今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版   作:にゃすぱ@梨

17 / 20
怪物祭の朝

 

 

私は、いつもより少し早めに目を覚ました。

まだ外は薄暗く、日は地平線の向こうに隠れたまま。

 

上体を起こして背筋を伸ばし、ふわぁっとひとつ欠伸をする。

 

「準備しないと」

 

今日は、リムルとベルがやっている朝の模擬戦に、お邪魔させてもらう約束をした日だ。

 

顔を洗い、動きやすい服に着替え、髪を整える。

 

「……よし」

 

いつもは中庭の修練場で、朝ひとりで剣を振っている。

誰かと一緒に特訓をするのは、たぶん初めてだ。少しだけ、楽しみでもあった。

 

準備を終えた私は部屋の扉を開け、リムルたちの元へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ベルは相変わらず早起きだなぁ」

 

「おじいちゃんと暮らしてた時は、もっと朝早かったですよ!」

 

「え、まじ? 大変だなぁ」

 

「でも、楽しかったですから。全然苦じゃなかったですよ?」

 

「そっかそっか……」

 

俺たちはいつもの訓練部屋で、準備運動がてら軽く立ち話をしていた。

 

「ところでさ、今日は怪物祭《モンスターフィリア》だって知ってたか?」

 

「怪物祭モンスターフィリア…ですか?」

 

「なんかお祭りらしいんだけど」

 

「いえ、全然知りませんでした」

 

「あれ、ヘスティアから何も聞いてない?」

 

「何も聞いてないですね」

 

「ヘスティアめ……昨日“言っとく”って言ってたのに……まぁいいや。今日、そのモンスターフィリアって祭りがあるんだけど、三人で一緒に行くかって話をね」

 

「いいですね! 行きましょう!」

 

「おっけー!」

 

そこで一つ思い出す。

 

「そうそう、忘れてたけどさ。ベルって、まだ“思念伝達”ってやったことないよね?」

 

「なんですか? それ」

 

「ちょっと待ってね」

 

《シエル、頼む》

 

《問題ありません。既に思念リンクは構築済みです》

 

(はやっ!?)

 

よし、と心の中で頷く。

 

 

 

《ベル、聞こえるか?》

 

「え?」

 

《頭の中で俺に喋りかけてみてくれ》

 

《……こ、こう…ですか?》

 

《そうそう、これこれ。これが思念伝達ね。遠く離れてても会話できるから、何か用があったらこれで連絡くれたらすぐ行ける》

 

《さ、さすがリムルさん……分かりました!》

 

 

 

「どころで、今日もアイズは来ないのか?」

 

「うーん、昨日ダンジョン内でアイズさんに会ったんですけど、その時は“行く”って言ってましたよ?」

 

「ふむ……お、来たみたいだぞ」

 

「え?」

 

その時、扉をノックする音が聞こえた。

 

「ほらな?」

 

「どうやって分かったんですか!?」

 

「ふっふっふー、俺には何でも分かっちゃうんだよ!」

 

「さすがですねリムルさん!」

 

「じゃ、アイズを迎えに行こうか」

 

「はい!」

 

俺たちはノックされた扉の方へ向かい、アイズを迎えに行った。

 

 

 

「おはようございます! アイズさん!」

 

「ん。おはよう、ベル」

 

「よっ」

 

「リムルも、おはよう」

 

挨拶を交わし、三人でそのまま訓練部屋へ向かう。

 

 

 

「よし、じゃあいつも通り――って思ったんだけどさ。アイズって、誰かに“指導”したことってある?」

 

「ない」

 

「そっか。戦い方は誰に教わったんだ?」

 

「フィンとか、リヴェリアとか、ガレスとかかな」

 

「なるほど……よし、アイズ!」

 

「?」

 

「ベルの相手してみてくれ!」

 

「ちょ、リムルさん!?」

 

ベルが情けない声を上げる。

 

「いや、ひとつ思ったんだけどな? “教える”ってことはさ、自分も初心に戻るだろ? そこで色々気づけるんじゃないかなって思ってさ。それにアイズには、ベルの成長速度も見てほしいし」

 

「……わかった」

 

アイズがこくりとうなずく。

 

「よし、じゃあ早速やってみようか」

 

「あ、あの、アイズさん……よろしくお願いします……」

 

「うん。でも、教えた事ないから、どうすればいいか分からない……」

 

「あらら……じゃあ、俺がやってるみたいに“模擬戦”してもらおうか」

 

「模擬戦?」

 

「うん。もちろんアイズは本気でやっちゃダメだよ? 戦う中で“ここ危ないな”って思ったところを指摘してあげる感じで。それなら出来そうじゃない?」

 

「たぶん」

 

