僕がポケモンより強くなれば全部解決なんじゃないかい!?   作:波間こうど

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「僕こういう方針だから、イーブイたちもよろしくね」「ブイ?(正気か?)」「タジャ(狂気だよ)」

 

あれから一晩が経過した。イーブイたちを発見したのが朝だったことを考えると、およそ一日近くイーブイたちの看病をしていたことになる。木の実はツタージャが定期的に採取してくれ、食べ物に困ることはなかった。まぁ、この地方では洞窟とか雪山で遭難しない限り食べ物についてはなんとでもなると思うけれど。

 

僕の献身的な治療によって、イーブイは無事元気になったようだった。二匹で追いかけっこするイーブイたちを眺めながらポフィンを口に運ぶ。

 

シンオウ地方ではポフィンが伝統的に美味しいとかなんとかって聞くけど本当かな? 各地方にご当地的なのあるよね。カレーとか、サンドイッチとか。この地方にはそういったのないけれど。

 

「ブイ!」

「タジャ……?」

 

イーブイたちに引きずられるようにしてタブレットを眺めていたツタージャが連れていかれる。ツタージャにしても遊び相手が増えて良かったじゃないか。あの子は僕以外と遊ぶ機会がろくになかったからね。僕以外で言えば近所のおじさんの連れてたゴースとか、あと八百屋のおばさんのところのタブンネくらいのもので、他のポケモンないし人と遊んでいるところを見たことがない。友達が増えるというのはとてもいいことだ。

 

ちなみにあの後少し調べてわかったことなのだが、怪我をしていた方が弟で、僕に“たいあたり”をお見舞いしたのが姉らしかった。性別は寝ているイーブイたちを調べてわかったことで、姉弟らしいってことは直感でしかないので外れているかもしれない。

 

弟の方は天真爛漫! という感じで、僕とツタージャについて全く怯えたりしていない。毒状態から回復してから本当にずっと走り回っていて、元気がどこから溢れてくるのか知りたいくらいの暴れっぷりだ。少し目を離すと“見て!”と言うように袖を引っ張ったり鳴いたりする。僕が手を動かすと“撫でてくれるの!?”とでもいうように耳を下げるのが特徴だ。

 

この“みみをさげる”は強力なわざで、僕はかれこれこの数時間の間で約数十回にわたって“あたまをなでる”を強制されている。行動規制としてレベルが高すぎるでしょ。

 

姉の方はクールビューティ、という感じだ。あまり甘えてきたり、懐いてくるわけでもなく。僕とは適切な距離を取り、弟(であるという風に勝手に解釈しているだけかもしれないということだけは明記させていただく)のイーブイとは仲良く遊ぶ。ときたまこちらをチラリと見て僕の出方を観察するタイミングこそあるものの、基本的には弟を可愛がっている、という感じだ。

 

ちなみに撫でようとしたら“触んな”というように唸られた。怖いんだけど……僕嫌われてるのかな? ……木の実は食べてくれるし、嫌われてはいないと信じたいところではあるけどね。

 

「……さて、そろそろトレーニング始めようか。ツタージャ」

「……タ〜」

「いや〜じゃないよ。しっかりと鍛錬を突き詰めた者だけがなることができるのがポケモンマスターなんだから、ほら、来たまえ」

 

ツタージャをグイッと持ち上げるように抱き抱える。すると首元から伸びた“つるのムチ”が近くの木の幹に縛り付けられ、抵抗するようにツタージャの体を固定した。

 

「タ〜〜ジャ〜〜!」

「あ、こら! 木の幹に縋るんじゃない……! くっ……! “つるのムチ”の有効な使い方を覚えたじゃないか……! 力強くないかい……!?」

 

“ばかぢから”でも覚えたのだろうか。いや、ツタージャは覚えないんだっけ? 覚えなかった気がするな。じゃあこの力は素で出してるの……? 神秘の力だな……。

 

僕とツタージャが格闘を続けていると、恐る恐るといったようにイーブイたちが近づいてきた。弟の顔には動揺、姉の顔には困惑の表情が浮かんでいる。“どうしたんだろう?”“何事?”

