今度は異世界転生じゃなくて異世界転移かよ ※リメイク版 作:にゃすぱ@梨
「おーい、ヘスティア起きろー?」
頬をペシペシ叩くと、ヘスティアはビクリと揺れて目を開けた。
「はっ……」
「ベルのステイタス見て気絶してたぞ?」
「え? あ、そうだったね……」
まだ混乱の色を残すヘスティアに、俺は問いかける。
「そんなにベルのステイタス上がってたのか?」
「上がってた……《英雄萌芽》のせいで……物凄い上がってました……」
思わず俺は眉を上げた。
(やりすぎたか……? いや、作ったのシエルだし……)
《私は別に何もしていません》
(しれっと言うじゃねえか)
ヘスティアの震えそうな手から、更新されたベルのステイタスを受け取る。
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ベル=クラネル
Lv:1
力:F 100
耐久:E 269
器用:G 120
敏捷:G 191
魔力:G 0
魔法
【——】
スキル
【英雄萌芽】
・強敵との対峙で“英雄因子”が芽吹き成長
・得た経験はステイタス更新時に大きく反映
・格上相手ほど成長率上昇
・“心折れ”でスキル消滅
・限界突破可能
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「うん、すげぇ伸びてんなこれ……」
「……リムル君」
「なんだ、ヘス……ティア……?」
「スキルっていうのはね? その子の“願い”や“想い”が形になったものなんだよ」
「聞いたな」
「だからね、まず“スキルを人が作る”なんてこと自体おかしい。でもそれはもう置いておくよ。問題は……」
ヘスティアは深く息を吸い──
「成長速度に干渉できるスキルなんて、前代未聞だよ」
「ダメなのか? ベルの夢は英雄だぞ。手助けしてやっただけじゃん」
「ダメじゃない。ただ“危険”なの。
レベルっていうのはそれこそ何年、何十年も冒険を続けてようやく上がるものなんだよ?
それをこのスキルは近道しすぎる。神々の目に留まりやすい」
「つまり、バレるとベルが狙われるってことか」
「間違いなくね」
「よし、ならもっと強くしよう」
「逆に考えた!?!?」
「バベルの塔くらいの杭になったら、誰も打てねぇだろ」
ヘスティアはしばらく沈黙したあと──
「……わかったよ。ベル君のこと、頼んだよ」
「任せろって」
そうしてその日は解散し、夜は静かに更けていった。
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朝から俺はベルの短剣訓練に付き合っていた。
「昨日みたいにはしないから、全力で来い」
「はい!」
ベルは必死に食らいつくが、まだまだ粗が多い。
《主様、白老式の指導を模倣してみては?》
(おぉ、それだ)
時に優しく、時に鋭く。
ベルは息を切らしながらも、確かに“強くなる兆し”を見せていた。
朝食をとったあと、ベルは冒険者登録へ向かう。
忘れてたのは俺のせいだ。追いかけて一緒にギルドへ行く。
登録を済ませたベルは、そのままダンジョンへ行こうとする。
「リムルさん、今日だけ……僕一人で行かせてくれませんか?」
「ふむ、まぁいいぞ」
「え、あ、いいんですか?」
「死ぬなよ。それだけだ」
「はい! 行ってきます!」
そう言って走り去るベル。
俺は──
もちろん後をつけた。
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《英雄萌芽》最初の発火
ベルは1階、2階と順調に進み、
慎重さを忘れて奥へ奥へと足を進めてしまった。
5階層の奥、影が揺れた瞬間──
ズオオオオオッ!!
「な、なんで5階層にミノタウロスが……!」
巨体が吠え、地面が震える。
ベルは反射的に横へ跳び、間一髪で避けた。
だが──震えている。
(怖い……怖い……こわ……)
喉が鳴り、汗が噴き出す。
逃げる、回避する、それしかできない。
数十秒だが、ベルにとっては永遠のように長い。
「死ぬ……? ここで……?」
ミノタウロスが拳を振り上げた。
その瞬間、ベルの脳裏にリムルの声が響く。
──“死ぬなよ。それだけだ”
(死ねない……まだ……!)
ベルは足に力を込め、影のように地面を滑る。
短剣を突き出すが──
「かっ……たい……!」
一撃も通らない。
ミノタウロスの拳が頬をかすめ、血が飛ぶ。
「う、わっ……!」
転がり、壁へ背中をぶつける。
(ここまで……なのか……?)
弱音が脳裏をよぎる。
しかし──
その弱音と同時に、
ベルの胸の奥で“熱”が弾けた。
(違う……! 英雄になるって、言ったじゃないか……!
死ぬなんて、絶対……嫌だ!)
目が輝き、
風が抜け、
世界がわずかにスローモーションになる。
《英雄萌芽》が発火した。
敏捷と視界が一瞬だけ跳ね上がる。
ベルはミノタウロスの拳を“見て”避けた。
「まだ……倒れるわけには……いかない!!」
ミノタウロスが吠え、拳を振り下ろす。
──死の淵で、ベルの心は折れなかった。
だからこそ《英雄萌芽》はさらに強くなり、
その瞬間──
バシュッ!!!
巨体が真っ二つに裂けた。
返り血がベルを赤く染める。
奥から歩いてくる。
金色の髪、静かな気配、圧倒的な強さ。
「大丈夫……ですか?」
少女──アイズ・ヴァレンシュタイン。
その姿を見た瞬間、ベルの胸が爆発した。
「……え、あ、あ、ありがとうございましたぁぁぁ!!」
真っ赤になって逃亡。
アイズはぽかんとし、
後ろから来たベートは腹を抱えて笑っていた。
「トマト野郎、雑魚すぎんだろ!!」
……その瞬間。
俺の中で、何かがザラリと逆立った。
感情が溢れ──
魔王覇気が漏れ出る。
《主様、落ち着いてください。魔王覇気が漏れています》
(……すまん)
深呼吸をして抑え──
ベルより先に帰ることにした。
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「ただいま帰りましたー!」
ベルの声が聞こえる。
「おかえりー!」
俺は元気よく返しつつ、心の中で呟いた。
(さて……どれだけステータス伸びたかな)
ヘスティアのステイタス更新が楽しみになってきた。
今日、確かにベルは“英雄の芽”を育てた。
その第一歩を──
確かに踏み出したのだから。
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