憑依ゆかりさんとVTuberになった元マスター   作:名前考えるのって難しくね?

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過去、読ませて頂いたとある作品の影響を大いに受け、見切り発車で書かせて頂きましたm(*_ _)m


始まりの出会い

「はぁ…」

 

畳の上で、大の字になって寝そべっていた体を起こし、胡座を組む。

 

「……」

 

手を目の前にかざし、ひらひらと振る。

細くて白い、瑞々しさを感じる若い()の手だ。

 

間違っても俺のじゃない。断じて、だ。

 

「本当に、なんでこんなことに」

 

喉から溢れる声もまた、これまでの俺が発していた、男の低いそれとは似ても似つかない――というか、それ以前の話しとして、人のものですらない機械音声である。

 

正直聞き覚えしかないし、一言発しただけでも分かった。

 

「この、色々と不便な体もそうですし」

 

聞き覚えのある声に、見覚えのある体。

ただの夢だと思っていた時は興奮したものだ。世の人間ならば、誰もが一度は夢想するであろう状況になったのだから。

 

「まぁ面倒くさすぎて直ぐに冷めたんですけどね」

 

口調に表情、態度やその他諸々を無理矢理正しい形(・・・・)に当てはめようとするこの体には、呆れを超えて最早うんざりさせられる。

 

それでもまだ夢だというのならば、理解はできずとも納得はできただろう。

……ええ、単なる夢だったらね。

 

「夢は夢でも覚めない夢なんて最悪ですね」

 

この妙な和室で目覚めてどれだけの時間が経ったのか。

 

頭を右に向ければ、障子付きの窓がこんにちわ。

立ち上がって障子を開けたりはしない。そこの障子が開かないのはもう分かっている。

 

障子越しに見える太陽の光の感じ的には昼頃なのだろうが……ぶっちゃけこの光も当てにならない。

なにせ、何時間経とうが光の差し込み方が変わらないのだ。全く参考にならない。

 

それなりに長い時間をここで過ごした訳だが……、正直限界が近い。

 

いそいそと立ち上がり、テレビ台の下から某N社のUがつく白いゲーム機を取り出し、電源を付ける。

 

ホーム画面に映る無数のソフト。……信じられるか?これ全部クリア済なんだぜ?

 

寝食もトイレも風呂も何もかもを忘れて、ひたすら暇を紛らわす為に熱中し続けた結果がこれだ。

U以外の媒体も含めて、FPSもホラーも、某配管工や星の戦士、緑衣の勇者も全部クリアした。一部のDLCが入ってなかった所はできてないけど。

 

……ちなみに、この和室、ちゃっかりパソコンも置いてあったりするのだが、できるのはあくまでダウンロードされたゲームだけで、検索とかはできなかった。(´・ω・`)ショボ-ン

 

「というか、食事もトイレもいらないって、改めて考えるとアレですよね。予想が正しいのならそれで当たり前ではありますけど」

 

当然ながら、風呂なんかも入っていない以上、服装もずっとそのままだ。

この特徴的なうさ耳パーカーに、なんか紫の服。……まぁここまで言えば分かるだろう。

 

「なんで私、"結月ゆかり”になってるんでしょうかね」

 

”結月ゆかり"

【VOICEROID実況】のタグで有名な、音声読み上げソフトVOICEROIDの代表的な存在。

 

この結月ゆかりよりも先に発売されていたり、独自の存在感を示している魅力的なキャラ達もいるのだが、一般論的にVOICEROIDと言えば?と聞かれれば、恐らくは誰もが答えるのがこの結月ゆかりだろう。

 

ちなみに初版の発売日に合わせて、誕生日も2011年の12月22日らしい。初めて知った(小並感)

 

雫やらなんやらは省略するとして、結月ゆかりの話をしよう。

 

大人びた情感の強い声が特徴で、歌声と喋り声ギャップがかなり少なく、セリフ入りの曲や話の途中で口ずさむといった使い方にも柔軟に対応できる。

 

大体ポンコツなお姉さんのキャラで世に送り出されることが多い18歳。すぐ調子に乗って相手を煽ってはボコられる。

 

身長は159cmで体重は秘密。胸は……噂やらで色々あったとはいえ、公式的にはご想像におまかせしますって感じ。

 