「俺ってさ、今は人型してるけど、実際は魔物だからさ。人としての“普通の戦い方”とは違うんだよ。だから俺じゃ教えられないこともあるだろうし」

 

「……わかった。やってみる」

 

 

 

「よし、じゃあ二人とも位置について」

 

ベルはナイフを、アイズはまだ鞘に収めたままの剣を構える。

 

「はじめ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

リムルの掛け声と同時に、ベルが駆けてきた。

 

私はその動きを軽く受け流し、ベルに合わせて足を運ぶ。

 

何度か刃を交わしたところで、ひとつ引っかかる。

 

「ねぇ、ベル」

 

「どうしましたか?」

 

声をかけると、ベルはすぐに動きを止めた。

 

「ベルの攻撃、すごく直線的。フェイントとか、混ぜないの?」

 

「フェイント、ですか?」

 

「えっと……あ、実際にやってみるから、見てて」

 

「はい! 分かりました!」

 

 

 

数合分、今度は私が仕掛けた。

 

動きに緩急をつけ、視線をずらし、足の運びを変え、刃筋をずらして最後に――

 

ベルの脇を抜けるように踏み込んで、腹に一撃を叩き込んでしまった。

 

「うぐっ!」

 

ベルの体がふわりと浮き、そのまま後ろの壁まで吹き飛び、派手な音を立てて激突する。

 

ずるずると崩れ落ち、そのまま気絶してしまった。

 

「!」

 

背後から、若干引き気味の声。

 

「あの……アイズさん? ちょっと強すぎじゃありませんか……?」

 

「力加減……間違えた……」

 

「……あはは……」

 

 

 

ベルが起きるまで、私とリムルは少し話をすることになった。

 

「リムルは、今までベルの相手をしてたんだよね?」

 

「うん」

 

「少し思ったんだけど……ベルって、まだ冒険者なりたてなんだよね?」

 

「そうだな」

 

「でも、“痛み”とかに対する恐怖が、ほとんど無いように感じる」

 

「あー、それは俺も今のアイズと同じことしまくってたからな……。少し力が付いて“これくらいなら大丈夫だろう”って思ってやった結果が、今だよ」

 

「……」

 

「これからも、ベルの模擬戦相手は頼んでもいいか?」

 

「……うん」

 

「ありがとう。やっぱり俺には向いてないわ」

 

「そんなことないと思うけど」

 

「いや、俺は万能感知で常に周囲が全部見えてるけど、アイズは“死角を作らないように”立ち回ってただろ?」

 

「万能感知?」

 

「えっと、簡単に言うと“俺に死角はない”ってこと。だから、死角を消すような立ち回りをする必要がないんだよ」

 

「なるほど……」

 

「それに、アイズにとっても、今よりもっと強くなる“きっかけ”になると思うぞ」

 

「……わかった」

 

 

 

「それにしても、その剣。不壊属性って言ったっけ?」

 

「うん」

 

「壊れないのは分かったけど、切れ味とか刃こぼれはするのか?」

 

「する。だから、定期的にメンテナンスしてもらわないといけない」

 

「なるほど……見せてくれるか?」

 

「いいよ」

 

私は剣をリムルに渡した。

 

「すごく綺麗だな……でも、結構刃こぼれしてないか?」

 

「え……」

 

リムルに見せてもらうと、刃先に細かな欠けがいくつもついていた。

 

「ほんとだ……この前、メンテナンスしてもらったばかりなのに」

 

「……つかぬ事を聞くんだが。それ、俺と戦った“あと”か? “前”か?」

 

「前」

 

「それ、俺のせいじゃね?」

 

「あ」

 

「ごめん! メンテナンス費用は俺が出すよ!」

 

「別に、大丈夫」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

そんなことを話しているうちに、ようやくベルが目を覚ましたので、そのあとはもう少し力を抑えめにして模擬戦を続けることになった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「今日はこれくらいにするか」

 

「はぁ……はぁ……ありがとうございました、アイズさん……」

 

「こっちこそ、ありがとう。また明日も、よろしくね」

 

「はい!」

 

「そういえばアイズ。今日、怪物祭モンスターフィリアらしいけど、行くのか?」

 

「うん。ロキに誘われてる」

 

「そっか。じゃあ、どっかで会うかもな」

 

「うん」

 

「じゃ、また明日も頼むね!」

 

「わかった」

 

そう言って、アイズはホームを去っていった。

 

 

 

「いやー、それにしてもベル。面白いくらい吹き飛んでたな。大丈夫か?」

 

「これくらい、大丈夫です」

 

「ま、頑張ってくれ。よし、じゃあさっさとシャワー浴びて、ヘスティア起こして、怪物祭モンスターフィリア行くぞー!」

 

