今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
はーい、と俺が返事をした。
「俺が出迎えに行ってくるよ」
「わかった、ボクたちはここで待ってるね」
ヘスティアにそう声をかけて、俺は玄関へ向かい扉を開けた。
「いらっしゃい、神ロキにアイズさん」
「なんや、自分ウチらが来ること知っとったんかい」
「そうですね。ただ、敵意は無かったので普通に待ってましたよ。まぁ立ち話もなんですし、中へどうぞ」
俺は2人を中へ案内し、ヘスティアのいる部屋まで連れていき、ソファと椅子に座ってもらった。
「やぁ、ロキ。久しぶりだね」
「せやな〜」
笑ってはいるのに、何故か空気がバチバチしている気がするのは気のせいだろうか。
「それで? 今日は何しに来たんだい?」
「昨日のことと、そこにおるリムルのことを聞きに来たんや」
「ふむ、昨日のことと言えば、君のところの冒険者……確かベート、だっけ? 喧嘩吹っかけられたからリムルくんがボコボコにしたって聞いたけど」
「そうや」
「それで?」
ロキはスッと真顔になり、
「昨日のは、完全にウチの責任や。すまんかった」
そう言って、深々と頭を下げた。
「え、ちょ、ロキ!?」
ヘスティアは目を丸くし、露骨に動揺している。
「聞いたなら分かるやろうけどな。ウチのベートが、どチビん所に喧嘩を吹っかけて、それでボコボコにされた。言っちゃえばただの自業自得や。それに、それを止めんかったウチにも責任あるのは当然やろ? そもそもベートはウチの眷属やしな」
「……はぁ。別にいいよ、気にしてない。むしろそのベートが死んでないかどうか気になってたくらいだよ」
「いやー、あれはホンマにやばかったで。一瞬やったもんなぁ?」
ロキはそう言いながら、俺の方にチラッと目配せしてくる。
「……俺も昨日は冷静じゃなかったしな。確かに、やりすぎたとは思ったけど」
「自分、手加減しとったんかい」
「それに言いましたよね。ファミリア間の問題にするつもりは無いって。それに、ただの売り言葉に買い言葉。ただの喧嘩ですよ」
「確かにな。じゃなきゃ、あんな回復薬もくれるはずもないやんな」
「ですね。それに、まさか神ロキが自ら謝罪に来るとは思ってもみなかったので。俺はもう全然気にしてませんし。それに、俺に謝るんじゃなくて……」
俺はベルの隣まで歩き、ポンッと軽く頭を叩いた。
「こいつに謝ってください。侮辱されたのはベルなんですから」
「え、ちょ、リムルさん!?」
「……たしかにな。自分、名前はなんて言うん?」
「はい!? えっと、あの……ベル・クラネル、です……」
「そうか……ベル。昨日は、ウチのベートがすまんかった。許してやってくれへんだろうか」
再びロキは、今度はベルに対して頭を下げた。
「ちょ、ロキ様!! 頭を上げてください!! 僕は全然怒ってません!!」
「……ホンマか?」
「本当です!! 確かに言われた時はすごく悔しかったです……でも、必ず見返して強くなってやるって思いました!」
「……そっか。ありがとうな、ベル!」
ロキが顔を上げる。ベルも少し照れくさそうに笑った。
「話はもう終わりでいいかい?」
ヘスティアが確認する。
「せやなぁ……ベルとリムル、良かったらウチにこーへん?」
「え?」「……」「はぁ!?!?」
「何言ってんだロキ!!!」
ヘスティアがテーブルを叩いて立ち上がる。
「いやー、だって、リムルはウチのベート圧倒するし、ベルは今後絶対強くなるやん?」
「だからって許さないぞ!! ボクの眷属だ!!」
「……冗談やって。そんなマジで受けとんなや」
「ゔーー!!!」
ヘスティアは顔を真っ赤にして頬を膨らませ、ぷるぷる震えながら威嚇している。ちょっと可愛い。
「神ロキから直々に俺らを誘ってくれるとは光栄です」
「え、リムルくん?」「リムルさん?」
「でも、俺はヘスティアファミリアの、一応最初の団員なので。それはお断りします。何があっても、なびかないと思いますよ」
「あはは〜。そうかそうか」
