古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──魔女//カウンタースナイプ
ヴァルザリアは異界のカラスの視界で、アリスが狙撃されたのを確認した。確かに発生させた赤い光線はアリスの胸を貫き、アリスは崩れ落ちた。
「よし。まずは目標をひとつ排除だ」
ヴァルザリアはぐっと拳を握って笑みを浮かべた。
「オルテシア。幼女の方を仕留めたよ。そっちは?」
『目標Bはそちらに向かっている。足止めをしているが、なかなかに手ごわい』
「了解。こっちで片付けてしまおう」
時計塔に向かっているレオを捕捉しようとヴァルザリアはカラスたちの視界を共有する。何百という映像を同時に処理しながら、ヴァルザリアはレオの姿を探した。
「みぃーつけた」
そして、ヴァルザリアはレオの姿を捕えた。彼は建物から建物へ移動しているところであり、ヴァルザリアの
「じゃあね、天才少年────」
しかし、彼女が目標を完全にレオに定めたとき、強力な運動エネルギーがヴァルザリアの腹部に叩き込まれ、彼女はかはっと血を吐くと時計塔の天辺から転がり落ちる。
「何が……!?」
ヴァルザリアが落下の衝撃を押さえるために衝突の寸前に辛うじて反重力を発生させたが、さらに運動エネルギーが四方八方から叩き込まれた。それによってヴァルザリアは反重力すらも押し切られて地面に叩きつけられた。
「ぐうっ……! どうやってあたしを見つけた……っ!」
痛みを感じながらもヴァルザリアは冷静だった。彼女はどこかに自分を狙った魔術師がいると周囲を探る。
しかし、周囲には魔術師はおろか人間すらいない。
ヴァルザリアに見えるのは彼女が使役しているカラスの群れだけだ。
「まさか……!?」
ヴァルザリアの眼球が粘着質な音を立てて蠢く。
ヴァルザリアがそうやって全てのカラスの映像を確認する中で、その中の1体が向く必要のないヴァルザリアの方向を向いていることに彼女は気づいた。
「クソ野郎……! あたしの
そう、相手はヴァルザリアの
ヴァルザリアからカラスは見えてなけれならないということは、カラスからもヴァルザリアが絶対に見えるということ。それを利用されたのだ。
「こういうことができるのはあいつしかいない!」
ヴァルザリアは自分の方を向いているカラスの群れの中から1体のカラスの視野を共有して、カラスが見下ろす地上を学生寮に向けて視線を走らせた。
「畜生め。どういう手品を使いやがった……!」
学生寮のエントランス前には怪我ひとつなく、無事なアリスが映っており、彼女はカラスを見上げていた。
そのアリスはとても悲しそうな表情をしていた。まるでヴァルザリアに同情しているかのような表情であった。
「今度こそ死ね、クソ────」
しかし、ヴァルザリアがアリスに向けて狙撃を実行する前に極めて小さい範囲に限定されながらも強力な運動エネルギーが彼女の複数の眼球が蠢く目に向けて放たれた。それはあたかも撃ちだされた銃弾のように作用し、ヴァルザリアの右目と脳を貫いた。
「ああ────……」
それによってヴァルザリアは右目から涙のように血を流しながら、地面に崩れ落ち、そのまま息絶えた。
“倦怠”のヴァルザリア、死亡。
* * * *
「残念じゃが、殺すしかなかったようじゃ……」
わしは消えていくカラスが最後に送ってきた映像で敵が倒れたのを見た。
このカラクリはシンプルじゃ。
わしは霧が
それは以前、トーランド教授にも見せた光の屈折に作用する魔術じゃ。
わしは屋上から離れ、屋上にはわしの虚像だけが残された。あのとき敵が狙撃したのは、その虚像じゃったのだ。
わしを倒したと思い、こちらへの注意がそれた敵から
「終わったの……?」
マヤが学生寮の中からそう心配そうに尋ねてくる。
「ああ。終わったぞ、マヤ。あとはレオ坊たちが戻ってくれば……」
そこでわしは違和感を覚えた。
そもそも襲撃者の目的はなんじゃったのじゃ? 敵は何を成し遂げれば、この襲撃を成功としてたのじゃろうか?
「じゃあ、ライリーを病院に運ぼう。急がないと……!」
「待て、マヤ。何か嫌な予感がする。もうしばらく警戒しておれ。わしはレオ坊とエリオットに合流してくる」
わしはそう言って学生寮から駆けだした。
* * * *
オルテシアはヴァルザリアからの連絡が途絶えたことを把握していた。
「残念だ、ヴァルザリア。まさかお前から死んでしまうとは。死ぬならば私からだとずっと思っていたのにな……」
そのことからヴァルザリアの死を認識したオルテシアが悲しげに首を横に振る。
「ノクシア。ヴァルザリアが死んだ。どうする? 作戦を続行するか?」
それからオルテシアは別のカラスにそう尋ねた。
『撤退、撤退。後はこちらで行う』
「分かった。絶対にヴァルザリアの仇を取ってくれ。それから──」
オルテシアが呟くように言う。
「ヴァルザリアの墓にはどうかワスレナグサの花を添えてやってほしい。あいつに私から最後に贈るものだ」
ワスレナグサの花言葉──真実の愛、どうか私を忘れないで。
* * * *
レオが時計塔に到達したときには、既にヴァルザリアは死んでいた。
「これが襲撃者……」
レオは時計塔に下で崩れ落ちているヴァルザリアの死体に慎重に近づく。
「これは……!」
そして、レオは見た。ヴァルザリアの無数の眼球がひしめく、不気味な目を。
「まさか人間ではなかったのか……?」
レオもこんな人間が存在するはずがないと思っていた。いくら奇形や突然変異があったとしても、ここまでのものは存在しないはずだと。
「レオ!」
「アレクサンダー教授」
そこでエリオットもレオに合流した。
「ゴーレムはどうなりました?」
「消えた。敵は撤退したか、死んだのだろう」
「この死体と関係あると思いますか?」
「これは……」
エリオットもヴァルザリアの死体を見て、思わず口を押えて呻いた。ヴァルザリアのその異形さはエリオットも初めて見るようなものであったのだ。
「これは人間か? 何かしらの魔術の影響を受けているのか……?」
「魔術なら死亡したあともそのままなのはおかしい」
「確かに。術者が死亡すれば
そう術者が死んでいれば、魔術は当然無効となる。それが継続しているという意味で考えられる可能性は少ない。
「術者がまだ生きているか、これは魔術ではないか、だ」
「ああ。まだ油断できない」
エリオットとレオは同じ結論に至り、周囲を警戒する。
「ア、アレクサンダー教授-!」
そこでひとりの女子学生がエリオットの方に駆けてきた。
「何をしている、ジェシカ! ここは危険だ!」
「た、助けてください! 敵に追われているんですー!」
「何っ!?」
エリオットはジェシカの背後を見ると、確かにそこには先ほどのゴーレムがいた。両手剣を握ったゴーレムがジェシカを追いかけている。
「クソ。戦闘続行だ」
エリオットはそう言って身構える。
「教授、何をしている! あれは……」
しかし、レオの眼にはゴーレムは映っておらず、そこに映っているのは姉であるアリスだった。
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