今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
◆◆◆ プロローグ:観測実験の事故 ◆◆◆
白光が脈動する管制室。
時間の流れが溶けるような静謐の中で、俺はシエルに声をかける。
「実験の準備、できた?」
《はい、主様。次元座標照合、最終段階に移行します。……完璧です!》
若干テンション高いな。
まぁ、未知の座標へのアクセスだし、気持ちは分かる。
「暴走しないようにだけ頼むよ?」
《暴走などあり得ません。ですが万が一の為、主様はそのまま待機を──……あれ?》
嫌な予感。
めちゃくちゃ嫌な予感。
「おいシエル、今の“あれ?”は何──」
世界がひっくり返る。
光が収束し、空間が細切れに裂け──
俺は渦に飲まれるように落ちた。
《主様! 座標が乱れています! 修復を試みますが……っ、反応速度が異常!!》
「いやちょっ……どこに……っ!」
落下、白、寒気、硬い感触。
視界が開くと。
「……えーっと。どこだここ?」
白銀の大地。
風は凪ぎ、音はなく、ただ氷の世界だけが広がっている。
《ギィの領域ではありません。波長データ収集中……お待ちください、主様!》
シエルの声、珍しく焦ってる。
「別世界の可能性ってあんの?」
《……解析結果。ラミリスの迷宮構造ではなく、未知の迷宮。別世界と断定します!》
マジかよ。
「シエルでも分からない世界か……」
《……不正確な情報を主様に渡すなど、私の矜持に関わるのです!!》
逆ギレか?
まぁいい。
とりあえず出口を見つけるのが先だ。
《そのまま前進すれば階段があると思われます。完璧な推定です!》
テンション高くね?
俺は歩き始めた。
階段を登った瞬間、視界を埋め尽くす巨大な影。
「……ドラゴン多すぎでは?」
咆哮が響き、群れが一斉に襲いかかってくる。
「はいはい……」
転移して背後に回り、軽く拳を当てる。
パァンッ!
ドラゴンは壁に叩きつけられ、灰になって消えた。
「力そんな入れてないんだけど……?」
《制御に誤差がありました! 再調整します!!》
楽しんでるだろ絶対。
灰になった場所には青白い石が転がっていた。
「なんだこれ?」
《主様、拾ってください! 解析鑑定を行います!》
はいはい。
飲み込み、シエルに渡す。
《魔力を大量に宿した“魔石”に類似。用途、多岐にわたります!》
おお……良い資源じゃん。
再び押し寄せるドラゴン。
もう面倒なので竜魔刀を抜き、一振り。
空間が裂け、黒い線となって走り──
触れたドラゴンが真っ二つになっていく。
そのまま壁まで裂き、轟音。
「……使い所考えよう」
十数体が灰となり、魔石が散らばる。
「拾うのめんどくさっ!」
《主様、魔石は重要資源です。ぜひ確保を!》
はいはい分かってるよ。
《主様、上階に魔物以外の生体反応があります。人間と思われます!》
ついにこの世界の住人か。
「慎重に行かないとな……」
《階段を登る際は気配を完全抑制してください!》
おっと、それは──
《……すでに遅いようです。主様の気が緩み、オーラが漏れていました》
言えよ!!
《てっきり主様が威圧を……》
してねぇよ。
仕方ない。
抗魔の仮面をつけて階段を登る。
灰色の大樹林のような空間。
中央には七人の影。
金髪の少年──フィンが真っ直ぐこちらを見る。
「君は何者だ?」
全員が臨戦態勢。
空気が重い。
俺は両手を上げる。
「えっと……下から上がってきただけなんだ」
沈黙。
みんな目を見開いてる。
「ひとりで……だと?」
リヴェリアが驚愕を隠さない。
ガレスは斧を握る手に力を入れた。
フィンが低く呟く。
「下層から上がってきた強烈な気配……まさか、モンスターではなく君だったと?」
いや……ごめん。
「俺は……リムル・テンペスト。冒険者だよ」
「どこのファミリア所属だ?」
……来た。
「えっと……内緒で」
完全に警戒が跳ね上がる。
《主様、ここから先は危険です! 撤退を推奨します!》
「じゃ、またどこかで!」
俺はその場から転移した。
アイズが目を丸くする。
「……消えた」
リヴェリアは信じられないという表情。
「転移……あの距離を、詠唱なしで……?」
ガレスは苦い顔で唸った。
「フィン、どう見る?」
フィンは親指を抑えながら言った。
「……“神級存在”がいたのかもしれない」
その場の空気が凍る。
アイズが静かに言う。
「……強かった」
誰も否定しなかった。
フィンは深呼吸する。
「しばらく探索を中断し、この階層で待機する。
あれが敵でないことを祈ろう」
沈黙が落ちた。
階段裏の隅で座り込む俺。
「……はぁぁ……やっちまった……」
《主様は悪くありません! 主様は完璧なのです!!》
うるさいなぁシエル……
慰めてるつもりだろうけど逆効果だよ。
「とりあえず地上に出よう。……この世界、どうなってんだろ」
《はい主様! 道案内は私にお任せください!》
俺は立ち上がり、上の階層へ歩き出す。
その顔は──未知へ踏み出す冒険者そのものだった。