古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──学生時代//入学に向けての準備
父上と母上と話し合って、入学は9月からということになった。学院では主にその時期に入学が行われるそうなのじゃ。
「本当に学生寮での生活はできそう?」
「大丈夫じゃ。問題ないよ、母上」
母上はわしとレオ坊が親元を離れてやっていけるのか心配しっぱなしじゃ。
わしもレオ坊も親元を離れるのは初めてじゃが、何事にも始めてあるものじゃ。今、決意して親元を離れなければ一生離れられぬだろう。
わしとレオ坊は魔術界に変革を起こす覚悟で学院に向かうのに、自分で自分の面倒が見れぬようではそんなことなど望みようもないじゃろう。
「レオ坊も平気じゃろう?」
「もちろんだ、姉上。母上もそこまで心配なさらずに」
レオ坊も気合が入っておるわい。
「服はカジュアルなものからフォーマルなものまでそろえておいたから、きちんとその場に相応しい服装をしてね。あなたたちはオールデンウィック家の子なのだから、その家名に恥じないように」
「了解じゃ、母上」
エルダーグローブ学院では高等部までは制服というものがあるそうなのじゃが、学士過程以降にはそれはない。それで学院の研究室や講義室ではカジュアルな服装をしていていいそうなのじゃが、みんなどういう格好をしとるのじゃろうかの?
「他にも生活に必要だと思ったものは詰め込んでおいたから、自分たちで足りないものがないか確認しておくのよ」
「はい!」
わしとレオ坊はかなりの量に膨れ上がった荷物を点検する。
いや、しかし、本当に量が多いのじゃ! わしひとりで大きな旅行鞄4つ分も荷物があるのじゃ! こ、これ、本当に全部持っていくのかの……?
「アリス、レオ。教科書の方が揃ったよ」
と、ここで父上が帰宅してきた。父上は街の本屋に教科書を注文しており、それを受け取りに行ってくださったのじゃ。
「結構な量があるよ。一応自分たちで確認してくれ」
父上はそう言って本の山をテーブルの上に乗せた。本当に凄い数の本じゃが、本というのはそれだけで興奮するものじゃ。本というのは知識が詰まっておる。そして、新しい知識というのはいつだって楽しいものじゃからな。
「これから学ぶことを考えるとわくわくするのう」
「姉上も講義には出席するのか?」
「もちろんじゃ。研究員も講義に出席していいそうじゃからの。わしも初心に帰って学べることは学んでおきたい」
「なら、私も姉上に負けないようにしないな」
学院の研究員となる以上、講義には自由に出席できる。そして、わしは魔術だけでなく、科学にも興味がある。
何故ならば科学の知識が、魔術の基本になる
わしの前世では
科学について知れば、魔術について知識が深まる。科学と魔術は相反するものではなく、それぞれがお互いの謎を解き明かす存在なのじゃな。
「それから文具も一応揃えておいたよ。足りないものがあれば、ロンディニウムで買い足すといい。すぐに使えるお金を包んでおいたから」
「ありがとう、父上」
文具は立派なものじゃった。特にわしが見入ったのは万年筆じゃ。
「綺麗な万年筆じゃのう。書き心地もよさそうじゃ」
黒と金色の万年筆は美しく、高級品であるのは間違いなかった。手に握ってみても、握りやすく、書きやすそうであった。
そしてよく見れば万年筆には『A・C』と記されておる。わしのイニシャルじゃ。とすると、これはオーダーメイドの品なのかの?
「気に入ったかい? 大人になったら渡そうと思って、前に注文しておいたんだ。レオにも同じものがあるからね」
「ありがとうございます、父上」
レオ坊もわしも父上からの贈り物に感謝した。ありがたい限りじゃあ。
「それからアリスにはこれを準備したよ」
父上が準備してくださったのは──白衣じゃ!
