古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──子供時代//その悔しさをばねに
わしらは無事に学院における推薦が得られたことを父上と母上に報告した。
「やはりアリスもレオも天才だったんだね。父さんは誇らしいよ」
「そうね。ふたりが遠いところに行ってしまったような気もするけれど……」
父上は喜んでくださったが、母上の反応は慎重であった。
「遠いところになど行っておらぬよ、母上。わしらは今もあなたたちの子じゃ」
「ありがとう、アリス。学院に通っても私たちのことを忘れないでね」
「もちろんじゃよ」
頼りになる父上と優しい母上のことは決して忘れたりせぬよ。
「じゃあ、入学に向けた準備もしないといけないな。ふたりとも必要なものがあればリストにしておきなさい」
「はい、父上」
わしとレオ坊はそれからそれぞれの部屋に向かったのじゃが……。
「姉上。少しいいだろうか?」
わしが自室に入る直前、不意にレオ坊がそう言ってきた。
「おう。よいぞ、レオ坊。どうしたのじゃ?」
「私の部屋に来てくれ」
「うむ?」
よく分からないが、レオ坊の部屋にわしは向かう。
「レオ坊の部屋に入るのは久しぶりじゃのう」
レオ坊の部屋は男の子の部屋とは思えないほど綺麗に片付いておる。
「姉上。正直なことを言っていいか?」
「なんじゃ?」
そして、レオ坊が真剣な表情で尋ねるのにわしも真面目に尋ねた。
「私は……やはり悔しい」
レオ坊はこぶしを握り締めてそう絞り出したような声で告げた。
「今日のトーランド教授の面接の件じゃな」
「ああ。私にも自信はあった。きっと推薦がもらえると、きっと研究員として認めてもらえると、そう思っていた。しかし、結果は十分とは言えなかった」
「その理由にも納得できなかったかの?」
「どう言われても私が未熟であったことに変わりはない。だろう?」
ふむ。困ったの。レオ坊もやはり面接の結果には思うところがあったようじゃ。
「レオ坊。わしはトーランド教授のいうことには一理あると思っておる。レオ坊はわしとグレイスからしか教わっておらぬ。それでいて、もうあれだけ高度な魔術を使いこなしておるじゃろう?」
「それならば認めてくれても……!」
「いいや。それはレオ坊にはまだまだ伸びしろがあるということじゃ。きちんとした教育を受ければ、レオ坊はまだまだ成長する。わしすらも追い抜いてしまうかもしれん」
「そんなのは無理だ。姉上を追い抜くなんて……無理に決まっている……! 姉上は昔からずっと凄い人で、私の憧れだったのだから!」
レオ坊はそう言ってわしの方に羨望にも、嫉妬にも似た視線を向けてくる。
「わしはそうは思わぬ。レオ坊はきっと大成するじゃろう」
レオ坊の危機感は分からんでもない。わしもかつて同じように感じたことがある。
「レオ坊。わしに前世があったと言ったら驚くか?」
「前世……?」
「わしはかつて──前世で魔術師じゃった。その前世の知識がわしにはあり、レオ坊にもそれを教えてきたのじゃ。わしは無から魔術を学んだわけではないのじゃよ」
「それは……本当なのか、姉上?」
「事実じゃ。誰も信じてはくれなかったがの。レオ坊は信じるか?」
わしはあまり期待せずにそう尋ねた。
「私は姉上のことは信じる。姉上は嘘を吐いたことはない」
「おお。信じてくれるのか、レオ坊!」
レオ坊はいい子じゃ!
「ごほん。その上で言うぞ。わしも最初から全てを知っていたわけではない。わしも魔術を学びながら、不安になったことはある。わしは人生でどれだけのことを成し遂げられるのかと。わしの道は志半ばで潰えるのではないかと」
「姉上もそのような不安を?」
「もちろんじゃ。この世に未来の見える人間はおらぬ。どれだけ秀でた賢人であろうと、解き明かせなかった謎を残して無念のうちに死ぬことはある。わしもずっと不安であったよ……」
わしはレオ坊に正直なところを吐露した。
「レオ坊の不安も同じじゃ。わしを越えるということができるのか、あるいは自分がそれに比類することができるか不安なのであろう。その不安を解消する方法はない。だが、紛らわせる方法はある」
「それは?」
「ひたすらに努力し、前に前にと進むことじゃ。後ろを振り返って躊躇ってはらなぬ。前に進むことを恐れてはならぬ。過去を振り返っても過去は変えられぬ。わしらは進むしかないのじゃ」
そう、わしも道に迷ったときは前を向いた。前を向いて、進み、進み、がむしゃらに何かを成そうとした。それが失敗するときもあれば、成功するときもあったが、前に進まずしては何もなせぬ。
「進む……前に……」
「レオ坊。今は学生として学べることを全て学ぶ勢いでいるのじゃ。前に進むべく、今の自分にできることを全てやるのじゃ。そうすれば、きっと道は開ける」
わしはそう言ってレオ坊の方を叩いた。
「推薦の件はもう終わったこと。次を見据えて前を見よ。今は与えられた学士過程ということをやり遂げるのじゃ。わしはもう新しく得られる経験は少ないが、レオ坊の未来がこれから広く、広く、広がっておるのじゃから」
わしがそう微笑んで告げるのに、レオ坊は一瞬泣きそうになったが、すぐに笑顔を浮かべて僅かに浮かんだ涙を拭った。
「ああ。姉上の言う通りだ。私は我がままだった。自分が期待した通りにいかないからとへそを曲げていた。子供の態度だった。それはこれから大人になるならば改めなければならないことだな」
レオ坊は決意を秘めた表情で、そうわしに宣言した。
「姉上。私は私にできることを何であろうとやり遂げる。可能性を見つけるために、前を向いて進む。必ず。姉上の期待に決して恥じないように……!」
「うむ。それでこそ、わしの一番弟子じゃよ!」
弟子が立派でわしを鼻高々である。
「だが、レオ坊。この先、いくら前を向いても困難な壁に遭遇するかもしれぬ。そのときはわしを頼ってもよいのじゃぞ。わしはおぬしの師匠なのじゃからな。いつでもわしを頼ってくれ」
「はい、姉上。いざというときには姉上を頼りにさせてもらうよ」
こうしてレオ坊は悔しさをばねにして、成長への決意を秘めた。
レオ坊はまだまだ成長するじゃろう。その可能性を秘めておる。
わしには前世の知識があり、ある意味では成長はその前世の時点で終わってしまっておる。わしはこれから新しいものを取り入れるのには、前世の先入観などを取り払わねばならず苦労するじゃろう。
だが、その点においてレオ坊は違う。レオ坊はわしと違って前世の知識がないにもかかわらず、6歳からすんなりと魔術が使え、それからすぐに異界魔術すらも取得した。そんなレオ坊は可能性の塊じゃ。
師としてのわしの役割は、弟子を導き、可能性を切り開くこと。そして、弟子の役割は、その師を越えて、新しい師となることじゃ。
レオ坊はいずれわしを越えて、新しい魔術の師となる。レオ坊は彼自身の可能性と、魔術の可能性の両方を切り開く開拓者になるのじゃ。
そう思うと、レオ坊の将来が楽しみでならない。
「さて、レオ坊が励むようにわしも励まねばの!」
わしも可能性が全くないというには早い。わしの人生はまだまだ始まったばかりじゃからの。これから多くのことを学び、発見することができるじゃろう。
この人生も決して悔いのないように過ごしたいものじゃ!
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次話から学院編開始です。