今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版   作:にゃすぱ@梨

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新たな住処と、ひそやかな夜の工事

 

 

豊穣の女主人へ入ると、昼前の仕込みで店内は慌ただしい。

しかしミア母さんは腕組みのままこちらに気づき、

ふっと眉を上げた。

 

「おや、アンタら。無事に帰ってきたじゃないか」

 

「もちろん。また世話になる前に、挨拶だけね」

 

「いい心がけだよ。ほら、そっち空いてるから座んな」

 

案内された席に腰を下ろすと、

リューが静かに水を置いてくれた。

その仕草の端々に、昨日の混乱を思い出してか

わずかな柔らかさが混じっている気がした。

 

「本当に……大変な一日だったなぁ」

 

ヘスティアが椅子の背にもたれつつ息を吐くと、

ミア母さんは調理場から

「お前さんが大変なのは今に始まったことじゃないねぇ!」

と豪快に笑った。

 

「そう言えば、換金どうだったんだい?」

 

「あ、いい感じだったよ。これでしばらくは食べれるな」

 

「ま、金の心配は減るに越したことないさ。

リムル、お前さんは見た目は軽いけどやることはちゃんとしてる」

 

「褒められてるのか分からないけど……ありがとう?」

 

そんな他愛ない会話が続く。

ミア母さんはツッコミ気味、リューは淡々と、

ヘスティアは笑ったり困ったり忙しい。

 

こういう“地に足のついた雑談”は、

どの世界でも心をほぐしてくれる。

しばらく談笑したあと、店を出ようとしたときだった。

 

「ヘスティア」

 

唐突に背後から声がかかる。

振り返ると、赤髪をかき上げた女神が立っていた。

 

「ヘファイストス!?」

 

「ちょっと話があるの。時間ある?」

 

顔を見るなりヘスティアがへにょっと弱った顔をする。

が、そのまま外へ誘われた。

 

「……なんだろう、あれ」

 

リムルは外から聞こえる声に耳を傾ける。

 

「ヘスティア。あんた、眷属を持ったんでしょ?

だったらいつまでもあの小さな部屋で寝るつもり?」

 

「だ、だってボク、お金ないし……!」

 

「旧教会が空いてる。壊れかけだけど、人は住めるわよ。

あんたと眷属の子が使うなら貸してあげてもいいけど」

 

しばし沈黙。

 

「……本当に?」

 

「その代わり、もう少し真面目に働きなさい」

 

「うぅ……努力してるよぉ……!」

 

そのやり取りが、少し微笑ましい。

 

やがてヘスティアは両手を広げる勢いで走り戻ってきた。

 

「リムルくん! 家ができたよ!!」

 

「え、もう?」

 

「うん! 旧教会を貸してくれるって!」

 

嬉しさのあまり飛び跳ねるヘスティアに、

リムルもつられて口元が緩む。

 

「じゃあ、さっそく見に行こう」

 

 

---

 

案内された旧教会は、

見事に時間の流れに打ち負けていた。

 

天井の穴。

崩れかけた壁。

石床の隙間から生える雑草。

 

「……うん、歴史を感じるね」

 

「感じなくていいからね!?

ボク、今日はここで寝るからね!?」

 

「えぇ……大丈夫なのかこれ」

 

しかし、ヘスティアは予想以上に陽気だ。

 

「家があるってだけでボクは満足なのッ!」

 

そう言って、荷物をぽいぽい放り出し、

すぐにブランケットにくるまり、すやすや寝息を立て始めた。

 

「寝るの早……」

 

あっという間の就寝である。

 

 

---

 

 

《主様。改修案、七十二通りほどご用意しましたがどれにしますか?》

 

「いや、そんなに要らないよ!?

この世界は普通の建築基準でいいから……!」

 

《承知しました。では“旧教会をそれなりに立派にする案”を基準に調整します》

 

「“それなり”で頼む!」

 

夜の教会に、二人の会話だけが響く。

 

リムルが手をかざすと、

朽ちた木材は補修され、

床のヒビはなめらかに塞がり、

破れた天井は落ち着いた薄色の木材へ変わる。

 

《主様、壁の色はどうしますか?》

「明るめで。落ち着いたやつね」

《了解しました。主様のセンスに合わせ調整します♪》

 

内装は、温かい空気が残る“生活の匂い”を意識して整えていく。

 

家具は必要最低限。

寝床は二つ。

食卓は小さめ。

冒険者の拠点としては控えめ、けれど“帰ってきたくなる家”。

 

最後に、外観もそっと手を加える。

古い石壁のひびを消し、

教会らしいシルエットは残したまま綺麗に整える。

 

「……いいじゃん。悪くない」

 

《主様の手腕が素晴らしいので♪》

 

「また可愛い褒め方してきたな……まぁ、いいか」

 

ひっそりとした夜に、

新しい住処が静かに形を成していく。

 

 

---

 

◆ 次の日の朝

 

ヘスティア「…………ん?」

 

ヘスティアが寝ぼけ眼で起き上がる。

 

ヘスティア「なんか……床が柔らかい……?

なんで草がない……?」

 

そしてワンテンポ置いた後──

 

ヘスティア「え????? えええぇぇぇぇぇぇ!?!?」

 

教会の内装が綺麗になっているのを見て、

ヘスティアの叫び声が朝のオラリオへ突き抜けた。

 

リムルはカウンター席に腰掛けながら、

コップに水を注ぎつつにやりと笑う。

 

「おはよう。どう、家っぽくなっただろ?」

 

「なったどころじゃないからね!?

床ないんだよ!? 穴あいてたんだよ!?

なんで!? ねぇリムルくんなんでぇぇぇ!?」

 

その反応が見たかった。

 

《主様、予想より良い反応でしたね♪》

 

満足げなシエルの声が、リムルの脳内に響いた。

 

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