「研究室では白衣が必要になるそうだから、頼んでおいたんだ。アリスは小柄だから、既製品の白衣は大きすぎるだろうからね。これを着て研究に励んでおいで」
「ありがとう、父上!」
わしは父上から受け取った白衣を纏ってみる。
「似合っているよ、アリス」
「ばっちりだ、姉上」
父上とレオ坊がそれぞれ白衣姿のわしを褒めてくれた。照れるのじゃ。
「では、引き続き荷造りをしなさい。学生寮まで荷物を運ぶのは使用人を貸してあげるから、必要なものは何でも包んでおくのだよ」
とは言え、既に旅行鞄4つ分の荷物が教科書が加わってさらに増えておる……。いくら使用人を貸してもらえても、これは多すぎないじゃろうか……?
「レオ坊。他に必要なものは何があるじゃろうか?」
「生活用品はもう十分だ。だが、教科書は一応確認した方がいいと思う」
「分かったのじゃ」
それからわしとレオ坊は荷造りにいそしんだ。
そして、学院への移動が明日に迫る中、わしらは父上の提案で家族で過ごす最後の日を豪華な夕食で締めくくることとなった。
御馳走がたくさんでて、父上、母上、レオ坊、そしてわしと家族全員が揃った。
「明日からいよいよ学院だね、アリス、レオ。心配なことはないかい?」
「大丈夫じゃよ、父上。今から楽しみなぐらいじゃ。なあ、レオ坊よ?」
わしはレオ坊の方を見てそう尋ねる。
「ああ。少し寂しいですが、学院でしっかりと学び、立派になって戻ってきます、父上、母上。それを楽しみにしておいてください」
レオ坊は本当に立派になったのう! 師匠として嬉しい限りじゃよ!
「わしも学院で魔術を再興させるために頑張ってくるぞ。父上と母上が誇りに思ってくれるようなことを成し遂げるつもりじゃ。レオ坊の成長と同じように、それも楽しみにしておいてくれ」
「ああ。レオの成長も、アリスが成し遂げることも楽しみにしているよ」
父上と母上はわしらの意気込みに、優しく微笑んでくださった。
「けど、本当に寂しくなるわね。ふたりとも休みの日には帰ってきてね?」
「はい、母上。帰れる日は帰って、顔を見せに戻ってきます」
「お願いね」
母上は本当に心配性じゃが、気持ちは分かる。わしの前世でも、弟子が修行のために旅に出たときなどは寂しかったものじゃ。
「わしも手紙を書いて近況を知らせるようにするからの。母上、手紙を読んで、わしらが元気にやっていることを確認してくだされ」
「まあ、ありがとう、アリス。楽しみにしているからね」
わしも旅に出た弟子から手紙は楽しみにしたものじゃ。
それからわしらは家族で他愛のない話などしながら、過ごし、夕食を終えた。
それからわしは思うところがあって裏庭へと向かった。
「ここでわしは魔術を……」
わしの二度目の人生の転換点はこの裏庭で起きた。ここでわしは再び魔術が使えることを確認し、それからこの人生でも魔術師として生きていくことを決意したのじゃ。
「姉上。ここにいたのか」
「レオ坊」
レオ坊がやってきて懐かしそうに裏庭を見渡す。
レオ坊にとってもここは転換点となった場所じゃ。わしから魔術を学び、それからは魔術にのめり込んで、将来の夢を魔術師とするほどまでになった。レオ坊はそのことを後悔しておらぬとよいのじゃが。
「思い出すの、レオ坊。ここでわしらは魔術をグレイスから教わったのじゃ。そして、わしもレオ坊もここで初めて魔術を使った」
「そうだな。ここは永遠に思い出に残る場所だ。決して忘れることはないだろう」
わしらは裏庭にあるベンチに座って、じっと草花の茂る裏庭を静かに眺めた。
「姉上。困ったときは姉上を頼ってくれと言ってくれたこと、本当に嬉しいと思っている。姉上はいつでも私に優しくしてくれた」
「姉として、そして師匠として当然のことじゃよ」
「それでもだ」
そう言ってレオ坊はわしの方を見て、わしの手を握った。
「だから、私もこれからどういうことがあろうと、私は姉上を守る。頼りないのであれば、頼れるほどになる。だから、姉上も私を頼ってくれ」
「レオ坊……。本当に大人になったのう……」
レオ坊の成長をわしは実感した。
「では、何かあったらわしもレオ坊を頼るよ」
「ああ」
わしらは裏庭で遅くまでふたりで実家での最後の日を過ごした。
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