とでもいうような瞳に、彼らに対して全く事情を説明していないことを思い出した。

 

そこで僕は名案を思いついた。“わるだくみ”ではないが、この状況、そしてトレーニングのマンネリを打破する方法を思いついたのである。

 

「イーブイ、僕に“たいあたり”してくれないかい? 昨日みたいにさ! 遠慮なんていらないから思いっきりぶつかってくれて構わないよ!」

「タジャ!?」

 

こいつ、自分からイーブイに乗り換えやがった! みたいな悲鳴をツタージャが上げているのを無視して両手を広げる。強くなるためにポケモンバトルをするのは当たり前で、それはトレーナーに関しても例外じゃないと思うのだ。

 

「ところで君たちってどのくらいレベル上がってるのかな? どんなわざを覚えてるのかについても興味があるところだね。ほら、突っ込んできたまえよ。昨日のはなかなか効いたんだよ? 嘘じゃないさ。だからほら、早く! イーブイ! “たいあたり”だ!」

 

イーブイたちが後退りしていくのでズリズリと近づいていく。昨日は勢いよく突っ込んできてくれたんだから今回も思いっきり突っ込んでくれていいのに……というか、なんで逃げていくんだい? ちょっと?

 

「イーブイ! 僕に“たいあたり”!」

「ぶい!」

 

イーブイ(弟)が近づいてきた。僕が所望しているのは“たいあたり”なんだが? と視線を下におろすと、後ろ足で僕の足に掴まり立ちしたイーブイ(弟)が首を傾げながらこちらを見つめてきた。“つぶらなひとみ”だ。

 

「い、いやね? 僕は強くならないといけないわけ。わかる? ツタージャは最近特訓に付き合ってくれないからさ、君たちに手伝って欲しいって思ってるだけで、僕が君たちのことを精神的にいじめたいとか、ましてやいじめられるのが好きなマゾってわけじゃないから、違うから。そ、そんな目で見られても困るんだけど……」

「ぶい」

「いや、違うからね? 僕はマゾじゃないって。なんでそんなに“それならやぶさかでもないけど……”みたいな目してんのさ。違うってば。僕は、そこまで醜い人間じゃないよ! 誤解だから!」

 

イーブイ(弟)がやれやれというように頭を振った。どうやら僕は彼の中でとびきりのマゾのような認定を受けてしまったらしい。あまりにもひどすぎる認定を受けてしまい、呆然と立ち尽くす僕に対して撫でるように前足をカリカリと太ももに当てる。なんで誤解された上に慰められてるんだ僕は。

 

「違うんだー!!」

 

僕の鳴き声に驚いたのか木の上にいたポッポが三匹、空へと羽ばたいていった。

 

 

  × × ×

 

 

なんなんだこいつ、というのが少年に対してイーブイの持った感想だった。

 

自分と弟はなわばり争いに負けて、森の深くからここまで逃げてきたばかりで右も左も分からない。物音がするたびにビクつき、息が荒くなる弟に何もしてあげられないという事実が体を蝕む。段々と弱々しくなっていく弟の頭を撫でながら、どうすればいいのかを必死に考え続ける時間は苦痛でしかなかった。いつさっきのポケモンたちに襲われるのか、いつになればこの状態から抜け出すことができるのか……そんなことを考えながら必死にすり減っていく体力を押し留められるように、体力とスタミナをすり減らしながら隠れる時間は形容し難い苦痛で。

 

そこに現れたのが件の少年と彼の肩に捕まるようにしてぶら下がっていたツタージャだった。

 

大きめのリュックに赤いキャップ。黒い髪と黒い瞳は手入れなんてされていないだろうに、それでもなお強い輝きを持ってこちらを見つめていた。青いジャケットが森の中で浮いている、そんな男の子。

 

『イーブイだ! 見たまえよツタージャ! イーブイだよ! イーブイ!』

 

敵意こそないようだったが、それでも自分たち以外は全員敵に見えて仕方ない今のイーブイからすれば彼らも総じて打破すべき敵でしかなかった。弟は毒と怪我で動けない。

 

自分がやらなきゃ、自分だけしか弟を守れない。やらなきゃ、やらなきゃ、やらなきゃ、やらなきゃ。

 

イーブイの唸る声が低くなっていく。だから、少年が足を踏み出した瞬間に飛び出したのは当然だった。自分の持っている“たいあたり”で目の前の少年の打倒を試みる。素早く地面を蹴って、自身の全体重を乗せた“たいあたり”をお見舞いした。

 

狙いはクリーンヒット、確かな感触が頭に伝わってきて、そのまま少年のことをノックアウトできる……はずだった。

 

体ががっちりと掴まれる。少年はなんと倒れるどころかイーブイのことを勢いそのままに持ち上げたのだ。

 

『ぬぐぐぐ……! なんぼのもんじゃーい!』

 

あろうことか少年は自分のことを軽々と持ち上げると後ろに放り投げた。そりゃ、まだ人生経験の浅いイーブイではあるものの、それでも人間がポケモンのわざで吹き飛ぶことくらい知ってる。

 

