今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
「おいおい、冗談じゃないぞ?」
突然声を掛けられた衝撃と、シエルすら気づけなかった事実に、思わず頭を抱えた。
「シエルさんや……さっき言ったじゃないか。敵意がなくてもちゃんと報告してくれって」
《申し訳ありません、主様。……私も、声を掛けられるまで感知できませんでした》
は?
シエルですら?
「いやいやいや、シエルでも感知できないって普通にやばくない?」
《恐らく“神”の類いでしょう。この世界での超越存在。ならば、私でも即時感知は困難です》
神……か。
となると、目の前の少女が――。
「えっと、ファミリア、ですか?」
俺が恐る恐る訊ねると、少女はぱっと顔を明るくした。
「そうさ! 見たところ君、まだどこのファミリアにも属してないんだろ? どうかな?」
ぐい、と距離を詰められる。
「ちょ、ちょっと、落ち着いてください!」
慌てて肩を押し、少し距離を取らせる。
頬を染めた彼女はコホンと咳払い。
「す、すまない。夢中になって周りが見えてなかったよ。それはそうとして、どうだろう?」
「いや、だからいきなりすぎるんですよ。お互いまだ何も知らないのに」
「確かにそうだね。よし! なら、少し落ち着ける場所で話そうか!」
彼女は俺の手を掴み、そのまま引っ張っていった。
「狭いところでごめんね? 今、友神のところに間借りしてるんだ」
控えめに笑う少女。
「あ、いえ、気にしません」
「では改めて。ボクはヘスティア。よろしくね!」
やっぱりヘスティア……俺の世界でも聞いた名前だ。
いや、違う。
この世界の神なら、“同名”何てこともあるのか?
「俺は――いや、私はリムル・テンペストです」
少しだけ丁寧に言い直してみる。
「リムルくんだね? どうかな、ボクの眷属になってくれないかい?」
この無垢な笑顔。
嘘や罠の気配がない。
ただ、まずは“俺の事情”を話さなければ。
「ヘスティア様。……なんで俺なんですか?」
「うーん……びびっと来た、みたいな?」
「疑問形なんですか」
「あはは……まぁ一応神だからね! 人を見る目はあるつもりなんだ!」
なんか憎めない。
でも、問題はそこじゃない。
「ヘスティア様のお誘い、受けてもいいけど……先に理解してほしいことがあって」
そう言って、俺はゆっくりとスライム姿に戻った。
「なっ……モ、モンスター!?」
ヘスティアは派手に転げた。
「まぁ、こういう事情なんだ」
「えっ、えっと……リムルくん、だよね……?」
「そうだよ。これが本来の姿で、人型は変身の一種。喰ったものの姿になれるんだ」
「喰うって……人を……!?」
「いやいや、落ち着いて。ちゃんと全部話すから。俺の話を聞いた上で、それでも眷属にしたいと思ってくれるなら、頼む」
ヘスティアはごくりと唾を飲み、席へ戻る。
「……わかった。聞かせておくれ」
俺は、転生のこと、スライムになったこと、魔王になったこと。
テンペストの仲間のこと、そしてシエルと観測実験の事故で転移したこと。
全部話した。
ヘスティアの顔は百面相の連続。
だが、途中で投げず、最後まで聞いてくれた。
その中で特に反応が大きかったのは――。
「そ、そんなことが……起こり得るのか……? 別世界……? 干渉したら強制送還……でもそんな芸当出来る神なんて知らないし……」
ひとりで考え込んでしまったので、静かに見守る。
「それにしても、その話が本当なら……リムルくんはボクらと同格……いや、それ以上の存在……」
いつの間にか胡座かいて猫背になってるのが可愛い。
「よし、リムルくんの事情は理解したよ」
ヘスティアの瞳が真っ直ぐ俺を見据える。
「信じがたいけど……その姿を前にしたら、否定はできないね。ただ、ボクの手に余る問題でもある」
「まぁ、ですよね……」
「一応確認なんだけど……この世界を滅ぼす気は、ないよね?」
「もちろん。そんな理由がそもそもないよ」
「よかった……それが聞きたかったんだ。ところで、何階層に転移したの?」
