今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
ひとしきり叫んで転げ回って、
ようやくヘスティアも落ち着いてきた頃だった。
それでも混乱は収まっていないらしく、
ブランケットにくるまったまま、きょろきょろと部屋を見回している。
「あれ、ボクが寝てたのってボロボロの教会みたいな場所だったよね……?
どうして? なんで?」
「あぁ、それは俺が直しておいたのと、地下はさっき見て回ってた通り作り替えたんだ」
「が、外観を直すのはまだいいとして、部屋を作りかえるって何?」
「俺とヘスティアしかいないうちは、必要最低限でいいだろ?
増えたらその都度増やせばいいかなって」
「……」
「これでだいぶ快適になっただろ」
《主様をこんなところに住まわせるなど我慢なりません。改善の余地はまだあります》
シエルさんがそんなことを言っているが、俺は特に気にしていない。
「もう、リムルくんがやることに驚いてたらキリがないから……驚かないよ……。
この世界の常識じゃないってわかってるけどさ……」
「ごめんごめん。そんなことより、今日はオラリオを散歩してくるよ」
「散歩?」
「この世界に来てからダンジョンの行き来ばかりだったし、街の構造も把握しておきたくてね」
「わかった。気をつけてね?」
「了解。じゃ、行ってくる~」
手を振り、俺は教会を後にした。
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メインストリートに出ると、人々の声と足音が溢れてきた。
行商人の呼び込み、武具屋の金属音、冒険者の喧噪。
活気という言葉が似合う街だ。
「ここは商店街と市場の間くらいの雰囲気だな。
道は整備されてないけど、まぁ味があるってことで」
《テンペストの方が街の規模も生活基盤も圧倒的に上です》
「そうかぁ?」
《間違いありません》
なんだかシエルさん、妙に対抗心が強い。
まぁいいけど。
いくつかの屋台を回って食べ歩きし、
甘いのやら辛いのやら色々味わったあと、噴水のそばに腰をかけた。
「こうして見ると、ほんとに色んな種族がいるもんだなぁ」
人、エルフ、ドワーフ、小人族、アマゾネス、獣人、そして神々。
魔物はいない。その事実が、やはり俺の感覚とは少し違う。
「リムルくん?」
振り向くと、エイナさんが紙袋を抱えて立っていた。
「今日はダンジョン行ってたの?」
「いや、散歩してたんだ。街の事もっと知っときたくて」
「そっか。私は買い物の途中だよ。最近よく会うね」
エイナさんは笑って言った。
俺の魔石の持ち込み量が尋常じゃないことから心配してくれているらしく、
すっかり顔見知りになっていた。
他愛ない会話を交わし、手を振って別れる。
そろそろ日が沈む頃だった。
「さて、帰るか……お?」
路地裏の影が、妙に気になった。
目を凝らすと──誰かが倒れていた。
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近づくと、その人物は白い髪の少年だった。
痩せ気味で、武器は持っている。冒険者志望か?
幸いシエルの解析で命の危険はないとわかったが、
念のため回復薬をかけておく。
少年を担ぎ、近くのベンチに寝かせた。
しばらくして、少年は目を覚ました。
「ん……あれ、ここは……?」
「お、起きたか。少年」
「あなたは……?」
「お前、自分が倒れてたの覚えてるか?」
「えっと……確か、僕……ファミリアを探していて……」
話を聞くと、状況はすぐ理解できた。
──冒険者になりたくてファミリアを探しているが、
見た目が弱そうだからと門前払いされ続け、
最後は“しつこい”と殴られて気絶したらしい。
……は?
