今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
「それじゃあ、教えて貰えるかしら」
リムルと椿が戦ったあと、リムルは再び部屋を元の状態に戻し、椅子へ腰掛けた。
「わかった。でも、一つだけ約束して下さい」
リムルは真面目な表情で私と椿を見る。
「いきなり斬りかかって来ないでください」
「……はい?」
思わず気の抜けた声が出た。
どんな話が飛び出すのかと思えば、まさかそんなお願いをされるとは思わなかった。
「それはどういう事だ?何か変な事でもするのか?」
椿が怪訝そうな顔をする。
「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ、本当に驚くと思うから」
そう言うとリムルは立ち上がった。
そして。
彼の身体から黒い霧のようなものが溢れ出す。
霧は一瞬で彼を包み込み、そのまま消えた。
そこに立っていた少年の姿は消えていた。
代わりに居たのは。
小さな、一匹のスライムだった。
「「……は?」」
私と椿の声が綺麗に重なる。
理解が追いつかない。
いや、理解すること自体を脳が拒否している。
目の前の少年が。
ほんの一瞬前まで人間だったはずの少年が。
今はどう見てもスライムなのだから。
そんな私たちに向かって、そのスライムは平然と話しかけてきた。
「えっと……これが俺の正体です」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
私たちは揃って叫んだ。
「……待って」
「ん?」
「まずスライムが喋ってる時点で理解が追いつかないんだけど」
私がそう言うと、リムルは困ったように笑った。
「まぁ、そうなるよなぁ……」
その後、リムルは自分のことを語り始めた。
異世界から来たこと。
元々は人間だったこと。
魔王であること。
今まで見せた力の理由。
そして仲間たちの存在。
話を聞けば聞くほど現実味が失われていく。
本来なら笑い飛ばして終わるような内容だ。
だが出来なかった。
転移魔法。
結界。
空間操作。
そして椿との戦い。
全てをこの目で見てしまった以上、否定することなど出来ない。
話を聞き終えた時、私の中に残った感想は一つだった。
規格外。
その一言に尽きる。
私たち神が下界に降りたことで力を制限されているとはいえ。
天界に居た頃の私が、リムルと同じことを出来たかと聞かれれば答えは否だ。
今ならロキが言っていた言葉も理解できる。
あれは決して誇張ではなかった。
オラリオどころか、この世界そのものが彼一人で覆されかねない。
本当に、とんでもない存在だ。
だが。
そんな中で唯一安心できたことがある。
「ねぇリムル」
「ん?」
「そんな力があるのに、どうしてヘスティアの眷属になったのかしら?」
リムルは少し考えた後、笑った。
「まず大前提として、俺は争い事が好きじゃないんだ」
その声は驚くほど自然だった。
「だからこの世界をどうこうしようなんて考えたことはないよ」
そして少しだけ優しい顔になる。
「それにヘスティアは最初に俺へ声を掛けてくれたんだ」
「……」
「俺の事情を話しても態度は変わらなかったしな」
私は思わず小さく笑った。
確かにあの子らしい。
「だからヘスティアを選んだの?」
「うん」
リムルは頷く。
「アイツ、自分のことより仲間のことばっか考えるからさ」
「なるほどね」
妙に納得してしまった。
「ただ」
リムルの表情が少しだけ真剣になる。
「仲間を傷付けられたら黙ってるつもりはないよ?」
「それはどこのファミリアでも同じよ」
「確かに」
そう言って笑うリムル。
だが私は内心で思う。
普通のファミリアと同じではない。
リムルが怒った時。
その時だけは絶対に敵に回してはいけない。
正直恐怖はある。
だがそれ以上に思った。
この存在が敵ではなく、ヘスティアの眷属で良かったと。
その後はしばらく談笑し。
リムルは帰っていった。
静かになった部屋で私は隣を見る。
「ねぇ椿」
「……」
返事はない。
「椿?」
私は少し気になって近付いた。
すると。
「……すぅ……すぅ……」
綺麗な寝息が聞こえた。
「寝てるの!?」
思わず声が出る。
あれだけの話を聞いた後によく眠れるものだ。
本当に何を考えているのか分からない。
私は苦笑しながら毛布を持ってくると椿へ掛けてやった。
そして部屋の灯りを消し。
私も床へ就くのだった。