古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──学生時代//傲慢なるエリオット・アレクサンダー
残念なことに血統魔術師と非血統魔術師の対立は日に日に深まっておる。
今日なども魔術学部の掲示板にこのようなものが貼られておった。
『不正入学したカニンガム姉弟を退学へ!』
そこにはわしらが異界魔術を使ったというのは嘘であり、この不正入学にトーランド教授も加担したと告発されておった。だが、誰がこの文章を書いたのかについては全く記されておらぬ。卑怯じゃのー!
その怪文書はすぐに撤去されたものの、血統魔術師たちからはわしらに敵意ある視線が未だに向けられておる。
このまま怪しげな噂が流されて続けるのには我慢がならんのじゃ!
「トーランド教授。わしとレオ坊の魔術を公開したいと思うのじゃ」
なので、わしは行動に出ることにした。
待っていても問題は解決せぬ。ならば、自分たちから動くべきじゃろう。
「ふむ。その提案そのものには反対するつもりはない、アリス。しかし、どういう形式で魔術を公開するつもりだろうか?」
「まずあとになってあれは違ったという意義が挟まれないようにしたい。血統魔術師、非血統魔術師両方の教員が見届け、少なくとも魔術学部に所属しているのであれば、誰でも見れるようにもしておきたいのじゃが」
「なかなか大きな公開の場になりそうだな。そうなると準備が必要だ」
トーランド教授は否定はせず、秘書を呼んだ。
「理事長に面会のアポを」
「分かりました」
彼はそのように秘書に言って、秘書は早速理事長との面会の約束を取りに向かった。
「ちゃんとした場を準備しよう。君とレオの才能が否定されることは、好ましくない。君たちの示した実力が否定されるのは、魔術学部が、いやアルビオンの魔術師たちが揃って愚か者であると示すようなものだ」
「感謝するのじゃ、教授」
「ああ。場は用意するが、そこで実力を示すのは君たちだ。もし、示せなければエリオットたちは本当に君と弟を学院から追い出してしまうだろう。気を付けたまえ」
「はい」
失敗は決して許されぬというわけじゃ。だが、問題はない。わしとレオ坊ならば必ずやり遂げられるじゃろう!
「では、レオ坊にも伝えておきますからの」
わしは魔術を公開することをレオ坊へ伝えるために講義室を目指す。この時間帯ならばレオ坊は魔術理論の講義を受けておるはずじゃ。
わしがそう考えて構内を進んでいくと、わしの前にひとりの男性が立ちふさがった。
「おやおや。噂の天才少女ではないか」
「エリオット・アレクサンダー教授。何かご用かの?」
嘲るような笑みを浮かべてエリオットがわしの前に立つ。
「お前がどういうペテンを使ったかは知らないが、異界魔術だということはあり得ない。異界魔術は継承されなかった。完全に失われ、絶滅したんだ。太古の恐竜や大型哺乳類と同じようにな」
「技術は必要に応じて生まれるものじゃよ、エリオット。そして、かつて異界魔術が生まれたときと、今の世界の理は変わっておらぬ。そうであれば、また異界魔術がどこからか生まれてもおかしくはなかろう?」
わしは弟子に言い聞かせるようにエリオットにそう説いた。
「くだらん。技術とはそこまで簡単なものではない。積み重ねられてきた先人の知識がなければ技術は生まれない。無から生まれるものなど何もないのだ」
「それはそうだがのう」
わしにはその先人の知識というものがあるからのう。
確かにわしがその知識を得るまでには数十年はかかったが、仕組みさえ分かってしまえば、一般魔術も異界魔術も難しいものではない。事実、レオ坊はわしから教わってすぐに習得した。
「いいか。必ずお前たちのペテンを暴いて魔術学部から、いや学院から追放してやるぞ。覚悟しておくことだな」
「ア、アレクサンダー教授!」
エリオットがわしにそう言った直後にひとりの地味な女性が駆け寄ってきた。
