古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
……………………
──子供時代//ザッカリー・トーランド教授
あれから1年経ち、わしは16歳になった。
身長は……もう言うのをやめよう。むなしくなるだけじゃ。
「今日はついに面接の日だね」
朝食の場で父上が少し寂しそうにいう。
「大丈夫じゃ、父上。休暇の日には必ず家に帰ってくるからの」
「そうしておくれ。この家からアリスもレオもいなくなると寂しくなるからね」
わしは父上を安堵させるためにそう言い、父上は少し安堵したように頷く。
「レオ坊。準備はよいか?」
「はい、姉上」
レオ坊もこの1年でさらに魔術に磨きをかけた。きっとわしと同じように研究員として認められることじゃろう。
「では、グレイスが来たら出発じゃ」
今日は父上と母上は同行しない。グレイスが代わりに一緒についてくれることになっておる。グレイスは今学院に復帰する準備をしておるそうで、この1年は既に家庭教師としての仕事を終えておった。
グレイスは再就職に特に問題はないと言っておったので安心している。グレイスが学院を辞めたのはわしらの家庭教師になるためじゃったからのう。わしらのせいでグレイスが無職になっては申し訳ないのじゃ。
「こんにちは!」
それからグレイスがやってきて、わしらに姿を見せた。
「おお。グレイス、久しいな。再就職の方はどうじゃ?」
「無事に学院の講師としての復帰が決まりました! アイザックさんも口利きしてくれたみたいで、すんなりいきましたよ!」
「それはよかった」
アイザックはなかなかの有力者のようじゃったからの。そのアイザックに気に入られたということは、グレイスがこれから職に困ることはあまりないじゃろう。
わしは人脈を生かすことを否定はせぬ。それは人脈だけで中身がなければだめじゃが、中身があっても人脈がなければだめということもあるのじゃ。芸術家には必ずパトロンが必要とされるようにな。
わしも魔術の再興を目指すのであれば、学院では勉学に励むだけではなく、人脈の構築にも努力しなければならぬ。魔術の再興という大事業には、いくら有力者との人脈があっても足りないぐらいじゃろうしな。
「では、ゆくか、いざ学院へ!」
「ええ。行きましょう!」
わしらはそう言って出発を決意した。
「行ってまいります、父上、母上」
「ああ。頑張ってくるんだよ、アリス、レオ」
わしらは父上と母上に改めて挨拶し、家を出て駅へと向かう。
「のう、グレイス。ザッカリー・トーランド教授とはどういう方なのじゃ?」
「トーランド教授は血統魔術師であるラングフォード伯爵の家系の方で、とても優れた魔術師ですよ。そして、同時に魔術学部の学部長でもあります。学院に限って言えば、魔術学におけるトップです」
「ほう。凄い人がわしらの面接をするのじゃな」
「ええ。アイザックさんが繋いでくれた人脈です。我々の魔術界の未来のためにしっかり生かしましょうっ!」
「もちろんじゃ!」
グレイスが気合入れ、わしも気合を入れる。
「さて、レオ坊。何か不安な点があるなら、今のうちに聞いておくぞ?」
わしが心配しているのはレオ坊じゃ。今日は口数も少なく、やはり緊張しておるのは目に見えて分かった。可愛いわしの一番弟子じゃから、その緊張は解いておいてやらねばの。レオ坊には万全の体制で面接に臨んでほしい。
「姉上。私も本当にトーランド教授から推薦を得られるだろうか?」
「無論じゃ。心配する必要はないぞ。レオ坊はわしの一番弟子なんじゃからな」
「だけど……」
「アイザックに言われたことがまだ引っかかっておるのか?」
「ああ。私は姉上から教わってばかりで、何ひとつ自分では生み出せていない。そんな私が姉上と同じようになれるのかと……」