「あー……どうだったかな?」
《主様。60階層に転移し、その後50階層でロキ・ファミリアと接触しました》
「多分、60階層かな。50階層でロキファミリア?の人達に会った」
「60階層!? っていうかロキファミリアに会ったってどういうことだい!!」
跳ね上がるヘスティア。
「そんなに?」
「そんなにだよ! あんな化け物階層に……初見で……!?」
「いや、特に強くもなかったぞ?」
《主様を苦戦させる存在がいた場合、この世界の安定そのものが危険です》
シエルの言葉に頷きかけた自分を叱咤する。
「リムルくん、強さに関してもう考えないことにするよ……キリがなさそうだし」
「よく言われるよ……あはは」
「それよりも……ロキファミリアと接触してたとはね」
「何かまずい?」
「いや、単純にボクがロキのこと嫌いなだけ。あの眷属たちも、リムルくんのことを知らないだろうから問題ないよ」
ヘスティアは一度視線をそらし、また俺の目を見た。
「だけど……悩んでるんだ。君ほどの存在を、ボクが“眷属”として迎えていいのかって」
「ああ、そこか。全然問題ないよ」
「かるっ……!」
「俺はいずれ帰るつもりだから、期間限定みたいになるけど……それでもいい?」
「もちろんだよ! ただ……君は魔王で、国の主で……ボクより格上かもしれなくて……そんな子を眷属として迎えるって、どうなんだろうって……」
「そんな形式どうでもいいよ。ヘスティアを困らせてる分、むしろ申し訳ないくらいだし」
「ふふっ……初めての眷属が規格外なのは認めるけど、誘いに乗ってくれて嬉しいよ!」
その笑顔につられ、俺も自然と笑みがこぼれた。
「なら、これからよろしく。ヘスティア」
「うん! よろしく、リムルくん!」
互いに手を伸ばし、握手を交わす。
その瞬間、シエルが静かに告げた。
《……ヘスティアは悪い神ではありません。主様が選ぶ相手としては、許容範囲です》
お墨付きらしい。
「じゃあさっそく、ステイタスを刻むよ!」
「ステイタス? 彫るのか?」
「違う違う。ボクたちの神血《イコル》を背中に一滴垂らしてね。これがないと、この世界では強くなれないんだ」
「へぇ、便利だな」
「便利というか……生命線というか。とにかく脱いでくれ。背中に刻むから!」
俺は素直に服を脱ぎ、背中を向ける。
ヘスティアが指先を軽く切り、一滴の血が落ちた。
背中が光を帯び──
《神血イコル、取得。解析を開始します》
今回はシエルの声がやけに淡々としていた。
光が収束する。
「……あれ? 何も浮かび上がらない……?」
《ステイタスがそのまま刻まれれば、主様の能力が公開されてしまうところでした》
「…………マジで危ないじゃん」
《二度目ならば改変可能です。主様の能力が漏れることはありません》
「なるほど……」
「うぅ……やっぱりダメだったのかな……」
落ち込むヘスティア。
「ヘスティア。もう一度お願いできる?」
「……わかった」
再び血が落ちる。
瞬間、今度ははっきりと“ステイタス”が浮かび上がった。
「こ、これは……!」
リムル・テンペスト
Lv. ―
《基本アビリティ》
力:測定不可
耐久:測定不可
器用:測定不可
敏捷:測定不可
魔力:測定不可
《発展アビリティ》
なし
《魔法》
閲覧不可
《スキル》
閲覧不可
「全部……測定不可……? しかも見れない……?」
《主様をこの世界の基準で測定するのは不可能です。魔法・スキルは私が調整しました》
「なるほど」
ヘスティアは頭を抱え、足をばたつかせた。
「なんでぇ!? ボクでも見れないの!? なんでぇ!?」
「干渉して弄ったから……」
「干渉って何だよぉぉ!!?」
気持ちは分かる。
俺は服を着直し、肩をぽん、と叩いた。
「まぁまぁ、あんまり気にすんな!」
ヘスティアは引き笑いを浮かべる。
「は、はは……。改めて、リムルくんの規格外さを思い知ったよ……」
「あはは……」
気まずい空気の中、それでも確かに契約は成立した。
こうして――
迷宮都市に、小さな神と異世界の魔王のファミリアが誕生したのだった。