「はい!」

 

俺はヘスティアを起こしに、ベルはシャワーを浴びに、それぞれ動き出した。

 

 

 

「ヘスティア〜、起きろ〜?」

 

「ん〜……あとごふん……」

 

「今日、怪物祭モンスターフィリア行くんだろ〜?」

 

「ぅん……行くぅ……」

 

「ったく、この神は……まぁ、焦る必要もないか」

 

そのままヘスティアを寝かせておいて、俺はソファに腰掛け、お茶を一杯。

 

「ふぅ……美味い」

 

そして、ヘスティアが本当に起きたのは、その二時間後だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お、アイズたんおかえり。どこ行っとったん?」

 

「リムルのところ」

 

「あー、なるほど。どうやった?」

 

「……たのしかった」

 

「え?」

 

アイズはそれだけ言うと、ひょいっと振り向いて歩いていってしまった。

 

「アイズたんが“楽しかった”言うとは……何やったんやろ……」

 

ロキは顎に手を当てて少し考えたが、すぐに首を振る。

 

「まぁええか。とりあえず今日はアイツと待ち合わせやからなぁ……変なことにならんとええけど……」

 

数十分後、再びアイズが戻ってきて、ロキと二人でとある店へと向かっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

「やっと起きたか……」

 

「どうして起こしてくれなかったの!」

 

「いや、起こしたぞ? そしたら“あと五分”って言って、そのまま寝たのはヘスティアだろ」

 

「うぐっ……ま、まぁでも、まだ間に合うから! 急いで準備しよう!」

 

「いや、俺もベルも準備できてるから、ヘスティアだけだぞ?」

 

「急いで準備します!」

 

ヘスティアは慌てて部屋に戻り、バタバタと支度を始めた。

 

数分後。

 

「よし! 行こうか!」

 

「おう」

 

俺たちは三人で仲良く、モンスターフィリアの会場へ向かうのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

モンスターフィリアの会場へ向かう途中、豊穣の女主人の前を通りかかった時だった。

 

「おーい、そこの白髪頭」

 

「あ、アーニャさん」

 

アーニャがヒラヒラと何かを振っている。

 

「これを、シルに届けて欲しいにゃ」

 

「えっと……これは?」

 

「頼んだにゃよ」

 

「アーニャ。それではクラネルさん達には伝わらないと思いますよ」

 

冷静なツッコミと共に、店の中からリューが現れた。

 

「ふっ、リュー。

“シルが財布忘れていったからそれをシルまで届けて欲しい”だなんて、言わなくてもわかるにゃ」

 

「と、いうことですので。お願いできませんか?」

 

ベルがこちらを見上げる。

 

「どうしますか?」

 

「まぁ、いいんじゃないか?」

 

「せっかくのお祭りなのに……」

 

「えっと、シルさんもモンスターフィリアに行ったんですよね?」

 

「そうにゃ。あいつはお店をサボって行ったにゃ」

 

「えぇ!?」

 

「大丈夫です。ちゃんと休暇申請は出していましたから、サボりではありません」

 

「よ、よかった……僕たちも行き先は同じなので、大丈夫です。届けておきます」

 

「助かるにゃ!」

 

こうして俺たちは、シルを探しながら祭りを楽しむことになった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

とある店の二階テラス。

ロキと、フードを深く被った人物が向かい合って座っていた。

 

「今度は何をやらかす気や?」

 

「あらやだ。まるで、私がいつも何かやらかしてるみたいな言い方ね」

 

「その通り言っとるんやけどな」

 

「心外だわ」

 

「んで、次はどんな子や?」

 

「本当に“たまたま”よ。偶然、目に入っただけ。見たことのない輝きをしていたわ」

 

ロキは眉をひそめ、それでも黙って耳を傾ける。

 

「その後ろの子は、ロキのお気に入り?」

 

「うちのアイズたんに手ぇ出すんやったら、お前んところ全力で潰すぞ?」

 

「……そんなつもりはないわ。ただ聞いただけよ」

 

フードの奥で、ふっと笑みが浮かんだ気がした。

 

「この前も、こんな感じで見ていた時……っ」

 

「どうしたん?」

 

「……もう行くわ。また話しましょう? ロキ」

 

ふわりと立ち上がり、フードの人物は背を向けた。

 

「あ、ちょ……って、お代もこっちかいな……」

 

ロキはやれやれと伝票をつまみ上げ、視線を落とす。

 

「……世の中には、間違っても手ぇ出したらアカンもんもある。

きーつけや……フレイヤ」

 

モンスターフィリア開幕を前に、オラリオは今日も賑やかで、そしてきな臭い。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。