古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──学生時代//わしは研究員!
わしらの学院での生活は学生寮に引っ越すことから始まった。
使用人とともに荷物を家から運び、鉄道に乗り、大きな馬車でエルダーグローブ学院に併設されている学生寮を目指す。
わしはカジュアルな服装として水色と白のエプロンドレス姿で、レオ坊はスーツを着ておる。スーツを着たレオ坊は凛々しくて、男前じゃのう!
「ここが学生寮じゃな」
学生寮はとても大きな建物であった。それは貴族の屋敷のようでもあり、とても立派なものじゃった。
もっと詳細を記すと建物は3棟で構築されておる。西に男子寮、東に女子寮、そして男子女子で共有の食堂などがある中央棟じゃ。
「では、あとで合流しよう、レオ坊」
「了解だ、姉上」
わしとレオ坊は男子寮、女子寮で別々なので中央棟で別れ、わしは使用人とともに女子寮の方に向かったのだった。
しかし、ここでわしに迷いが生じる。
女子寮は乙女の園である。だが、わしは外見こそ幼女であるが、中身は男じゃ。もし、わしの外見が前世のままであれば女子寮に一歩踏み入れただけで、不審者として拘束されてしまうであろう。
わしは本当に女子寮に入って良いのか……?
「どうしましたか、お嬢様?」
足を止めたわしを使用人が怪訝そうに見てくる。
「う、うむ。ちょっとした心の準備をじゃな……」
わしが足を踏み出すために決意を秘めたときじゃ。
「あー! なんか小さい子がいるよ!」
女子の賑やかな声が突然聞こえてわしが咎められたかと思い、びくりとする。
「どうしたの? ここに何か用事? お姉さんが助けてあげよう!」
そう言って話しかけてきたのは、人懐っこい笑みを浮かべた可愛らしい女子学生であった。しかし、学生にしては若いように見える。
その女子学生は美しい黒髪をしており、その髪を快活そうなポニーテイルにしておった。そして、カジュアルなロングスカートとブラウスに覆われた体つきは16年経っても幼女体系なわしとは大違いで、女性らしい起伏に富んだものじゃった。
「初めましてじゃ。わしはアリス・カニンガム。今日からここで世話になる」
「……???? お嬢ちゃん、おいくつ?」
「……16歳じゃよ……」
まあ、完全に見た目幼女のわしが学生寮に来たら、そう言う反応にもなるじゃろうが、それでもちょっと悲しいのう……。
「うっそだー! 絶対8歳ぐらいでしょ? お姉さんに学生証見せてみ?」
「ほれ」
わしは出来立てほやほやの学生証を、絡んできた女子学生に見える。
「ほ、本当だ……。こんなに小さな16歳がいるの……?」
「余計なお世話じゃ。それよりおぬしも学生寮に住んでいるのか?」
「ああ。ごめん、ごめん。挨拶が遅れたね」
快活そうな女性学生はそう言って改まった。
「あたしはマヤ・リデル。魔術学部の学生だよ」
「おお。それは奇遇じゃったな。わしも魔術学部のものじゃ」
「1年生?」
「いや。研究員じゃ。トーランド教授の研究室に所属することになっておる」
「凄い。なら、飛び級か。まあ、あたしも高等部から学士過程の1年に飛び級してきたんだけどね」
「おぬしもか?」
「あたしもまだ16歳だから。同じ年だね!」
同じ年の女子には初めて会うのう。……身長も体つきもわしとは違いすぎるが……。
「で、今日から学生寮で暮らすの? 荷物運ぶの手伝おうか?」
「おお。悪いのう」
「部屋は何号室?」
「404号室じゃ」
「なら、こっち!」
マヤの案内を受けてわしらはこれから暮らすことになる404号室に向かった。
「この学生寮には他の学部の子もいるけど仲良くしてね」
「大体何人くらいの学生が暮らしておるのじゃ?」
「女子寮は30人だよ。そのうち魔術学部はあたしとアリスちゃんだけ」
「少ないのう」
「まあ、魔術学部はちょっと特殊だからね」
マヤは苦笑いを浮かべてそう言った。
「もしや、それは血統魔術師に関することか?」
「ご名答。というか、もう事情は知ってるんだね」
「詳しく知っておるわけではないが、グレイス・イーストレイクという女性から噂を聞いておっての。マヤは血統魔術師なのか?」
「まさか。違うよ。あたしの家にはそんなに大層な歴史はない、ただの
「ほう。政治家の娘か。それが何故魔術学部に?」
わしはマヤのに興味が出てそう尋ねた。
