今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
気がつけば転スラ小説版が完結してしまいましたね。
ということでこちらもぼちぼち再開していこうと思いますのでよろしくお願いします。
それに伴い、既に投稿していた物はすこし改変いたしましたのでまた読んでいただければ幸いです。
ギルドを出た俺は、大通りを歩きながら伸びをした。
「さて、と。登録も済んだし……その前に寄るところがあったんだよな」
預けっぱなしの仮面。
あれをそのままにしておくのは、さすがに気持ちが悪い。
扉を開けると、中はまだ仕込みの最中らしく慌ただしい。
「今日は開店前なんだよ! さっさと帰りな――って、アンタか」
ミア母さんが俺を見るなり、目を細める。
「約束通り、ちゃんと戻って来たよ。……と言っても登録しただけだけど」
「やることが早いねぇ。で、換金は?」
「これからだよ」
そう言いながら仮面のことを言おうとしたところ、ミア母さんは棚からそれを取り出した。
「ほらよ。預かっといたよ。逃げられないようにねぇって思ってたけど……アンタ、思ったよりちゃんとしてるんじゃないか」
「まぁ、約束は守る主義なんで」
「次来る時は客としておいで。食べな、飲みな、払っていきな」
「もちろんそのつもりだよ」
カウンターの奥で仕込みをしていたリューにも軽く挨拶をして、仮面をつけなおした。
よし、準備は完了。
ダンジョン入口は今日も大賑わいだ。
武器を磨く音、怒号、笑い声、足音。
そしてオラリオの心臓部とも言える巨大な闇の穴。
「ここが……この世界のダンジョンか」
《はい。ヘスティアの記憶とも一致しています。危険度は階層ごとに極端に変化しますのでご注意を》
「一応確認だけど、俺は“レベル1”扱いなんだよな?」
《その通りです。ですので、主様の出力は“レベル1の冒険者として妥当な範囲”に微調整を推奨します》
「その“妥当”ってのが難しいんだよな……」
《主様ですので》
いや褒めてないだろ絶対。
階段を降り、ダンジョンへと足を踏み入れた。
通路の奥の影がもぞりと動き、盛り上がる。
ひび割れた壁から肉塊のような魔物が溶け出して形を成す。
ゴブリンとコボルド。
どうやら定番らしい。
《この階層の主流です。ヘスティアの情報と一致》
「戦闘慣らしにはちょうどいいかな」
ゴブリンが叫びながら飛びかかってきたので、軽く拳を出した。
ドンッ。
拳が触れた瞬間、ゴブリンは壁に吹き飛び、そのまま崩れ、灰になる。
《出力、やや高めです。次はもう少し抑えましょう》
「これで“やや高め”か……」
魔石がコロンと落ちた。
「魔石……テンペストと違うな」
《魔物の構造、死後の分解方式が異なっています》
その後も遭遇する魔物を、一撃で倒しすぎず、弱すぎもしない“絶妙な強さ”で片付けていく。
通路を歩いていると、初心者っぽいパーティとすれ違う。
緊張でぎこちない動き、怖さを隠せていない表情。
(……みんな、最初はこんな感じなんだろうな)
《優しいですね、主様》
「そうか?」
《……はい。とても》
なんかくすぐったい。
ゴブリン、コボルド、少し固い個体。
どの階層もテンペストの魔物と比べれば可愛いものだ。
回避の練習や、わざと攻撃を受けてみたり、盾役の動きを真似したりしながら慎重に進む。
途中、小さな悲鳴が聞こえた。
「やっ……やばっ……!」
通路の先で、三人の一般冒険者がゴブリンの群れに囲まれていた。
盾役が押され、後衛の子が逃げきれず、崩壊寸前。
「……シエル」
《介入を推奨します。このままでは負傷、もしくは死亡コースです》
だよな。
俺は足を踏み込み、彼らとゴブリンの間に滑り込む。
「下がって!」
「えっ──!」
驚く初心者の前で、俺は拳を軽く振る。
一体の顎を弾き、次の一体の膝を砕き、回転しながら三体目を吹き飛ばす。
残り二体は指先から放った《水刃》で武器だけ切り落とし、初心者たちがとどめを刺した。
「ふぅ……よし」
《適切な出力でした。あのままでは全滅していました》
一人が震えた声で言う。
「あ、あの……助けていただいてありがとうございました!」
「気にしないで。死んだらもったいないしな」
「ぼ、僕たち、今日が初めてで……!」
「そっか。気をつけて」
深追いはしない。
必要以上に感謝されても困るし、絡まれても面倒。
一般冒険者たちは必死に礼を言い、去っていった。
《主様……やはり優しいです》
「そう見えるか?」
《はい。間違いなく》
なんか照れるな。
通路は少し薄暗く、ひやりとした空気が漂う。
「ここから“本番”ってところか?」
《この階層からウォーシャドウが出現します。奇襲に注意を》
「影に潜むやつだよな?」
《はい。主様にとって脅威ではありませんが……》
「油断しませんって」
足元の影が、獣のように揺れ動いた。
タイミングを見計らい、蹴り上げた石を影の中心へ飛ばす。
ズン、と鈍い音。
影が裂け、中から飛び出してきたウォーシャドウが崩れ落ちた。
「うん、こんなもんかな」
《妥当です。目撃現場があっても“運が良かった”程度に処理できる範囲です》
バランス調整は難しい。
とはいえ、慣れてきた。
……はずだったのだが。
《主様。前方に少し気になる反応があります》
「気になる?」
《魔物に囲まれている“人”がひとり。この階層にしては危険な状況です》
「新人……か。放っておけないな」
《はい。推測では、単独行動の一般冒険者。非常に危険です》
「じゃあ──行こうか」
俺は足を速め、通路の奥へと向かった。
この先で起きる出来事は、
後々世界を揺るがすような事件ではない。
名もない冒険者と、名乗ったばかりの新人の魔王。
ただ一度だけ交わった、小さな縁。
それが、ヘスティアファミリアにまつわる噂話の
ほんの小さな種になるだけだった。