古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──飛躍の年//皇太子
わしらが騎士の爵位を得た翌日のこと。
学生寮から学院にいつものように通い、そのままトーランド教授の研究室に顔を出すとグレイスが飛び出してきた!
「おわあっ! ど、どうしたのじゃ、グレイス?」
「アリスさん! 騎士爵の授与、おめでとうございます! それはそうとしてさらに重要なお話が来ていますよ!」
グレイスがそう言って中に入るように促す。
「重要な話とは何かの?」
「何とですね。エスタシア帝国のアルブレヒト皇太子殿下がアリスさんたちに会いに来られるそうなのです!」
「エスタシア帝国の……?」
エスタシア帝国はアルビオン連合王国があるグレート・アルビオン島と大陸海峡を挟んだ向かい側にある大国じゃったはずだ。
しかし、わしはそのエスタシア帝国と接点がまるでないのじゃが……?
「それはどういうわけじゃろうか?」
「それはですね。アルブレヒト殿下が世界魔術連盟の理事長だからです!」
「世界魔術連盟?」
むう。初めて聞く単語ばかりで疑問ばかりが頭に浮かんでしまうのじゃ。
「世界魔術連盟は魔術の振興と探求を目的とした国際機関です。世界中の優秀な魔術師に投資をし、研究を援助しているとても凄い組織なのですよ!」
「ほお。そういう組織もあったのじゃな」
わしはてっきり魔術は世界の片隅に追いやられているかと思っていたが、思ったよりずっと魔術は重要視されておるようじゃわい。何せ皇太子という方が理事長をやっているのだからのう。
「グレイス。君の説明は十分ではないよ」
「アイザック。ま、まあ、そうですけど……」
と、ここでアイザックが渋い顔をして話に加わってきた。
「世界魔術連盟は国際機関を標榜しているが、実際はそこまで活動実績がない。アルブレヒト殿下が理事長に就任するまでは、その活動はほとんどエスタシア帝国内に留まっている組織であった」
「なんと」
やはりそうなのじゃな……。魔術が衰退しておるのにそこまで大きな組織が存在し得るはずがないのじゃから……。
「と、とは言え、アルブレヒト殿下が就任してからはエスタシア皇室も支援するようになって、その活動は大きくなっているですよ! 本当ですよ!」
「そうなのかのう。それで、アルブレヒト殿下はどういう用事でわしらに?」
「それは分かりません!」
「なんじゃそれは」
グレイスが堂々と言い切るのにわしはがっくりと肩を落とした。
「恐らくこの前の学院襲撃事件を解決したという話を聞いたのだろう。殿下はグレイスが言ったように優秀な魔術師に援助をしている。君たちにもその話を持ち掛けに来たのかもしれないね」
「おおー! それはいいのう!」
援助はいくらあっても困らぬ。今の衰退した魔術を再興するためには、莫大な援助が必要になるじゃろうからな!
「では、いつアルブレヒト殿下はいらっしゃるのじゃ?」
「明日という話でしたよ。この研究室にいらっしゃるそうです」
「それならばちゃんとした服装にしておかねばのう」
まあ、そうはいってもわしは未だに幼女じゃからタキシードに騎士の勲章を輝かせることはできぬのじゃが……。
* * * *
予告のあったアルブレヒト殿下がいらっしゃる日になった。
わしはアルビオン宮殿でも着ていたフォーマルなドレス姿で、レオ坊と一緒にトーランド教授の研究室にてアルブレヒト殿下を待つ。
「ん?」
わしらが殿下を待っているとだだだっという人間の駆ける足音が聞こえてきた。これは殿下とは関係ないじゃろうと思っていたのだが……。
「やあ、諸君! 誰がアリス・カニンガムとレオ・カニンガムかな!?」
がらがらっと研究室の扉を開いて飛び込んできたのは、金髪の美丈夫であった。
女性と間違いそうなほどに整った顔立ちに、金髪を背に伸ばした青い瞳の若者じゃ。体には軍服らしいフィールドグレーの服を纏い、その胸や襟元にたくさんの勲章を輝かせておった。
「ようこそ、アルブレヒト殿下」
トーランド教授はそう言ってその若者を出迎えた。
なんと! このいかにも落ち着きのなさそうな若者がアルブレヒト殿下なのか!