だから唖然としてしまった。

 

その隙をついてツタージャの“つるのムチ”で身体を木に縛り付けられてしまう。ばっちりと息の合った、見事なコンビネーション。

 

少年はイーブイの“たいあたり”なんてなかったことのように弟に近づいていった。触るな、僕の弟に触るな。と声を上げるがその声が届いた様子はない。弟を抱き抱えた少年はそのまま弟の体を弄って、体にサッと目を通すと、そのままブツブツと何やら言葉を唱える。

 

『骨折二箇所、右前足と腹部。状態異常毒による発熱と衰弱……息が荒いな、思ったより事態は深刻じゃないか』

 

続いて流れるように板状の何かを取り出してツタージャに渡す。それからしばらくしてツタージャが帰ってきたあとは、持って帰ってきた木の実を弟に食べさせ始めた。それが治療だということに気づいた頃には僕のことを縛っていた“つるのムチ”は解けていて。

 

『安心したまえ、峠は超えたよ。このままちゃんとよくなるから、君も疲れているだろうから早く寝たまえ』

 

頭を撫でるこの少年の手つきが妙に優しくて、弟を治療してくれたこととも相まって少しだけ信用してもいいかな、なんて思っていたのだ……が。

 

「い、いやね? 僕は強くならないといけないわけ。わかる? ツタージャは最近特訓に付き合ってくれないからさ、君たちに手伝って欲しいって思ってるだけで、僕が君たちのことを精神的にいじめたいとか、ましてやいじめられるのが好きなマゾってわけじゃないから、違うから。そ、そんな目で見られても困るんだけど……」

「ぶい」

「いや、違うからね? 僕はマゾじゃないって。なんでそんなに“それならやぶさかでもないけど……”みたいな目してんのさ。違うってば。僕は、そこまで醜い人間じゃないよ! 誤解だから!」

 

今目の前で随分と懐いた弟に煽られている少年を見ながら考える。変態なら信用しない方がいいに決まっている。そんなの誰がいうまでもなく当たり前のことだ。なんか弟は満更でもなさそうだがお姉ちゃん許しませんよ?

 

弟の見る目のなさにほんの少し絶望しながら少年の手から離れ、自らの主に哀れみの視線を向けているツタージャに声をかける。この少年は信用に足るのかを確かめるためだ。別に他意はない。

 

自らに“たいあたり”を所望する理由が知りたいのだ。そのために確認を取るとツタージャは今まで話す相手がいなかったからなのか、日頃の愚痴でもぶちまけるように口を開いた。怒涛の勢いで飛び出してくる、主に愚痴が。

 

それをイーブイなりにまとめてみると、なんでも彼は自分のポケモンが傷つくところが見たくないのだという。自分のポケモンたちが傷つくくらいなら自分が傷つく方がいい。ポケモンのレベルアップのために、まずはトレーナーである自らがレベルアップすることで、ポケモンたちを効率よく育てようとしてるのだとかなんとか。つまり良いところ的になろうとしてるということなのだろう。

 

「ブイ?」

「タジャ」

 

「正気か?」と問うてみるもののツタージャには「狂気だよ」と返されてしまった。相棒なのに随分と言葉が鋭いツタージャはどうやら数年間、この少年と一緒に過ごしてきたらしく、彼のこの奇行にも慣れているのだとか。随分と冷静に板を見ながら(タブレットというらしい)こちらにニヤリと笑いかけた。

 

「タージャ」

「……ぶい」

 

彼のお世話は大変だぞ、なんてツタージャの言葉に私はイーブイはそっぽを向く形でしか答えられない。

 

向こうでは誤解を解こうと少年が弟を追いかけているところだった。

 

 





ブラック:物音に敏感な少年。その聴力は遠くで鳴くポケモンの鳴き声もキャッチし、ポケモンの種類まで当ててしまうほどの精度を誇る。生まれつき耳がいいのか、後天的に身につけた能力なのかは不明。
最近の悩みはイーブイ(弟)にとびきりのマゾだと思われてそうなこと。

ツタージャ:本作主人公の相棒枠。仲間が増えるのは構わないし、むしろ止める人が増えてくれた方がすごく助かると思ってる。まぁ? 彼にとっての一番は揺るがないからね。
最近の悩みは新入りのイーブイたちが自分よりもレベル高そうなこと。

イーブイ(姉):自分のことを助けたトレーナーが気にはなっているようだが、イマイチ信じることができていない。いや、チョロくないから、信じないから、まだ、絶対に。
最近の悩みは弟がチョロすぎること。

イーブイ(弟):なでなで気持ちいい! かけっこ楽しい!
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