「どうした、ジェシカ?」
「少しお話が……」
「分かった」
そのジェシカと呼ばれた女性とともにエリオットは立ち去っていった。
「ふむ。これは一筋縄ではいかなそうじゃのう……」
わしはエリオットの立ち去った廊下でそう呟いた。
* * * *
「レオ坊!」
「姉上。どうかしたのか?」
わしが講義の終わった講義室に入ってレオ坊を見つけると、レオ坊もわしを見つけて駆け寄ってきた。
「今度トーランド教授がわしらが魔術を披露して、異界魔術が使えることを証明する場を設けてくれるそうじゃ。そこでしっかりとわしらが実力を証明すれば、今ある噂は立ち消えるじゃろう」
「そうか。では、失敗は許されないな」
「ああ。レオ坊ならやれるじゃろう?」
「姉上も」
わしが不敵ににやりと笑うのにレオ坊も悪戯げに笑って見せた。
「お、アリスちゃん。レオ君に用事?」
「マヤ。ちょっとな。今度、わしらの魔術を披露する機会ができる予定なのじゃ。よければマヤたちも見に来ておくれ」
「本当? 興味あるな!」
マヤはすぐに興味を示し、瞳に興奮の色を浮かべた。
「ライリーにも伝えておくね。あいつも興味を持ちそうだから」
「おお。よろしくの!」
披露する場には血統魔術師だけでなく、非血統魔術師もいるのが望ましい。公平な視線で評価してほしいからの。
「魔術を披露すれば悪い噂もちゃんと消えるじゃろう!」
わしはそう楽観的に考えておったのじゃ。
* * * *
「残念だが現段階ではあなたの要望を学院として受け入れることはできない」
トーランド教授にそう言うのは学院の理事長をしている男性だ。名をジャクソン・ウェストウッドと言い、アルビオン王国に列されるホワイトストーン侯爵の名を有する貴族であった。
「理由をお聞きしても?」
「一部の学生や教員が納得しないからだ。あなたは入学したアリス・カニンガム、レオ・カニンガムに実力を証明する場を提供してほしいというが、それは本来入学前に行われるべきものだったと考えている人間もいる」
トーランド教授の疑問にウェストウッド理事長はそう言う。
「まずは入学に不正がなかったかの調査が行われ、それからあなたの求める場が提供されるだろう。正当性のある順番だよ」
「理事長。あなたも私の推薦状はお読みになったはずだ。そして、理事会が入学を許可した。それを撤回なされるおつもりか?」
「提供された情報に間違いがあったかもしれないからな。推薦状はあなたへの信頼があったうえで成立していたものだ。そこに疑問が生じるのは、理事会の責任ではない」
「なるほど。では、私は信頼に値しないと」
「それは調査結果次第だ」
理事長はトーランド教授の言葉にそう応じた。
「ところで、その反対の急先鋒だろうエリオット・アレクサンダー教授の実家からの寄付金は結構なものだと聞いております。まさかそれが理由ではありませんな?」
「と、とんでもない。ここは歴史ある学問の場だよ。金銭で動かされたりなど……」
「そうですか。では、失礼を」
トーランド教授は席を立って理事長室を出た。
「俗物め。学院を金で買っただけの男に運営を任せるからこうなる」
そして、トーランド教授はそう吐き捨てる。
トーランド教授とて優れた学者が優れた経営者にならないことは分かっていたが、それでも歴史ある学院を預かる以上、金銭以上のことを重要視すべきだと思っていた。
今の理事長は寄付金集めにばかり熱心で、寄付金を出す家を優遇している節がある。本当に正しい形で不正を問われれば、裏口入学させたとして発覚するのは、そういう家の人間たちだろう。
「だが、今になって彼らがくじけることはない。そして、私自身もこの程度のことで屈するつもりはない」
そう決意を秘めてトーランド教授は研究室へと戻る。
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