古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──子供時代//推薦状の話
「プライドの高い血統魔術師、とな」
わしはアイザックにそう言われて首を傾げる。
「血統魔術師の中には家柄だけで評価されている人間もいる。自らの実力ではなく、先祖の功績で評価されているということを理解していない人間だ。そういう連中は得てしてプライドだけは高い」
「ふむ」
グレイスからいろいろと血統魔術師が生まれたことによる弊害は聞いておったが、思った以上に問題になっているようじゃな。
「しかし、もし学院に君たちが入学するのであれば、私が教授に頼んで推薦文を書いてもらってもいい。君たちの実力を改めて示してもらう必要はあるが」
アイザックはわしらにそう提案してきた。
「推薦状があると便利なのかの?」
「それは当然だ。試験なしで学院に迎えられるばかりではなく、アリスほどの才能があるのならば学生ではなく、研究者として迎えられる可能性もある」
「ほうほう!」
それはいいのう!
わしにも一応魔術師アストリウスであったという誇りと自意識がある。それゆえに好待遇というのは、やはり憧れてしまうの。
それにである。人生の時間は限られておる。限られた時間で、わしは魔術の再興ということを成し遂げなければならないのだ。それならばショートカットできることは、可能な限りショートカットすべきじゃろう。
「姉上はそうだとしても、私は……」
「レオ坊も推薦状を書いてもらえばよかろう?」
わしはレオ坊も問題なく推薦は受けられると思っておった。
「レオ。君も推薦は受けられるだろう。だが、研究職に就くのは難しいかもしれない」
「何故じゃ? レオ坊も優れた魔術師じゃぞ」
「彼は君に教わっただけ。そのように思える。君からは道を切り開いた人間特有の感触がするが、彼からはそれが感じられない。そして、研究者とは先人が至れなかった闇を照らす先導者であり、開拓者だ」
「レオ坊にその資格はないと……?」
「今の彼には無理だろう」
わしはレオ坊の方を見る。レオ坊は案の定、暗い表情をしておった。
「レオ坊。まだ決まったわけではないぞ。だから、そうがっかりするな」
「はい、姉上。努力します」
きっとレオ坊も推薦を受けて、わしと同じように研究者になれるに違いない。レオ坊はわしの今世での一番弟子じゃからな。わしの弟子は誰もが優秀な魔術師に育っておった。レオ坊も例外ではない。
「アイザック。わしは推薦が受けられるならそう頼む。わしには夢があるんじゃ。この魔術が衰退した世界で、再び魔術を人類の可能性を開くものとなれるようにするために。魔術には可能性があるんじゃと示したい!」
わしは決意しておった。何があろうとこの人生で魔術を再興するのじゃと。魔術を人類を発展させる選択肢のひとつへと復活させるのじゃと。
魔術は前世のわしにとって全てであった。そのわしが今世に転生した意味は、この時代で衰退してしまった魔術を再興するためじゃと、今は確信をもって思っておる。
レオ坊が弟子になったのも、グレイスと出会ったのも、アイザックと知り合ったのも、全ては神の思し召しでないしても、運命というものではないかと思っておるのじゃ。わしはこの運命に従いたい。
そして、何よりこれまでの出会いを意味のないものにしたくはない。
「私も魔術を極めたい。姉上のように自在に魔術を使いこなし、魔術師として何かしらの功績を残したい。……姉上に誇れるような、そんな功績を……」
レオ坊はそう語った。
「なるほど。君たちの希望はよく分かった。私が師事しているのは、ザッカリー・トーランド教授だ。五大血統魔術師の家系であるラングフォード伯爵だ」
「その教授がわしらに推薦状を?」
「まず彼に会ってもらう。彼も見知らぬ人間に推薦状は出せない。そして、その前に君たちが本当に学院に通うことを決意しているのか、それにそのことを君たちの両親はちゃんと把握しているのか、確認してほしい」
「うむ。まずは父上と母上の意見をちゃんと聞かなければのう。この返事はいつまでにすればよいじゃろうか?」
「なるべく早い方が君たちのためだが、私はここに在籍している限り何年でも待とう」
「助かるのじゃ。それではの」
「ああ。また会おう、アリス、レオ」
わしらはアイザックに別れを告げて、学院を出た。
「どうでした、アリスさん、レオさん。学院は気に入りそうですか?」
「そうじゃのう。わしとしては魔術再興のために何としても、ここで活躍せねばと思ったよ。ここで教育のノウハウを教わり、わしはそれを生かして魔術をかつてのように広く普及させたい。レオ坊はどうじゃ?」
