今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版   作:にゃすぱ@梨

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怪物祭の影

 

 

俺は今日の分の魔石を換金するため、いつものようにギルドへと向かっていた。

……のだが、どうも空気がおかしい。視線が刺さる。多い。やたら多い。

 

(俺、何かしたっけ?)

 

首を傾げていると、カウンターの向こうからエイナさんが手を振り、軽やかに歩いてきた。

 

「こんにちは、リムル君」

 

「こんにちは、エイナさん。どうかしました?」

 

「ねぇ、リムル君。私ね? すごく“面白そうな噂”を聞いちゃったんだけど……知ってる?」

 

にっこにこの笑顔。

いや、これは笑顔ではなく“狩人の目”だ。

 

「噂? なんですかそれ」

 

「ある冒険者がね、レベル5のベート・ローガ氏を倒したって噂なんだけど」

 

「あ……へ、へぇ……お、おもしろいウワサですね?」

 

「それでね? その倒した冒険者の容姿が――

青みがかった綺麗な長髪、背は高くなくて、中性的な顔立ち……」

 

エイナさんは俺の顔へずいっと近づき、

 

「それが、とーってもリムル君に似てるんだよね〜?」

 

ニコォ。

 

(ひえぇ!? 逃げ道がない!!)

 

「えーっと……」

 

「ん?」

 

「ぼ、ぼくがやりました……」

 

言った瞬間、エイナさんの目がカッと見開かれた。

 

「……こちらへ」

 

完全に“職務モード”の顔になり、俺は半ば引きずられるようにギルドの個室へと連行された。

 

 

---

 

 

「はぁ……ねぇリムル君」

 

「な、なんでしょう……」

 

「どうやったらレベル1の冒険者が、レベル5の冒険者を“圧勝で”倒せるのかな?」

 

「……あ、あはは……」

 

「それに、あなたレベル1って申告したよね?」

 

「はい……」

 

「どうして?」

 

「えっと、それは……」

 

「言えない?」

 

沈黙。

 

エイナさんの声が、静かに重く落ちた。

 

「このままだと“レベル詐称”で、冒険者資格剥奪までありえるんだけど……?」

 

「……はぁ、しょうがないか」

 

立ち上がった俺を、エイナさんは驚いた顔で見た。

 

「ど、どうしたの?」

 

「ヘスティアのところ行きましょう」

 

「ヘスティア……って、神ヘスティア!?」

 

「はい。もしバレたら、“連れて来い”って言われてるんです」

 

「……なるほど。分かりました。ついていきましょう」

 

「少し待ってくださいね」

 

「え、うん?」

 

俺は思念を飛ばす。

 

《ヘスティア、聞こえるか?》

 

《わっ、なんだいリムルくん》

 

《例の喧嘩の件で、アドバイザーの子にバレちゃって……今から連れてく》

 

《やっぱりか……分かったよ。気をつけておいで》

 

《了解》

 

「大丈夫みたいです。では行きましょう」

 

「え、ドアは――」

 

「そこからは出ません」

 

疑問顔のまま近づいてくるエイナさんに手を置き、俺は転移魔法を発動させた。

 

 

---

 

 

「よ、おかえりリムルくん」

 

「ただいま。連れてきたよ」

 

「えっ……ど、どこ? ギルドじゃ……ない??」

 

「ここは僕のファミリアのホームだよ」

 

エイナさんはバッと振り向き、

 

「は、初めまして! リムル君のアドバイザーの、エイナ・チュールと申します!」

 

「初めましてだねアドバイザー君。ボクはヘスティアだよ」

 

エイナさんは混乱したまま神へ挨拶をする。

 

「転移……魔法……本当に存在してたんだ……」

 

「とりあえず座って。大事な話だからね」

 

促され、エイナさんは緊張の面持ちで腰を下ろした。

 

「さて。呼んだ理由はリムル君の“秘密”を共有しても良い人か、見極めるためだよ」

 

「秘密……ですか?」

 

「そう。リムル君の事情は特殊すぎる。広めたくない。だからこそ、人は選ぶ」

 

エイナさんは喉を鳴らして息を飲んだ。

 

「アドバイザー君。覚悟はあるかい?

知る方法として、君にリムル君のステータスを見てもらおう。ヒエログリフは読めるかい?」

 

「た、多少なら……」

 

「リムル君は“見せてもいい”と言っていたよ」

 

エイナさんは目を閉じ、数秒考え――そして目を開いた。

 

「覚悟ならあります。

ステータスは本来、知られてはいけないもの。それを見せていただくのです。

もし私から情報が漏れた場合、私はリムル君へ“絶対服従”を誓います」

 

「ちょ、ちょっと!? エイナさん!?」

 

「大丈夫だよリムル君。それだけ重要ということさ」

 

「……分かったよ。君なら信じられる」

 

ヘスティアの言葉に、エイナさんは深く頭を下げた。

 

 

---

 

俺は上着を脱ぎ、背中のステータスを見せる。

 

「……え? 全部、伏字……? え……?」

 

「そう。リムル君は“神の御業であるステータスへの干渉”を、自力で行える存在なんだ。

ボクだって全部は把握できてないよ」

 

「そ、そんな……これが……ありえるなんて……」

 

「言った意味、分かっただろ?」

 

エイナさんの顔は青ざめているのに、目だけが異様に冴えていた。

 

