古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──魔女//襲撃
エルダーグローブ学院の正門にふたりの人物が姿を見せたのは、アリスとエリオットが面会室で話をしていた最中のことだった。
ひとりは黒いトレンチコーチの下に灰色のワンピースを着た若くて、長い黒髪を有する女性だが、その両目に革の眼帯をしていて盲目だと思われた。
もうひとりは海軍の水兵が纏うセーラー服の上から黒いローブを纏った女性で、先ほどの女性とは対照的にショートボブの黒髪をし、やや小柄であった。
「ノクシアがあたしたちに助けを求めるとはね。意外じゃあないか」
「そうでもあるまい、ヴァルザリア。ノクシアは臆病で慎重な女だ。橋を叩いて壊したあとに別の橋を自分で作って渡るほどのな」
「そうかもね、オルテシア」
眼帯の女性はヴァルザリアと呼ばれ、水兵服の女性はオルテシアと呼ばれた。
「ま、ちゃちゃっと済ませてしまおう。あたしは予定地点に向かう。そっちはこの学院とやらの封鎖を」
「ああ。予定通りにな」
ヴァルザリアの言葉にオルテシアが頷き、正門に向けて進む。
「ん?」
そこで学院の警備員がその不審なふたりに気づいた。
「君たち、ここの学生かね? 学生証を見せなさい」
警備員が制止するのに、オルテシアがヴァルザリアの方を見る。
「やってしまえ」
「オーケー。じゃあ、始めますか」
ヴァルザリアはどこからともなく指揮棒を取り出すと、その先端を警備員の胸に向けた。次の瞬間、赤い光線がその先端から放たれ、警備員の胸を貫いた。警備員の胸にぽっかりと穴が開き、血が滴り落ちる。
「あ、あが……」
そのまま警備員は胸を押さえ口から気泡の混じった血を吐き、地面に倒れた。
「さあ、パーティの時間だ」
ふたりの魔女が不気味に笑う中、警備員の死体を見た学生が悲鳴を上げる。
* * * *
「悲鳴……?」
わしは聞こえてきた悲鳴に疑問符を浮かべ、レオ坊も困惑した様子だった。
「何か嫌な予感がする、姉上。様子を見てくるから待っていてくれ」
「わしもいくよ、レオ坊。ひとりでは何かあったときに大変じゃ」
レオ坊が様子を見に行くのにわしも同行する。
わしらがおる学生寮の中央棟は悲鳴が聞こえたせいか、不用意に外に出ずに中に留まっている学生たちが大勢いた。彼らは心配そうに窓の外を見ておる。
「マヤ! 何があったんだ?」
と、ここでマヤに中央棟の入り口で出会った。レオ坊が声をかけるのにマヤも不安そうに外の様子を見ているが、ライリーの姿が見当たらぬ。
「分からないよ。ライリーが様子を見に行ったんだけど、戻ってこないし……」
「ライリーが?」
マヤがそう答えるのにわしとレオ坊は外の様子を見る。外には何もないように見えるが、何か妙な感触がする。この感触は何じゃ……?
「おーい!」
そこでライリーが寮の方に駆けてきた。教職員らしき男性も一緒じゃ。
「ライリー! 何があったの!?」
「外に出るな! 絶対に外に出るな! 危ない──」
そこで赤い光線が飛来して教職員の頭が爆ぜ、そのままライリーの左足の太ももが貫かれた。鮮血が舞うのをわしらは茫然として眺めておったが、一番に対応したのはわしじゃった。
「マヤ、レオ坊! 中に逃げよ! 狙撃じゃ!」
さっきの妙な感触は
「あれは……!」
見れば上空に何羽もカラスが飛んでおるが、あれはこの世界の生き物ではない。異界のものがこの世界の
これは異界魔術じゃ!
「クソ……! いってええええ……!」
「今行くから待っておれ、ライリー!」
わしはライリーを励ましながら、上空のカラスの群れを睨む。
わしの時代も、今の時代も魔術において変わらぬことがある。
それは
古代帝国時代にわしは魔術で帝国中央と地方を結ぶ通信網ができないかと歴代の皇帝たちに頼まれたが、わしは残念ながらそれを果たすことはできなかった。自分の視界から遠く離れた場所の
この時代においても、その点で技術が発達したとは聞いておらぬ。
それゆえに先ほどの狙撃は妙であった。術者が近くにいないのじゃからな。間違いなく有視界距離の外から術者は教員とライリーを狙撃したのじゃ。
だが、その謎はもう解けておる。
「それ!」
わしは一般魔術で
「ライリー! 伏せておれよ!」
「姉上!?」
それからわしはライリーに向けて駆けた。
空から煙を貫いていくつもの光線が降り注ぐが、狙いは定まっておらぬし、威力は明らかに低下しておる。
「やはりのう。あのカラスを使って視界を確保しておるの!」
狙撃の仕組みは術者が
異界の生き物の視界を借りるのは簡単ではないが、
今はカラスたちの視界はわしが発生させた煙によって塞がれておるので、狙撃手がわしらを狙うことは不可能じゃ。
だから、今のうちにライリーを救出するのじゃあ!
「ライリー! 無事かの!」
「大丈夫とは言い難いぜ……!」
ライリーの顔は出血のせいか青ざめ始めておる。不味いのじゃ……!
「今、建物の中に運ぶからの! しっかりするのじゃ!」
わしはライリーを抱えようとして自分が幼女なことに気づいた。成人男性は幼女の体には重いのじゃあ……!
「姉上! ライリーは私が運ぶから援護を!」
「おお、レオ坊! 頼むぞ!」
ここでレオ坊がライリーを抱え、引きずるようにして学生寮に戻っていく。わしは煙を発生させ続け、狙撃を防ぎながら駆ける。
「不味い!」
しかし、そこでカラスの群れから1羽のカラスが煙を破って急降下してきおった! 異界のカラスの眼はいくつもの眼球が集まったのような形をしており、それの瞳にわしらの姿が映ってしまう。
「レオ坊! 振り返らずに走れえっ!」
わしはそう叫び、狙撃に備える。
やはりわしが予想した通りじゃった。
その光線の正体が分からぬ以上、エリオットとの決闘のように撃ち消すのは難しい。じゃが、わしはひとつの駆けに出た。
「鏡よ!」
わしは一般魔術で巨大な鏡を生み出し、わしと赤い光線の間を瞬時に遮った。光線は鏡に命中すると反射され、カラスに向けて飛んでいった。カラスは光線に貫かれ、この世のものとは思えぬ鳴き声を上げると消滅していく。
「姉上! 早く!」
「レオ坊! 皆を中に避難させよ! 早く!」
わしはそう叫んで学生寮の中に飛び込む。
「ライリー! しっかりして! 今、止血するから!」
「ああ、マヤ。お前が天使に見えるぜ……」
「冗談言ってないで、しっかりしてて!」
学生寮の中に運び込まれたライリーはマヤたちの手当てを受けており、急いで太ももの傷からの止血が行われていた。
「幸い、大きな血管は逸れたようだな。早く病院に運べば助かるはずだ」
「マジで死ぬかと思った……」
レオ坊も止血しながらそう言い、ライリーはそう言って安堵の息を吐く。
しかし、そこで学生寮の電気が点滅すると、灯りが消えてしまった。
「で、電話がつながらなくなったぞ!?」
外部との連絡手段である電話も内線、外線ともに不通となる。
「不味いのう。敵は長期戦を挑むつもりじゃぞ……」
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