「それに、ベルは一度そちらのファミリアに入りたいって言ったらしいですけどね?」
「え、それホンマかいな」
「なぁ、ベル?」
「え、はい。そうですね」
「それ、ウチなんも知らんねんけど……アイズたん、知っとった?」
「いえ」
「あ、僕は門番の人に、『お前のようなひ弱なやつはロキファミリアにはふさわしくない』って言われちゃいました……」
「……マジか。……それはすまん!! 入団希望者は必ず通せって言っといたんやけどなぁ……」
ふむ、門前払いは不当な扱いだったわけか。
「も、もう終わったことですし。それにリムルさんに拾われて、ヘスティアファミリアに入ることも出来ましたので。気にしてませんよ!」
「君たち……!」
ヘスティアは目に涙を浮かべながら、俺とベルをぎゅっと抱きしめてきた。
「ふん! もういいだろ! 話は終わりだい!」
「いやいや、待て待て待て。引き抜きのやつはホンマに冗談やってん。それに本題はベートの事でもないねん」
「だったら何さ」
ロキは俺を指さした。
「最初に言ったやろ? リムルについて聞きたいことがあるって」
「俺ですか?」
「せや! なんでレベル1が、レベル5のベートを“手加減して”瞬殺できんねん!」
「あー……あははは」
「あはは……ちゃうぞ! ヘスティア、どーゆーことや!」
「落ち着けロキ。まぁ、いつかは言わないとって思ってたからね。リムルくんの正体」
ヘスティアは、さっきまで俺たちに抱きついていた腕を離し、椅子に座り直してロキを真っ直ぐに見た。
「なんや……」
「リムルくん、言っても大丈夫かい?」
「俺は別に構わないよ。それにベルにもまだ説明してなかったし」
「そうだったね。ベルくんとロキ……それとヴァレン何某くん? 今から話すこと、見たこと、絶対他言無用で頼むよ。他の者に事実が知れたら、大混乱が生まれる可能性が高いからね」
「は、はい!」
「わかった。それは守ったる」
「分かりました」
「じゃあまず、リムル君はそもそもヒューマンじゃない。スライムなんだ」
俺はスライムの姿に戻り、ぴょん、とヘスティアの膝の上に収まった。
「「えぇぇぇぇぇえええ!?!?」」
「……!?」
ベルとロキは大声を上げ、アイズは目を見開いたまま、咄嗟に剣に手を掛ける。その動きを見て、ロキがすっと声をかけた。
「待ち、アイズたん。少し落ち着き」
諭すような声に、アイズは剣から手を離し、力を抜く。
「え、じゃああの人は……?」
ベルが俺を指さす。
「俺は、喰った物に擬態できるんだ」
俺はもう一度人型に戻りながら答えた。
それから、俺はこの世界に来るまでの経緯を、ざっくりと3人に話した。別世界のこと、この世界に飛ばされてきたこと、自分の力のこと……そして。
「リムル、喰った物に擬態できるってことは、その人型は?」
「それは……」
俺は一度息を整え、シズさんとのことを話し始めた。
彼女との出会い、炎の精霊、最後の願い、そして俺が彼女を取り込んだこと。その願いを継ぐために、この姿を選び続けていること。
一通り話し終えると、室内はしばらく沈黙に包まれた。
「……てな感じで。だからこの姿は、シズさんの願いで、俺が喰ったんだ」
「なるほどなぁ。他の人を食べたりとかは?」
「ない。俺は無駄に人を殺す趣味はない」
「……いやー、こんなことありえるんやなぁ」
ロキは頭を抱えながら、天井を仰いだ。
「だよね。ボクも初めて聞いた時は同じ反応をしたよ……うんうん」
「いや、そりゃそうなるやろ! なんやそれ! ウチら神にも、同じこと出来るやつなんておらんやろ!」
「リムルくんがもしこの世界の人に敵意を向けたら、誰も勝てないだろうね。ボクら神は天界に強制送還。人は滅ぶだろうね」
ヘスティアの言葉に、ロキは顔をしかめる。
「むちゃくちゃやろ……そりゃ、ベートが歯が立たん訳やわ……」
「だろ?」
「確かにそのまま冒険者登録したら、騒ぎになりすぎる」
「んー、俺は別にこの世界を壊そうとか、全く思ってないぞ? それに俺はこの世界で、しばらく楽しもうって決めてるんだよ」
「リムルさん……いつかは帰っちゃうってことですよね……?」
「まぁ、そうだなぁ」