「この前ヴァレン某君とも戦ったけど、本気の彼女の攻撃を余裕で受け止めてたからね」

 

「……ッ……」

 

声すら出せないらしい。

 

「エイナさんエイナさん。君の忠告で5階層までしか行ってないけど……もっと下層行ってもいい?」

 

「あ、うん……もちろん。ただ、ちょっとずつね?」

 

「もちろんです」

 

「よかった……じゃあ、潜る時は必ず私のところ寄っていってね」

 

「はーい」

 

こうして俺はエイナさんにステータスを公開し、下層探索の許可を得た。

その後は転移魔法で彼女をギルドまで送り届け、俺は歩いて帰ることにした。

 

 

---

 

 

「なんか今日、街が騒がしい気がするんだけど……俺の気のせい?」

 

道沿いでは屋台の準備。飾りつけ。テーブルの搬入。

 

(これは……祭り?)

 

帰ったらヘスティアに聞くか。

 

そんなことを考えながら、ホームへ戻る道を歩いた。

 

 

---

 

 

模擬戦の日のことを思い返しながら、中層帰りに階段を上がっていた。

 

どうしてあんなに強いのだろう。

どうすれば、あんな力を手にできるのだろう。

彼は言っていた。

“守りたいものがあるから”と。

 

なら私は――

どうして私は強さを求めている?

 

(私、どうして――)

 

そのとき。

 

「あれ、アイズさん?」

 

「キミは……リムルのところにいた……」

 

「ベル・クラネルです!」

 

上層への階段付近、5階層。

アイズは自分が考え事に夢中で、思った以上に上がってきてしまったことに驚いた。

 

「あの、ミノタウロスの件で……謝りたくて!」

 

「え?」

 

「僕のせいで、アイズさんに恥をかかせちゃったから……」

 

「あ……いえ。私は気にしてないよ。ありがとう」

 

不思議な子。

白い髪に赤い瞳――可愛い、うさぎ?

 

「アイズさんこそ、どうしてここに?」

 

「中層からの帰りだよ」

 

そこで一度、会話が途切れた。

 

ベルはなぜか、顔を赤らめて視線を泳がせている。

 

「ア、アイズさん!」

 

「なに?」

 

「アイズさんは……どうしてそんなに強いんですか?」

 

「……私は全然だよ。昨日の見たでしょ?」

 

ベルは慌てて、何か言いかけて飲み込んだ。

 

「あ、そうだ! アイズさんは、来ないんですか?」

 

「どこに?」

 

「朝の特訓です! 昨日リムルさんが言ってましたよ?」

 

アイズの胸の奥に、小さく熱が灯る。

 

(呼んでくれた……)

 

「ベルって呼んでいい?」

 

「は、はい!!」

 

「じゃあ私はアイズで」

 

ベルは破裂しそうな笑顔になった。

 

「……1回、お邪魔させてもらおうかな」

 

「本当ですか!? じゃあ明日、僕らのホームに来てください!」

 

「わかった」

 

ベルは嬉しそうに駆けていった。

 

(基礎から教えてもらって、もう5階層……?

この子も――すごいな……)

 

 

---

 

「ヘスティア〜、いる〜?」

 

「おかえりリムルくん! どうしたんだい?」

 

「帰り、なんかお祭りみたいな準備してたけど?」

 

「あー……あ、そうだ! もうすぐ怪物祭《モンスターフィリア》だよ!」

 

「怪物祭?」

 

「そう! ガネーシャファミリアがやるお祭りでね、ダンジョンからモンスターを運んで調教するんだよ!」

 

「へぇ、面白そうだな」

 

「ちょっと確認してみるね!」

 

ヘスティアが書類を漁り――

 

「わっ!! 明日からじゃないか!!」

 

「明日!?」

 

「そうだよ! 行こ? 三人で見に行こ!!」

 

満面の笑み。

ヘスティアの笑顔は、どうにも胸が温かくなる。

 

……その瞬間。

 

俺は“視線”を感じた。

 

はっきりとした悪意ではない。

けれど、こちらを注視する強烈な気配。

 

シエル。

 

《はい、それは――》

 

シエルの返答が聞こえた、その直後。

 

 

---

 

 

「……彼の魂。なんて綺麗なのかしら。

こんなにも澄んだ魂、見たことがないわ」

 

バベルの最上階。

ダンジョンとは別の“不可視領域”。

 

そこにいた“彼女”は、リムルとベルの魂を覗き見ていた。

 

「けれど――隣のあの子は何者?

魂の色が“見えない”……そんな存在、あり得ないわ」

 

リムルの存在は、彼女にとって未知そのものだった。

 

「戦っているときの彼は、魂がいちばん輝くわね……もっと見たい……」

 

だが、そこで。

 

「……っ!」

 

リムルがふと顔を上げ、まるでこちらを“見た”ように感じた。

 

「な……どうして?

見えるはずがないのに……ここはバベル最上階……」

 

動揺しながらも、彼女は唇をつり上げた。

 

「まぁいいわ。とりあえず――

彼より“あの子”。

明日は私と遊んでもらおうかしら?」

 

怪物祭(モンスターフィリア)――その裏で、静かに影が蠢き始めていた。

 

 

 




また、やってしまった…
予約投稿のミス…
ミスする度に在庫減ってしまうからミスしないようにしたい…

誤字報告などすごい助かります本当にありがとうございます
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