今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
「よし、やってみるか」
俺は深く息を吸い込み、手を前に出した。
「来い、ランガ!」
魔力を流し込みながら、ランガとの繋がりを辿る。
だが。
数秒経っても何も起こらない。
「……ダメか」
《空間接続を確認》
ん?
《召喚自体は成立しています》
「え?」
《ですが対象が移動しません》
「どういうことだ?」
《不明です》
シエルにも分からないらしい。
俺は腕を組む。
せっかくなら向こうの様子を聞きたかったんだけどな。
やっぱり異世界だから何か制限でもあるんだろうか。
そう思った、その時だった。
「我が主ぃぃぃぃぃ!!」
「うおっ!?」
影の中から何かが飛び出してきた。
反射的に受け止める。
そのまま押し倒されるように地面へ転がった。
「我が主!!やはりご無事だったのですね!!」
「ら、ランガ!?」
見慣れた漆黒の毛並み。
見慣れた金色の瞳。
そして全力で振られる尻尾。
間違いなくランガ本人だった。
「お前どうやって来たんだよ!?」
「影移動ですが?」
「影移動で異世界来れるの!?」
「我が主がお呼びになったので参りました」
当然のように言われた。
いや、当然じゃない。
全然当然じゃない。
《主様》
どうした?
《私も少々予想外です》
シエルも困惑していた。
その間にもランガは尻尾を振り続けている。
おかげで近くに湧いていたゴブリンが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて灰になった。
「とりあえず落ち着け」
「はい!」
全然落ち着いていない。
尻尾だけ高速回転している。
俺はため息を吐いた。
「ここはな、俺たちがいた世界じゃない」
「はい」
「異世界だ」
「はい」
「だから簡単には帰れない」
「なるほど!」
本当に理解してるのか?
そんな疑問を抱きながら、今までの経緯を説明する。
ランガは途中から耳をぴんと立てながら聞いていた。
「なんと……そのような事が……」
「そういう訳だ」
「我が主はすぐ戻られなかったのですか?」
「いや、その……」
少し言葉に詰まる。
だって。
完全に好奇心でこの世界を満喫しているからだ。
「調査だよ調査!」
「おお!」
「異世界なんて滅多にないだろ?」
「確かに!」
「だから色々調べてるんだ」
「流石は我が主です!」
助かった。
納得してくれた。
たぶん。
「ならば我もお供いたします!」
「いや、大丈夫だぞ?」
「駄目です」
即答だった。
「何があるか分かりません」
「いや俺だぞ?」
「それでもです」
ランガは真剣だった。
まあ、絶対こうなると思ってたけど。
「はぁ……分かった」
「本当ですか!」
「ただし今の大きさじゃ駄目だ」
「なるほど」
ランガの身体がみるみる縮んでいく。
数秒後には大型犬ほどのサイズになっていた。
これならギリギリ誤魔化せる。
「よし」
「それでは我、一度戻って参ります!」
「……は?」
「皆様へ報告を!」
「あ、おい待て!」
「では!!」
ランガは勢いよく影へ飛び込んだ。
「行きやがった……」
《空間転移を確認しました》
「本当に帰ったのかよ……」
《はい。元の世界との接続を確認》
「マジか……」
異世界を行き来するとか、さらっとやってるけど、とんでもないことだぞ。
まあ、ランガだからな。
そういう奴だ。
そして。
三十分ほど経った頃。
「我が主ぃぃぃ!!」
再び影から飛び出してきたランガが、俺に飛びついた。
「ぐぇっ!?」
「戻りました!!」
「分かる!見れば分かる!」
相変わらず元気である。
「それで?」
「はい!」
「テンペストはどうだった?」
その瞬間。
ランガの尻尾が少しだけゆっくりになった。
「皆、心配しております」
「……」
「ベニマル様も、シュナ様も、シオン様も」
その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
「我も、心配でした」
「……悪かったな」
自然とそんな言葉が出た。
テンペストの皆には、かなり迷惑をかけている。
俺がいなくても回る国を作ったつもりだった。
でも、それと心配しないは別だ。
「ですが!」
ランガはすぐに顔を上げた。
「ご無事で本当に良かったです!」
「ははっ」
思わず笑ってしまう。
やっぱりランガはランガだな。
「それで?」
「はい!」
「皆には何て言ったんだ?」
「我が主は元気でした!」
「うん」
「異世界にいました!」
「うん?」
「しばらく帰らないそうです!」
「待て」
「皆様とても驚いておられました!」
「そりゃそうだろうな!?」
「ですが安心しておられました!」
「……まあ、生存確認できたならいいか」
頭を抱えながらも、少しだけ肩の荷が下りた気がした。
「とりあえず帰るぞ」
「はい!」
「今住んでる所を紹介する」
「我が主のお住まいですか!」
「そうだ」
「楽しみです!」
俺は苦笑しながら転移魔法を発動した。
明日の朝。
ベルやヘスティアがランガを見たら、どんな顔をするんだろうな。
そんなことを考えながら、俺たちはホームへと戻った。