「……分かりました。僕、リムルさんを目標にします!!」
「え、俺?」
「はい!」
「いや、まぁ……ダメとは言わんが……が、頑張れ?」
「はい!」
「しっかし……規格外すぎて、どうしていいかホンマにわからんで、これ」
「だよね……」
「お前もよう眷属にしたなぁ」
「出来るか分からなかったけどね。でも、眷属になってくれれば、この世界の敵になることはないんじゃないかなって思ってさ」
「まぁでも、ベートが殺されなくてほんとに良かったわ」
「今回の事は本当に他言無用で頼むよ?」
「わかっとるって。ただ、ウチの団長と副団長には伝えてもええか?」
「他言無用って言ったよね? はぁ……まぁいいよ。リムルくんは気にしてないだろうし、広まったところでリムル君に勝てる奴なんて、この世界探したっていないだろうし」
「ま、それ以外はホンマに他言無用にするから、それは任せてな」
「ロキも変わったね。天界にいた頃とは大違い」
「それ、ファイたんにも言われたわ」
その後しばらくは、俺がスライムになったり人型になったりで遊ばれたり、軽く雑談を交えたりして、場の空気はだいぶ和んでいった。
「それじゃ、ウチらはそろそろ帰るわ。アイズたん、行くで?」
「……」
「アイズたん?」
ロキの呼びかけにも、アイズは返事をせず、じっと俺の方を見ていた。そのまま、すっと立ち上がり、俺の目の前まで歩いてくる。
「あの……」
「どうしたんですか?」
「私と、戦ってください」
「え?」
「アイズたん!?」
ロキが思わず声を上げる。アイズはそれでも、真っ直ぐに俺だけを見ていた。
「どうしてだ?」
「あなたの強さを、体感してみたい」
「ふむ……いいだろう。じゃあ、ついて来てくれ」
そう言って、俺は人型に戻り、アイズをベルとの訓練で使っている部屋へと案内した。ヘスティアたちは巻き添えにならないよう、入口付近の安全地帯で見学するように伝えておく。
「ここは?」
「俺とベルが特訓している部屋だよ。ここなら俺の結界が張ってあるから、どんなことをしようが外に聞こえることはないし、壊れることもない。勝敗はどうするんだ?」
「もともと、勝てるとは思ってない」
「それじゃ、面白くないだろ?」
「……」
「そうだな。さっき見てたから分かると思うが、俺はスライムだ。だから、例えば腕を切り落とされたとしても、すぐ再生できる」
そう言って、俺は自分の持っている刀で、自分の腕をスパッと切り飛ばした。飛んだ腕はゼリー状に崩れ落ち、それがすぐに俺の身体に吸い込まれ、元通りに戻る。
「こんな感じ。だから、遠慮はいらない。今、持てる全ての力を俺にぶつけてこい」
「……わかった」
「一応、制限時間として10分。俺に一太刀でも浴びせられたら、アイズの勝ちってことで。じゃあ始めるぞ〜。あ、アイズは片手剣なの?」
「うん」
「じゃあ、俺も刀使おうかな。いい?」
「大丈夫」
「よし! 始めるよ。ベル、合図お願いしていい?」
「はい!」
俺とアイズは、お互いに一歩下がって構えを取る。
刀を抜き、腰の位置で構える俺と、細身の剣を低く構えるアイズ。空気が、ピンと張り詰めた。
「はじめ!!!!!」
ベルの掛け声と同時に、アイズが地を蹴った。
「ッ!」
風を裂く音と共に、鋭い突きが一直線に来る。速い。さすがは“剣姫”と呼ばれるだけある。
だが、その一撃を、俺はほんの僅かに体を捻るだけで避ける。
突きは空を切り、そのままアイズは俺の横を駆け抜ける。だが、そこで終わらない。通り過ぎざまに地面へ手を付き、無理やり体勢を捻って、後ろ蹴りを放ってきた。
「おっ、と」
それも、紙一重で回避する。アイズは一旦距離を取った。
「随分器用なことできるんだな。剣術だけじゃなくて、ちゃんと体術も使えるのか」
「……」
「ん? 来ないのか? じゃあ今度は俺から行くぞ」
今度は俺が一気に間合いを詰め、アイズの首筋目がけて斬りかかる。
アイズはそれを受け止めようと剣を上げるが――
俺の姿が、視界からすっと掻き消えた。
「……ッ!?」
背後から、鋭い殺気。アイズは反射で剣を構え直す。
カンッッ!!