「うむうむ! 出迎えご苦労、ザッカリー・トーランド教授! それで、それで、アリス君とレオ君はどこかね?」
「こちらの2名になります。アリス、レオ。こちらがエスタシア帝国皇太子であらせられるアルブレヒト殿下です」
そして、アルブレヒトの青い瞳がわしとレオ坊を見る。
「おおー! 聞いていたが本当に若いな! 君たちがこの学院を救った英雄なのだな! いやはや話はいとこから聞いているぞ! 新聞でも何度も読んだ! 素晴らしい活躍だったと把握している!」
そう言ってハイテンションなままアルブレヒト殿下はわしらに手を差し出した。
「この度はお会いできて光栄ですじゃ」
「こちらこそ!」
アルブレヒト殿下は始終にこにこでわしとレオ坊と握手をしておった。
「君たちは異界魔術が使えるそうだね?」
そして、不意に真剣な表情をしてアルブレヒト殿下がそう尋ねてくる。いきなりの切り替わりにわしは驚きながらも答える。
「ええ。使えるのじゃ。そう難しいことではないですぞ」
「ふむふむ。しかし、異界魔術はその継承が途絶えたというのが、今の魔術界の公式な学説となっている。君たちはどうやって異界魔術の存在を知り、さらにはそれを使えるようになったというのだろうか?」
「気になりますかな?」
「大いに。というのもだ。私が理事長を務める世界魔術連盟は今まさに異界魔術に関わる発掘作業と研究を進めていたのだからね。その手掛かりになるかもしれないものは、何であろうと手に入れたい」
そういってアルブレヒト殿下はずいっとわしの方に迫る。
「それはですの、殿下。わしが古代帝国の魔術師アストリウスの生まれ変わりだからですじゃ!」
ここでじゃーんという感じにわしがそう宣言した。
……が、場が静まり返っておる。
トーランド教授も、グレイスも、アイザックもどこかいたたまれない表情をしているような気がするのじゃが……?
「それはアルビオンで流行りのジョークというものかね?」
至って真顔でアルブレヒト殿下がわしにそう尋ねる。
「いやいや。わしは確かにアストリウスの生まれ変わりなのじゃよ!」
「ふむふむ! そうだったのだな! 素晴らしいぞ、アリス君! 私も常々自分はきっと偉大なるフリードリヒ大王の生まれ変わりだと思っていたからな! そういう点ではまさに同志ではないか!」
はははっとアルブレヒト殿下が笑う。
これは信じてもらえたのじゃろうか? それとも本当に冗談だと思われとるのか?
「それでは君たちとはじっくり話がしたいな。今日の夕食を一緒にしないかね? そうしよう! では、私はホテル・ロイヤルオークに宿泊しているから、夕方に会いに来たまえ! では、失礼するよ!」
わはははっと笑ってアルブレヒト殿下は勝手にそう約束を言い渡して、わしらの研究室から立ち去っていった。
「嵐のような方じゃったのう……」
わしは思わずそう呟く。
「アリスさん! どうしてここでアストリウスの生まれ変わりなんていう面白くない冗談言っちゃうんですか!?」
「そうだぞ、アリス。今のはそういう場ではなかっただろう?」
と、アルブレヒト殿下が立ち去った途端、グレイスとアイザックに責められた。
「し、しかし、わしは本当にアストリウスの生まれ変わりなのじゃあ……」
「姉上……。今はその話はよそう……」
「レオ坊までー!」
わしが魔術師アストリウスとしての前世があることをレオ坊以外に信じてもらえん……。悲しいのじゃあ……。
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