夕暮れの街を男が駆ける。
その走りには迷いがなく、明らかに目的地があるようだ。
そしてその後ろを、武器を持った数多の群衆が追いかける。
彼らの目は明らかに正気を失っており、その手や顔は随分と毛深い。
場所はヤーナム市街の少し開けた広場。中央では
男がその脇を通り抜けようとするが、追う群衆の一人が銃を構え、男に向けて放つ。
銃弾は男の脇腹を穿ち、男は痛みに呻き、走りを止める。
走りを止めれば当然追手は追いつく。殺意を持った彼らから生き延びるには、彼ら全員を殺しきるしかない。
男は覚悟を決め、懐に仕舞っていた杖を抜き、構える。
戦いは男が優勢に見えた。
その杖の一振りごとに群衆は怯み、逆に群衆がクワや曲刀などの武器を振り回すも、振る前には男はその間合いから逃げ出ている。
しかし多勢に無勢。男が攻撃から逃げる度、徐々に広間の隅に追いやられていく。先程脇腹を撃った銃持ちの群衆も狙いを定めており、いつまた撃たれてもおかしくはない。
もう保たない。男はそう悟り、覚悟を決める。
今までの慎重な立ち回りとは一転、男は群衆に向けて駆け、杖を振り回す。
すると杖の柄がばらけ、まるで蛇腹剣のように変形する。
これこそがこの武器、仕込み杖のもう一つの姿。鞭のようにしなり広範囲を切りつけることができるそれは、今の状況にうってつけの姿だった。
男が仕込み杖を振るえば数多の刃が絡みつき、肉が裂け、血が飛び散る。それはまさしく蹂躙だった。男はひたすらに杖の持ち手に力を籠め、現状を打破しようとする。
そして男は奮闘し、1分も経たないうちに────────
仕込み杖の刃が全身に絡まった男が、血まみれで死んでいた。
─────────YOU DIED─────────
「クソッ!!!また死んだ!!!」
俺だ、ヒンドリーだ。
今の情けない死で、通算154回目の死だ。
流石にいくら鈍くても、これだけ死ねば自分が死んでは生き返ってることくらい分かる。
そう、
原理は分からんが、どうやら俺は死んでも生き返るらしい。
いや、厳密には違うのか?前居た都市では、生命保険やあの時のヒースクリフ共みたいに生き返る手段は少ないながら多少はあったが………
俺に起こっているこれは、死んだことが悪夢だったかのような………そう、都合の悪い事だけ無視して時間が巻き戻っているような感覚だ。
出会う奴らは皆狂ったように俺だけを襲うが、その動きはいつも決まった動作を繰り返すような似たような物。しかし、その辺で拾ったものは生き返っても持っている。
未来予知とも違うこれに最初は気持ちの悪さを感じたが………流石に三桁も死ねば慣れた。これはそういうものだと。
で、まあ死んでも生き返ることで命の危機はないとして、何度も死にながら今何をしているかというと。
大橋を目指している。その理由は………
「ごほっ、ごほっ、ごほっ………ああ、おかえりなさい、ヒンドリーさん。また随分と酷くやられたようですね。ご苦労様です」
「他人事みたいに言うんじゃねぇ!お前が行けと行ったからあんな危ねぇところを通ってるんだろうが!」
「行けとは行っていませんよ……ただ、目指すとしたらそこでしょうと言っただけです……」
この咳き込んでいる病人、ギルバートのせいだ。
いや、せいではないか。
こいつは、丁度
癪だが、こんなイカれた場所でまともに会話できる唯一の相手ということで随分と精神の支えになっている。多分、向こうも同じ理由で話しかけてきたんだろう。
このヤーナムという街のこと、ここが都市ではないこと、獣狩りの夜のこと………色々な話をして、互いの認識を擦り合わせた。
そして、俺が帰るためにはどうするべきかという話の時に、こう言って来たのだ。
まずはこの夜を終わらせるべきだ。その方法については医療協会が知っている可能性がある。そして、ここから医療協会のある聖堂街に向かうには、大橋を渡る必要がある、と。
そんな訳で、今俺は大橋に向かおうとしているのだが………
「どうやって向かえってんだよ!道は分かってんのに、そこにいる敵が多すぎるし全然殺せないんだが!?」
「おかしいですね……獣狩りの武器があるなら、
というように、
ギルバートはこういうが、素人が
事実、俺が使うと勝手に変形するし、戻し方も分からん。
「いえ、それは単にあなたが不器用なのでは………?」
「うるせぇ!じゃあどうしろってんだよ!これしか武器ねぇんだよ!」
銃もあるにはあったが、そこまで威力も無かった上にとっくに弾切れしている。
「ふぅむ………あぁ、そうだ。一つ思い出したことがあります。狩人の一部は繰り返し夢を見、夢の中で武器を鍛え、己を成長させると」
「あぁ?なんだそれは?」
「私も詳しくは……しかし、何かのヒントにはなるのではないでしょうか。武器を鍛えられればより簡単に獣を狩れますし、己を成長は……重い武器を持ったり、器用に扱えるようになったりできるのかもしれません。事実、人に持てないような石の槌や、複雑な鎌のような武器を持つ狩人も居たようです」
「夢………ねぇ」
心当たりはある。この仕込み杖を手に入れた、あの謎の空間だ。
あそこにそんな大層なものがあるのか…?
しかし、その疑問とは裏腹に、
「………まあ、やるだけやってみるしかねぇか。また行ってくるとしよう」
「えぇ、いってらっしゃい。どうかご無事で」
俺が死んでも生き返ることはとっくに知っているだろうに、変わらず奴はそう言った。
仕込み杖で情けなく死んでるヒンドリー君を書きたかったので戻ってきました。
啓蒙については………まあ150も死んでればどこかで
あと、ルビの振り方を知りました。これでできてるはず、多分。