古代の偉大なる魔術師、永遠のTS幼女になってしまう。 作:第616特別情報大隊
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──子供時代//教育と実践
グレイスは正式にわしらの教師になり、魔術の授業が始まった。
「炎を生み出す燃焼とは酸素という物質がくっつく化学反応である、と」
「その通りです。ここにいろいろと役に立ちそうな本を持ってきました。魔術の授業という割には科学の話が多いですが、これも必要なことです」
わしはグレイスが持ってきた『基礎化学』という本を読んでおった。
「姉上。これ、家庭教師の人に教えてもらったことだね」
「そうじゃのう」
わしとレオ坊はグレイス以外に幾人もの家庭教師に学問を教えられておる。文学についての授業もあれば、数学や化学と言った自然科学の授業もある。わしらもいつまでも無知な子供ではないというわけじゃ。
「ええ。これは他の学問で教わるものであり、魔術に限れば本格的にこれらの学問について理解する必要はないんです。ただ法則を覚えておいてほしいのです。
そこの魔術で上書きを行うと新しい光の法則が一時的に加わる。
その変化のパターンを見れば、逆算することで世界の理を法則として理解できる。そうグレイスは説明しておった。
「それからですが、アリスさんが直感で得た魔術というものについて、私にも教えてくれませんか? アリスさんはアストリウスの著書を読んだだけで、魔術を会得しています。その発想で生まれた魔術は私が知る魔術とは違うはずなのです」
「うむ。よいぞ。教えよう」
とはいっても、一般魔術はさほど変わったことはできない。恐らくわしの知っている一般魔術の多くはグレイスも知っておるはずだ。
なので、ここは──。
「異界魔術を披露して見せよう」
わしはそう宣言した。
異界魔術が一般魔術とことなるのは複数の点に由来する。
まず
そしてその効果と範囲。異界魔術は一般魔術より強力かつ広範囲に及ぶ
ただし、一般魔術が自らが望むものを直接出力するのに対して、異界魔術はあくまで異界の理を
だが、そこは術者の腕の見せ所。
「召喚武具!」
わしは異界魔術の中でも安全で、かつ強力なものを選んだ。異界に存在する武器の存在を、
「わああっ! 姉上、姉上! それは!?」
わしの手には一本の青く輝く剣が握られていた。
「これは異界の武器じゃ。異界に存在するものを
「どんな武器なの?」
「この剣は人を殺さず、打ち倒すことができる非殺傷武器じゃ。この刃で切られても痛みを感じても実際に肉体が切断されることはないのじゃよ」
「へええ!」
異界の道具を召喚するのは、異界魔術の使い方のひとつじゃ。異界にはこの世界では想像もできないようなものがあり、異界魔術ならばそれを呼び出せる。
「ま、ま、ま、まさかこの目で異界魔術を見るとは……! もう知識が断絶してから1000年以上経つと言うのに……! ああ、神よ! 感謝します!」
グレイスも大いに驚いてくれたようじゃな。
「やはり異界魔術は完全に失われておるのか?」
「ええ、ええ。最後に残された記録というのは、9世紀に残された『異界と現世』という本に記録されているだけで、それも不確かな記述しかなく、この時代に異界魔術は残されなかったのですよ」
「その著者は?」
「ハインリヒ・フォン・ローゼンフェルトという人物です。彼については謎が多く、残した著書もこの『異界と現世』の一作だけなので、研究対象としてはかなり難しいものになります」
「ふうむ」
わしは異界魔術はルナフィーナに伝承させるようにと託したのだが、彼女が残したものも戦乱に巻き込まれてしまっただろうか……。
「姉上。ぼくにもその剣を出す魔術を教えて!」
わしとグレイスがそんな話をしておるとレオ坊がそう頼み込んでくる。
「うむ。よいぞ。レオ坊もかなり魔術を使いこなせるようになったからの。ただし、ひとつ約束してほしいのじゃ」
「何?」
「わしのいないところでは、異界魔術は使ってはならぬよ。危険じゃからな。それが守れるならば、レオ坊にも教えよう」
「守る! 絶対守るよ、姉上!」
レオ坊はこれまで約束を破ったことはない。ちゃんと注意を聞く賢い子じゃ。
「では、教えるぞ。まずは一般魔術と同様に魔力を外に出すことを意識するのじゃ。それからわしが導くように魔力で門を作るのじゃ」
「門を……」
「そう、家の扉のようなものを意識すればよい。わしが導くようにやるのじゃぞ。別の場所に扉を作ろうとしてはならぬぞ」
異界魔術は一歩間違うと、求めてるものとは異なるものが引き出されてしまう。それが害のないものならばよいのじゃが、中には有害で危険な異界の存在もある。
「できそうか、レオ坊?」
「うん。できた。これで……!」
レオ坊は閉じていた目を開くと、その手にわしが持っていたのと同じ、青く輝く剣が握られた。剣はわしが呼び出したものよりも大きなものであった。
「できた! できたよ、姉上! ぼくも剣を手に入れた!」
「よかったのう、レオ坊。この門を作る感覚を反復して練習し、コツを覚えれば、いつでもその剣を呼び出せるぞ」
「ありがとう、姉上!」
レオ坊は剣を手にしてぶんぶんと振り、大喜びじゃ。レオ坊も男の子じゃからのう。男の子はいくつになってもチャンバラごっこが好きなものじゃ。
「こうもあっさりと異界魔術が復活するとは……!」
この光景を見ていたグレイスは感極まったという具合に涙を流しておる。ちょっと大げさじゃないかの……。
「グレイス。これから魔術を再興するためにはいろいろなことをせねばならぬじゃろう。わしが考えているのはこういうステップじゃ。聞いてくれるか」
そう言ってわしはグレイスに魔術再興に向けた段取りを語る。
「まずは教育と記録じゃ。古代帝国時代の魔術は戦乱などによって消えてしまった。そういうことがないようにしっかりと魔術を継承できる人間を増やしていき、その記録を厳重に保存する。そのためには教育機関が必要じゃ」
「エルダーグローブ学院がその役割を、と言いたいのはやまやまなのですが、恐らくアリスさんが求めるものは学院には完全には存在しないでしょう。学院の魔術学科も血統魔術師が牛耳っていますから」
「うむ。新しい教育機関を立ち上げねばならぬかもしれぬ」
グレイスの言葉にわしはそう言って頷く。
「それから精霊魔術のために精霊の保護を行わねばならぬ。そのためには環境保護が必要になるじゃろう」
「精霊は今も自然豊かな場所には暮らしてると聞きますが、環境を整えれば、また精霊たちが繁栄するようになるのでしょうか?」
「こればかりはやってみなければ分からぬ」
環境が破壊されたことで、精霊たちはいなくなった。ならば、環境を回復させ、保護すれば精霊は再び数を増やすやもしれない。
「そして、教育機関の整備も環境保護も金がかかる。金が必要じゃ」
「それが一番の問題ですね……」
「じゃのう……」
あいにくのところわしにもグレイスにも金はなかった。
「しかし、学院には有力者の子弟がいます。彼らを味方に付ければあるいは」
「ふむ。学院でコネを作るというわけか……」
「そうです。魔術の有用性を示し、かつ血統魔術師による独占を打ち壊し、魔術に投資することには大きな意味があると示すのです!」
「そうじゃの。いずれそう言うことも考えなければならぬな」
今のわしらは学院には行けないが、いずれはそのような場所に赴かなければならぬだろう。それまでは魔術を研鑽するのみじゃ。
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