C.E71 1月25日
L3宙域
航宙実習船「紫雲丸」
「キャプテン、護衛の宇宙軍駆逐艦より護衛任務を終了し、帰投するとの通信です」
「了解した。護衛隊に感謝の通信を送っておいてくれ」
「了解しました」
「紫雲丸」は、海洋高専航宙科の学生150名、教師15名によって運用されており、現在オーブの資源衛星コロニーである「ヘリオポリス」に入港をしようとしていた。
本来なら地球・プラント間での戦争勃発により、実習船の運用も停止される予定であったが、同盟を交わしているオーブのヘリオポリスコロニーまでの実習船運用は継続して行われていた。
但しここ最近海賊の動きが活発化していることを受け、L3宙域までは日本宇宙軍の駆逐艦かフリゲート艦が護衛任務に就いていた。
実際2ヶ月前に、機関故障によるスケジュールの遅れから単独で航行していた民間補給船「国栄丸」が海賊の襲撃を受ける事件が発生していた。
「しかし最近、ヘリオポリスに関して妙な噂を聞くな」
「妙な噂ですか・・・・?」
「あぁ、何でもヘリオポリスで地球軍のMSを作っているらしい」
「まさか!オーブは中立国ですよ、いくら何でも有り得ないのでは?」
「そう思いたがね。しかし今日は何時にもましてイヤな予感がしてならんよ」
このキャプテンの予感は当たっていた。
後に「紫雲丸の悲劇」と呼ばれ、そして日本・プラント間で戦端が開かれる原因にもなるヘリオポリスコロニーにおけるG兵器強奪事件の始まりであった。
同日 日本
首相官邸の地下2階に作られた会議室には、首相以下国務大臣が全員集まり、会議が行われていた。
「プラントから種子島侵攻に関する回答はあったのかね?」
会議の議長でもある内閣総理大臣 榊 是親が外務大臣 珠瀬玄丞齋に話を振っていた。
「在プラント大使が幾度となく会見を行っていますが、プラント外交委員からは国防委員会の独断で行われたため、調査中との回答しか得られていない状況が続いています」
「種子島侵攻から半年が経つのに未だに調査中の回答しか引き出せていないのか?それでは国民が納得しないぞ。今でこそ冷静を保っているが、下手をしたらプラントとの開戦も止むなしとマスコミが焚き付け始めるぞ」
「そこは理解しております。場合によっては、私自らプラントに赴くつもりです」
そこへ会議室に一人の男性が入室した。
「総理、会議中に失礼致します」
「轟局長か、何かあったかね?」
榊が轟と呼んだ男性は、内閣府にある情報局の局長であった。
「以前からお話していた件でお伝えしなければならないことがあります」
「分かった。諸君会議中だが、一旦轟局長からの報告を聞こう」
「会議中に申し訳ありません。しかし重要な情報を得ましたのでこの場で報告させて頂きます。皆様も噂程度で聞いているかもしれませんが、オーブのヘリオポリスコロニーで連合の兵器を製造している件についてですが、実際にヘリオポリスで連合・・・・というよりも大西洋連邦から依頼を受け、G兵器と呼称されるMSの開発が行われていました」
轟からの報告に、誰もが押し黙り、会議室に重苦しい空気が流れた。
「併せてG兵器開発に伴い、我が国がオーブ国防軍との技術交流等で提供した軍事技術・・・・小型ビーム兵器、光学迷彩技術、その他多数の技術がG兵器に流用されていることが判明しました」
「ば、バカな!それでは我が軍の技術が流出しているも同義ではないか!?」
国防大臣が思わず叫ぶように声を上げた。
「轟局長、報告感謝するよ。現状がかなり不味いことが判明したが・・・・取り敢えず外務大臣、すぐにオーブに事実確認を行ってくれ。事実なら関わった人間の身柄の引渡し、または調査協力を取り付けてくれ」
榊が外務大臣にそう伝えた時、会議室の扉が強く叩かれ、軍服を身にまとった士官が入って来た。
入室した士官の表情は、若干青ざめており、緊張した様子であった。
そして国防大臣の下へ足を進めると、一枚の紙片を渡し小声で何かを伝えた。
するも報告を聞いた国防大臣の表情が、青ざめていくのが見て取れた。
「国防大臣、何かあったのですか?」
不思議そうにそれを見ていた閣僚達を代表し、官房長官が話しかけた。
「・・・・総理、非常事態です。先程話に出ていたヘリオポリスコロニーがザフト軍の襲撃を受けたそうです」
これに誰もが言葉を失った。
「更に間が悪いことにヘリオポリスコロニーが襲撃を受けた際に、我が国の海洋高専航宙科の実習船が入港しており、実習船から緊急の救難信号を発信後、消息不明になっております」
この報告にその場にいる全員の顔から血の気が引き、誰もがこの後起きるであろう事を考えた。
「・・・・兎に角今は情報収集を第一優先に動いてくれ。国防大臣、宇宙軍は動けるのか?」
「既に宇宙軍では、海賊対策で展開しているパトロール部隊に巡洋艦戦隊を合流させ、先遣隊としてヘリオポリスに向かわせているとの報告が入っています。また安土からも後詰めの艦隊を急行させているそうです」
「分かった、現場は宇宙軍に一任しよう。文科大臣、すぐに海洋高専に連絡を取り、実習船の乗組員名簿の取寄せと事後の対応を取ってくれ」
「畏まりました。省の中に海洋高専のOBがいますのでその者を派遣します」
「諸君、これから忙しくなる。皆冷静に職務に務めてくれ」
榊はそう言うと、この後開かれるであろう緊急記者会見の発表文を脳内で組み立て始めた。
しかし彼らはまだ知らない。これがまだ序章に過ぎないことを。