C.E70 7月10日
親プラント国家である大洋州連合に建設されたザフト軍の一大拠点、カーペンタリア基地には、多くの潜水艦や水上艦艇が集結していた。
ヴォズゴロフ級潜水艦10隻と、大洋州連合から提供された強襲揚陸艦5隻、護衛のフリゲート艦15隻からなる艦隊が目指すのは、鹿児島県の東に位置する種子島であった。
この種子島にあるマスドライバー施設を占領し、東アジア方面における橋頭堡とし、また日本の喉元に刃を突きつけ、今次大戦からの離脱または、積極的中立を受諾させる目的であった。
プラント国防委員会の思惑として、日本の新型MSの技術を手に入れ、更に日本の高い軍事力を自軍に引き込み、地球連合に対する優位性を確保したいと考えていた。
だがこの作戦には、致命的なものがあった。
それは種子島の防衛戦力が低く見積もられていたことであった。
プラントでは、日本がMSを保有している事に脅威を感じていたが、その数はまだ少なく、宇宙軍に集中的に集められていると考えていた。
しかし現実は違った、エイプリルフール・クライシスを受け、日本は準戦時体制を敷き、重要拠点には旅団相当のMSを配備していた。
そして種子島は、島という制約があり、連隊規模でのMSしか配備されていなかったが、有事の際には西部・南部方面軍配下にある陸海空軍による支援を受ける事ができるよう調整がされていた。
そのことを知らないザフト軍は、正に虎穴に踏み込もうとしていた。
先島諸島 海軍第103警戒隊
沖縄周辺海域で対空・対潜警戒に当たっていた部隊はいつもと変わらない平穏な日を迎えるはずだった。
しかしその平穏は、何の前触れもなく破られた。
平久保崎に設置された軍施設────その中でも対潜警戒を担当する部署では、今まさにけたたましい警報が響いていた。
「対潜警戒装置に感!」
「探知目標、自然物の可能性なし!我が軍の潜水艦ではありません!」
コンソールに向かっている当直兵士の叫び声が響き渡るなか、指揮官は直ぐ様命令を出していく。
「嘉手納基地に緊急警報発令!周辺部隊にも警戒令を出せ!目標の識別を急がせろ!」
先島諸島の警戒隊からの一報は直ちに、沖縄県にある嘉手納基地に転送されると、嘉手納基地に展開する海軍哨戒飛行隊が護衛の戦闘機隊を伴い、緊急発進を行った。
にわかに活気づいた嘉手納基地から、轟音を響かせながら対潜哨戒機が上がって行った。
そんな中、先島諸島の警戒隊から次々に続報が入ってくる。
この状況に、嘉手納基地に司令部を置いている南方方面軍は、沖縄県知事と協議した結果、沖縄県及び周辺諸島に対し、非常事態宣言の発令と、県民の緊急避難の開始、各地の陸軍駐屯地等に非常呼集をかけた。
「県民の避難、6割が完了。あと2時間程で県民全ての避難が完了します」
「第32軍及び第6海兵師団戦闘配置完了、予備の混成旅団も配置に着きました」
「第5高射師団対空配置完了、各砲台試射を開始」
嘉手納基地司令部では、指揮下の各部隊から戦闘配置完了の連絡が入り、要務士官たちが忙しなく報告を上げていく。
「第2、第3ミサイル基地に攻撃準備指令を発令」
基地司令の命令に、それまで忙しなく動いていた兵士たちの動きが止まった。
「し、司令⋯·····今何と?第2、第3ミサイル基地に攻撃準備指令ですか·····?」
思わず参謀の1人が聞き返した。
「そうだ。第2、第3ミサイル基地も戦闘序列に加える」
基地司令の断固とした言葉に誰もが耳を疑った。
この第2、第3ミサイル基地とは、沖縄本島から種子島までの海域に日本政府が極秘裏に建造した海底ミサイル基地であった。
このミサイル基地には、中長距離弾道ミサイルから耐圧仕様の巡航ミサイルサイロがあり、基地運営は人工知能搭載の水中用アンドロイドによって行われていた。
「し、しかし、あれの指揮権は、内閣総理大臣か統合幕僚司令室が持っており、一方面軍指揮権では攻撃準備指令も不可能では·····」
「忘れたか参謀長、我が国は現在準戦時体制にあるのだぞ。準戦時体制が発令された時に、指揮権が南部方面軍に委譲されている」
指揮官の言葉に誰もが沈黙していた時、1人の兵士が声を上げた。
「緊急発進した哨戒機が所属不明潜水艦を捕捉、国際救難チャンネルで警告を開始しました!」
その報告を皮切りにコンソールに向かっていた兵士たちが指令を出していく。
「当該潜水艦から応答なし!哨戒機、発光音響弾による警告開始!」
「哨戒機から新たな報告!潜水艦隊後方に大洋州連合と思われる水上艦隊を捕捉、進路を種子島に向けているとの事!」
「敵の目的は種子島のマスドライバー施設か!」
「政府と統合幕僚司令室に緊急報告を入れろ、敵の目的は種子島のマスドライバー施設の制圧だ」
「しかし司令、敵とは·····?」
「分からんか、敵はザフト軍だよ」
この言葉に誰もが息を呑んだ。