今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
「なんだったんだ? あの野郎は」
最初に沈黙を破ったのはベート・ローガだった。
犬歯を見せながら苛立ちを隠さない。
フィンは深く息を吐いた。
「分からない。でも、不思議な点が多すぎる」
ティオナが両手を頭に添えて叫ぶ。
「幻……なんてことはないよね!? 団長とちゃんと話してたけど!」
ティオネが妹を軽く小突く。
「落ち着きなって。団長が普通に会話してたんだから幻なわけないでしょ。それよりも──」
ガレスが斧を肩に担ぎ、眉を寄せながら言った。
「あやつ、ひとりで下から上がってきたと言っておったな?」
フィンは頷く。
「ああ。悪寒の正体は間違いなく彼……いや、彼女だろうね」
ティオナが首を傾げる。
「でもさ、対面した時はそんな感じなかったよ?」
「そうだね、姿を見せた時にはもう“脅威”が消えていた。あの時の悪寒と気配の落差が謎なんだ」
フィンは全員を見渡し、言った。
「誰か、あの仮面に見覚えは?」
全員が首を横に振る。
「脅威は去ったと考えていいだろう。彼女が消えた直後、親指の疼きも収まった」
フィンの判断に誰も反論できない。
「下層の調査をする。もし異常があれば遠征は中止だ」
リヴェリアも真剣な顔で頷く。
「階層無視攻撃が飛んできていないのが逆に不気味だが……確かに調査は必要だ」
去ろうとしたリヴェリアをアイズが呼び止めた。
「……調査隊に、私も入れてほしい」
「お前は主力だ。こんな場所で体力は使うな」
アイズは首を横に振る。
説得は無理だと悟り、リヴェリアは溜息をついた。
「分かった……好きにしろ」
そのやり取りを見たフィンは言った。
「ここにいる七人も同行する。異常があれば即撤退だ」
ティオナが喜びで跳ねる。
「やったー! 冒険だね!!」
ガレスが呆れながら言う。
「正気か、フィン?」
「冗談でこうは言わないさ。対応できるとは限らない異常なら、最大戦力で挑むしかない」
フィンの言葉で、全員が行動を開始した。
「おい、どうなってんだこりゃ?」
ベートが牙を剥くように叫ぶ。
「モンスターが……いねぇ!!」
リヴェリアは息を呑む。
「……全層で、まったく魔物が出現しない……?」
フィンの顔が青ざめる。
「これ、本当に……誰かが全部倒したのかい……?」
誰も言葉を発せない。
ティオネが呟く。
「まさか……さっきの子がやったの……?」
沈黙。
59階層までを目指す彼らが、
58階層までモンスター“ゼロ”という異常を目の当たりにした。
フィンは結論を出した。
「遠征は中止だ。ロキに報告する。……これは、危険すぎる」
主力たちは静かに頷き、撤退の準備を始めた。
「はぁ〜……逃げてしまった……」
階段の端で膝を抱える俺。
《主様は悪くありません! 主様は完璧です!》
いや逆効果だよシエル……。
気を取り直して上を目指す。
途中、見つけた魔物を殴る。
灰になる。
魔石を拾う。
(魔石拾う方が時間かかってるよな……)
《主様、魔石は貴重資源ですからね! 至極当然です!!》
はいはい。
ようやく出口に辿り着く。
「……うわぁ、凄い活気だ!」
人混み、屋台、獣人、エルフ、ドワーフ、異種族。
目に映る全てが新鮮でワクワクする。
《主様、周囲からの視線が多いです。仮面が珍しいのかも》
「じゃあ目立つ前に退散するか」
そう思った矢先──
肩を触られた。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
振り向くと、
金の瞳をしたショートカットのエルフ──リューが立っていた。
美人すぎて言葉を失う。
「ここ、私が働いている店の前なんです。もしかして困っているのでは?」
視線を向けると、“豊穣の女主人”の看板。
その時、奥から声。
「リュー! 何やってんだい!」
ミア母さんが現れる。
雰囲気と迫力がすごい。
俺はミアに連行され、店の中へ。
「さぁ、聞きたいことあるならさっさと言いな!」
ぶっきらぼうだが、根は優しいのが分かる。
「冒険者になりたいんだけど……どうしたらファミリアってやつに入れるの?」
ミアが盛大にため息。
「神に気に入られりゃ眷属になれる。契約してステイタスを貰うんだよ。ギルドで聞けば場所は分かる」
「神が本当にいるのか……」
「いるさ。それも山ほどね」
帰ろうとした瞬間、肩を掴まれる。
「タダで教えて貰えるなんて思ってないよね? 何か食べていきな!」
「えっと……お金が……」
「……持ってないのかい?」
非常にまずい。
「い、一応これなら……」
魔石を差し出す。
ミア、固まる。
「アンタ!! なんてもの持ち歩いてんだい!? これは上層でも中層でも出ないサイズだよ!? ギルドで換金しな!」
「ご、ごめんなさい!」
怒られた。完全に俺が悪い。
「仮面置いてきな! 逃げたらタダじゃ済まないよ!」
「……分かった」
仮面を渡すと、ミアは驚いた顔をした。
「あんた……可愛い顔してるねぇ」
後ろでウェイトレス達が黄色い声。
褒められたと信じたい。
「名前は?」
「リムル・テンペスト」
「ミア・グランド。ここを仕切ってる」
握手を交わす。
俺は店を後にした。
「……ファミリア、どうするかなぁ。帰る気ならずっと所属はできないし……詰んでね?」
唸っていると──
「そこの君! よかったらボクのファミリアに入らないか!」
振り返ると、
黒髪ツインテールの小柄な女の子──
ヘスティアが胸を張って立っていた。