古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──子供時代//元偉大なる魔術師、ロンディニウムの繁栄を見る
父上の商談が終わったのは、わしらがホテルに着いてから3時間後のことだった。
「待たせたね、アリス、レオ。じゃあ、遊びに行こうか」
「わーい!」
父上が戻ってきたのに街を眺めるのにも飽きていたレオ坊は大喜びじゃ。
「父上。どこに遊びに行くのかの?」
「観光名所を軽く見て回ろう。国会議事堂やソーンミンスター寺院、アルビオン宮殿、テムズホルム塔なんかをね。どうだい?」
「了解じゃ!」
観光をしながらこの国の首都について知識を深めるチャンスじゃ。しっかりとものにせねばならぬの。
わしらは立派なホテルを出ると、まずは国会議事堂という施設に向かった。
その国会議事堂は高い時計塔がそびえる脇にあり、派手ではないものの荘厳な作りの建物じゃった。
「のう、父上。国会議事堂とは何をする場所なのじゃ?」
「この国では選挙で選ばれた議員によって作られた議会と内閣が、国王陛下の名において政治を行うんだ。国会議事堂は、その議員たちが集まって話し合いをしたり、新しい法律を作ったりする場所だよ」
「? 国王陛下は政治はせぬのか?」
「今はしないよ。国王陛下が直接政治をやっていた時代は終わったんだ。今は国民が議員を選び、政治は民意に従って行われるんだ」
な、なんということじゃ。この国では国王というものがお飾りになっておるのか!
これは古代帝国時代の元老院とも違うようじゃのう。元老院は皇帝を罷免する権利などを有しておったが、それでも皇帝から全ての力を奪いはしなかった。
わしは共和制について歴史でしか知らぬ。だが、共和制時代には多くの問題があり、結果としてより優れた体制である皇帝による政治、すわなち帝政が確立されたことは知っておる。
しかし、今度はその君主による政治が否定され、あたかも共和制に近い形に戻っておるとは。まさか歴史とはループしておるのかの? 実に興味深い話じゃ。
「凄く大きな時計だよ、姉上!」
「そうじゃのう。あれだけ大きな時計ならば、皆も時間をはっきりと分かるじゃろう」
わしは転生して間近なときには時計というものにも驚いておった。
昔は時間は太陽の傾き具合で知るしかなかったが、この時代には大まかな時間どころこか、分単位、秒単位で時間を示す時計なるものがあるのだ。
わしの父上も立派な金の懐中時計を持っており、わしもあのような時計がほしいと実に羨んだものじゃ。
それからわしらは次の観光地へと向かった。
「これはソーンミンスター寺院。国王陛下はここで戴冠されるんだよ」
歴史書で読んだから知っておるが、ここはこの国の信仰の中心地じゃ。
神を信仰するということは、わしの前世の時代でも、この時代でも変わっておらぬようだ。どれだけ世界が発展しようとも、信仰という心のよりどころを人々は必要としておるというわけじゃ。
「中を見学していくかい?」
「うん!」
レオ坊は見るもの全てが真新しく映るのであろう。ずっと喜んでおる。
「しかし、昔とは違って……」
わしはソーンミンスター寺院の中に入って周りを見渡し、昔との違いに気づいた。ここには神を模った像がないのじゃ。あるのは聖人の像とシンボルだけで、昔の寺院と違ってシンプルになっておる。
「父上、父上。国王陛下が座る椅子はどこにあるの?」
「椅子は戴冠式のときにしか出さないんだよ。いつかレオも戴冠式を見ることはあるだろうから、楽しみにしておきなさい」
「はーい!」
わしらがここで新しい国王の戴冠式を見るときには、わしもそれなりに大きくなっておきたいのう。ちんまいままでは困るのう。本当に困るのう……。
それからソーンミンスター寺院を出ると、次は国王陛下が暮らしておられるアルビオン宮殿に向かった。
「あれがお城?」
「そうだよ、レオ。衛兵さんがいるだろう?」
「本当だ!」
アルビオン宮殿は近衛兵によって警備されておった。
今の軍人は昔の軍人とは全然違う格好をしておる。軍服は昔より華々しく、そして手に握っているのは剣ではなく、銃と言う武器だ。