剣と刀がぶつかり合った瞬間、腕に凄まじい衝撃が走った。
「おぉ、今の防ぐか! なかなかやるなぁ!」
「今のは、防ごうと思って防げたものじゃない……たまたま……」
ジンジンと痺れる手を見つめながら、アイズが答える。
「なるほど……勘ってやつか」
今度は、お互い同時に動いた。
「「――!」」
刃と刃が交錯する距離まで一気に踏み込み、そのまま速度を殺さず切り結ぶ。
刃が触れ合う瞬間、俺はほんの少しだけ、力加減を強めた。
「ぐはっ!」
アイズの身体が、吹き飛んだ。
結界の壁に叩きつけられ、その場で血を吐く。それでも、彼女の握る剣は折れずに残っていた。
「なぁ、その程度なのか? レベル5ってのは。でも、その武器すごいな。壊すつもりでやったんだけど」
「ごほっ、ごほっ……この剣は、不壊属性が付いてる……」
「そんなのがあるのか。いい武器使ってるんだな」
アイズはよろよろと立ち上がり、口元の血を親指で拭った。そして、再び剣を構える。
アイズの周りの空気が、一瞬揺れた気がした。
「次で、決める」
「あぁ、魔法か。よし、こい」
アイズはふぅ、と一呼吸おき――静かに詠唱する。
「目覚めよ、テンペスト」
その言葉と共に、アイズの周りに強い風がまとわりつき始める。髪とマントがはためき、その瞳の奥に宿る光が、より鋭くなった。
「次で、決める」
「いいね。全力で来い」
「……最大出力」
アイズの声が、低く響く。まとわりついていた風が、暴風へと変わった。
そして――
アイズは地面を穿つ勢いで踏み込み、風の弾丸と化して一直線に突っ込んできた。さっきまでとは比べ物にならない速度。
「おぉ、まだこんなもん隠してたのか」
俺は少しだけ、抑えていた力を解放する。
「リル・ラファーガ!!」
風の切り裂く悲鳴と共に、アイズの渾身の一撃が迫る。
刀と剣がぶつかり合った瞬間、世界が一瞬だけ真っ白になった。
ドンッッッ!!
凄まじい衝撃が部屋中を揺らし、風圧が壁を叩く。結界の内側で渦巻く風が暴れ、ヘスティアたちは思わず目を背けた。
それでも、結界はびくともしない。
「……っ!」
少しして、ヘスティアたちは恐る恐る視線を戻した。
そこには、刀を構えたまま余裕の表情で立つ俺と、地面に膝をつき、今にも倒れそうになっているアイズの姿があった。
アイズの一撃は、確かに鋭かった。けれど、その刃は――
俺の刀によって、完全に受け止められている。
その瞬間、ベルが持っていた砂時計の砂が落ちきった。
「……ちょうど、10分ですね」
俺は小さく息を吐き、刀を下ろした。
アイズの渾身の一撃が届かなかったところで、決めていた制限時間は、ちょうど終わりを迎えていた。