とまあこんな所か。じゃあ次は、なんで俺がその結月ゆかりになっているのかなのだが……

 

「分かりませんね。なんなら分かってたら苦労はしないまでもあります」

 

言い方を変えれば、これから先、この夢が覚めるかどうかすらも分からないわけだ。

 

「手がかりかと思ったコレ(・・)も、現状分かりませんし」

 

俺の頭の中にある記憶――というよりは、この結月ゆかりを構成するデータの一部に記録された幾つもの映像データ。

 

それらの動画の中では、結月ゆかりが楽しげにゲーム実況を行っている。時に喜び、時に煽り、そして時に嘆きとオチもしっかりしており、普通に面白く熱中して過去動画に張り付いてしまった程だ。

 

……けど、恐らくはこれらの動画の投稿者は運がなかったのだろう。

面白いし、バズる要素も盛り込まれているというのに、これらの動画の再生数は伸び悩んでいた。

 

ネットに溢れるボカロ曲もそうだが、こういうものはそもそも見られなければ始まらない。特に昨今のネット社会ではそれが顕著だ。

 

だからこそ……

 

「残念ですね」

 

投稿者は挫折したのだろう。ある動画を皮切りに、投稿が止まってしまっていた。

そして、多分だが、それ以来この結月ゆかりも起動していなかったんじゃないだろうか?

 

最初こそ、この記録が手がかりになると思ったわけだが……考えれば考えるほどに、「だからなんだ?」という思いが強くなっていき、結局のところ、分からないからと思考を放棄してしまった。

 

「こういうところは、私になっても変わってないんですけどね」

 

あくまでも言動や態度を矯正されるだけで、思考自体は自由なのが幸いした。そっちも矯正されてたら今頃発狂してたんじゃないだろうか?

 

「……間違いなく発狂してますね」

 

パーカー越しに体を抱きしめてガクブルと震えていると、今までにない感覚が体を走った。

 

「――――!?」

 

つな、がった?……いやなにに繋がったんだ!?これは、いったいなんだ……?

 

理解もなにもなく、ただただ直感が告げている"繋がった”という感覚に混乱する。

 

「――ッ!」

 

弾かれるようにパソコンへと向かえば、困惑する思考を置いてけぼりに、体が勝手にキーボードを叩いて行く。

そして、タンッという音を最後に、カチャカチャと音を鳴らし続けていた指が止まる。

 

……。なんだ?

 

目を丸くしながら、パッと切り替わったディスプレイの画面を見つめる。

映し出されていたのはどこかの部屋で、奥の方には扉が見えた。

 

「あれは……ベッドに、テレビもありますね」

 

テレビの下部に書かれたメーカーの文字を読み取ろうと、じっと目を細めていると、奥に見えていた扉が開く。

 

「そ、ソニー?いや、シャープですかね?多分4文字か5文字のどっちかなん――っエ!?」

 

びっくりして思わず飛びずさる。

 

「ん?……お、女の人?」

 

入ってきたのは若い女性だった。

それも風呂上がりなのか、肩ほどまで伸びた黒髪はしっとりと濡れており、独特の光沢を放っている。

 

右手にはなんらかの缶が握られている。正直ここからだと判別しにくいのだが、左手にあるパックの焼き鳥を見るに、あれは……

 

「ゴクリ…」

 

思わず喉を鳴らしていると、女性が画面の前にあるゲーミングチェアに腰掛けた。

 

その目は俺を見ているようで見ていない。どちらかと言うと、俺のいる方向を見ているような……そんな感じの目である。

 

女性の憂鬱気な目を見ていると、なんだか無性に落ち着かない気持ちになる。これは俺の魔法使いを目指す心がそうさせるのか……もしくは

 

マスター(・・・・)

 

ッ!やはり、やはりか!

 

なんとなくそうなんじゃないかと思ってたが、やはり、この女性が俺のマス……いや違う、この結月ゆかりのマスターなんだな。

 

「言い切ってなくてよかったですね。犯罪臭がするとこでした」

 

しっかし、マスターはなにをしてるんだ?

