めて、前のイーブイと向き合う。そして彼のテリトリーであろう線を問答無用で踏み越えた。

 

それをイーブイが見逃すはずもなかった。グッと身体を持ち上げると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 

ノーマルタイプの基礎的なわざ“たいあたり”だ。

 

ツタージャも覚えている初歩の初歩に当たる技。

 

「ヴゥ、ブイッ!」

「ぬッ!」

 

イーブイの体当たりに対処しようと腰を落とした。

 

可愛らしい見た目と侮るなかれ、イーブイの平均体重はおよそ6キログラム。つまり、6キログラムの質量が下から猛スピードの勢いに乗り、突き上げるようにして突っ込んでくるのだ。その衝撃は舐めていると吹き飛ばされる事請け合いである。というか、僕まだ十二歳だよ? 普通に吹き飛ぶって。

 

それを我慢するべく足に力を入れて無理矢理受け止めてそのままの勢いで腰を逸らす。

 

「ぬぐぐぐ……! なんぼのもんじゃーい!」

 

そして、その勢いのまま、イーブイを後ろに放り投げた。宙を舞ったイーブイをツタージャがその隙に“つるのムチ”を駆使して木に縛りつける。

 

「ブイッ!?」

「ツタージャよくやった!」

「タジャッ」

 

心なしか得意げなツタージャは後で目一杯撫でてやるとして、今は目の前の瀕死のイーブイを診る方が先だ。後ろで叫んでいるイーブイを無視して、伏せているイーブイに近づいた。その足元に座って彼のことを抱き抱える。

 

そのまま診察を開始した。

 

「骨折二箇所、右前足と腹部。状態異常毒による発熱と衰弱……息が荒いな、思ったより自体は深刻じゃないか」

 

リュックからタブレットを取り出してメモ帳のアプリを開く。そこにスクリーンショットで写真に収めたきのみの画像を貼り付けてツタージャに手渡した。

 

「ツタージャ、このきのみを頼むよ。できれば5個ずつくらい欲しいかな。もしかしたら近くにどくタイプのポケモンがいるかもだから注意したまえ」

「タジャッ!」

 

元気よく駆け出したツタージャを見送ってから、リュックから水の入ったボトルを取り出し、イーブイに飲ませる。

 

さて、ここからは時間との勝負だ。

 

「ツタージャはすぐ帰ってくるよ。安心したまえ。僕の目の前でポケモンが死ぬなんてことはあり得ないからね」

 

もう、二度と僕の前でポケモンが死ぬのなんて許さない。

 

それは過去に誓った約束だから。

 




ブラック:本作主人公。なにやらポケモンの怪我について人一倍気にすることには理由がありそう? 医学についても少しばかり齧ってる有能な少年。
最近の悩みはツタージャが“たいあたり”も“つるのムチ”もしてくれないこと。

ツタージャ:本作の相棒枠。少しばかり好奇心旺盛で、随分と頭のネジが外れている主については思うところがあるようだけど、それはそれとして自分がいなくちゃ仕方ないなぁ〜と思っているらしい。他のトレーナーについていくなんてことは天地がひっくり返ってもあり得ない。
最近の悩みは強くなりたいけどバトルができないことと、主が自分の“たいあたり”も“つるのムチ”も当たり前のように受け止め始めたこと。
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