「レオ坊。わしだって無から魔術を生み出したわけではない。全ては自然から学んだことじゃ。魔術も、冷静も、
わしはレオ坊にそう説く。
「自然を前にすればわしだってだだの生徒に過ぎぬ。それにレオ坊はわしよりも2歳若い。これからのチャンスはわしよりも広がっておるのじゃぞ?」
「姉上……」
「こんなに若いうちから将来を悲観するものじゃあない。レオ坊はもっと楽観的にならなねば。6歳のときにわしから魔術を教わっておったレオ坊は、魔術を純粋に楽しんでおったではないか」
「……ああ。その心を忘れてはいけなかった」
レオ坊は元気を取り戻したのか緊張もほどけ笑顔を浮かべた。
「よし。レオ坊も準備できたの。いざ、学院へじゃ」
それから鉄道の旅が終わり、わしらはロンディニウムの駅に降り立つと、学院に馬車に乗って向かう。ロンディニウムに華やかな街並みを抜ければ、その繁栄する首都の中心地に学院は存在している。
1年ぶりの学院はわしらを出迎え、グレイスの案内でトーランド教授の部屋に向かう。
「来たか、アリス、レオ。手紙は受け取っていたぞ」
「アイザック。今日はよろしく頼むの!」
トーランド教授の部屋の前にはアイザックが待っておった。
「トーランド教授は中だ。時間通りにきたのは好印象だぞ。教授は時間にうるさい」
「うむ。入っていいのかの?」
「ああ。教授を紹介しよう」
アイザックはトーランド教授の研究室の扉を開けて、わしらを中に招き入れた。
「トーランド教授。話していたアリス・カニンガム、レオ・カニンガムのふたりです」
「ほう。君たちがアイザックのお眼鏡にかなった天才少年少女か」
トーランド教授は初老の人物で、ロマンスグレーの髪をオールバックにしており、威厳がある風貌であった。長身の体にはベージュのスリーピースのスーツを纏っており、学者然としておる。
「初めまして、トーランド教授。わしはアリス・カニンガム」
「レオ・カニンガムです」
わしとレオ坊はそれぞれトーランド教授に挨拶。
「さて、君たちに推薦状を書いてはどうかとアイザックからは言われている。しかし、私は君たちについてあまり知らない。そこで面接を受けてもらい、それから実技を披露してもらおう。異論はないかね?」
「もちろんじゃ、教授」
「よろしい。座りたまえ」
トーランド教授はわしらに席を勧め、わしとレオ坊はそれぞれ椅子に腰かける。
「まず聞きたい。君たちにとって魔術とは、何だ?」
最初の質問が来た。
「わしにとって魔術とは人類の可能性のひとつじゃ。今の人には様々な選択肢がある。自然科学、社会科学と言った学問が解き明かしたものは、人類の発展の選択肢になっておるじゃろう。私にとってはそれらと魔術は同列に並ぶものじゃ」
「可能性であると。その可能性で何が切り開ける?」
「魔術には人々を幸せにする可能性がある。今は確かに科学が世界を発展させ、人々を幸福にしてきた。だが、それに魔術を加えることは、さらに人類の幸福と発展を可能とするじゃろう。違うだろうか?」
「君は魔術を単なる学問として考えるのではなく、人類を発展させる道具だと考えているのだね。だが、多くの自然科学の研究者は、この自然の謎を解き明かすことそのものだけで価値があるとも考えるが」
「ふむ。だが、それだけでは魔術は蘇らぬと思うのじゃ。科学がこの世界を発展させたのと同じくらいの功績がなければ、人々は一度衰退した魔術に見向きもせぬじゃろう。ただ謎を解き明かすだけでは不十分じゃ」
わしがトーランド教授にそう話すと彼は小さく頷きながら、わしの方をその緑色の瞳でじっと見つめておった。
「君は……開拓者になれるな。あとは実力だけだ」
トーランド教授はそう言って頷いた。
「次はレオ。君にとって魔術とは何だ?」
……………………