カチカチってマウスらしきものを操作してるのは分かるんだが……

 

んー、と首を傾げると、その拍子に、画面右側に表示されていたある文章が目に入った。

 

【アカウント状態:ログイン】

 

「……」

 

体ごとそちらに向けて、もう一度読む。

 

【アカウント状態:ログイン】

 

「……」

 

顎に手を当てる。

このログインっていうのは、多分マスターのことだよな?普通に考えたら、マスターというか、人間がログインしてるってことだろうし。

 

「もしや」

 

ふと思いつき、マウスを操作してカーソルをアカウントの欄まで持っていき、左クリック。

 

「ビンゴ」

 

画面右側の表示が切り替わり、幾つかの項目が表示される。

それらの中から、お目当てのログイン履歴を選択し、更にクリック―――

 

『ふふっ』

 

「っ!?」

 

しようとしたところで、パソコンから静かな女性の笑い声が聞こえた。

バッと視線を画面に映るマスターに向けると、マスターがこちらを眩しげな目で見ていた。

 

『懐かしい。ほんと、懐かしいなぁ…』

 

推定お酒のプルタブをカシュッと開け、焼き鳥と合わせて一口。……美味そう。

 

『お年玉貯めて、バイト代も貯めて、やっと買えた時はそりゃもうはしゃいだっけ』

 

「どの結月ゆかりを買うにせよ、ソフト単体で1万2万は普通にしますからね。機材周りやらゲームやら合わせたらもっと行きますし」

 

感慨深そうに呟くマスターだが、俺の目はその手に持たれた焼き鳥に釘付けなんだ。

 

「ゴクリッ」

 

今度はさっきとは違う意味で喉が鳴った。てかこの体食欲とかあったんだな。初めてなんだが、この感覚。

 

『あの時は楽しかったな。どうやったら伸びるのか考えて、色々試して、それでもダメで……でも、楽しかった』

 

疲れたような表情を緩めて微笑みを浮かべたマスターだったが、次の瞬間、表情を曇らせた。

 

『念願叶って就職して、でも手に職ついたと思ったらブラックで、それっきりだもんね』

 

「ウッ」

 

強烈な流れ弾に胸を抑え蹲る。

やめるんだマスター、その言葉は俺にも効く。

 

『あんなに夢中だったのに。冷めたらすぐにやめちゃって』

 

自嘲気味に缶を傾けるマスター。

 

「……」

 

なんとか椅子に座り直し、マスターの言葉を黙って聞く俺。

 

『倒れて、会社もやめて、実家に戻って。なんとなくでVTuberになって』

 

「………うん?」

 

なんか聞き覚えのない単語が聞こえた気がするんだが。ブイチューバーだかなんだか……Y〇uTuberじゃなくて?

 

『やっぱり、リスナーさん達にも伝わってるのかな……下駄履かせて貰ってるのに、あんまりだし』

 

リスナーは分かるけど、下駄ってなんだ?

 

『好きなだけじゃ、無理なのかなぁ。ボイロも、VTuberも』

 

否定はできないけど、まあただ好きなだけじゃ無理なこともあるのは確か。

でも、マスターのはちょっと違うと思うんだよな。そのブイチューバーとかいうのはともかく、動画の方は普通に面白かったし。

 

「運って結構大事ですからね」

 

運が悪かった。マスターからすれば、そんな一言で片付けられるのは複雑かもしれないが、ぶっちゃけ俺は真面目にそう思っている。

 

さっきも言ったが、どれだけ面白い動画を出そうが、そもそも見られなかったら意味がないのである。

 

そりゃそうだろう。今時ネットの中には無数の動画が溢れているのだ。

その中でも、更に母数の多いゲーム実況の動画ともなれば、そもそも目に止まらないどころか、目に入らない可能性の方が高い。

 

俺だって、おすすめに流れて来た上で、興味を惹かれたら見るくらいなのだ。

存在すら知らない動画をわざわざ探してまで見たりはしない。

 

『――もうすぐで2ヶ月経っちゃうのに』

 

うんうん唸っている間にもマスターの語りは進んでいたらしい。

2ヶ月っていうのは、さっき言ってたブイチューバーとかいうののことだろうか。

 

「こればっかりは下手に時間が解決してくれる訳でもないですからね。動画を見るに、なにかのキッカケさえあればバズると思うんですが」

 

腕を組み、考えに耽る。

 

「……、?」

 

ふと視線を感じ、目を向ければ。

 

『……』

 

マスターが、()を見ていた。

それも単にこちらの方向を見ているのではなく、俺自身(・・・)を。




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