古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──アストリウス・アカデミー//挨拶と襲撃
「アルブレヒト殿下。この度はわざわざありがとうございますですじゃ」
わしらが次に挨拶したのはよく知った顔。アルブレヒト殿下じゃ。
「いやはや! ついにアストリウス・アカデミーが設立されるときがきたのだな! 私はこの日をずっと待っていたよ!」
「ええ。わしも楽しみにしておりました」
アルブレヒト殿下はテンションも高くそうおっしゃる。
「君も名誉学部長に就任すると聞いた。伝説の魔術師が学部長を務める教育機関。いまから志願者が殺到しそうな気がしてきたね!」
「そうなるとよいのですがのう。まだまだ分からぬところがあります」
「心配せずとも私が全面的に支援する。エスタシアからの留学生なども推奨するつもりなので、備えておいてくれたまえ!」
「はいですじゃ」
「しかし、問題がひとつある」
そこでアルブレヒト殿下が険しい表情をなされた。
「魔女学会だ。ザリオン氏のいうことを信じるならば、魔女学会は魔術の発展を阻止しようとした君の弟子ルナフィーナによって組織されている」
「……そうですの」
「君を責めているわけではない。ただ、こうして再びアストリウスの名を冠し、魔術の再興を目指そうという教育・研究機関が生まれたのに、彼女たちが何かしらの行動に出るのではないかと危惧しているのだ」
「確かに危険性はありますのう……」
「その点はエスタシアの国家憲兵隊とアルビオンの警察が協力して捜査を進めているが、何かあればまた君たちを頼るかもしれない。今のところ、魔女と正面から戦って勝利したのは君たちだけだからな……」
「お任せくださいじゃ」
アルブレヒト殿下の危惧にわしはそう請け負った。
それからわしらはさらに挨拶をして回る。
「アリス。私の父を紹介させてほしい」
「もちろんお願いするのじゃ」
アイザックが紹介するのは彼の父であるウィリアム閣下じゃ。
「初めまして、アリスさん。それともアストリウスさんと呼んだ方が?」
「アリス出構いませぬじゃ。今は間違いなくアリスなのですからの」
「それではアリスさんと呼ばせてもらうよ」
そう言ってウィリアム閣下は微笑んだ。
「しかし、息子と同じ研究室にかの名高いアストリウス師の転生した人間がいるとは驚かされた。息子にとっても私にとってもとても名誉なことだ」
「そう言っていただけると嬉しいですのじゃ」
ウィリアム閣下はそう上機嫌に語られる。
「私には魔術の才能はなかったので分からないのだが、これから魔術がかつて昔話で語られたような勢いを取り戻すことはあるのじゃろうか?」
「きっとありますじゃ。少なくともそれがわしの夢であります」
「そうか。では、私もそれを信じて、魔術の未来に投資することにしよう」
確かウィリアム閣下は大富豪じゃったな。そんな方が魔術に投資してくださるのならば何よりじゃよ!
わしはそれから暫くウィリアム閣下にアストリウス・アカデミーの紹介をしたのちに次の人物に挨拶に向かった。
「エリオット! よく来てくれたの!」
次にわしが声をかけたのはエリオットじゃ。
「ああ。アルブレヒト殿下からどうしてもと言われてね」
「そうなのかの? ところで、古図書館で発掘された資料の調査は進んでおるかの?」
「ああ。貴重な資料ばかりで緊張している。もし、損ねたりすれば歴史的な損失になってしまう」
「そうじゃのう。あれらは貴重な古代帝国時代の資料じゃ。それにザリオンが守ろうとしたものでもある」
古図書館にザリオンが残した資料は貴重なものばかりじゃ。あれが解読できれば、古代帝国時代の魔術は環境に影響される精霊魔術を除けば取り戻せるかもしれぬ。
「ところで、エリオット。おぬしは学院に戻る気はないのかの?」
「今さらだ。自分のやったことを考えれば学院に戻ろうとは思わない。それに世界魔術連盟での活動にもやりがいを感じている。問題はないんだ」
「そうか……」
エリオットは小さく笑い、わしはそれ以上追及しなかった。
わしらはそうやって挨拶を続け、パーティを楽しんでおった。
* * * *
ホテル・ロイヤルオークは皇太子アルブレヒトの他にも政府要人が出席していることから、厳重な警備が敷かれていた。
動員された警察がホテルの周囲で警戒に当たり、重武装の警官隊が控えていた。
そんなロイヤルオークに近づく人影が。
「月がきれいな夜だ」
それはひとりの美しい女性で、燃えるような赤毛をポニーテイルにして纏め、その瞳の色は緑だ。そして女性的な魅力のある体にはパーティに出席するようなイブニングドレスと外套を羽織っていた。
そんな女性が楽しげな笑みを浮かべてロイヤルオークに近づく。
「止まれ!」
そんな女性を武装した警官が呼び止める。
「現在、ここは立ち入り制限をしている。身分証の提示を」
「ふむ? パーティには入れてくれないのかい?」
「身分証を出すんだ」
女性が首を傾げるのに警官が苛立ってそう促す。
「これがあたしの身分証だよ」
女性がにやりと笑った次の瞬間、警官が炎に包まれた。
悲鳴をあげてのたうつ警官を見下ろしたのちに女性はロイヤルオークに向けて進む。
「何だ! 今の悲鳴は!?」
そして、その悲鳴に応じて警官隊がやってくるのを見て女性は獰猛な笑みを浮かべた。肉食獣が得物を狙うような、そういう笑みだ。
「さあ、パーティだ。この“虚栄”のヴェルミアの楽しいファイアーショーでパーティを盛り上げて差し上げましょう。くくっ!」
“虚栄”のヴェルミアはそう言い、迫った警官たちを松明のように燃え上がらせた。夜のロンディニウムの街に悲鳴がこだまし、今や惨劇が開始された。
* * * *
わしらがパーティで挨拶をし終えて、懇談していたときじゃ。
パーティの主催者であるトーランド教授の下にホテルのスタッフと警備の警官がやってきて何事かを相談しているのが見えた。
「何じゃろうか……?」
わしは嫌な予感がして、トーランド教授に話を聞きに向かう。
「トーランド教授。何事ですかの?」
「……先ほど警備の警官隊が攻撃を受けたらしい。襲撃者は現在ホテルの前で食い止めているが、どうも魔女のようなのだ」
「魔女……! 魔女学会ですかの……?」
「分からないが、ここには政府の要人やアルブレヒト殿下のような外国の要人もいる。避難を始めるつもりだ」
「わしも協力しますぞ」
「ああ。最悪の場合、君たちの力が必要になるかもしれない」
わしの申し出にトーランド教授が頷く。
「まずは避難を急がせたい。裏口に警官隊が馬車を準備している。そこまで要人たちの警備を頼めるか?」
「しかし、敵は正面から来ておるのでは? わしとレオ坊のどちらかがエントランスの防衛についた方がいいように思えますのじゃ」
この中でもっとも戦闘における魔術に詳しいのはわしとレオ坊、そしてエリオットぐらいじゃろう。他は魔術の理論家か、あるいは魔術師でないかじゃ。
「ふむ。では、アリス。君に正面を守ってもらう。あくまで警官隊が突破された場合だが、守りを任せた。レオ、君は裏手に回ってくれ」
「了解ですじゃ!」
わしは正面に、レオ坊は裏手に回ること。
「姉上。くれぐれも気を付けて」
「レオ坊もな」
そして、わしらは動き出した。
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