この銃と言う武器もまた科学の発展が生んだものじゃ。しかしながら、それは人々の暮らしのためというよりも、争いごとと戦争のためであり、突き詰めれば効率のいい殺戮のためである。
わしは前世のときから魔術は平和のために使いたいと思っておった。もし、争いごとになったとしても、相手を攻撃はしてもその命までは奪うことのないようにと心がけたものじゃ。
皆はわしのその姿勢だけは『弱腰』だとか『臆病』だと言って評価しなかったが、わしは今でも殺すために魔術は使いたくないと思っておるよ。
わしは魔術はきらきらとしていて、人々が希望にできるものにしておきたいのじゃ。
「次はテムズホルム塔だ。見えるかい?」
「おお。立派な城塞じゃのう」
これまでの壮麗な建物と違って、テムズホルム塔なる城塞は堅牢さを誇示している、古兵のような建物であった。
「あそこには昔処刑された人の幽霊が出るって噂なんだよ」
「ええ! お化けがでるの……?」
「悪い子のところにもお化けが来るかもしれないね」
父上がそう言って脅かすものだから、レオ坊がわしの手をしっかり握ってきた。
しかし、幽霊とな。わしの前世でも幽霊の話はあったものの、わしも実際に幽霊をみたことはない。幽霊というものがいるのかどうかは、未だに謎である。
しかしながら、幽霊に関係するような魔術は存在する。死霊術じゃ。
これはなかなかに後ろめたい魔術での。死者を自在に操るという謳い文句の代物なのじゃが、それは魂の抜けた肉の塊としての死体を動かすものなのである。つまり、死者を蘇らせるものではない。
死者の復活は今も不可能なことじゃと知っておる。医学は大きく進歩したが、人間の死をのものを覆すことは決してできぬのだと。
「さて、ロンディニウムは楽しめたかい?」
「楽しかった! また来たい!」
「それはよかった。また用事があったら来ようね」
レオ坊は大喜びで、わしも満足しておった。
それからわしらはまた鉄道に乗って、オールデンウィック領へ、自宅へと戻る。鉄道の揺れが心地よく、ロンディニウムを歩き回ったおかげで程よく疲れたわしは、鉄道の中で眠ってしまった。
「アリス、レオ。着いたよ。うちに戻ってきた」
気づけばわしとレオは父上に抱えられて自宅に戻っていた。
「お出かけは楽しかった?」
母上がわしらを迎えに来てそう尋ねる。
「うむ。とても楽しかったのじゃ、母上。わしはさらにこの世界について知ることができた! 見識が深まったの!」
「そう。それはよかったわ。夕食にするから手を洗ってらっしゃい」
「はい!」
わしとレオ坊は手を洗って夕食の席に着き、ロンディニウムで経験したこと母上にも話して聞かせた。
「まあ。じゃあ、グレイスさんと言う方にエルダーグローブ学院に誘われたの?」
「そうじゃ。しかし、わしらはそうそう首都の学院には通えぬから、グレイスには諦めてもらうしかないじゃろう」
「けど、魔術をちゃんとした先生に見てもらえるならお母さんとしては安心できるわ。グレイスさんに誰か家庭教師として家に来てくれる魔術師の方を紹介してもらえないか、頼んでみたらどうかしら?」
母上はそう言って父上の方を見る。
「そうだね。連絡先は交換しているから、あとで連絡してみるよ」
父上はそう請け負ってくださった。
「レオ坊。魔術の先生が来てくださるかもしれぬぞ」
「ぼくの先生は姉上だよ」
レオ坊はちょっと不満そうじゃった。
* * * *
それから数日後。
グレイスに連絡をした父上が言うには魔術の先生をしてくれる家庭教師が、今日うちに来てくれるそうじゃ。楽しみじゃのう!
おっと。噂をしておったら玄関の鐘がなったぞ。
「こんにちは!」
……って、やってきたのはグレイスではないか!?
「今日からアリスさんとレオさんの家庭教師を務めるグレイスです! よろしくお願いします!」
なんと! グレイスが家庭教師に……?
「グレイス。おぬしはエルダーグローブ学院の講師じゃったのでは……?」
わしは心配になってそう尋ねる。
「ああ。それは辞めてきました!」
実にあっさりとグレイスはそう言ったのだった。
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