「この街、こんなのばっかりなのかよ」
少し苛立ちすら覚えた。
「事情は理解した。これからどうするつもりなんだ?」
「もちろん、またファミリアを探します」
「殺されかけたのにか?」
「……はい」
「どうしてそこまで?」
少年は拳を握りしめた。
「……夢が、あるんです」
「夢?」
「僕は──英雄になりたいんです。
おとぎ話に出てくる、本物の英雄に!」
その目は真っ直ぐで、痛いほど強かった。
「笑わないんですね」
「笑うかよ。そんな真剣な目をしてるのに」
「……ありがとうございます」
ようやく少年は顔を上げた。
「そういえば、お前名前は?」
「ベル……ベル・クラネルです」
「ベルか。──よし、決めた」
俺は立ち上がり、彼に手を差し出した。
「ベル。お前、うちのファミリアに来いよ」
「えっ」
「ファミリア探してたんだろ?」
「で、でも……!」
「決まり。ほら、ついてこい」
「え、ど、どこに──」
「俺らのホームだよ。ほら、捕まれ」
ベルの手を握り、転移で教会へ戻った。
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「ヘスティアいるかー?」
「おー、リムルくんおかえり! って、その子は誰だい?」
急に視界が変わったベルはまだ茫然としている。
「あ、あれ……僕、さっきまで広場のベンチで……?」
「転移。歩くの面倒だったからね」
「て、転移……?」
ベルは理解不能のまま口を開け閉じ。
「倒れてたから拾ってきた。うちのファミリアに入れようと思ってね」
「いや、拾ってきたって……」
「あのっ! ベル・クラネルです! その……お誘いをいただいて……!」
「あれ、俺の名前教えてなかったっけ?」
「はい……」
「あー、ごめん。俺はリムル・テンペスト。ヘスティアファミリア所属。んで、こっちがヘスティアだ」
ヘスティアはしばらくベルを見つめ──にっこり頷いた。
「ふむふむ……ベルくんね。いいだろう、許可するよ!」
「え、こんなあっさり!?」
「ベルくんは“いい子”の匂いがするんだ! 神はわかるんだよ!」
さすが神。
便利だ。
こうしてベルは、正式に二人目の眷属となった。
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ヘスティアはベルを自室へ連れていき、
俺と同じように背中に神血イコルを垂らす。
光が収まり、ベルのステータスが浮かび上がった。
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ベル・クラネル
Lv:1
力:G 10
耐久:G 10
器用:G 15
敏捷:G 20
魔力:G 0
魔法:なし
スキル:なし
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「よし! ベルくんの初めてのステータスだよ! ……良かった、普通だ……」
「ありがとうございます、神様!」
俺のステータスを思えば、普通の数値だ。
ベルの覚悟を見たあとだと、逆にこの“0から伸びる”感じがいい。
「なぁヘスティア。ひとつ聞いていいか?」
「どうしたんだい?」
「俺の能力でスキルを創って相手に渡したらどうなる?」
「……え? そんなの聞いたことないよ?」
ヘスティアは目を丸くし、俺は肩をすくめる。
「やってみていいか?」
「んー……まぁ見てみたいし、いいよ」
「ってわけだベル。何か“欲しい能力”あるか?」
ベルは迷わず言った。
「僕は強くなりたいです!
誰にも負けないくらい……英雄のように!」
「ああ、いい目だ」
心の中でシエルに呼びかける。
(どうする?)
《……成長速度を極端に上昇させる能力はいかがでしょうか。ただし限界が存在しない仕様で》
(それだ。頼んだ)
《お任せください》
数秒後。
《能力創造……完了しました》
「よしベル。お前にとって最適な能力を創った」
「本当ですか!?」
俺はベルの胸に手を当て、能力を渡す。
《成功しました》
「どうだ?」
「……特に変化は感じません」
「だろうな。じゃあ模擬戦してみるか」
「いいんですか!?」
「もちろん」
「ちょ、ちょっと待って! 二人とも!」
ヘスティアが慌てて割り込む。
「なんだ?」
「どんな能力を渡したのか見せてほしいんだけど!」
「模擬戦で確認するつもりなんだが」
「えぇ……まぁいいけど。で、どこでやるのさ?」
「決まってるだろ?」
俺は廊下の壁に手をあて──
新しい部屋を生成した。
ヘスティアとベル、無言。
「よし、ここでやる」
「リムルくんは……ほんとに……なんでもアリだね……」
ベルは口をぱくぱくさせていた。
「結界張ってあるから、どれだけ暴れても外には漏れないぞ」
「もう驚かない……ほんとに驚かないぞ……」
ヘスティアは自分を押し殺すように呟いた。
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「ベル。本気で俺を殺すつもりで来い」
「えっ」
「強くなりたいんだろ? なら覚悟持て」
「……はい!」
ベルの目が変わった。
雄叫びを上げ俺に斬りかかる。
だが──
当たらない。
何度繰り返しても、俺の身体には触れもしない。
(シエル、解析を)
《はい。……戦闘経験ほぼゼロです》
やはりか。
「ベル、誰かに戦い方教わったことあるのか?」
「ありません!」
「だよな。いい、続けろ」
約10分。
ベルはついに息があがり、膝を落とした。
「もう終わりか?」
「ま、まだ……です……」
「ベル、最後に俺が攻撃する。右肩に蹴りを入れる。それを全力で防げ」
「……わかりました」
構えたベルに、俺は最低限の力で蹴りを放つ。
──ベルは吹っ飛び、そのまま気絶した。
俺はベルを抱えてヘスティアのところへ運ぶ。
「今日はここまで」
「リムルくん! ベルくん大丈夫なんだろうね!?」
「ああ。俺のフルポーション使えば問題ない」
俺は自室にベルを運び、フルポーションで完全回復させた。
「ステータス更新してみてよ」
「……そうだったね」
ヘスティアがベルの背にイコルを垂らす。
──次の瞬間。
「………………」
光るステータスを見たヘスティアは固まり、
そのまま崩れ落ちた。