「私は姉上に認められるような魔術師になりたいです。そして、その魔術で姉上のことを守りたい。だから、私も推薦を受けて姉上と同じ場所に行かなければいけない。そう思っています」
「レオ坊は本当に優しいのう」
わしはレオ坊の決意に笑みを浮かべた。わしの一番弟子は師匠思いじゃ。
「それではまずはご両親の許可をもらわないとですね。ホテルに戻りましょう!」
「ああ」
そして、わしらは学院を去って、ホテルへと戻る。
「ところで、グレイスは学院には戻らぬのか?」
「アリスさんとレオさんが学院に通われるならば、もちろんまた非常勤講師として戻りますよ! アリスさんとレオさんが何を成し遂げてくれるのか、私は見届けなければなりませんからね!」
「そうか、そうか。それが良いじゃろうな」
わしらが学院に通い始めたら、もう家庭教師は必要ない。だから、グレイスも失業してしまうのじゃ。いろいろと世話になった身としては、グレイスが無職になってしまうのは申し訳なく思ってしまう。
「しかし、アイザックさんと知り合いだったとはちょっと驚きました」
「うむ。昨日のパーティが襲撃されたという話はしたじゃろう? そこで偶然知り合ったのがアイザックじゃ。彼は血統魔術師の家系と言っておったが、有名人なのかの?」
「そうですね。ウィンタースリー伯爵家と言えば、血統魔術師たちの中でも重鎮で、政府からも信頼されている人物です。いろいろと政府関係の仕事もしていると聞きますよ。顧問だとか、委員だとか」
「ふむふむ」
「何より凄いお金持ちですからね、アイザックさんの家は」
「そう言えばアイザックから魔術師というものには社会的信頼があると聞いたが、魔術が衰退しても、魔術師の価値は評価されておるのかの?」
魔術が衰退したならば、魔術師の地位も低下したと思ったのじゃが、アイザックの話を聞く限り、そうではなさそうなのじゃ。
「血統魔術師というのはシンプルに歴史が長い家系として評価されていますね。彼らは魔術師の家系としてずっと長く自分たちの血を守って来ました。この国ではそういう家柄はまだ評価されることなのです」
「なるほどのう。血は水よりも濃いと昔からいうものだからのう」
昔の皇帝も自分の血筋が立派なものだと証明しようとしておったから、そういうのは理解できなくもない。
しかし、魔術においては血筋云々はお門違いじゃ。魔術は開かれたものでなければならぬし、そもそも血筋で能力は決まらぬ。
そんな話をしながらわしらは父上と母上のいるホテルまで戻ってきた。
「おお。お帰り、アリス、レオ。学院はどうだった?」
「父上。実を言うといろいろと提案を受けたのじゃ。聞いてくれるか?」
「もちろんだよ」
それからわしはグレイスに学士過程から始めることや、アイザックの師事するトーランド教授から推薦状を貰えれば研究員として始めることができることを説明した。
「学士過程や研究員から始めるのかい? それで本当に大丈夫なのかい?」
「ちょっと心配ね。アリスたちのことを信頼していないわけではないけれど、学士過程も研究員も大人の人ばかりでしょう? 子供が混じっても大丈夫なのかしら?」
父上と母上は当然ながらわしらが幼いということを問題とした。
「アイザックは能力があれば年齢は関係ないと言っておった。推薦が受けられれば、年齢に文句をいうものもおらぬじゃろう。もし、推薦がダメであった場合は、適切な年齢まで待つ故、挑むだけ挑ませほしいのじゃ!」
「お願いしします!」
わしとレオ坊はそう言って父上と母上に頭を下げる。
「よし。分かった。そこまで言うのならば父さんもアリスたちを応援しよう。ただあと1年は待ってほしい」
「1年ですか?」
「そうだ。私とエブリンも家からアリスとレオがいなくなるのは寂しいんだよ。分かってくれるだろう?」
「……はい」
そうじゃな。父上と母上には育ててもらった恩がある。1年くらい一緒にいたいという望みくらい叶えるのは、親孝行として当然のことじゃろう。
「ありがとう。では、私からもトーランド教授には挨拶をしておくよ。推薦が得られるように頑張るんだ、アリス、レオ。父さんたちも応援しているからね」
「はい!」
そうしてわしらは家に帰ったのだった。
これから1年間は父上と母上に親孝行として過ごさねばならぬの。わしがアストリウスの生まれ変わりじゃとしても、わしがこれまで衣食住に困らず過ごせたのは父上と母上のおかげなのじゃからな。
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