「別に特別なことはないよ。あたしは学問として魔術に興味を持ったから、それだけ。強いて言うならば魔術には長い歴史があるからかな。本当は文学部で歴史を学んでもよかったんだけどさ。魔術は生きた歴史って感じじゃん?」
「なるほどのう。生きた歴史、か。受け継がれてきた伝統というものとも言えるのう」
「そうそう。ただこの手の伝統に部外者が入り込むのは難しいみたいで実感してるよ」
マヤはそう言って肩をすくめたのだった。
「さて、ここが404号室だよ、アリスちゃん。あたしは向こうの401号室だから、いつでも遊びに来て! 歓迎するよ!」
「ありがとう、マヤ。あとで遊びに行くとするの」
わしは一度マヤに別れを告げて部屋の中に入った。
流石に実家の自室と比べると手狭だが、それでも立派な本棚があり、タンスや机や椅子があり、シンプルなベッドも存在する。なかなかに快適そうな部屋であった。
窓からの景色も綺麗な庭と歴史のある学院の建物が見えて満足。
「荷物をほどかねばのう」
「はい、お嬢様」
わしは使用人と一緒に荷ほどきをし、ようやく腰を落ち着かせた。
「さて、ついに女子寮に入ってしまったの……」
これから本格的に女として生きていくわけじゃが、まだ覚悟ができておらぬ。
「まずはマヤの部屋に挨拶に行っておこう。それから研究室に顔を出さねば」
わしはそれからマヤのいる401号室に向かった。
「マヤ。アリスじゃ。遊びに来たぞ」
わしが401号室をノックすると、すぐにマヤが顔を出す。
「ようこそ、ようこそ! 入って!」
わしは引きずり込まれるようにマヤの部屋に招かれた。
マヤの部屋は少しばかり乱雑としていた。読みかけの本があちこちにそのまま置かれており、ベッドには脱ぎ捨てた服が散らばっている。しかし、部屋そのものは掃除も行き届いており、不衛生ではなさそうじゃ。
「ちょっと散らかっておるの?」
「まーね。あまりこういうの気にしない性質だから。それよりお菓子食べる?」
「よいのか?」
「もちろん。どうぞ、美味しいよ、これ」
「それではもらおうかの」
そう言ってマヤが差し出したのはクッキーであった。わしは木の実がふんだんに混じっている美味しそうなクッキーを受け取り、口に運んだ。
クッキーはバターの風味と砂糖の甘みが強く、同時に木の実のさくさくとした味わいが口の中に広がる。とても美味じゃあ!
「美味しいのう。このクッキーは学院の購買で売っておるのか?」
「残念。それは私の手作りだよ」
「ほうほう! おぬし、かなり器用じゃのう!」
「まーね。クッキーならお手の物。他の料理はいまいちだけどね」
わしは前世でも今世でも料理はほとんどしたことがないので、こういうのができる人間には素直に感心するのじゃ。
「それじゃあ、アリスちゃん。学生寮の中を見て回る? いろいろな施設の場所を知っておいた方がいいでしょ?」
「そうじゃのう」
「では、決定。出発ー!」
ということで、わしはマヤに学生寮の案内をしてもらうことに。
「ここはお風呂とシャワーね。特に時間で区切ったりとかされてないから、好きな時間に入るといいよ」
「お、おお」
わしはなるべく人のいない時間に入ろうと、そう決意した。流石に女子と一緒に入ると言うのは、わしの中の良心が咎めるんじゃあ。
「次にここが寮母のカークランド夫人の部屋ね。何か困ったことがあったら、ここにいるカークランド夫人を頼るといいよ」
「どんな人なのじゃ?」
「とっても優しい人だよ。あたしも寮に入りたてのころは、いろいろとお世話になったし。あたしがお菓子作るのに食堂の台所使っていいよって言ってくれたのも、カークランド夫人だからね」
「ほう。それは優しそうな人じゃのう」
わしも困ったら、そのカークランド夫人を頼るとしよう。
「次が中央棟ね。中央棟には食堂と談話室、救護室なんかがあるよ。まずは食堂の場所を教えておくね」
そう言ってマヤはわしを食堂に案内してくれた。
「お。レオ坊も食堂に来たのか?」
「姉上も?」
と、その食堂でレオ坊に出会った。
「アリスちゃんの知り合い?」
「わしの弟じゃ。一緒に入学したのじゃよ」
「へえ!」
マヤはそう言ってレオ坊をしげしげと見た。
「弟さんも可愛いね!」
「そこは凛々しいと言ってあげておくれ」
によによしてそういうマヤにわしが苦笑してそう言ったのだった。
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