古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──学生時代//決闘
わしとエリオットが決闘を行う日がやってきた。
わしは正式な決闘の場に相応しい白いブラウスと黒いロングスカートというフォーマルなドレスを身に着け、学院のグラウンドに向かう。決闘はお互いの名誉をかけたものなので、カジュアルな服装で挑むのは適切ではないとアイザックに教わっておった。
既にグランドの周りには魔術学部の学生も、そうでない学生も集まっておる。よくみれば教員も混ざっておるのう。
「アリス君!」
「アリスさん!」
そして、ローガンとグレイスも当然のようにおった。
「ローガンにグレイス、おぬしら仕事はどうしたのじゃ……?」
「今日の講義は休みにしました! アリスさんを応援するためですよ!」
「お、おう。そうか。ありがとうな」
そんな教員の都合で勝手に休講にしてよいのじゃろうかと思いながらも、わしは応援に来てくれたふたりに素直に感謝した。
「姉上」
「レオ坊。行ってくるの」
「ああ。応援している。姉上──」
レオ坊がわしの肩を握ったと思うと、次の瞬間には跪いてわしを抱きしめた。
「絶対に死なないでくれ……」
「……誰も死んだりせぬよ」
それに対してわしはレオ坊を安心させるように、その頭を撫でてやった。昔はよくこうしてやったものよ。
「さて、エリオットを待たせては悪いからの。そろそろ行くぞ」
わしはレオ坊にそう言って、エリオットの待つグラウンドの方へと向かった。
「おや。怯えて来ないのではないかと噂していたところだ」
「それは残念だったのう。おぬしもわしが来ないことを望んでいたわけだ」
「ふん」
エリオットが煽るのに、わしも煽り返す。もう勝負は始まっておるのだ。
「両者、準備はいいか? 立会人はこのアイザック・ドレイクが行う」
立会人としてアイザックがわしらの双方を見る。
「よいぞ」
「ああ。いつでもいい」
わしとエリオットは互いを睨みながらそう宣言。
「では、ルールを確認する。どちらかが戦闘不能になった時点で決着とする。他には降伏を知らせた場合も、そのものの敗北として勝負は決する。よろしいか?」
アイザックは決闘の手順を確認し、わしとエリオットを交互に見る。
「了解じゃ」
「了解した」
わしとエリオットはそれを了承した。
「よろしい。それでは私が立会人として公平に見届ける。両者、構え」
アイザックはそう言って右手を上げ、数歩後ろに下がると──。
「始め!」
右手が振り下ろされ、決闘が開始された。
「天才少女のお手並み拝見と行こうか!」
早速エリオットから先制攻撃がきおった。
わしに向けて叩き込まれたのは、顔面を狙った純粋な運動エネルギー。匂いもなく、姿もないが、風を切る音だけは聞こえるそれは透明な一撃じゃった。本来ならば躱すことも、迎え撃つこともできぬだろうものだ。
じゃが、わしとて魔術師アストリウスとしての前世があり、そして学院で多くのことを学んできたのじゃよ!
「ほい!」
わしはわしの顔面を狙ったエリオットの魔術に、同じように純粋な運動エネルギーをぶつける。それによってエリオットの攻撃は相殺され、空中でエネルギーがぶつかり合った激しい音が響いた。
「何……!?」
エリオットは自分の魔術が効果を成さなかったことに気づいて目を見開く。
「何かしたかのう、エリオット?」
相手を激情させれば、自然と隙は生まれる。言葉を使うことも戦いのうちじゃ。
「舐めたことを! まだ幼いゆえに命は奪うまいと思ったが、それも改めなければならないな!」
エリオットはそう言ってさらに運動エネルギーをわしに叩き込んできた。今度は顔面を狙う一発ではなく、四方八方から同時に複数じゃ!
「ほうほう! じゃがのう、そちらこそわしを舐めぬことじゃ!」
わしは前方から向かってくる攻撃を弾き、さらに背後や側面からの攻撃にも同様に運動エネルギーをぶつけて、一斉に迎撃していく。それによってエリオットが勝利を確信して放った攻撃が次々に無力化されていったわ。
全てに攻撃が失敗に終わり、エリオットは信じられないという顔をしていた。
「嘘だろう!?」
「な、何が起きたんだ……?」
ギャラリーもわしとエリオットの戦いにざわついておる。
「おやおやおや? まーるでさっぱり効果がないのう、エリオット?」
わしは唖然とするエリオットをからかうように、意地悪な笑みを浮かべて言う。
「何をしている、貴様……!?」
「まだ異界魔術は使っておらぬよ。そうする必要すらないかもしれぬな」
「クソ……!」
エリオットは酷く苛立った表情をしておる。この調子ならば、そろそろ仕掛けてくるじゃろうか。わしはエリオットが防御を完全に捨てて、攻撃に出るのを待っておった。
「それならば覚悟してもろうか!」
それからエリオットが魔術で
つまり、ついにチャンスが来たのだ。
「食らえ────ッ!」
わしの周囲に無数かつ強力な運動エネルギーが生じ、それが襲い掛かってくる。
じゃが、わしはこれを待っておったのじゃよ!
「反射」
数ある異界の中のひとつにはあらゆる運動エネルギーのベクトルを正反対の方向に修正する法則がある。わしはその異界の法則を
となると、どうなるのか?
「なあ……っ!?」
エリオットが放った運動エネルギーの向きは正反対の方向を向き、その運動エネルギーを放ったエリオットへと向く。あやつがわしに向けて放った攻撃がそのままあやつに叩き込まれるのじゃ。
次の瞬間、エリオットは自分の攻撃をまともに食らって、ぼこぼこにされると意識を失って地面に崩れ落ちた。
「勝負あり」
一瞬だけ場が静まり返ったあとにアイザックがそう宣言。
「おおおおっ!」
「す、凄い! 幼女の方が勝ったぞ!?」
「どうなったんだ!?」
遅れてギャラリーがざわめき、喝采とともに困惑の声が聞こえる。
「ア、アレクサンダー教授!」
倒れているエリオットに研究室の学生たちが駆けよる。
「非血統魔術師が……血統魔術師の教員を倒した……」
ここに集まったギャラリーの中でも非血統魔術師たちは、わしと倒れたエリオットを衝撃の表情で眺めておった。
これまで生まれながらにして優れているとされた血統魔術師が、非血統魔術師の、それもわしのような子供に倒されたことに衝撃を受けている様子じゃ。
これで非血統魔術師が委縮せずに活躍し、非血統魔術師と血統魔術師というカテゴリーそのものがなくなるとよいのじゃがな。
「姉上!」
「おお、レオ坊。見たじゃろう。無事に勝ったぞ」
「ああ。やはり姉上は強い!」
レオ坊はわしに確かな笑顔を向けてそう言った。
「これでわしらの実力は示せたじゃろう。妙な噂もこれで終わりじゃ。これからは堂々としておろうではないか」
「そうだな、姉上。姉上は連中に実力を見せつけた。これを認めない人間はいないだろう。いたとしたら次は私が相手になってやる」
レオ坊は血気盛んじゃが、もう決闘はなしにしたい。
これで問題がちゃんと解決してくれるとよいのじゃがのう。
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